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「顧客の幸せ」と近いB2Bのソフトウェア開発。海外展開と日本のエンジニアに求める要素とは | DevLounge.jp Session B-1レポート

著名人が「いま話を聞きたい」開発者を直接指名し、日頃なかなか聞けない開発トピックについて語り尽くすオンライントークセッション「DevLounge.jp」。Session B-1は株式会社Preferred Networks執行役員でロボットソリューションズ担当VPである海野裕也氏と、Treasure Data, Inc.共同創業者で、現在は同社の取締役を務める太田一樹氏です。

海野氏は自然言語処理を中心に研究し、現在は主にロボット開発を担当。太田氏はアメリカのシリコンバレーで起業し、BtoBのサブスクリプションサービスを展開。お2人は大学の先輩・後輩であり、短期間ながら同じ会社で勤務していたこともあるそうです。それぞれの立場から、BtoBのソフトウェア開発の魅力と大変さ、そして海外展開をしている企業目線での日本のエンジニアについて語っていただきました。

海野裕也

2008年に東京大学大学院修士課程を修了、同年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。2011年に株式会社Preferred Infrastructureに入社し、2016年に株式会社Preferred Networksに入社した。自然言語処理、機械学習、ロボティクスの研究開発に従事。2019年5月より執行役員とロボットソリューションズ担当VPに就任し、現職。著書に『オンライン機械学習』『深層学習による自然言語処理』(講談社、共著)。

太田一樹

東京大学大学院情報理工学研究科修士課程を修了。学部課程に在学中、株式会社Preferred Infrastructureに参画し最高技術責任者となる。2011年に米シリコンバレーにてTreasure Data, Inc. を設立し、最高技術責任者として事業拡大を牽引。2018年にArm社による買収を経てArmデータビジネスユニットVP of Technologyを務めた後、現在はTreasure Data, Inc.の取締役を務めている。

顧客の幸せと近く、他業界と関われることがBtoB開発の面白さ

海野:最初のトークテーマはBtoBとBtoCでのソフトウェア開発の違いについてです。太田さんは率直にどうお考えですか?

太田:日本ではBtoBのソフトウェア開発を行う企業は、BtoCに比べると少ないですよね。BtoCはEコマースや広告などの儲ける手段がありますが、収益とお客さんの幸せは必ずしも一致しないことが多い気がします。データサイエンティストのジェフリー・ハマーバッカーが「僕の世代では、最も頭の良いやつの仕事は他人に広告をクリックさせることなんだ。最低さ」と発言していたように、本当に広告を設置する位置によって売上が変わる世界ですからね。BtoBの仕事をしているTreasure Dataには、そういうやり方が好きじゃない人が集まってきています。

海野:なるほど。BtoBのほうがお客さんとの距離が近いという感じですか?

太田:最近、BtoBではサブスクリプションが多い傾向にあって、お客さんに長く気に入って使ってもらうために、エンジニアが直接お客さんの意見を取り入れてサービスを作れます。BtoCに比べて、お客さんの幸せと自分のやっていることが近い気がしますね。昔からそういう部分がすごくいいなと思っていました。ユーザーが何千万人というレベルでない限り、特定のお客さんの声を聞いて価値を届けられるので、エンジニアとしてのやりがいもあります。

海野:確かに、お客さんから性能や精度についてテクニカルな要求がダイレクトにくることは多いですね。お客さんの問題を直接解決できるのはいいですよね。個人的には、違う業界のお客さんの話を聞くのも楽しいです。

太田:それはありますね。放っておくとテクノロジー業界の人とばかり話をしがちですが、BtoBだと車や製薬、リテール(小売)などいろいろな業界の人と話す機会がありますよね。

海野:しかも話をする中で、相手企業のテクノロジーで欠けている部分が見えてきて「こういうピース(技術)が当てはまるんじゃないですか?」という解決策まで見えてくると面白いですよね。Preferred Infrastructure時代の太田さんも、客先によく行って話をされていたイメージがあります。

太田:当時の経験は、いまでも糧になっています。例えばエレベーターの会社からは、「エレベーターは何か問題があったら人身に影響する。だからうちに提供する製品はエレベーターと同等のクオリティである必要がある」と言われました。そのレベル感で物事を考えている会社に製品を納めるのはこういうことなのか、といい学びになりました。

海野:僕も学びというか、Preferred Infrastructureに入社して、エンジニアが全員営業に行くことには驚きました。

太田: GAFAみたいな企業が世の中を侵食する一方で、立ち向かっていけない企業は山ほどあって、そういう企業はテクノロジーでも遅れています。巨大プラットフォーマーに対してどうポジションをとるかは、テックスタートアップとしては一番面白いところです。「どういうソリューションを持っていけば、世の中にインパクトを与えられるのか」は、個人的なテーマにもなっています。

研究から製品化へは失敗の連続。BtoBはサービス維持への責任感も必要

太田:最近はAIや深層学習に過度ともいえる期待がありますが、海野さんはどう思っていますか?

海野:僕はポジティブなほうなので、期待がまったくなかった時代のことを考えると、確かに過度ではありますが、仕事があるだけいいと思っていますよ。期待がある中で、ちゃんと成果や結果を出せるように頑張りたいと思っています。

太田:製品化の部分はどうされているんですか?

海野:そこが悩ましいんです。新しいテクノロジーに期待しているお客さんも結構いるので、「うまくいくかはわからないけど、深層学習でやってみましょう」とPoC(Proof of Concept:デモンストレーション)を実施するとか。ただそこから製品にしようとするとけっこう大変です。

太田:Treasure Dataでは創業当時、技術をどう社会に還元していくかが課題だったので、リサーチャーはほとんど置かずにほぼ全員エンジニアにして、お客さんのビジネス課題を解決する体制にしました。ただ必ずしも研究が製品化にキレイにつながるわけではないので、難しいですよね。

海野:やってみてうまくいったのでそこを伸ばしたり、お客さんの反応を見て改善したり、深層学習を使ってみたり、試行錯誤ですよね。うちも相当失敗しています。

太田:そこが難しいですよね。失敗はあってもやり続けるしかないですから。Preferred Networksは大企業と巨大なプロジェクトに取り組むことが多いですよね。

海野:ええ。大企業は戦っていることの規模感や扱っているテーマが大きく、視座が高いので勉強になります。接していてDXやSDGsなど、トレンドをみて技術の大きな流れを作る必要性も感じます。

太田:変化に対して、いかに早く対応するかは重要ですよね。ただBtoBだと、変化の過程で失敗できないことも多い。うちはクラウドサービスなので、ともかくサービスを落とさないことが重要です。1秒でもサービスダウンしたらお客さんから即電話がかかってきて、始末書を書く世界ですから。その分、責任感が必要です。導入後、10年くらいは使ってもらえるシステムなので、長期だからこその難しさや大変さもありますね。

海野:製造業だと設備投資のスパンとして5〜10年は普通なので、その間のサポート体制は厳しく見られますよね。

海外拠点とのやりとりの難しさと、日本のエンジニアに求める英語力

太田:僕がPreferred Infrastructureに在籍していたとき、社員数は30人くらいでしたが、いまは社員数がかなり増えましたよね。増えて大変だなと感じることはありますか?

海野:社員はいま300人くらいいて、医師免許を持っている人や化学のドクターを持っている人など、いろいろな分野の人がいて面白いですよ。ただ、直接話すことのない人が増えて、文化的断絶のようなものも感じます。Treasure Dataはいまどんな人員構成なんですか?

太田:うちはいま社員が480人くらいいて、エンジニアは150人くらいで、営業やマーケティング、カスタマーサクセス、プロダクトマネジャーが大半を占めています。BtoBのSaaSをやっている会社だと、最初のころは研究開発への投資比率が高く、だんだん営業やマーケティングの比率が上がっていくという傾向がありますね。

海野:太田さんは自分で会社を立ち上げていますが、最初の頃は採用が大変だったんじゃないですか?

太田:最初の30〜40人くらいは、あたりをつけて個別に声をかける「一本釣り」でしたね。人は2〜3年に1回、転職を考えるタイミングがくるそうです。それと、実際に転職するときは毎日喋っているような身近な人ではなく、3ヶ月に1回会うくらいの関係の人からの紹介に食いつきやすいとか。そこで採用したい人をリストアップして、3ヶ月に1回ぐらいアプローチしていました。するとタイミングがあって、コンタクトしてくれる人がいるんです。

海野:へぇ、面白いですね。いいタイミングで連絡がきた、となるわけですね。

太田:そういう形で採用していきました。ただ、腕が立つ一匹狼タイプが集まるので、売上が何十億というレベルになってくると、そういう人たちだけでは回りません。そこで新卒やインターンも採用しています。

海野:いまは世界に拠点を持って、現地で採用していますよね?

太田:ええ。最初は日本がメインだったんですが、いまはシリコンバレー、バンクーバー、ベトナム、イギリスなどに社員がいます。

海野:海外拠点とのやりとりでは、どんなことが大変ですか?

太田:タイムゾーンや国民性の違いは、けっこう難しいと感じますね。日本とベトナム、シリコンバレーとバンクーバーは、タイムゾーンごとのコミュニケーションになりがちです。とはいえ、サービスを24時間365日動かすことを考えると、日本だけで採用するわけにはいきません。

海野:国によって給与レンジも違いますよね。日本はシリコンバレーに比べて、低いんじゃないですか?

太田:低いですね。でも現地の人とスキルセットはあまり変わらない、むしろ高いぐらいだと思います。ただ、英語ができる人が少ないのが大きな問題です。日本のエンジニアは英語が喋れるだけで、価値が4、5倍になると思いますよ。

海野:実際、Treasure Dataだと、どのレベルの英語が必要なんですか?

太田:基準としては、レベル1が「コミットログやプルリクエストを英語で読み書きできる」、レベル2が「Slackなどでコミュニケーションができる」、レベル3が「対面で話せる」、レベル4が「リモート会議で話せる」で、少なくともレベル1はほしいですね。

海野:このレベル分け、すごく納得感があります。

太田:レベル2くらいでも、入ってから大変だと思います。ただ、エンジニアとしてこの先20〜30年のキャリアを考えると、そういう環境に飛び込むことは、自分へのすごくいい投資になると思います。日本だけでなく、グローバルに目を向けてくれる人がこれから増えていけば嬉しいですね。

当日のアーカイブはYouTubeでも配信中。イベントレポートではお届けしきれなかった話が盛りだくさん。気になった方はチェックしてみてください。

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