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エスプールをもうひとつ上のステージへ──社長室のブレーンの挑戦の軌跡

2019年7月26日、東証一部上場を果たしたエスプール。その上場を取り仕切ったのが、経営企画・法務部門の荒井直取締役率いる社長室だ。その荒井の右腕が新卒8年目の渡辺烈だ。彼のキャリアを支えているのはひたむきな努力と苦労だった。渡辺の歩んできた軌跡にスポットライトをあてる。

新卒入社。法律のバックボーンなしで法務担当へ

               ▲入社後の研修(渡辺は左から2番目)

エスプールを上場に導き、取締役・社長室長の荒井直の右腕として活躍する渡辺烈。さまざまな法律知識が要求される部署だが、最初から彼が法律に詳しかったかというとそうではなかった。彼は東京大学に在学していた際は、理学部数学科専攻という根っからの理系であった。法学は当然無縁である。

そんな彼がエスプールに入社したのが2011年12月。リーマンショックの影響を色濃く受け、エスプールが債務超過から建て直しを図っている時期であり、その年の秋ごろより新卒採用を再開したところへの応募だった。

渡辺 「敷かれたレールの上を歩くよりも、自分に裁量があるところが良かったんです。エスプールはそれに加えて自分が早く成長できそうな環境だと感じて。それで入社を決意しました」

入社当初4カ月間はエスプールヒューマンソリューションズ(以下、SHS)で、短期派遣のコーディネーターを行っていた。そして、2012年4月入社の新卒と一緒に研修を受講後、SHSの管理法務室に配属された。

管理法務室はSHSの各支店が派遣法を順守しているかをチェックし、ときには退職した派遣スタッフとのトラブルで労働局とやり取りもする。配属当初いきなり、退職した派遣スタッフとの労使紛争の交渉窓口を前任者から引き継いで担当することとなり、研修の1日とわずかな業務の中でしか派遣法について学んでいない渡辺は非常に四苦八苦した。

渡辺 「先輩に助けてもらえたこともあって、なんとか乗り切れました。それで、法律の知識が足りないと思って、派遣検定を受けてみようと思ったんです」

法律のバックボーンは一切なかったが、自分にプレッシャーかけて、休日だけでなく朝晩の電車の中でも必死に勉強をした。その結果、2012年6月配属からまだ2カ月しかたっていない8月の派遣検定試験に合格。他に類を見ない早さだった。

社長室へ異動。そして突如、グループ本体の法務を担当することに

その後ほどなくして、人材派遣業界に大きな変化が起こる。2012年10月の派遣法改正により、日雇い派遣が原則禁止となったのだ。SHSにおいてもこれまで主力サービスだった短期派遣から大きく舵を切らざるを得なくなる。

全社の従業員が派遣法を遵守するためにも業務フローを大きく変更することとなり、渡辺は基幹システム改修の要件定義という重要な業務を任された。どの程度「短期」であれば「日雇い派遣」として禁止されるのかなど法律の解釈が改正日直前まではっきりしない状況。そんな中でも渡辺は改修を無事期限内に完了させたのだ。

順風満帆に見える彼にも苦労した業務がある。リスティング広告だ。当時はSHSだけでなく、他のグループ会社の広告も彼ひとりで行っていた。当時はWeb知識があまりなく、SHSの法務部門の業務もこなしながらリスティング広告の効果を全社に最大化するのは難しかった。

そんな折に、グループ代表の浦上壮平より発せられた、Web広告強化の方針のもと、2014年2月にグループ本体の社長室へ異動することになった。

社長室は全社的かつ長期的視野を持った戦略部門。会社の進むべき方向性や中長期的な計画を練りあげ、組織全体がひとつの大きな目標に進んでいけるよう先導するという重要な役割をはたしている。

主な機能は、経営企画、広報・IR、法務。

経営企画は顧客の高い支持を得て、独自の存在価値を示し、継続的な成長ができるようサポートすることを目的とする。中期経営計画策定や予算作成、業績管理、経営会議の運営などを行う。また、広報・IRは社内外へエスプールグループの存在価値や社会的な役割を発信することを目的に、株主や投資家向けにCSRなどを行う機能だ。

そして、社長室の法務は契約締結に関する業務、発注先の企業の審査や契約書のチェック・発行・回収などを担う。

そんな社長室の法務を突如として任されることとなった渡辺。従来担当してきたリスティング広告だけでなく、グループ全社の法務部門としての仕事も担当することとなった。

しかし渡辺は派遣法について学んできたものの、派遣部門以外の事業に関する法知識はほとんどなかった 。

渡辺 「社長室に配属されたらWeb広告に集中して取り組むのかと思っていたら、いつの間にかグループ全体の法務担当になっていました。契約書などに関する知識も全然なかったので、本やネットに出ている情報をひたすら読み込んで、良いところはたくさんまねしましたね」

大切にしたのは密なコミュニケーション──東証一部上場までの道程

         ▲2019年7月26日、東証一部上場を果たした(渡辺は前列左から4番目)

しかし、契約書の作成となると法知識だけでなく、そのサービスを業務レベルできちんと理解しないと良いものはできない──渡辺はそれを、SHSでの経験から理解していた。

渡辺 「エスプールプラスという子会社を設立した際、現わーくはぴねす農園事業部 事業部長の大橋王二さんと、わーくはぴねす農園を利用する企業と締結する契約書の記載内容について決めることがあったのですが、頻繁に協議を重ねていて、時には夜遅くまで話しましたね」

この姿勢は今も変わらず、新サービスの契約の相談を受けるときは、徹底的にヒアリングを行っているという。

こうして引継ぎもない中で社長室での仕事に適応した渡辺だったが、今度は東証一部上場という大きな仕事が待ち受けていた。

渡辺が社長室に異動してきた当時、ミッションとして東証JASDAQから東証二部、そして東証一部上場が掲げられていた。そして、それを成し遂げるためにはグループ全体のガバナンスや、運営レベルを底上げする必要があった。

そのために渡辺が最も大切にしていたのは、社員とのコミュニケーションだ。

渡辺 「ガバナンスレベルを向上させるとなると、ときにはうるさいことも言わなければならないですが、日ごろから信頼を得ていないと相手も協力的にならないと思っています。なので、業務フローの整理、部署間の仲介、業務の巻き取りなど社長室でできることは手伝うようにして、信頼関係を構築するように努力していました」

証券会社の審査に通るように、一段高いレベルの運営を目指すとなると、事業部から嫌な顔をされる可能性もあった。

たとえば、以前は複数部署の責任者を兼任する管理職が多くいたが、そのような兼務は必要最小限とする必要がある。とはいえ単純に兼務を解消しようと思っても、部署数が変わらなければ担当する人員が不足してしまう。なので、新たな責任者の登用や組織構造の変更を促すことで解消していった。

しかし、ただお願いするだけでは改善しない可能性はもちろんある。そのため、渡辺はなぜそれが必要なのかを丁寧に説明して、相互に協力し合う関係を醸成していくことに重視した。

「超一流の会社で働いているんです」と自慢できる会社にするために

             ▲20周年を迎えたエスプール(渡辺は後より右手後方)

各事業部とコミュニケーションを密に取ったかいもあり、グループ全体が証券会社の審査もスムーズに通るほどのガバナンス体制となった。そして見事に東証一部というミッションを達成したのだった。

東証一部上場という大きな目標を達成した社長室。これからは何を目標にしていくのだろうか。そして、渡辺自身はどのような想いでいるのだろうか。

渡辺 「実は2019年12月に創業20年を迎えたのですが、 BtoBに特化したビジネスモデルのため、世間一般のエスプールの認知度はまだ低いです。

東証一部に上場したのを契機に、『ソーシャルビジネスを行っている社会貢献性の高い企業』という良いイメージが世間に広まるようにしたいですね。従業員が胸を張って『エスプールという超一流の会社で働いているんです』と、自慢できる会社にしたいと本気で思っています。

そのためにも、社長室としてはグループ全体を俯瞰的に観察して、各事業会社だけでは達成できないことのサポートをするつもりです。社内で起こることに常にアンテナを張り続け、働きやすい雰囲気をつくっていきたいですね」

渡辺は目標を達成するために努力も欠かさない。

渡辺 「個人としては、現在行っている法務、広報・IRだけでなく、社長室の人員を増員して、新規事業創出のフェーズでビジネスモデル構築などにも携わっていきたいと考えています。

そのためにも、通勤・プライベートな時間でも情報収集や勉強をこれからも続けていきたいです。ただ、知識だけあっても、その新規事業を創出する部署・社員と協力ができなければいいものは生まれないので、普段から彼らと密にコミュニケーションを取り続けようと思っています」

渡辺が社長室のブレーンなのは、彼がもともと頭脳明晰であるからというだけではない。弛まぬ努力や協力的かつ積極的にコミュニケーションを取る姿勢があるからこそなのだ。今後もエスプールを担う彼の活躍から目が離せない。

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