ーーだんだん暑くなってまいりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?
本日は、スーツに技術顧問として就任された、AI研究の第一人者※でもある榊剛史(さかき たけし)博士にインタビューをおこなってきました。弊社のプロダクトである「Suit UP」の可能性についてはもちろん、今後のAIと人間の仕事との関係など幅広く聞いてまいりましたので、どうぞお目通しください!
※2020年中国・清華大学による「世界的AI研究者2000人」に選出される。日本人研究者としては8名のうちの一人。
ーー本日はよろしくお願いします。それでは早速ですが、これまでのご経歴を教えてください。
榊:
修士課程を卒業した後、新卒で東京電力に入社しました。3年ほど勤務した後、2009年に退職して東京大学工学系研究科の博士課程に入学しました。研究活動を進めると同時に、現職であるホットリンクで業務委託を受けていました。
4年ほどかけて博士号を取得した後、1年間東京大学で特任研究員を務めまして、その後、ホットリンクに入社しました。それが2015年になります。
ーーAI研究者を目指されたきっかけを教えてください。
榊:
高校生の頃は「ラジオ部」という名称の部活で、実際はパソコンいじりをしていまして、いわゆるオタクでした笑
ーー初めてお聞きしました笑 そうだったんですね笑
榊:
はい笑 それで当時、オタク界隈で流行っていた「ときめきメモリアル」というゲームにハマりまして、その時、「これ、選択肢を選ぶのではなくて、もっと自由に会話できれば良いのに」と、「しゃべれる恋愛シミュレーションゲームを作ってみたい!」と思ったのが一番最初のきっかけになります。
その後大学に入って、学部の時は前述の夢をかなえるべく、自然言語処理の研究室を希望して無事配属されました。
しかし修士課程では入試の成績で同期に負けてしまいまして、配属されたところが人工知能を研究していた石塚研究室でした。人工知能で有名な松尾先生の出身研究室ですね。そこで松尾先生や東京工業大学の岡崎先生、東京大学の森先生から研究の楽しさを教えてもらいまして、次第に「人工知能研究者」が将来の選択肢に入りました。
榊:
ただ、修士課程の頃は博士課程にいくか迷っていたんですよね。結局そのときは、「今しかできないことをしよう!」と思いまして、新卒で就職することを選びました。
入社当時は、「日本の大企業を改革してやるんだ!」という気持ちが強かったのですが、3年間ほど設備保守の業務をしているうちに「保守業務の最適解は『現状を変えずに維持すること』」であることを痛感しました。改革をする、ということとは真逆ですね笑
「このままでは保守的な人間になってしまう!」という危機感を覚えまして、そこで博士課程に戻って研究者になることにしました。
ーーなるほどありがとうございます。
榊:
まあでも、そのときに一念発起して会社を辞めた一番のきっかけは、当時長年付き合っていた彼女にフラれた勢いから、というものでしたがw
ーーなんと、です笑
ーー続きまして、先生が現在ご興味をお持ちになられていることや研究の内容を教えて頂けますでしょうか。
榊:
「人工知能」、というと今のChatGPTやロボットのようなイメージが強いかなと思いますが、人工知能という分野は本来、「人間の知的な処理の一部を人工的に再現しよう」という緩い目的を共有した、裾野の広い分野です。
その中で、自分は計算社会科学という領域に注力しています。
(弊社CTO上原と)
榊:
計算社会科学というのは、ごく簡単に申し上げると、これまでは小規模な実験・観測データを用いて検証されてきた社会科学分野(社会学、心理学、政治学、経済学など)について、より大規模なデータとデータサイエンス(人工知能技術)を用いて検証していこう、という分野です。
複数の分野が関わる学際的研究分野の一つでもあります。
データサイエンス(人工知能技術)の発展、計算機の発展、大規模データの蓄積、という3つの要素が合わさって、2010年以降に現れてきた分野です。
自分はその中でもTwitterデータを分析して、炎上を初めとするSNS上の情報拡散のメカニズムを明らかにする研究に取り組んでいます。ホットリンクでは、その知見をSNSマーケティングに活用しています。
ーースーツにはどのようなきっかけで参加されることになったのでしょうか?
榊:
スーツの小松君とは同じ高校で、当時から知り合いでした。そこそこ仲は良かったのですが、「とりわけ良かった」というほどでは無かったんですけどね笑
それが、卒業して以降、特に博士課程に戻って以降、たまに飲みに行ったり、ビジネス上で色々な人を紹介してもらったりとしているうちに、高校時代よりも仲良くなったんです笑
(弊社代表小松と)
榊:
そんな小松君から「うちの会社もいよいよプロダクトを作るんだけど、興味ある?」と誘われまして、そこで聞いたアイディアがとても面白そうだったため、「是非」と。そして技術顧問としてスーツにジョインすることにしました。
ーー榊先生の考える「Suit UP」の可能性を教えてください。
榊:
「タスク管理」というのは、これまで様々な人間が取り組んできた課題ですが、未だ良いやり方が定まっていないという、1つのフロンティア(未知領域)だと思います。
タスクの定義や分類というのは、「個々の業界や企業によって異なるので、統一的なシステムで扱うのは難しいよね」と言ってしまえばそれまでですので、統一化に取り組む人が少なかったのだと思います。裏を返せば、もしも「異なる業界や企業のタスクを統一的に扱うことができれば、そこには大きなビジネスチャンスがある」と言えると思います。ベストプラクティスが定まっていないビジネスに正面から取り組んでるという意味で、Suit UPは大きく発展する可能性を秘めていると思います。
ーーSuit UPにAIが導入されることで、どのような進化が起こるのでしょうか?
榊:
ある程度Suit UPの利用データが蓄積されている状態、ということが前提になりますが、人工知能技術が導入されることで、Suit UP上でユーザが行う様々な作業が自動化可能になると思います。
自分が考える人工知能技術の社会実装による貢献は大きく分けて3つあります。
①定型業務の自動化/省力化
②性能向上による売上向上
③意思決定のための仮説検証 の3つです。
Suit UPでは定型業務の自動化/省力化が人工知能技術導入による効果となるでしょう。
(弊社エンジニアチームと)
榊:
それと、これは妄想ですが、タスク管理に関するデータを蓄積することで、タスク管理を専門としたChatGPTのようなモデルを作ることができるかもしれません。
ChatGPTを構築する際に利用された学習データの殆どは、ウェブ上に公開されているデータだと言われています。つまりそれは、ウェブ上にある知識・知見しか扱えないということになります。
一方、Suit UPの目指す「汎用的なタスク管理の方法」については、先ほども述べたように、まだまだ未知の領域になりますので、当然ウェブ上に知見があるわけではありません(もちろん、様々なドメスティックなタスク管理の知見はありますが)。
そういった意味で、ChatGPTでは扱えない領域を扱える、新たな人工知能のモデルを構築できる可能性もあります。
ただ、これは半分くらいはまだ夢物語ですが。
ーー榊先生が「Suit UP」に関与される中で実現したいことはなんですか?
榊:
実は、とても身近なことを実現したいと思っています。ずばり「自分のタスク管理を楽にする」ですね。
私も本職は管理職ですので、普段から業務としてタスク管理を行っています。しかしながら実は自分自身、タスク管理が得意、という訳ではなく、私事として日々苦労しています。
そういった意味で、Suit UPを良いプロダクトにして、ささっと自分のタスク管理にかかる手間を大幅に減らしつつ、その品質を高めたいですね!
ーーAIによって仕事を奪われる、といった話を良く聞きますが、テクノロジーと共存していくためにはどのようなことが必要になってきますでしょうか?
榊:
この話題は、AI領域に限った話ではなく、テクノロジー全般の話として、これまでも生じてきたものかなと思います。新たなテクノロジーが生じれば、それに応じて仕事のやり方が変わり、それについていけない人が「テクノロジーによって職を失う」といったものです。もう少し抽象度を上げていえば、単純に外的要因によって引き起こされる仕事の変化についていけなかった、ということになるかと思います。
ですので、基本的には、「AIに限らず、外的要因により仕事の変化はいつでも起こり得る」ということを意識して、それが起きたときに仕事の変化にフォローアップしていくことが重要だと思います。
もしその変化が新たなテクノロジーによるものであるならば、「そのテクノロジーを積極的に試し、必要に応じて仕事に取り入れていく」というのがベターなプラクティスになるかと思います。
ざっくり申し上げると、「新しいテクノロジーが出てきたら、すぐに試して仕事に取り入れることを検討する」というのが、テクノロジーとの良い共存方法かと思います。
ーーAIが普及していく中で、ビジネス現場はどのように変化していくとお考えですか?
榊:
今後数年は、ホワイトカラーの中での格差が大きくなると思います。
具体的に言うと、人工知能技術を使いこなせる人たちは、従来よりも数倍の業務をこなして恩恵を受ける一方、人工知能技術を使えない人たちはこれまでと同じ恩恵を享受できなくなってしまうと思います。先ほどと同じ話ですね。人工知能技術によって引き起こされる仕事のやり方の変化に、「ついていける人」と「ついていけない人」で効率に大きな差が出てくると思います。いわゆる「the rich get richer」みたいな話ですね。
ですので、ビジネスパーソンとしては、その変化に必死に食らいついて行くことが重要だと考えています。
ただ、格差が大きくなった後は、社会の制度や仕組み自体が変わっていく可能性があると思います。自分はそのあたりは全く専門ではないので、その先の変化については、私自身、他の研究者の方から学んでいくなどしていきたいと思います笑
ーー本日はありがとうございました!