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伊能忠敬プロジェクト続報 〜登山者の軌跡データからコースタイム修正を始めました

登山者の軌跡データから新規ルートを抽出し、地図に反映していくー。自らの歩みを記録し日本地図を作り上げた伊能忠敬を彷彿とさせる、一歩先行く新しい取り組みとして2020年8月にスタートした「伊能忠敬プロジェクト」。登山アプリYAMAPのデータ分析エンジニアとして本プロジェクトを担当する松本が、気になる”その後”について再び熱く語ります!

目次
▶ 伊能忠敬プロジェクトとは?
▶ 伊能忠敬プロジェクトのこれまで
▶ コースタイム精度UPと、福智山での実例
▶ We are all 伊能忠敬! あなたの一歩が「地図の進化」と「登山者の安全」に繋がっている

伊能忠敬プロジェクトとは?

先日ひっそりと、とある地図のコースタイム修正がリリースされました。修正は元々45分だったものを50分に変えるという些細なものでしたが、その裏には登山者のデータで地図情報をより精緻にするという、壮大なプロジェクトが動いていました。

プロジェクトの名は、「伊能忠敬プロジェクト」

「登山において最も大切な地図情報は、最新かつ正確である必要がある」という信念のもと、YAMAPユーザーの皆様の軌跡データを活用して様々な課題を解決していく、という取り組みです。

松本自作のイメージイラスト

登山アプリ「YAMAP」を使って登山をする全員が、登山地図のアップデートに貢献できるー。それはまるで、現代、デジタル時代の伊能忠敬のよう…。

今回は、歴史上の偉人の名を冠したこの一大プロジェクトの続報として、「コースタイム修正の取り組み」を紹介していきます。

伊能忠敬プロジェクトのこれまで

2020年8月にスタートした伊能忠敬プロジェクトですが、最初は「新規ルート追加」を進めまして、のべ60個の新規ルートを追加してきました。

8月以降、全国の地図に新規ルート追加を行ってきた


実はこれ、担当の斎藤が「まずは47都道府県全てにルートを追加したい」と熱い想いを持っており、北から徐々に南下してきて、先日沖縄に到達しました(笑)。

残念ながら山が少ない千葉県だけ、新規ルートが発掘できなかったようです。

追加した新規ルートの情報は、YAMAPの「地図アカウント」からモーメント投稿で公表中


12月からはシステム改善で作業効率が上がっており、今後は新規ルート追加のペースも上げていきたいと考えています。

コースタイム精度UPと、福智山での実例

さて、冒頭のイラストでも示した通り、伊能忠敬プロジェクトは3つの柱から成ります。

・新規ルート追加(登山道そのものの拡充)
・コースタイム精度UP(コースタイムが実態に即し、より正確になる)
・最新のルートにアップデート(崖崩れなどによる登山道の変更を早期に反映)

次に僕たちが目指したのは、コースタイム精度UPです。

ユーザーの皆様の軌跡データから、ある区間を通行するのに所要した時間の統計値を求め、YAMAP地図のコースタイムと比較します。

そしてズレが大きい箇所が見つかったらユーザー統計値を採用し、YAMAP地図のコースタイムを実態に即した値にします。

それでは具体的な修正例を見てみましょう。

※途中難しいグラフも登場しますが、ユーザーの皆さんのデータがどう役立っているか、雰囲気だけでも感じてもらいたくて載せています


福岡県北九州市の福智山です。山頂からは360度の眺望を楽しめます。

地図内のコースタイムとユーザー統計値のズレを確認

これは福智山の地図内の区間ごとのコースタイムに対し、ユーザー統計値を比較したグラフです。

ピンク色で注釈したように、YAMAP では全体的に、コースタイムよりユーザー統計値が早めの傾向があります。

ユーザーさんの方が早く歩いているということですね。

一般的な登山地図と同様、YAMAP でもコースタイムは標準かやや遅めに設定していますので、これは自然な結果です。

それでも一部区間(ピンク色の四角)は、コースタイムに対してユーザー統計値が 110% 以上になっています。

これはつまり、コースタイムよりユーザーさんの方が時間がかかっているということを示しています。

鋭い読者の方はお気づきかもしれませんが、これは危険な可能性があります。

何故かというと、これらの区間では、コースタイム通りに登山計画を立てても、実際歩いてみるともっと時間がかかってしまう可能性が高いためです。

ですので僕たちは、これらコースタイムよりユーザー統計値が遅い区間を優先的に修正することにしました。

今回はこの区間に注目しましょう。

この区間はコースタイムが45分ですが、ユーザー統計値は49.8分となっています。

YAMAP ではコースタイムは基本的に 5 分刻みで設定しているので、ここは50分に修正したほうが良い可能性がありますね。詳しく見ていきましょう。

※統計からはトレイルランニングなどの特殊なデータは除外してあります
※表ではズレが200%というショッキングな数字も見られますが、これはコースタイムが短い区間がほとんどです。5分刻みのコースタイムにおいて、5分か10分かで結果が大きく変わってしまうのです

ユーザー統計情報を詳しく確認

上記の区間は、鈴ヶ岩屋手前のポイントから九州自然歩道を下る 45▶ の区間です。

これが上記区間のユーザーさんの軌跡を分析した結果です。

上部(49.8の方)が下りで、下部(62.3の方)が登りデータです。

棒グラフでは20分位で通過しちゃう人が数人居て、最も多いのは45〜55分くらいで通過する人であること、そして遅い人は90分くらいかけていることが分かります。

※このデータは小休止を除外してあります

いくつかの統計情報をチェックしますが、やはりコースタイムを50分に修正するのが良さそうでした。

実地検証しよう

上記区間を実際に歩いてみます。

僕たち分析チームは普段は薄暗い部屋で(笑)データと睨めっこですが、実は現場(山)が大好きです。

現場はデータからだけでは分からない気づきを与えてくれることを、僕たちは知っています。

社内のメンバー数名で歩いてみた結果です。

一緒に歩いていましたが、スマートフォンのGPS誤差などの影響で、若干タイムがズレています。

統計値は47.9分。一般的なペースで歩いたつもりでしたが、コースタイムの45分よりやや遅い結果でした。

そして今回も、現場での気づきがありました。

この区間の後半は、大小の石がゴロゴロしており、歩きにくかったのです。

この影響で、ユーザーの皆さんも下りでペースが上がらず、やや時間がかかっていたのかもしれません。

実態に即したコースタイムに修正

ということでユーザー統計値と実地検証の結果の妥当性を以て、コースタイムを45->50分に修正しました。

We are all 伊能忠敬! あなたの一歩が「地図の進化」と「登山者の安全」に繋がっている

以上のようにユーザーさんの軌跡データを活用することで、地図のコースタイム精度UP を行っていきます。

・伊能忠敬プロジェクトでは、ユーザーさんの軌跡データを分析することで、区間ごとの所要時間のユーザー統計値を求めます
・そして、ユーザー統計値がコースタイムより遅い場合を優先的に修正します
・これにより YAMAP 地図のコースタイムを、より実態に即したものにします

これらは全て、ユーザーさんが YAMAP アプリで登山活動を記録してくれるからできることです。

言い換えると、あなたが YAMAP アプリで活動を記録してくれれば、地図情報がアップデートされ、登山者全体の安全に繋がると言えます。

あなたの登山の一歩一歩は、登山者全体の安全に繋がっています。

それはまるで、現代デジタル時代の伊能忠敬。登山者全員が伊能忠敬であるようだなと。そういう世界を実現していきたいと、YAMAPは、僕たち分析チームは思っています。


(※ この記事は 2020年12月29日 に YAMAP MAGAZINE に投稿した記事を元に編集した記事です。)

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