今回は、相手の住所を知らなくても贈れる「eギフト機能」でEC/D2C企業のグロース支援を行なうAnyReach(エニーリーチ)株式会社代表取締役CEOの中島功之祐(なかじまこうのすけ)さんにインタビュー。起業までの経緯や背景、情熱の源泉についてお聞きしました。
ベンチャーは素早く柔軟。そこで勝負をかける
──まず最初に事業内容を簡単にお教えください。
弊社では、EC/D2C(Direct to Consumer:メーカーが自社ECサイトなどから直接、消費者に商品を販売する形態)で商品を販売している業者様に向けて、既存のECサイトに「eギフト/ソーシャルギフト」と呼ばれる機能を組み込んで売上向上を支援する「AnyGift(エニーギフト)」というサービスを展開しています。
誰かに贈り物をするとき、相手の住所や電話番号、希望到着日時などを聞かなければいけないという負担があります。私たちの「AnyGift」は、商品の購入後に発行されたURLをメールやLINEなどで相手に伝えるだけで贈り物ができるというeギフト機能で、すでにECサイトをお持ちの事業者様でしたら最短即日で導入できます。
ギフトを贈る方にも贈られる方にも便利なうえ、事業者様にとっては商品の売上向上だけでなく、ギフトを受け取った方への商品・ブランド認知の拡大といった、新規顧客獲得の機会にもなりますし、継続的にコミュニケーションを取れるようにデータをマーケティングに生かすことも可能です。
2021年10月に創業し、2023年1月時点で500以上のブランドが「AnyGift」を導入してくださっています。
──そのビジネスモデルは、どのようにしてひらめいたのですか?
以前、勤めていたメルカリでの経験が大きいと思います。新卒で入社したメルカリでは、プロダクトマネージャーを経験しました。
最初は右も左もわからなかったので、世の中のあらゆるD2Cサービスを使い、購入から手元に届くまでをたくさん体験してみたのです。そこで自分が知らなかった魅力的な商品の多さに驚き、出会った好きなものは周りに配ったりもしていましたね。
「欲しい商品がない」「新しいブランドを知るきっかけがない」という人もいますが、「ギフトを通して商品を受け取ると、実はその商品やブランドの良さに気づけるんだな」と思ったんです。
そのためのサービスを、世の中にあるギフトのプラットフォームだけではなく、いろんなECサイトで実現できたらと思ったことが、現在のサービスにつながっています。
──ギフトを届けるだけでなく、それをマーケティングに生かすというのも画期的なアイデアですよね。
実は、それはクライアントからいただいたアイデアなんです。はじめは単純にギフトの機能だけだったのですが、クライアントから「データを有効活用できるのではないか」と言われ、「確かにその通りだ!」と思い、組み込みました。
そういったクライアントのリクエストは積極的に取り入れています。サービスの機能拡充にもつながりますし、それがベンチャーの良さだと感じてほしいからです。
だからこそ、そういったレスポンスの良さ、「スピード感」を大切にしています。
せっかくサービスの導入をご検討いただいても、スタートアップであるがゆえの規模の小ささを理由に断られたり、「事例が少ないから様子見」といって保留になったりすることもあります。それでも、何とかして信頼を獲得したい。そこで勝負できるのが「スピード感」なのです。
そんな「スピード感」と、もう1つ、自分の中で大切にしているのが「日本一、泥臭くやろう」という姿勢。この2つは起業時から徹底しています。
泥臭い道が、唯一にして一番の近道だった
──「泥臭さ」なんて感じさせないほど、スマートな経営をしているように見えます。
決してそんなことはないんです。僕のキャリアは「大学時代にカナダへ留学し、メルカリに入社して…」といえば順風満帆のように思われがちなのですが、実際は劣等感と共に歩んできた道のりで、これまでの人生もずっと泥臭いものでした。
他人の何倍も努力をして、勉強量は学年で一番だったと自負していますが、それでも高校受験も大学受験も失敗。母子家庭の末っ子で、いつも独りでした。試行錯誤しながら何でも1人でやってきたのですが、それが正解かどうかもわからずに、ここまでたどり着きました。
なので、クライアントからフィードバックやお褒めの言葉をもらえると、「正解なのかな」と答え合わせをしていただいているようなうれしい気持ちになります。
一方、起業して気づいたのは、自分は「泥臭いやり方が得意」ということです。泥臭くやることがむしろ楽しい。会社ではスタッフに「泥臭くやろう」と言いながらも、僕にとってはこれまでとなに1つ変わらない、当たり前のやり方なのだと認識できました。
──ビジネスの鍵を握るエンジニアの確保は? どのように信頼を築いていますか?
メルカリに3年勤めたあと、1社を経て独立したのですが、そのときの同僚が1人目のスタッフです。ほかにも、カナダ留学中に知り合った友人や、シェアハウスで出会った友人、就活中に知り合った友人など、いろんなご縁をたぐり寄せながら仲間を集めたという感じですね。
ありがたいことに、最近は「弊社に興味がある」とご連絡をくださる方も。
僕なりの信頼の築き方ですが、まず第一に、繰り返しになってしまいますが「自分が誰よりも泥臭く仕事をすること」。それを見てもらうことで、自分や会社への信頼につながればいいと思っています。
もう1つは「任せ切ること」。優秀なメンバー各人の能力を存分に発揮してもらうために、縛りすぎない、指示しすぎない。信頼していることを感じてもらえたらと願っています。
──「AnyGift」のビジネスで目指すゴールは?
世界中で使えるギフトプラットフォームにすることです。
日本である程度、固まってから海外進出したほうがいいかもしれない、とも考えましたが「それだと腰が重くなってしまう」と思い直し、アメリカでテスト的なローンチも開始しました。
旅行や出張で訪ねた国で、そこで暮らす人が僕たちのサービスを使ったり話題にしたりしてくれていたら。そんな妄想をするだけでワクワクします。
誰かの生き方・考え方を借りながら、自分の道を行く
──ここからは一問一答形式でお聞きします。仕事は何時から何時まで?
朝8時から25時ぐらいですね。
基本的に毎日出社します。20時ぐらいに一度ジムへ行き、家に帰ってまた仕事します。
──愛用デバイスは?
MacBook Proです。隙あらば開いてしまいます。移動中や旅行中、プライベートでも。
あとはデバイスではないですが、ロクシタンのハンドクリームは一度プレゼントしてもらってから、自分でも買ってずっと使っています。小さいので携帯しやすいですし、ちょっとしたギフトにもおすすめ。
いつか「AnyGift」を導入してほしいなぁ、と思いながらショップにも足を運んでいるので、商品はかなり詳しいです(笑)。
──情報取集はどのように?
情報を得るためには、労力もお金も惜しまないですね。
本は以前は月30冊ほど読んでいましたが、最近は10冊ぐらいに落ち着きました。noteなどメディアへの課金もします。
──ビジネスの能力を伸ばすには?
一番は、他責思考ではなく「自責思考」であること。
ビジネスにおいて、何かがあったときに「こうすればよかった」「次はこうしてみよう」と思えるかどうかがすべてだと思います。
──余暇の過ごし方は?
たまの休みには、サウナにこもって漫画を一気読みしたり、恋愛バラエティ番組を観たり、K-POPを聴いたりしていますね。
──体調管理について。運動の習慣や食生活で気をつけていることは?
この3年間はほぼ毎日ジムに通っています。
野菜をたくさん食べて、サプリメントを飲んで、睡眠時間は6時間確保。健康です。
──心が折れたときは、どのように立て直す?
漫画『BLUE GIANT(ブルージャイアント)』を読みます。
少年が世界一のジャズプレイヤーを志すストーリーなのですが、主人公は何があっても絶対に挫折せず前向き。彼を見ていると、「自分は大したことない」と思えます。
──おすすめの一冊は?
『自分の小さな「箱」から脱出する方法』(大和書房)
相手の立場になって考えること、自責思考をポジティブに捉えることを教えてくれる一冊。読むと世界の見方が変わります。
青いカバーの「実践編」もありますが、まずはこちらから読むことをすすめます。
──座右の銘は?
「山は西からでも東からでも登れる。自分が方向を変えれば新しい道はいくらでも開ける」。松下電器産業(現パナソニック)創業者、松下幸之助さんの言葉です。
両親は松下幸之助さんが好きで、僕の「功之祐」という名前もそこに由来しています。彼の名言集も事あるごとに手にとりますが、この言葉は特に好きで、いつも胸にあります。
先ほどもお話ししましたが、僕はコンプレックスばかりの人生で、本などにつづられている誰かの生き方や考え方に頼って生きてきたところがあります。その人生の主人公ではなくても、自分のなかで腑に落ちた言葉や考え方を借りるのは、意味のあることではないでしょうか。
そのように考えながら他の人の生き方に向き合うと、自分の中にある価値観にも気づけると思います。
本記事は、Lifehackerに掲載されたAnyReach株式会社代表の中島のインタビュー記事を一部編集した内容です。オリジナル記事はこちらからご覧いただけます。