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弁護士ドットコムでは、2021年6〜7月にかけて2回の職域接種を実施しました。本社を構える東京・黒崎ビルに入居している、株式会社SpeeeさんやAuthense法律事務所と合同で開催することにより、実施要件となる1,000人のワクチン接種をクリアし、実施することができました。
弁護士ドットコムでは以下の方を対象にワクチン接種の希望者を募り、
・東京拠点の役員・正社員・契約社員・アルバイト・派遣社員・業務委託
・同居の家族(パートナーを含む・18歳以上)
役員・社員で221名、派遣社員・業務委託・ご家族を含めると計326名の方がワクチン接種を完了。
6月上旬に職域接種の申請の受付が開始されてから、1回目の接種まで実質約3週間。いつ・どんな内容が政府から公表されるかわからず前例のない手探りの中、無事実施に至った職域接種の舞台裏ではどんなことが起きていたのか。社員の安全を守るため、職域接種プロジェクトに奮闘した労務チームマネージャーの竹内さんにお話を聞きました。
【Profile】
人事室 労務チーム マネージャー
社会保険労務士
竹内 瑠香(Takeuchi Ruka)
新卒で株式会社エスクリへ入社、3年間経営企画部に所属し、管理会計からIR・PR業務、市場変更のサポートまで、会社の経営に関わる業務を幅広く経験。その後、人事部へ異動し、労務、人件費予算の策定、社内広報、採用を学ぶ。
2015年1月株式会社メタボリックへ転職、従業員約40名の人事総務業務を一人で担当。
2017年7月弁護士ドットコム株式会社へ転職。現在は人事室 労務チームのマネージャーを務める。
多忙な業務の合間を縫って勉強し、2021年2月社会保険労務士登録。
ポケモンが大好き。持っているポケモンTシャツは20枚。以前はクラブでDJをしていたことも。
職域接種の前に…コロナワクチン接種時の特別有給休暇制度を導入
ー普段の労務チームの仕事内容について教えてください
労務チームでの業務内容は主に以下のものがあります。
・社員の健康管理
健康診断やストレスチェック、インフルエンザの予防接種など社員の健康を守るために定期的に案内・管理を行っています。
・入退社の手続き
社員の入退社に伴い、健康保険・雇用保険・厚生年金などの各種手続を行っています。
・給与計算
現在はアウトソースせずに、労務チームで毎月給与計算を行っています。以前は交通費として6ヶ月分の定期代を支給していましたが、最近では出社・在宅勤務と社員の働き方は様々なので、交通費は実費で精算。また、在宅勤務時には在宅勤務手当を支給しており、社員一人一人の勤怠にあわせた給与計算を行っています。
・就業規則やルールの整備
こちらは頻度が高いものではないですが、法改正などで規程の変更が必要な場合は見直しています。最近だと法改正ではないものの、社員の在宅勤務を導入するにあたり、新しく規程を策定しました。
・労働時間の管理
社員の労働時間を管理しています。残業時間がかさんでいる社員に対しては、事前にアラートをあげるようにしています。
・福利厚生の導入
現在は給与原資選択制DCの導入を検討中。
当社はまだ会社規模が小さく、大手企業のような充実した福利厚生の提供は難しいのが現実ですが、そうした中でも少しずつ、会社と社員のためになる福利厚生を検討していきたいと考えています。
ー新型コロナワクチン接種時に特別有給休暇が取得できるようになりましたね。どのように検討を進めていったのでしょうか?
政府でワクチン接種の準備が始まり、新型コロナウィルスの感染対策として「何かできることはないか?」労務として考えていました。ゴールデンウィーク明けくらいに、「インフルエンザの予防接種と同じように、会社でワクチン接種が受けられるような方法はないか?」という議論が社内であり、医療機関に問い合わせをしていたのですが、その時はまだ職域接種の話もなく、会社での実施可否についてはわからずじまいでした。
その頃、まわりの企業から「新型コロナワクチン接種時の特別有給休暇制度」に関するお知らせなどが出されるようになり、弁護士ドットコムでも制度導入に向けて動き始めました。
ーどれくらいの期間でどんな検討を行い、制度導入まで至ったのでしょうか?
できるだけ早くに導入したいと考え、「特別有給休暇制度の設計を検討しよう」となってから、素案については1日で作成。対象者や対象期間、実施内容などの概要は他社の事例を収集し参考にしました。一方、実際の運用ルールとなると、当社の環境にあわせて設計をする必要があります。例えば、社内のどのツールを利用してどういう形で証明してもらうのか。自分なりにまとめて、まずは素案を上長である人事室長に提出し、その翌日には社長と管理部門の取締役に提案というスピード感でした。
5月19日(水):特別有給休暇制度の設計を検討→素案作成
5月20日(木):人事室長に提案
5月21日(金):社長・管理部門取締役に提案
この翌週に細かい部分を詰めて、6月2日に社内へ「新型コロナワクチン接種時の特別有給休暇制度」について周知することができました。
ーものすごくスピード感がありますね
義務ではないものの、厚生労働省からワクチン接種が推奨されている環境下、社員が「業務があるから接種できない」という状況は回避して、「接種したい」と希望する社員が確実に接種できて安心して働ける環境を整えたかったんです。経営陣も同じ視点だったからこそ、このスピード感につながっているように思います。
結果的として、ワクチン接種時の特別有給休暇の申請は、職域接種外も含めると8月11日時点で132人から申請がありました。
ーこの特別有給休暇制度の内容はすでに一度見直しされていますよね?
1回目の職域接種の実施後に、社員の副反応の状況からルールを再検討し変更しました。当初は、副反応が生じたことにより就業が困難となった場合は、「1回の接種につき接種日当日と翌日」にそれぞれ特別有給休暇を付与するという内容だったのですが、実際に職域接種行った結果、翌々日まで症状が出る社員が複数名いたので、「1回の接種につき接種日当日から翌々日にかけて最大2日間」の特別有給休暇を付与するように見直しました。
前例のない職域接種実施に向けて
ー職域接種について情報はどのように取得したのでしょうか?
最初は6月上旬に報道機関のニュースで知りました。ニュースでは職域接種の実施を政府が検討しているという内容とあわせて「大手企業各社が職域接種に向けて準備している」とあり、「え!まだ政府から概要についての公表がないのに、一体どこから情報収集しているんだ??」と焦りました(笑)。
その後、内閣官房のサイトから詳細が発表されるのを待ち、発表された内容を確認すると1,000人以上でないと実施できないことが判明。ただし、1社で1,000人ではなく、複数社合同で実施しても良いという内容だったため、どうにかして実施できないか検討し始めたところで、Authense法律事務所(弁護士ドットコムの創業者である元榮が代表を務める法律事務所)から「ビル内のテナント合同で実施しないか?」という提案があり、合同実施の方向で検討を始めました。
合同実施するにせよ、1,000人の対象者を集めることができるのかを把握する必要があったので、6月8日にまず、社内でワクチン接種希望者の確認を急遽実施。回答結果を元に各社ですり合わせを行ったところ、ギリギリ1,000人集められそうだということがわかり、申請することを決めました。
実際に私が実務に入ったのは1回目接種の1週間くらい前で、それまでは管理部門取締役と人事室長が中心となって各社との調整を進め、実施確定の判断まで行っています。この検討段階でのスピード感がなければ、申込が打ち切られて間に合わなかったかもしれません。
ー実施確定後はどのように進められてきたのでしょうか?
6月15日頃から、テナント各社で集まって接種対象者や本人確認方法など実施内容について打ち合わせを始めました。
6月21日に職域接種で利用するシステムのデータ登録方法などについて、内閣官房から操作説明会が実施されることになり、ここから私は参画しています。説明会はオンラインでの実施でしたが、発行されるアクセス可能なアカウントは拠点で1つ。各社の代表がSpeeeさんのオフィスに集まって視聴しました。
この説明会の日が1回目のワクチン接種の約1週間前。説明会後に職域接種当日までの進め方について各社で打ち合わせ、オフィスに戻ってから急いで実施方針と正式な接種希望者のヒアリング方法や案内文の素案を作成。その日の夜には管理部門取締役と人事室長に提案しました。
特別有給休暇制度とは異なり、サンプルとなる情報があるわけではないので、1から作成する必要がありました。
ーもう1週間前!その後も目まぐるしそう…
翌日6月22日の朝には、社内に向けて希望者のヒアリングを開始しました。とりまとめの時間に制限があり、締切は翌日の12時まで。ヒアリング期間が短かったので、最初の調査段階で希望していたのに申込をしていない社員には、個別でフォローも行いました。
締切後は、各社合わせて1,000人の接種希望者がいるかどうかすぐに確認が必要だったため、急いで人数を集計。無事、全体で1,000人集まったことが確認でき、その後は各社で予約枠を確定させ、社内向けの予約表と案内文を作成しました。
6月24日には社員に向けて予約案内を開始すると同時に、キャンセル待ちの対応を開始しました。この時、予約の締切を翌日の19時に設定していたんですが、その日は金曜日。「19時締切だと手続きが間に合わないのではないか?」と後から思い返し、結局翌日は16時くらいから未入力者へ個別フォローを行いました。労務チームのメンバーにフォローの対応をお願いし、なんとか20時には接種対象者全員の予約が完了。1回目の接種は翌週火曜と迫っていたので、同時並行で、接種当日の持ち物や会場の案内を社内にアナウンス。また並行して、当日の運営を担当する労務と総務のシフト表・役割分担も作成していました。
そして、その裏でこの日は事件が発生…。予診票の医療機関コード部分の誤りが発覚したんです。医療機関には「医療機関コード」というものが発行されており、インフルエンザの予防接種の際などは、この医療機関コードを記載する必要があります。コロナワクチンの予診票にも「医療機関コード」と記載された項目があったため、接種をお願いする医療機関のコードを記入して社員に予診票を配布していたのですが、夜になって、医療機関コードではなく、会社などで実施する職域接種の場合には「類似コード」というものの記載が必要なことがわかりました…。事前に職域接種の仲介業者に確認の上対応していたものの、世の中的に始まったばかりの職域接種、政府からも全てのルールが公表されているわけではない状況だったため、仲介業者も把握できていなかったようです。3社でこのミスが発生していることがわかり、急ぎ対応方法を相談し、結局後日、全員分の予診票に類似コードを記載したシールを貼り直すことに。合同実施で相談できる先があったのは助かりました。ちなみにこの日は株主総会の前日。総会準備中だった管理部門取締役とタイムリーなやりとりが行えず、かつ上長である人事室長は休暇中。時間がない中で自分に判断が託されるような状況だったため、とても緊張しました。
ーまさに舞台裏なお話ですね!
週明けの6月28日(月)は会場の準備などを行い、そして翌日には1回目の接種を実施。
2回目の実施までの間は、1回目の実施で見えた会場や運営体制の課題と改善策、1回目とは一部異なる事務処理の仕方について各社でミーティングをしたり、社員の副反応の状況から特別有給休暇制度の内容を見直したりしました。
ー実施してみて苦労した点はどこでしょうか?
ワクチン接種に関する事務手続きが予想以上に多かったことでしょうか。各予診票に接種券やロット番号(ワクチンの製産番号)シールを添付したり、接種記録書にもロット番号シールを添付したり。個人情報にもあたるので、接種券の原本と一緒にすぐ本人へ返却するような運用にしたため短時間で膨大な作業を完了させる必要がありましたが、職域接種自体は各社さん、また当日運営してもらった総務・情シス・人事のメンバーの協力もあり、当日は思いのほか大変ではありませんでした。実施当日は朝から晩までフル稼働だった労務チームのメンバーにはとても感謝しています。
政府からは「可能な限りワクチンを破棄しないように」と言われていたので、実施前はとにかくキャンセルが出ないかどうか不安ではありました。また当時は、職域接種で1回目接種して2回目接種ができなかった場合、市区町村で2回目だけ受けられるかというと「できない」と言われていて。つまり最悪の場合、必要とされている回数を打っていない状態で生活を続けてもらわざるをえない方が出てしまいかねない状況だったんです。そのため、なんとしても申込者は全員2回接種できるようにしたいという思いがありました。実際には数件キャンセルはあったものの、キャンセル待ちの方にご案内することで予約人数分の接種を完了することができ、社員の皆さんも感染拡大防止に対する意識が高かった証拠かなと思います。
ーまだ残っている事務作業がありますよね?
そうですね。接種券を提出していない方からは回収しないといけません。お住まいの市区町村によって接種券が発送されてくるタイミングが異なるので、これから定期的に確認が必要です。また、回収後は接種券添付済みの予診票を市町村別に分けて各社分をまとめてデータ登録する必要があります。その後は、医療機関が市区町村に補助金を請求できるように、港区と国民健康保険団体連合会へ書類を発送します。
さらに、ワクチンパスポートの証明書を発行してもらうために、回収できている接種券のデータについては、内閣官房指定のタブレットにデータ登録を行う必要もあります。当社では326名が接種したので、計652枚の登録が必要です。実施前に行われた操作説明会同様に、このタブレットも拠点で1つしか配布されないため、各社持ち回りで登録していっている状況です。
内閣官房指定のタブレットにデータ登録する労務チームの後沢さん。1件1件バーコードの読み取りと登録内容に間違いがないかどうかを確認。地道な作業です。
接種券の回収が終わるまでは、この予診票の発送とタブレットへのデータ登録が続きます。また発送は各社でまとめる必要があるので、月1くらいで集まって対応する予定です。
ー今回の職域接種について、社員の反応はどうでしたか?
普段からも感謝の言葉をいただくことがありますが、こんなにたくさんの方から「ありがとう」と言ってもらえたことはなかったように思います。「こういう機会を設けてもらって本当によかった」「準備お疲れ様」「ありがとう」そんな言葉をたくさんかけてもらいました。中には、菓子折りまで持って来てくれた社員も。本当にこの仕事をしていてよかったと感じられる機会になりました。社員のみなさんの協力があったからこそ、無事実施できたと思っているので、こちらこそ感謝の気持ちでいっぱいです。
「誰かを想う」労務でありたい
ー労務チームのミッションを教えてください
「安心できる職場環境の維持・向上」です。以前チームの中でディスカッションし、「会社、社員、当社に関わる全ての人へ適切なサービスを提供することで、安心できる職場環境を維持し、さらに良い職場環境を目指し続ける」ことをミッションとして掲げています。
ー現在弁護士ドットコムの社員数は約350名。今後もさらに社員が増えていくことが想定される中で、何か課題に感じていることはありますか?
今の当たり前をずっと保ち続けられるようにすることでしょうか。これが意外と難しいと思っています。労務の仕事は「当たり前」に提供しなければいけない業務が多くあります。例えば、給与計算や社会保険手続き、健康管理、労働時間管理など。また、社員一人一人に対するサポートなので、社員数の増加と共に必然的に業務量は増えていきます。当たり前にまわすことは何よりも難しく、かつ重要なことなんです。
今後どういう体制であれば500人、1,000人になっても対応できるのか。まさに今、検討しなければいけない課題だと感じています。加えて、企業の人数規模によって法定基準が変わってくるため、そこに向けた対応も考えなければいけません。ただ単にチームの人員を増やすだけではなく、やり方を変えたり、アウトソーシングしたり、システムを入れ替えたり、改善方法はいろいろあります。どの対応が当社に適しているのか。やり方や体制を少しずつ変えていっているところです。現在はチーム内でジョブローテーションを行い業務の属人化を排除し、誰が対応しても手続きの対応や社員のサポートが同じようにできるように環境を整備しています。
ー2年くらい前までは、竹内さん一人労務でしたね
そうなんです。一人で労務をやっていた時は、定常業務以外の新しい業務に手をつけることができませんでした。今はメンバーが増え、労務チームは私を入れて4人。この2年でメンバーの習熟度も上がってきているため、私は福利厚生の検討やルールの整備など、少しずつ新しいことにチャレンジできるようになりました。今回の職域接種もそうですが、これが私一人だけであれば、とてもじゃないですが実施できなかったと思います。メンバーが定常業務を支えてくれていたからこそ、自分は職域接種の準備に集中することができました。これからも当たり前を維持しつつ、さらに良い職場環境を目指して新しい施策にチャレンジしていきたいです。
ー最後に、労務として竹内さんはどんな風にあり続けたいですか?
今もこれからも大事にしたいのは、会社の成長と社員のサポートの両方を考えて最善の選択・提案ができる労務であることです。人事は会社と社員の間に立つ中立的な立場ではありますが、常に誰かを想って仕事をしていたいし、そういうチームでありたいと思っています。
「誰かを想う」ことがないと、ともすると労務はただの事務仕事になってしまいます。例えば何か相談を受けたときに、「社労士に確認しましたができませんでした」と回答することもできますが、見方を変えると「こうすれば良いかもしれないですよ」と提案できるものがあるかもしれません。社員が正しい選択ができる情報を提示することが大切だと思っています。
結婚・出産・老後の支援など、企業に勤めながら一人一人のライフスタイルに寄り添える仕事は労務くらいではないでしょうか。それが労務として働くやりがいです。
労務チームのメンバー。左から後沢さん、竹内さん、牛込さん(9月に1名増えました)。竹内さんのTシャツはもちろんポケモンTシャツ。