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タバコを吸うなら左手で。

今回は、弊社COO池上に「介護のアウトカム評価」というテーマでインタビュー。そもそもアウトカムとは何かを聞きながら、本人が望むリハビリ、家族の思い、事業者が背負うリスクなど、話は介護の本質へと展開していきます。

―― まずは「アウトカム評価」について教えてください。

アウトカムとは「成果」「結果」を意味する言葉。介護のアウトカム評価というのは、提供した介護サービスが利用者にどのように影響したかを評価するものです。2024年の介護報酬改定に向けて、このアウトカム評価の波が急激に押し寄せており、介護リハビリの品質を高め、その効果を示せることが各事業所に問われています。はっきりと明言されてはいませんが、利用者のADL(日常生活動作)が向上したかどうかを介護報酬の基準に組み込んでいこうとする動きも高まっているようです。


―― まるで「今までは効果がなくても良かった」とも聞こえますね。

僕もそう思います。現在の介護保険制度のシステムは、ザックリ言うと事業者がサービス提供した実績に対して、介護報酬が支払われる仕組みです。サービスの「質」がどうか。利用者が元気になったか。そういった尺度では、報酬の点数が変わらない制度なんです。

―― そういう意味では、「アウトカム評価」が加わることは、前向きに捉えていいと思いますか?

実際、高齢者を元気にしたい。喜ばれる介護がしたい。そんな想いで仕事をしている方がほとんどだと思います。なので、提供するサービスの「質」が介護報酬に影響してくることは、働く側から考えてもモチベーションにつながるのではないでしょうか。例えば、「真心をこめて笑顔で接することで、高齢者がリハビリを継続することができ、元気になれた」ということなら、笑顔で接することの価値、必要性が上がります。それが職員の給与などにも反映されるようになれば、仕事のやりがいがより大きく感じられたりすると思います。より「質」の高いサービス提供が収益に跳ね返ってくる仕組みになることで、介護市場全体のサービスレベルの底上げにつながるでしょう。

―― 介護リハビリでは、ますます高齢者一人ひとりへのヒアリングが重要になってきますね。

そうですね。個人的にはそのヒアリングこそ、面白いデータが隠れていると考えています。リハブにジョインした際に業界研究をかねてCEOの大久保をはじめ、社内にいるリハ職出身者からいろんな人から話を聞きました。介護リハビリの計画立案においては、利用者本人がやりたいことは何か?を聞き、その希望を踏まえて生活目標を立てるプロセスがあります。多くの高齢者を見てきた彼らに聞くと、興味深い事例がたくさんあったのですが、この流れで紹介したいエピソードが1つあります。それが、たばこは左手に持って吸いたい。というおじいちゃんの話です。

―― 興味深いですね、ぜひ教えてください。

このおじいちゃんは、元気なときはずっと左手でたばこを吸っていたそうです。もしかすると昔観た洋画かなにかの影響かもしれないですね。本人のこだわりとしか言えない生活習慣です。ところが年を取り左手が不自由になったことで、そのこだわりが果たせない。それって本人からするとすごく悔しいことですよね。リハビリをして再び左手でたばこを吸いたい。それって、すごく人間として健全な感情だと僕は思いました。

―― きっと左手でたばこを吸うことを目標にしたプログラムを組めばきっと嬉しいかもしれないですね!

そう思いますよね? では、そのおじいちゃんに、たばこをやめさせたい家族がいたらどうでしょう? 自転車に乗りたいと言い出したら乗ってもいいと言ってあげられるでしょうか?

―― それは…。ちょっと判断が難しいかもしれない。

実は、リスクを避けることや、介護報酬制度の算定条件に当てはまるかどうかを優先にするあまり、本人の希望を家族や介護する側が制限してしまうケースが実際よくあるそうです。でも、自分がこのおじいちゃんの立場だったら、きっと嬉しくないと思います。健常者のときにできていたことを、要介護になったら制限される。僕はこの話を聞いたときに、人の生きる尊厳というものがすこし理解できたと思いました。

―― ひと筋縄ではいかない介護の本質のような話になってきましたね。

実は、高齢者というテーマに向き合うことは、人間の喜びとは何かを研究することだと思っています。人は、人生の終わりが近づいてきたとき、再び根源的な欲求に戻っていくような気がします。ささやかな日常を味わいたい。願わくは、もう一度元気になりたい。そのために目標を立てて生きる。大袈裟かもしれませんが、介護認定を受けた高齢者の皆さんは、きっと絶望と希望の狭間にいるような気持ちでデイサービスに来ていると思うんです。これからの介護を考える上では、そんなペルソナに寄り添うことから始まるとも思っています。僕らの事業を起点に、高齢者の選択肢を増やしていきたいですね。

―― 最後に池上さん自身の理想とする老後について教えてください。

今の生き方と同じ状態が続くのが理想です。ずっと仲間から声をかけてもらいたいし、他愛のないことで笑っていたい。いつまでたっても誰かにかまってもらいたいんです(笑)。あとは、自分がやりたいこと、こだわっていることを、誰にも止められずに選択できると嬉しいですね。

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