Value for Money
私が以前の会社の時に担当していた、外資金融企業の方々と仕事をさせていただいていた時に、とても影響を受けたキーワードの一つが“Value for Money”です。
Value for Money(バリュー・フォー・マネー)とは経済学用語の一つ。
消費者というのは代金を支払うことと引き換えにサービスや商品を得られるということになるわけであるが、その際の消費者が得られる価値をより消費者の支払った代金に近い状態にしようという概念である。これは近年になってから行政において重視されるようになっている概念であり、その背景には納められた税金が効率的に運用されていなかったり、納税者には相応のサービスが提供されていないなどという問題が存在している。そこで行政においてもバリュー・フォー・マネーの概念に基づいて、従来ならば公共が自ら実施していたような事柄でも、民間に委託した方がコスト削減が実現できたり納税者に対してより良いサービスが提供できるようになるならば、公共サービスの中にも民間業者が行う事柄を取り入れていこうということになってきているわけである。(出典:Wikipedia)
要は、「支払うカネに見合った価値はあるんか?」ということです。
先入観としてマネーゲームの印象が強かった外資金融業界で、こういった本質的な価値観の基で仕事をさせてもたっらことに感謝しつつ、欧米の金融リテラシー・お金に関する教育文化という価値観にも驚きました。
さて、薬局の業界もまさに今、同じことを言われています。
「支払うカネ(診療報酬)に見合ったサービスなのですか?」
御察しの通り、薬局を営んでいる身からすると耳が痛い話です。
(しかも私にとって、このことを言われたのは“2回目”です。また同じことを言われるのは学習してないことなので、言い訳せず学習します!)
前回のフィードで、調剤薬局の市場規模と経済合理性について触れました。
そして、「残念ながら私たちが収入を得ている市場規模がどれだけ大きくなろうと、経済合理性があったとしても、市場にあるお金のほとんどは「医療費=社会保障費」、そう国の財源なのです。」とお伝えしました。
今、日本の医療を取り巻く環境で問題なのは、高齢者数の増加とそれによって増える医療費です。
2018年の国家予算、一般会計総額は97兆7128億円で、6年連続で過去最大を更新。
高齢化を背景に医療・年金など社会保障費は歳出全体の3分の1超に膨張。概算要求時に6300億円と見込まれた増加幅は、医療サービスの公定価格である診療報酬改定に合わせた薬価の大幅引き下げで圧縮を図った。ただ、それでも4997億円増となり、過去最大の32兆9732億円に達した。(出典・参考:時事ドットコムニュース)
このうち調剤薬局の市場は8兆円にせまる市場です。
なぜこんな話をするかというと、こんな国家予算の状況下で、社会保障費で成り立っている我々の市場を、これ以上大きくすることを国が手放しで認めるでしょうか?ということです。
またここ最近では、大手企業の健康保険組合も高齢者医療への負担増によって財政が悪化し、保険料上げ、もしくは解散する可能性が新聞に出ていました。
(解散が広がれば、協会けんぽへの補助金として税金の投入も膨らむ見通し。とのことで、どのみち結局このツケを払うのは我々で、決して他人事ではないのです。)
政府は国民皆保険制度を守ることに必死になっていますので、高齢者数が増えるなら、一人当たり医療費単価を下げることに躍起になっています。
つまり私たちへの影響として大きいのは、高齢者医療の要である“薬剤費”を下げることです。
(皆保険制度やベーシックインカムなどの社会保障制度的なお話はまたいずれ。)
そんな状況下だから問われているのです、「支払うカネ(診療報酬)に見合ったサービスなのですか?」と。
さあ、私たちはどうしたらいいでしょう?
在宅医療は「割に合わない」
衝撃的なサブタイトルですが、事実です。
そしてこれはどの薬局経営者に聞いても、同じことを言います。
「大きな介護施設などを数件担当して、効率的な人員配置ができなければ、個人の在宅医療のみはよっぽどの件数や在庫的・設備的な優位性がない限り割に合わない」
何が割にあわないか?
それは、少量多品目の在庫、一包化や監査・移動時間を含めた人件費、在宅専用の設備(無菌室、ポータブル薬歴システム、移動車両)など様々です。
余談ですが、保険制度上のビジネスにおいて、実は「設備投資をしない方が儲かる」のです。
①問題提起編でもお伝えした通り、設備が新しくても古くても手技の点数は一律なので収入は変わりません。
もちろん、設備が最新であればそれ相応の医療行為やアピールができます。
しかし、設備や機器が新しかろうが古かろうが、客数を増やさなければ、収入単価の金額は日本全国一律なのです。
話しを戻しますと、病院や施設に入りきれず、個人宅での在宅医療がますます増える状況下であっても、上記のような背景から収入的に割に合わないのです。
悲しいかな、だから皆やりたがらない上に、地域包括ケアシステムの構築を含め、薬局の参加が遅れているのです。
上記でお伝えした通り、国は医療費支出を抑えながら、在宅医療を進めるのに躍起で、過去に処方箋料を上げたように、在宅医療に対して診療報酬の利益誘導による方向付けをしようとしています。
それでもやらない。なぜか?
従来の「外来」「入院」カテゴリーの延長線上で対応できない上に、それ以上のコストもかかる。
何度も言いますが、まさにこれまでと比べて割に合わないからです。
「割に合わないからといって、病人を放置するのか!」という声が聞こえてきそうですが、あまり幻滅しないでください。
これは“医療行為”の話ではなく、あくまでサービスの消費プロセスと経営という側面からみた実情なのです。
「プロフェッショナルとして何をすべきか」を考える
「支払うカネ(診療報酬)に見合ったサービスなのですか?」という市場評価を突き付けられつつ、在宅医療は割に合わないという、矛盾するような、子ども染みたわがまま・言い訳のような状況下で、私たちはプロフェッショナルとして何をすべきか?
まず、ウダウダ言ってないで始めること。です。
で、割に合うやり方・仕組みを作ればいい。のです。
始める→改善する。シンプルでないでしょうか?
こういった話をすると、人生経験豊富な大人たちは決まって「どうやるの?」「それはできるの?」「前例はあるの?」「現実を見てんの?」と以前のフィードでも紹介したようなことを言われます。
できる・できない、どうやるかやらないかはご自分の頭で考えてください。と言いたいところですが、そこはグッと我慢して私の個人的な考えをお伝えします。
(心の声が出ちゃってますけど。)
覚えていますか?「リエンジニアリング」
・今日的課題は原価削減、品質/サービス向上、スピードアップ
・従来の標準品大量生産に適した、職能別に細分化された分業制アウトプットから、多品種少量に適した職能横断的な顧客志向・プロセスベースの仕事の進め方に革新する
・リエンジニアリングするためにはアウトプットが完了するまでのプロセスにおいて、職能を横断する(他の人間の専門的担当業務範囲を侵す)ことから、ITの活用による合理化の必要性がある
これです。
これまでのフィードでいくつか課題点やキーワードをちりばめてきました。
①問題提起編
②機能と価値編
・高齢化を背景とした昨今の医療費増大の問題に対応すべく、国としては一人当たりの医療費単価を下げる
・既に病院や介護施設だけでは対応できず、在宅医療へと流れ始めている
・医療サービスの消費プロセスが完結している「外来」と「入院」カテゴリーであれば、薬を渡す「機能」が医療機関の外に行ったとしても、消費プロセス自体は基本変わらない
・病院やクリニックの前で決まった薬の在庫を確保し、処方箋に記載された決まった薬を渡す「割にあったビジネス」
・在宅医療は「割に合わない」
・高齢者医療の現場では個々人の持っている病気は複合的でそれぞれバリエーションも異なる
・在宅医療の現場にはこれまで適用されてきた「外来」や「入院」の仕組みや考え方では通用しない
・これからは病気は治すのではなく、人生100年時代と言われる寿命を見据えて付き合う
ここまで長い間読んでいただいている聡明な方々なら既にお気づきでしょう。
そう、これからは新しい仕組みや考え方、やり方を作らなければならないのです。
次回、具体的な方向性についてお伝えします。