マウスコンピューター・秋葉原ダイレクトショップのバーチャル店舗立ち上げプロジェクト。実際に店舗を訪れている感覚でPCが購入できる新しいバーチャルショッピング体験、空間内では展示されているPCを360°見ることや、迷った時には店員に相談することもできる。プロジェクトの企画提案から全体統括を行った今村(ディレクター/プランナー)、空間の画面設計、PC撮影/3D空間形成の進行を担当した小川(コンテンツディレクター)、お問い合わせページやユーザーフロー全体の制作を行った奥村(UXディレクター)に、ここまでの道のりと今回のねらい、そして今後の展望を聞いた。
バーチャル店舗誕生の背景
2020年から続く新型コロナウイルスの影響により、実店舗を直接訪れての購買が制限された。そんな中「少しでもリアルに近い体験をしてほしい」「マウスコンピューターの実店舗をもっと身近に感じて欲しい」という思いを持つ担当者が「リアルとデジタルを連動させた施策を実施したい」とこぼした。その言葉を拾い、プラスディーでは企画詰めから提案、制作までを行い、3D空間で新たな購買体験ができるバーチャル店舗をオープンさせた。
当初、バーチャル店舗に対して、マウスコンピューター様(以下敬称略)からは実験的な取り組みとして期待をされており、新規取り組みによる社内鼓舞的な意味合いもあった。
「なんとなく欲しい」から「これが欲しい」に
マウスコンピューターはPCの種類が豊富でカスタマイズ性に富んでいる。また、国内生産、24時間のサポート体制などの特徴がある。主な販売経路は、自社店舗(ダイレクトショップ)、家電量販店、ECサイト。知識豊富なスタッフが接客するダイレクトショップや家電量販店は、購入意思はあるがどのPCを買えばいいか分からない人をカバー。手早くラインナップが確認でき、24時間購入できるECサイトは、買いたいPCのイメージがある程度絞れている人をカバーする。
バーチャル店舗では、3つの販路で取りこぼしている層をフォローアップすることを目指した。ダイレクトショップは全国に9店舗。遠方でなかなか訪れられない人もいる。近隣在住でも、スタッフに話しかけられることに苦手意識のある人もいるだろう。一方で網羅性重視のECサイトは、ある程度の知識がないと、同じような商品がいくつも並んでいるように見える。ウィンドウショッピングのように、大まかなラインナップを確認したい人には不向きと言える。こうした人々に対し、マウスコンピューターはどんなPCを扱っているかを直感的に伝え、興味を持つきっかけをつくることを目標に施策を設計した。
実店舗をそのまま再現し、ECの利点を融合
実店舗での体験をバーチャル空間に反映させるため、3Dモデリングの技術と実績を持つベンダーをリサーチし、3DNest様(以下敬称略)にパートナーとして加わっていただいた。
3DNestは不動産業、宿泊業、文化財展示をはじめ、様々な業界に向けてバーチャル空間を納品してきた実績を持つ。ビューポイント(3D空間内での視点位置)間の継ぎ目を感じさせず、見たい場所へストレスなく辿り着く自然な空間づくりを得意としている。また、空間内の任意の場所に文字や画像、動画などを埋め込むことができるため、多様なコンテンツを表示可能なことも強みの1つ。そんな3DNestの協力のもと、マウスコンピューター秋葉原店をそのまま3D化した。3DNestと連携を取り、進行を担当した小川は「技術面ではフォローをいただきつつ、同じ目線で密に連絡を取りながらプロジェクトをスピード感をもって進めることができました」と話す。
また、見た目だけでなく、スタッフに相談する体験も再現するために、バーチャル店舗内に相談コーナー(お問合せのページ)を設置。購入したいPCが決まっていない方へ向けた5つの質問が用意し、PCを使用する場面や予算、重視する事柄などをヒアリングし店舗スタッフに共有する仕組みに。後日、希望の方法(メールまたは電話)で、その方に合うPCをレコメンドした。お客様と店舗スタッフ、双方のコミュニケーション時間を短縮し、負担を減らすことを図った。
ECサイトではなく、バーチャル店舗で製品を探すメリットについて奥村はこう話す。
「メリットは“ハードルの低さ”だと考えています。パソコンが並んで掲載されているECサイトは知識のない方からしたら製品情報が分かりにくいと感じました。バーチャル店舗では、なんとなく見てみたいくらいの気持ちの方が、実店舗で気まぐれに触ってみるようなイメージの体験ができます。バーチャル空間はゲームのUIとも近いので、遊びのような感覚もあるかもしれません。ただの商品画像ではなく製品を360°回転させ、実店舗で手に取ったときと同じようにPCのディテールを見られるようにしたところもこだわりの一つです」
人とパソコンが近づくお手伝いを
今回の施策は実験的なものだったが、「そもそもどうやってユーザーに利用してもらうか?」「店舗の現場のスタッフが運用しやすいバーチャル店舗とは?」など、「Webサイト」より「Webサービス」をつくるものに近く、売り場の方と接点を持てたことはプラスディーとして大きな価値があった。
マウスコンピューターは、「人とパソコンは、もっと近づける」の理念のもと、人々が幸せに豊かに暮らす社会の実現を目指している。本プロジェクトは、新しくバーチャル店舗を設けることで、ユーザーがマウスコンピューターに出会える場を増やした。
プラスディーは今後も時代にあったユーザーとのコミュニケーションを模索し、提案、実行することでマウスコンピューターの成長に貢献していきたい。
写真:西田優太