(印刷事業本部 産業推進室 手塚裕亮)
■これまでのキャリア
ジャズと車いじりが好きな学生で、何かモノを創り出す手伝いがしたい、と思いで就職活動をしていました。
幸いにして日野自動車に入社し、工務部という部門で生産管理、部品表管理、部品発注に従事。時には実際に現場の製造業務に入り、内製部品の加工や、カイゼンの冶具製作も行い、今でも現場感、考え方の骨はここで学んだと思っています。その後、成長の刺激を得るためにより多くの人に会いたいとの思いで、外部折衝の多い調達部門の人間としてパイオニアに転職。ここでは香港・中国への調達機能移転を行い、その後は自らも中国工場に赴任、工場管理全般を担当しました。この工場では4,000人程度が従事しており、部品調達に限らず工場経理、通関税務や、マネジメント、引いては工場経営を学びました。
中国工場では血肉として本当に多くの事を叩き込んでもらいましたね。多人数、多サプライヤーがしっかりと機能する仕掛けの考え方とは。それを運用するための部門内外のルール、業務分掌の重要性。それをちゃんと評価するためのモノサシとしての管理会計や、法務実務、引いてはシステム。
駐在中の2011年には東日本大震災やタイの大洪水があり、世界的にサプライが逼迫している中での対応に、生産を中心として居合わせられた事も、結果として自信に繋がっています。
一方で、人間としても海外は非常に刺激を受けました。実は初の一人暮らしが海外で、それまではパスポートすら持っていなかった(苦笑)。怖くはありましたが、行ってみるとナショナルスタッフも、コンビニのおばちゃんもみんな良い人たちばかりでした。2009年には大規模な反日運動もありましたが、一番助けてくれたのは現地の人たち。「今〇〇は行っちゃダメ!」とか、「外出できないからご飯食べてないでしょ、お弁当届けたげる」とか。
ダイバーシティが叫ばれる中で、バイカルチャー、マルチカルチャーなんて言葉もありますが、本質的には集団は個の塊。人の数だけカルチャーがあると思って、しっかりそこにアンテナを立てていかないと色々見誤るな、と肌で感じました。これは工場でのマネジメントでもそのまま活かせましたね。
最終的に中国には約6年いたのですが、その中で日に日に、「なんて世の中は勿体ない事が多いのだろう」という思いが芽生えていきます。というのも調達として海外で数百の工場を見て回る中で、どの工場においても生産工程はもとより受発注や生産計画、引いては資金繰りや経営そのもの、と多少レベルの違いはあれど、どこも似たような課題に対して同じように悩んでおられる。
何か、より一般性を持った答えや方向性を得られないか。それを広めていけたらどんなに良いか。そんな思いにかられ、O2という製造業コンサルティングファームへ転職しました。
■転職を決めた理由
O2では原価企画やBPR、戦略策定支援を中心に経験を積ませて頂きました。経営改善、業務改善に対してより学術的な理解を深めていけたのもこの時期です。それまでとの一番の違いは、自己成長の仕方を学べたこと。コンサルティングに必要な膨大な情報の中から、より本質的なインプットの筋を探って行く。クライアントの本質的課題を考える事は、そのまま自分の課題を考える力にもなりましたね。
しかしその一方では、実際のご支援の成果を一緒にわかちあえない、見届けられない事への思いのギャップも強くなっていきました。
こう書くと怒られてしまいそうですが、調達における交渉も、コンサルティングも、それ自体にあまり価値は感じていないという事を仕事の中で自覚していきます。だって、無いに越したことはないですものね。で、これは結構社会的、構造的にもったいないぞ、と。結果、産業構造そのものの改革に向き合うほうが社会的価値を最大化するのでは?との思いが強くなっていきました。できれば、その改革を自分でやりたい。結果を自分の目で見たい。
そう思っていた中で出会ったのがラクスルでした。
急激に組織成長していく中で、自分が得てきた組織マネジメントが活用できそうだったこと。数百社と交渉、現場改善してきた経験が生かせそうだったこともありますが、なにより「産業自体の改革に挑む姿勢」と「コンサルからネット企業、製造業とダイバーシティ豊かなメンバー」を見たとき、前述した自分の思いを実現しつつ、自分自身もさらに成長できると確信し、参画しました。
【参画~現在】
SCM担当として入社し、まず取り組んだのは社内の業務分掌の明確化でした。急激な組織拡大とサービス拡大に、現場が追いついておらず三遊間が頻発していたのです。あわせて、印刷パートナーの皆さんへひたすらに足を運ぶ事。予想通り、ラクスル自体の急激な成長は、パートナーの皆さんとの軋轢も同時に引き起こしていました。ですので改めて相互成長に向けた方針を根気よくご説明差し上げると同時に、ラクスルが掲げる、シェアリングプラットフォームの供給サイドに接続していただく価値はなんなのかを研究していきます。
辿り着いたシェアリングプラットフォームの価値は、お客様、そしてパートナーのみなさんが、より本業に専念でき、一番得意な領域で価値をより発揮していただく事。現在はそれをより進化させるため、印刷事業部長として領域を問わず挑戦を続けています。
仕事上、特に大事にしていることは、周囲をどうレバレッジするかという考え方。社外は社内においてはスペシャリティの高いタレント揃いであり、全領域を自分一人でやりきるなんて土台無理な話。みんながやりたい事をしっかり出来ているのか、全体感としてやるべき所と足りていない所はどこか。突き抜けたキャラクターが多い会社なので、比較的バランサーの位置づけで居ようとはしていますね(笑)。
でも、事業運営に関して言えばそれが本質だとも思っています。なぜならサービス全体を捉えると、我々が実際に印刷を出来るわけではない。先ほどもお話しましたが、レバレッジしなくてはならない対象は印刷会社でもあり、もちろん何よりお客様の本業そのものでもあると思っています。
■ラクスル株式会社について
ラクスルの面白さは、すべてが身近で、すべてが速いこと。お客様、パートナー各社、社内、いずれもすぐにお顔が見れるような手触り感があります。当然、今日やったことは明日、早ければ当日中にダイレクトに反応が返ってくる、変わっていく。逆に言えばすごいプレッシャーです。そんな刺激の中で、経験を分かち合える社内外の仲間がいて、自分もチームも成長しないわけがない。そこに加えて、その仲間がとんでもないタレント揃い。「明日は今日より進んでいる」と胸を張って言える状態の会社は、日本において数少ない稀有な環境ではないかと思います。
そして何より、「単一企業としてのデザイン」の前に、産業全体のデザインをし、その中で自分達がすべきことをデザインしていくというダイナミックさ。メーカー、コンサル、システムなどいずれの業態も内包して考えられる自由度は、他では味わえない良さですね。
■今後どういうことをしていきたいか
大きく2つあります。ひとつ目は、「日本は、アジアは、世界はどうやったらより元気になるか」。そのためには、会社や個人ひとつひとつの業態・業務を見つめ、関わる人たちの生活まで含めて「幸せとは」を再定義していく事なのかな、と今は思っています。実際に今でも、印刷パートナーの現場のみなさんと一緒に、働き方や苦労していることを伺いながら事業施策に反映しています。適切に頑張った人が適切に評価される、私が作りたい産業はそんな世界ですね。ラクスルではプラットフォームの構築を通して、社会構造そのもののデザインに向き合える。この機会は最大限に活かしたいです。
もうひとつは、「わからない」を減らしていく事。この10年でWebとAIの世界を中心に、集合知とその利用のしやすさは大きく進歩しました。それでも、というかむしろ情報量が増えたことで「わからない」という状況は増えているのではないかと思っています。「何が分からないのか分からない」という状況も含めてですね。そしてそれは、「やってみないと分からない事」も多分に含まれています。我々が作ろうとしているプラットフォームは、少なくともある産業の中での業務のあるべき姿を考え抜き、実際にやってみて、それを元に標準化をする事とも言い換えられます。そうしてできたプラットフォームがその産業においての灯台となり、迷う人が少しでも減れば、とても誇らしいなと思います。