みなさんは「ODR」という言葉をご存知ですか?
「ODR」とは「Online Dispute Resolution」の略で、裁判によらないオンラインでの紛争解決手段のことを言います。
現在の世の中では、ITの普及によってさまざまな取引がインターネット上で簡単に行えるようになりました。スペースマーケットでのスペースの貸し借りも、まさにインターネット上での取引に当てはまります。
そういった世の中の流れにともない、インターネット上の取引によるトラブルや紛争の解決手段の在り方にも変革が求められるようになり、そこで登場したのがODR、オンラインでの紛争解決です。
上記の背景から、スペースマーケットでは2021年7月、スペースマーケットのホスト・ゲストが利用可能なODRサービスを開始しました。
今回は、そのODRサービスの導入に携わった社内弁護士の宇根さん(写真左)に、詳しいお話を伺ってみました!
プラットフォームは法律上トラブルを仲裁できない
―このODRサービスのプロジェクトですが、いつごろから、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?
ODRについては結構昔から構想があって、スペースマーケットが上場する少し前からちょこちょこ話が上がっていました。
もともとスペースマーケットには「スペースマーケット保険」という保険サービスがあります。この保険は、スペース利用を通じてゲストがホストの物を壊した場合などに、その損害を補償するサービスです。
この保険があることで利用者の安心・安全にかなり近づいてはいるのですが、物を壊した以外のトラブルも存在し、そのような場合はこの保険は利用できないのです。
また、スペースマーケットはプラットフォームなので、ゲスト・ホストのトラブルに対して、立場上仲裁に入ることができません。そもそもトラブルの仲裁は、日本の法律上、基本的に弁護士しかできないと決まっているのです。よって、今まではやりとりを見守ることしかできなかったのですが、弁護士の私が見ていると、法的にはもっと良い解決策があるのに・・・と思うシーンが多くありました。
そういった時に使っていただきたいと思い、今回のODRサービスが生まれました。
―プラットフォームは法律上仲裁に入れないとは知りませんでした!それは弁護士目線で見ると歯がゆいですね。スペースマーケット上でのトラブルというのは、例えばどのようなものがあるのでしょうか?
よく見かけるものですと「ゲストが無断延長をしていた」とか、「借りたスペースが清掃されていなかった」などでしょうか。よく見かけると言っても、そんなに頻繁にあるわけではないですが(笑)。
ODRサービスを使えば費用も手間もかからない
―実際にODRサービスを利用する際の流れを教えてください!
ゲスト・ホストの間でトラブルが発生した際に、ゲスト・ホストの双方がODRの利用を希望した場合にサービスが利用でき、オンラインのチャットを利用して弁護士がトラブルを仲裁します。
ちなみに、誤解が生じやすいのですが、ODRは、「中立の弁護士が仲裁をする」というところがポイントです。弁護士というと、依頼して自分の味方になってもらう、というイメージがあるかと思いますが、ODRで登場する弁護士は、中立の立場の人間として、トラブルの仲裁にあたります。
こういう仲裁のサービスは実は弁護士会とかが提供していたりするのですが、自身で仲裁を依頼すると費用がかかりますし、あとは実際にどこかに足を運んだり等、手間もかかります。
でも、スペースマーケットのODRサービスを利用すれば費用はかかりませんし、どこかに足を運ぶこともなく、チャットでのやりとりのみですべて完結します。
―そう考えると、非常に便利になりましたね!ちなみに、このODRサービスは、損保ジャパンさんとともに作られたサービスとのことですが、このように事業会社が保険会社と一緒に保険商品を作ることは結構あるのでしょうか。
なかなか珍しいのではないでしょうか。今回は、損保ジャパンさんがシェアリングエコノミー協会に加入しており、CtoCの取引に非常に興味を持っていただいていたので、実現したものと思っています。
今後はもっとODRの利用が増える仕組みを考えたい
―今年の7月からサービスを開始し、現在半年弱が経過したと思いますが、もうすでにゲスト・ホストから利用されているのでしょうか?
はい!さっそく使っていただいています。何件あったかとか、どんな案件だったかとかは、残念ながら教えられないのですが(笑)。
―どんな案件があったのかは非常に興味がありますが、それはそうですよね(笑)。実際にサービスが使われはじめた現在の気持ちを教えてください!
まずは、実際に紛争解決に役立ちはじめたことが嬉しいですね!
今はまだ「とりあえずサービスを開始できた!」という状況なので、今後は、利用者に満足度等のアンケートを取ったりしながら、さらにサービスをブラッシュアップし、より使いやすく、利用が増えるような仕組みを考えていきたいと思っています。もちろん、トラブルが起きないのが一番ではありますが(笑)。これからが大変でおもしろいところだと思っています!
今までにない制度設計に最前線で携われる
―ありがとうございます!今後も楽しみですね!それでは最後に、この記事を読んでくださっている方に、今回のお仕事の魅力を教えてください!
今までは、トラブルが起きた際には自身で費用を払い弁護士に依頼し、裁判所で解決するのが一般的でした。そのため、弁護士にお願いするほどの取引じゃないとか、裁判所に行くと時間がかかるとか、そういった理由から泣き寝入りをするゲスト・ホストもいらっしゃったのではないかと思います。
しかし、このODRサービスの導入により、そういった泣き寝入りをする利用者の方が減り、より安心・安全にスペースマーケットをご利用いただける環境が整えられるのではと思います!
また、これからもインターネット上でのCtoC取引はどんどん増えていくと思いますし、「オンラインで迅速に、費用が発生せずにトラブル解決できる」というサービスは、今後もっと需要が出てくると思っています。
他社のCtoCプラットフォームで保険やODRを実装しているところはまだまだ多くありません。そんな状況で、今までにない制度設計に最前線で携われるのは非常に刺激的で、企業法務に関わる人間としてはこんなにおもしろいことはないと感じています!
宇根さん、ありがとうございました!
スペースマーケットのODRサービスのこれからの進化にもぜひ注目してみてくださいね!