1
/
5

AIにスポーツの審判はできるのか?

こんにちは、GVA TECHの長井です。

暦の上では立冬もすぎましたが、個人的にはようやく秋だなという気持ちでいる今日この頃。秋といえばスポーツの秋。みなさん、スポーツ観戦してますか?

僕は結構いろんなスポーツを観るのが好きなのですが、どんな競技でも度々誤審が話題になり、その都度 「審判はAIにやらせろ」 という声をよく聞きます。

では、 実際に AI にプロスポーツの審判はできるのか? ということを考えてみたいと思います。
AI と一口に言ってもいろいろとあるわけですが、近年では特に深層学習モデルを指して AI と呼称することが最も一般的と思われますので、深層学習モデルを前提として考えていきます。

野球編

僕はスワローズのファンなので、日本一連覇を逃して来年に気持ちを切り替えているところですが、日本シリーズの前にCSファイナルで残念な誤審騒動がありました。

初戦の2回表、タイガースの原口選手が10球以上粘った末に最後は「どう見ても振ってないだろ」というハーフスイングを取られて三振。
3点ビハインドながらもまだ序盤で無死二塁、四球で出塁ならまだわからなかったのに...という場面だっただけにかなり話題になりました。
こうなると、スワローズを応援している身としても、せっかく勝っても「あれがなかったら...」と言われ続けてしまうので、もやもやしてしまいますね。

では、野球の審判をすべて AI に置き換えるとして、ハーフスイングを判定させようと思ったらどうなるのでしょうか?

そもそもハーフスイングの判定って?

ハーフスイングの判定は、

  • 球審がストライクを宣告しなかったとき
  • 守備側がスイングの確認を求めた場合

の2つの条件を満たした場合に行われます。

現在は球審 + 3人の塁審でジャッジするからこその2段構えの判定なわけで、AI に置き換えるなら 「ハーフスイングだけを判定する」機能は必要ないですね。
途中で止めていようが振り切っていようが、とにかく「振ったかどうか」を判定する機能があればいいわけです。
まあもしかしたら、微妙なスイングだけを学習したモデルを作ったほうが精度が出やすいという可能性はあるかもしれませんが、現行のルールでは打者が微動だにしていなくても守備側が確認を求めればハーフスイングの判定を行う必要があるので、打者がまったく反応していない場合のデータも学習させないと正しい判定ができませんし、結局一つのモデルでやることになるでしょう。

さあ学習だ!

何を作ればいいのかは見えてきましたね。
では何を用意すればいいのかというと、いろんな角度からの打者のスイング映像、ということになるでしょう。
なるべく多様なフォームの打者の映像があるといいと思います。まったく反応してなかったり完全に振り切ってたりのバリエーションも均等に欲しいところですね。

集めた映像をどうするかというと、それぞれに対して「振った/振ってない」のラベルを専門家につけてもらうことになるでしょう。このような作業を 「アノテーション」 といいます。
はっきりしているものはともかく、問題のハーフスイングについてはそもそも明確な定義がないので意見が分かれるところでしょうし、複数の作業者ですり合わせながら基準を作っていくことが好ましいです。

ところで、このラベル付け作業を担当するのにふさわしい 「専門家」 とは誰でしょうか?
当然、 現役のプロ野球の審判であるべきでしょう。正直ここが一番ハードルが高いと思います。
来る日も来る日も似たような映像を見て「振った」とか「振ってない」とかポチポチするだけの気が狂いそうな作業を続けた結果、いずれ自分の仕事が奪われるだけとなれば、誰がわざわざそんなことをするでしょうか。
僕ならどんなに金を積まれてもやりません。大事な試合で誤審をすればノイローゼになるくらい批判されることもあるかもしれませんが、無限アノテーション地獄でノイローゼになるよりはマシです。

まあ、そういう問題はひとまず抜きにして、どうにかこうにか大量のデータセットを用意できるとしても、まだ他にもいろいろ考えることはあって、特にデータをなるべく均等に用意するというのは重要になると思います。
例えば「きわどいスイングだけど振ってない」データがたまたま特定のチーム -- 仮にジャイアンツとしましょう -- の映像に偏っていたりすると、「オレンジを身に着けているとハーフスイングを取られにくい」みたいなバイアスがかかってしまうおそれがあります。
そうなったら、AI が「ジャンパイアwww」とか言われるかもしれませんね。かもしれませんというか、確実に言いますね、僕が。

判定対象はほかにもいろいろ...

ここまでハーフスイングについてあれやこれやと書いてきましたが、判定するプレーの対象が変われば使用する判定器も当然変わるわけで、1試合で起きるあらゆるプレーを適切に裁けるシステムを作ろうと思ったら、上記のような開発がいくつも必要になります。
「この飛距離ならインフィールドフライだな」の判定器とか、「あ、こいつ今AIの判定に暴言吐いたな」の判定器とか、過去の事例を参考にすると 「顔が侮辱行為」 の判定器も必要ですね。

サッカー編

さて、次はサッカーについて考えてみましょう。

僕はリヴァプールFCが好きなのでイングランドプレミアリーグの試合を観ることが多いのですが、プレミアリーグは世界最高と言われる選手の質と対照的に審判の質がとても低いと評判です。
これは個人的な感想ではなく、2018年W杯にイングランドの審判が一人も呼ばれなかったことでFIFAのお墨付きになってしまいました。

中でも四天王的存在の一角、マイク・ディーン氏が引退してしまったのは非常に寂しいですね。もう一回見たいかと言われればノーセンキューですが。アーセナルの試合でなら見たいかな...

コンタクトスポーツのファウル判定は難しい?

野球の場合、上記のハーフスイングは定義がないのでめちゃくちゃ難しいというか、そもそも厳密には誤審というものが存在しないくらい審判の裁量によるので例外としても、セーフ/アウトの判定は「タッチしたかどうか」「捕球が間に合ったかどうか」など、割と基準がはっきりしていて客観的に判断しやすいものが多いかもしれません。
一方で、サッカーの場合、「接触があったかどうか」という基準ではファウルかどうかは決められず、「接触が過度に強かったかどうか」といった主観的な判断が求められるケースが多いと思います。
特にプレミアリーグはこの基準が緩く、フィジカルの強さが要求されることで有名ですね。

今回は、審判の低レベルが指摘されるプレミアリーグにおける接触プレーのファウル判定について考えてみましょうか。

学習データを作るのはやはり...

と言っても、流れは野球の時とそれほど変わらないでしょう。
選手同士が接触したいろんなプレーのいろんな角度からの映像を集めて、専門家がファウルかどうかのラベルをつけて... といった作業を行うことになると思います。

で、その専門家って?
そうです。当然、レベルが低いと言われている現プレミアリーグの審判団以外に適任はいません。
もうこれだけで、技術的な問題を語る必要もないのではないでしょうか。

だってそれ意味ある? AI審判(中身は劣化アトキンソン) とかこの世の地獄では? みんな本当にそんなものが見たいのか? 僕は正直かなり見たいです。できればノースロンドンダービーあたりの(ネタとして)盛り上がりそうな試合でお願いします。

え? 現代のハイスピードな試合の流れの中で裁くのと、じっくり映像を見て判断するのとではまた違うだろうって?
プレミアリーグのVAR運用を見ても同じことが言えますかね...

最大の問題

野球とサッカーを例に挙げて考えてみましたが、競技の種類を問わず最大の問題となるのは、おそらくルールの改正のハードルがめちゃくちゃ上がるという点ではないかと思います。

どんなスポーツでも、時代に合わせて細かくルールが変更されながら運用されていくものです。
AI に審判をやらせようと思ったら、仮に高精度の AI を一度は作れたとしても、ルール変更の度に新しいルールに則った判定を学習し直さなければなりません。

AI で何かを実現しようと考えるときは、開発と実装だけではなく、その後の運用についてもしっかり検討することがとても重要です。

「一回できてるんだから学習し直せばいいじゃん」と思うかもしれませんが、学習するためには過去のプレーに対して新しいルールを適用するとどうなるか、判定し直したデータセットが必要になります。
そのデータは誰が作るのか? もちろんルールに精通したプロの審判です。ですが、プロの審判はもういません。 すべて AI に置き換わってしまっていますから...

本当に必要なものは...

現代の寓話みたいなオチになりましたが、要するにスポーツの審判を AI で自動化するということは 少なくとも現時点で全く現実的ではない、というのが僕の見解です。

そもそもみんな 「機械的で公平な判定」 を本当に求めているのでしょうか?
まあ確かに、応援してるチームの方に有利な判定でも酷すぎてもやもやすることはありますが、それが逆の立場ならもやもやする程度では済まずに怒り心頭に発するわけで、そこには明らかに温度差があるはずです。結局のところ本当に欲しいのは 「贔屓のチームにちょっぴり有利な判定をしてくれる審判」 じゃないんですか? もっと自分の心に素直になろう。
応援してるチームに不利な判定に対して、後から映像で見たらまあ妥当な判定だなと認めつつも「ホームゲームなんだからこれくらい忖度してくれてもいいじゃん」と思った経験が一度もない人だけが審判に石を投げなさい。

僕自身、プロ野球を観ていて「これは酷い誤審だ」と思うこともあるし、プレミアリーグの審判は [放送禁止用語] だと思ってますが、それも全部ひっくるめて1つのエンタメとしてスポーツを楽しむ心が本当に必要なものではないでしょうか。
「敷田は卍やりたいだけだろ」とか「ジョナサン・モスはとりあえず痩せろ」とかいろいろ思うことはあるでしょうが、適度にツッコミを入れて笑い飛ばしつつ、楽しくスポーツを観戦しましょう!

GVA TECHでは現在、一緒に働く仲間を募集中です。

AIエンジニアはもちろん、他にも様々なポジションで求人を出しているので、もし興味があればぜひ覗いてみてください!

GVA TECH株式会社からお誘い
この話題に共感したら、メンバーと話してみませんか?
GVA TECH株式会社では一緒に働く仲間を募集しています
7 いいね!
7 いいね!

今週のランキング

長井 方幸さんにいいねを伝えよう
長井 方幸さんや会社があなたに興味を持つかも