Wantedlyプロ フィールのフルリニューアルを記念して開催しているオンライントークイベントシリーズ『ぼくらの転機〜ココロオドル仕事との出会い方』。2021年1月19日(火)に行われた第3回では、MCにコラムニストの島田彩さん、ゲストには独立研究家、著作家、パブリックスピーカーとして活躍する山口周さんをお招きしました。
畑違いの業界にもすんなり飛び込み、軽やかにキャリアを積んできた印象のある山口さんの転機とは? 緊急事態宣言を受けて、フルリモートで開催された対談風景の一部をお届けします。
新しくなったWantedlyのプロフィールで紐解く山口さんの原点
島田:新しくなったWantedlyのプロフィールでは、一番上に自分のキャッチコピーや座右の銘をいれられるようになりました。山口さんのプロフィールにある「ときめきを軸に、わがままなくらい、自分を貫け。」には、どんな想いが込められているのでしょうか?
山口: “ときめき“という言葉を流行らせたのは、片付けコンサルタントのこんまりさん※です。彼女が教えるメソッドは、手元に置くものと処分するものをときめくかどうかで判断します。僕は、仕事や住む場所なども同様だと思っているんです。「大手企業だから」「一流ブランドだから」という理由ではなく、そこにいてときめくかどうかで決めればいい。そういったコンサマトリー※な考えの方が後悔のない選択ができると考えているので、その想いを表現しました。
※近藤 麻理恵さんの愛称。
※明日のために現在を手段として考えるのではなく、現在を楽しむといった考え方。
島田:多岐にわたってご活躍されている山口さんが、どんな“ときめき”を積み重ねて今に至ったのかとても気になります。大学時代はどんな学生でしたか?
山口:コンテポラリーミュージック(現代音楽)に夢中でした。よくスタジオにこもって曲作りをしていましたね。夜中から朝方まで作業をして、完成した曲を入れたテープを持って早朝ドライブに行くことが一番の楽しみでした。ものづくりってこんなに楽しいものなんだと気づいた僕の原体験です。
島田:それだけ音楽に夢中だったのに、なぜ広告代理店の電通に就職することにしたんですか?
山口:当時の音楽業界はアイドルの独壇場で、僕が好きなコンテポラリーミュージックはまったく人気がなかったんです。コンサートに行っても、5〜6人しか観客がいませんでしたから(笑)
どうにか表現を仕事にしたいと考えた時に思い浮かんだのが広告でした。テレビCMはたくさんの人の目に留まりますし、当時は音楽や映像よりも広告の表現が進んでいた印象がありました。加えて、以前から興味があったキュレーション※に近いことができるんじゃないかなと。人がつくった音楽や映像を組み合わせて企業のメッセージを伝えていくことが、自分のやっていた表現の延長線上にある気がしたんです。
※美術館において作品を管理し、展覧会を企画する専門的役割を担っているキュレーターから派生した言葉。テーマを決め、展示する作品やアーティストを決め、どう展示していくか、それによって鑑賞者にどのような新しい発見や価値を与えるのかといった企画業務にフォーカスして使われることが多い。
山口さんの転機:得意なことの純度を上げて自分の武器に
島田:これまでの経歴を振り返って、山口さんの一番の転機は何でしょうか?
山口:電通を辞めたことですかね。辞めた理由はシンプルに飽きたからです(笑)。7年もいて言うことじゃないですけど、本当に電通の仕事が向いてなかったんですよ。あの会社は膨大な雑務を完璧に仕上げる必要があった。だけど僕は見積もりやスケジュール管理などの細かい作業がすごく苦手だったんです。電通はそういった仕事が要だったので、自他共に認めるローパフォーマーな僕は、周囲に迷惑を撒き散らしていました。
島田:山口さんにもそんな一面があったとは……。
山口:その一方で、複雑な問題を整理して解決することに対してはものすごく長けていました。そこで得意なことの純度を上げて、今後は経営計画を立てたり、経営者の参謀をやったりするのがいいのではないかと考えたんです。
島田:なるほど。そこからなぜ、畑違いの外資系コンサルティング会社に転職することにしたんですか?
山口:電通を辞めてから2年ほど、バイトしたり、ひきこもりしていたりしていました。その中でネットベンチャーの立ち上げの手伝いを引き受けたことがあったんですが、これがどうにも水が合わなかったんです。カルフォルニア的な社会を変えてやろうという自由な空気感を期待しましたが、想像していた世界とは違っていました。
それで次はどうしようかなと考えた時に、外資系のコンサルティング会社でも行くか〜というテンションで、半年間、独学で経営学を勉強し、ブーズ・アレン・ハミルトンに滑り込みました。
島田:すごいですね。その後、2社のコンサルティング会社を経てコーンフェリーに入社されますが、その経緯がとても面白いなと思いました。
山口:電通を辞めて以来の大きな転機だったと思います。当時は戦略コンサルにもう飽き飽きしていて、かといって次にやりたいことも特に見つからないという状態でした。そんな時に声を掛けられたのが、コーンフェリーです。
人事の評価制度をつくる会社だったので、最初はまったく興味がなかったんですが、面接でお会いした役員の方の言葉に心を動かされました。「日本の企業を強くするためには、人の行動と思考を変えていく必要がある。働いている人の可能性を最大化させるためにはどうしたらいいのか、そこを課題にクライアントと向き合っているんだ」と言われて、その時初めて人事が人と組織について包括的に考える仕事だと感じました。意識が180度変わりましたね。
島田:ときめきを感じたんですね。とは言え、専門外の分野に飛び込むことに迷いはありませんでしたか?
山口:ありましたよ。この時はすごく迷いました。でも面接時に、「あなたみたいに経営戦略がわかっていて、心理学や歴史についても知識があって、人の行動が読める洞察力のある人が欲しいんだ」と言われて腹を決めました。内心、おだてられているかもしれないという思いはありましたが……(笑)。
また、人と組織の問題を扱うようになったことで、今まで単純に好きで読んでいた心理学や歴史の本で得た知識が役に立ったのも嬉しかったですね。それまで、「何の役に立つんだろう?」と、虚しく感じる瞬間もありましたから。やはり、勉強が苦にならない領域は仕事の適正に通じると感じました。
島田:著書の中でも「役に立つかどうかわからない部分にこそ意味がある」と、仰っていましたもんね。
ココロオドル仕事との出会い方:ひとまず逃げてから考えてもいい
島田:今回のイベントのテーマでもある、心が踊る仕事との出会い方。どうしたらそのチャンスを掴めると思いますか?
山口:机の上だけでウジウジ考えずに、とにかく動いてみることですね。もし、今いる環境にときめきを感じなかったり、何か問題があったりする場合は、とにかく逃げてみるといいと思います。次の目的地がなくてもいいんです。逃げてから考えればいい。僕も、7回ぐらいそれを繰り返していますから(笑)。
島田:そうですよね。新卒で入った会社は我慢して2〜3年やるべきだという声もありますが、周囲の反応は気にしなくても良いと思います。
山口:僕も電通には7年いましたから、長すぎましたね。皆さんの頭の片隅に入れておいてほしいのは、キャリアは計画できるものではないということです。アメリカの学者、クランボルツ※のキャリア論の研究では、成功を収めてキャリアに幕を閉じたシニアの9割が「自分がこんな仕事をやることになるとは思わなかった」と口を揃えて言っていたといいます。そして、その多くが人に誘われたことがきっかけだったというデータも出ています。
※ジョン・D・クランボルツ。キャリア論を専門とする教育心理学者。
島田:山口さんご自身もそうですよね。
山口:はい。キャリアはその瞬間、与えられたオプションの中で選択していくしかありません。だからこそ、常日頃新しい人と出会える場に行く、誘われたら興味がなくてもやってみる、そうした積み重ねでいざという時のオプションを増やしておくことです。そして、天職は天に与えられた仕事と書きます。ゆえに自分から探しにいくという感覚ではなく、周囲から求められていることを軸に考えてみるといいと思います。
島田:周囲の人からよく褒められることに注目してみると良いかもしれませんね。
山口:そうですね。逆に自分が得意だと思っていても、そうではない場合もあります。自分を棚卸しする際に、自己実現のために何がやりたいのかを考えることも大切ですが、社会から何を求められているのかという視点を持っておくと、キャリアの可能性が広がると思います。あ、最後にときめきと真逆のことを言ってしまいましたね(笑)。
イベント配信を終えて:自分だけの強みを見出すには?
──先ほど、周囲から求められていることに注目してみようという話がありましたが、得意なことにときめかない場合はどうすればよいでしょうか?
山口:得意なことと好きなこと、スキルを掛け算して自分が活動できる領域を見つけると良いと思います。僕も、得意とする戦略コンサルにはまったくときめきません(笑) 一方で、心理学や歴史についてはいくら学んでも興味がつきない。ときめくことがセットなら、飽きた仕事も面白く感じるものです。
──確かに、そうですね。
山口:ちなみに、ひとつの業界でトップとして活躍できるのは100人までと言われています。どれだけ好きで熱量があったとしても、ひとつのカテゴリーで勝負をしようとすると、その席は既に埋まっている場合もあります。そこで、得意と好きを掛け合わせてみるんです。2つの強みがあれば1万人に1人、3つの強みがあれば100万人に1人の逸材になれます。
──なるほど。配信には「そもそもときめくことが見つからない、だから自分の強みを見出せない」といった質問も寄せられていました。
島田:山口さんも配信中に仰っていましたが、とにかく自分から動いてみることだと思います。例えば、ときめくことを既に見つけている友人や知人に会ってみると、良い刺激になるかもしれません。
──仕事に限らずということでしょうか?
島田:はい。オタクと自負するぐらい夢中になるものがある人は、ときめいていることに対して豊富な知識を持っています。人間、よく知らないものにはときめかないじゃないですか。深く知ることで好きになれることって意外とたくさんあると思います。自分で見つけたときめきまでは強い衝撃はないかもしれないけれど、誰かのときめきを通じて心のアンテナが動き出すこともあるんじゃないでしょうか。
山口:そうですね。あとは、自分の感情自体に鈍感になってしまっているケースも考えられます。そういう時は原体験を思い起こさせてくれるような公園や学校など、懐かしいと感じる場所を訪れてみると良いかもしれません。また、過去に強い怒りや哀しみを経験している人はその気持ちごと感情を封印してしまっている場合もあります。これまでの人生を振り返ってみて、腹が立ったことや疑問に感じたことを思い出してみてください。実は、そうした原体験から自分が一番大切にしていることが見えてくるんですよ。
──そこから自分のキャリアを切り開くヒントが見つかる場合もありそうですね。
山口:あると思います。最近では「やりたいことをやろう」「好きなことを仕事に」といったメッセージを伝えるコンテンツが目立ちますが、それはキャリア論の落とし穴です。社会で活躍をしている人は、やりたいからやっているのではなく、貧困や格差といった腹が立つ課題を解決したいという想いに突き動かされている場合が多い。僕もそのひとりです。
ときめきを軸にする生き方と真逆だとツッコミが入りそうですが、喜怒哀楽は表裏一体です。人間の感情は、会社でいうところの財務諸表。自分という会社を経営するためには、今、何に感情を揺れ動かされているのかがわからないと自分の進むべき道も見えなくなります。キャリアに悩んでいる人は一度、じっくり自分の心の声と向き合ってみると良いと思いますよ。
「ぼくらの転機〜ココロオドル仕事との出会い方」では、毎回さまざまな業界のトップランナーを招き、ご自身のWantedlyのプロフィールを拝見しながら、ターニングポイントとなった転機、そしてココロオドル仕事との出会い方についてお話を伺います。
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