2019年6月にスタートしたYAMAP STORE。スタッフが本当にいいと思えるものだけを扱う、登山・アウトドアのセレクトショップとして、順調に売上を伸ばしてきました。「新たな小売の仕組みづくりにチャレンジしています」と話すのは、立ち上げからこの事業をリードしてきた執行役員・STORE事業部長の清水直人さん。2026年に向けて新たな仕掛けを次々と展開していく予定とのこと。「プライベートブランド」や「クローゼット構想」など、ワクワクする話を聞かせてくれました。
# 目次
▶豊富な小売経験を活かしYAMAP STORE立ち上げの責任者に
▶ローンチから3年で年商数億円の事業に成長
▶つづく、つながる、ものがたる道具店へ
▶道具が循環する「クローゼット構想」を形に
▶人と地球と道具に優しい小売の仕組みを創る
豊富な小売経験を活かしYAMAP STORE立ち上げの責任者に
―直人さんは2018年9月ヤマップに参画されたとのこと。それまでのキャリアを教えてください。
直人「学生時代まで大阪で過ごしたのですが、洋服を探すために神戸や京都まで行ったり、個人店から百貨店まで色んなお店に足を運んだりしている中で、ファッションに興味や憧れを抱きました。
それで大手アパレル企業に入社し、20代で独立も経験。アパレル業界を中心に食品業界などでも活躍し、ブランドやEC事業の立ち上げ、コンサルティングなど、一貫して小売業の事業拡大やサービス向上に携わってきました。」
―小売の経験が豊富なのですね。なぜヤマップに入られたのでしょう。
直人「ちょうど前職で一区切りついた頃、ヤマップのEC事業立ち上げの募集記事を見て興味を持ったからです。ヤマップは当時シリーズBで約12億円を調達して、EC事業をスタートする段階でした。登山には専門の道具が必要で、アプリのダウンロード数が既に100万を超え、ユーザーのコミュニティもある。ヤマップの強みや勝ち筋がある程度見えていたので、一定の成果は出るはずですし、やり方によっては大きく成長させられると感じたんです。
さっそく代表の春山と会って話をすると、それまで会ったことのないタイプの人で新鮮でした。ありきたりの情報を並べるのではなく、事業の考えや実現したいことを解像度高く伝えてくれて、芯の強さに魅かれました。ヤマップを通して思い描く未来を創っていくことを一緒に実現していきたいと思いました。」
ローンチから3年で年商数億円の事業に成長
―ECサイトのローンチは2019年6月で、立ち上げまでは順調でしたか。
直人「いえいえ、大波乱がありまして。ECサイトの立ち上げは、登山用品店の石井スポーツとの共同プロジェクトだったのですが、ローンチ予定の前日にヨドバシホールディングスの傘下になることが発表され、全て白紙に…。
そこから慌てて仕入れや物流、ECなどを再構築し、2か月後にオープンしました。メンバーはエンジニアとデザイナーを含め4人だったので、日常業務はもちろんですが、自ら商品着用のモデルになったり、カスタマー対応したりと何でもやっておもしろかったですよ。」
―それは大変でしたね…オープンして売上の推移はいかがでしょう。
直人「出資をいただいて立ち上げた事業ですが、しばらくは期待されていた売上に届かず、2020年4月に初めて月商1000万円を超えました。少しずつ商品ラインナップを増やし、アプリとの連携など機能面も充実させていったことで、これまでの購入者は延べ55,000人に。おかげさまで現在は年商数億円規模にまで成長しました。」
―2021年3月にはYAMAP STOREの店舗もオープンされました。
直人「福岡本社に併設した予約制のショールームで、YAMAP STOREで扱っている商品をお試しいただけます。ただ、その場では購入できず、欲しい商品があればECで購入して倉庫から発送する形になります。
私は小売に長く関わってきましたが、店舗で手間がかかる業務が2つありました。それはお金の管理と在庫の管理。それらを無くし、ユーザーさんとのコミュニケーションに100%集中できるようにしたのがこの店舗です。」
つづく、つながる、ものがたる道具店へ
―STORE事業はこれから新たな仕掛けを展開されると聞きました。
直人「まず大きな話から紹介させてください。ヤマップは2022年の夏、『地球とつながるよろこび。』という新しいパーパスを掲げました。そのとき、ヤマップ(全社)・アプリ・STOREの整合を大切にしながら、『つづく、つながる、ものがたる道具店。』というSTOREのパーパスも掲げました。ステートメントは『私たちは、いいものをお届けします。いいものは、ずっと使いつづけられます。いいものには物語があり、使うほどにその物語は深くなります。そして、いいものは人を自然へとつないでくれます。YAMAP STOREは、そんな「いいもの」を届け、一人ひとりが、道具や自然を大切に思える、人・もの・地球のつながりを生み出していきます。』です。
―「つづく、つながる、ものがたる道具店。」というのは、YAMAP STOREらしいですね。パーパスを実現するために、次の展開があるのでしょうか。
直人「その通りで、2026年に向けて2つの大きなプロジェクトが走っています。1つは、2024年6月期にローンチ予定のプライベートブランド創りです。good design companyの水野学さんにご協力いただき、衣・食・調(身体のメンテナンス)・歩(足まわり)の4カテゴリーを軸に商品を展開していく予定です。
コンセプトは『地球とつながるためのプロダクトブランド』。昨今、アウトドアやスポーツ業界を中心に、生産される洋服は化学繊維が主流となっています。それは、着る人の快適性や効率性、パフォーマンス向上のために必要なことではありますが、一方でやや行き過ぎているところも感じています。これらは大量生産、大量消費を生みやすいため、製品はただモノとして扱われやすくなり、一定の役目を終えると廃棄されてしまうのです。
私たちは、天然または天然由来の素材を中心に高品質な製品を作ることを目指しています。それによって、製品をただモノとして使い捨てるのではなく、地球環境や動植物との共生、生産背景への関心をユーザーさんと一緒に高めていきたいと考えているのです。」
道具が循環する「クローゼット構想」を形に
―ついにプライベートブランドの誕生ですか。とても楽しみです。もう1つは何でしょう。
直人「『クローゼット構想』と称して、循環型の新しい小売の仕組みにチャレンジします。
ヤマップのアプリには、自分の持っている道具を登録できる機能があるのですが、実際に道具をアプリに登録して活動すれば、誰が、どの山に、何の装備を持って登ったか。といったデータが私たちに集まります。
その道具データに一人ひとりの活動日記(登山経験)のデータを組み合わせれば、『そろそろテント泊に挑戦してみませんか? おすすめのテントはこちらです。』といった、ユーザーさんにとってパーソナライズされた提案ができるわけです。
そして、自分の持っている道具が可視化されれば、ユーザーさん同士で道具の貸し借りや中古の売買ができるようになる。
クローゼット構想はヤマップのプラットフォームの中で"道具の循環"がおこなわれる仕組みを目指しているのです。それに向けてまずは近々、OMO型でレンタル事業からスタートします。
―エキサイティングな構想ですね。
直人「STORE事業はヤマップの中で唯一モノを販売する事業ですが、特にアパレル産業は地球環境に与える負荷が高いため、私たちの成長のためにどんどん買ってくださいとは言いがたい。
ヤマップとしての小売のあり方はどうあるべきか?を模索する中で、新しい製品を販売する一方、使われていない製品を循環させていくことで、環境にやさしく、且つ登山やアウトドアを楽しむハードルを下げることができるという考えにたどり着いたんです。
今は事業部として基盤構築のステージにあり、24年6期にプライベートブランドの創出、25年6期にはクローゼット構想を本格始動。さらに26年6月期は対外進出として、海外進出の本格化や他業界への浸透などを図っていくプランを描いています。」
人と地球と道具に優しい小売の仕組みを創る
―STORE事業がエンジンとなって会社が成長する、とても大切な時期ですね。メンバーは何人になりましたか。
直人「今、社内では優先順位の高い事業に位置付けられています。STORE事業の専任が12人、エンジニアの兼任メンバーを入れると17人になりました。既存の事業を成長させることと未来に向けた事業づくりを同時にやっているので、そういった環境を楽しめるバイタリティのあるメンバーがそろっていますね。福岡と関東のほか、どこにでも住める『居住地フリー制度』を利用して、春には京都と長野に引っ越すメンバーもいます。
―これからはどんな人に加わってほしいですか。
直人「ヤマップ全体に言えるのは、やはり山やアウトドアに興味がある人がいいですね。加えてSTORE事業は、既存の小売事業のあり方に課題感を持っている方が良いと思います。役割や経歴は皆違いますが、みんな地球を愛し、自然が好きなところでつながっている強さがあります。ユーザーさんに直接商品、サービスを提供することに喜びを感じ、フィードバックを大事にしながら次の展開を考えられる姿勢が重要だと感じています。」
―仕事に限らず、直人さんが人生で成し遂げたいことがあれば聞かせてください。
直人「いま進めているプライベートブランドを作ること、新しい小売のあり方を実現させるのは、私自身の願いでもありますね。なぜなら私は過去アパレル業界で、企業を成長させるために大量生産・大量消費を促してきた側で、その結果が今の地球規模の問題につながっている。果たして自分のやってきたことは正しかったのかという疑問があり、それを解決させるための今の環境はとても恵まれていると思っています。
ヤマップで新たな小売のあり方を実現できたら、アウトドア業界以外や国内外にも浸透させて広くインパクトを出していきたいですね。」
―地球に貢献できる意義深いチャレンジですね。最後に、ヤマップやSTORE事業に興味のある人にメッセージをお願いします。
直人「自分のやりたいことと、社会が必要とすることを本気で考え、それを積極的に行動に移すことができれば、事業の方向性やプロジェクトを通して実現できる環境です。さらに、STORE事業部のロードマップはこの3年間を第二創業期と捉え、大きく動いていくため、大変なことも多いと思いますが、成長とやりがいは感じられると思います。
ちなみにこの前オランダに未来の事業づくりのために視察に行ったのですが、一緒に行ったのは入社してまだ2ヶ月のメンバーもいました。社歴に関わらず、みんなで未来のサービスを創り上げています。一緒にチャレンジしてくれる仲間を待っています。」
(文=佐々木恵美)