Image: Visit Singapore
この度の新型コロナウイルス肺炎のパンデミックによって影響を受けられた方に、心からお見舞い申し上げます。
また、日々現場で奮闘されている医療従事者、エッセンシャルワーカー、政府・自治体関係者等の方々に敬意を表するとともに、一刻も早い感染拡大の収束を祈念いたします。
パクテラ・コンサルティング・ジャパン(以下:パクテラ)は、これまにCOVID-19に関する様々な対策を報告してきました。しかし、グローバルカンパニーの一員でありながら、海外支社の対策については皆様への情報発信が不十分でした。
そこで今回は、シンガポール支社に勤務する現地社員にヒアリングを実施し、皆様に現地の様子を報告します。具体的には、現地の生活様式やマーケット、パクテラ社員の働き方の変化などについて発信していきます。
(以下、現地社員へのヒアリング内容と一部公的機関の公開情報に基づき編集されています。)
※情報は8月12日時点までに収集された内容に沿って編集されています。
シンガポールの対策フェーズの変遷と現在の状況
そもそもシンガポールは、中国との往来が盛んなうえ、中国語が公用語であり、中国の一次情報を理解する人が多くいます。また、貿易や観光といった国外との往来を伴う産業を、基幹産業として据えている国です。
出典:シンガポール保健省
そのため、現地政府は2月の春節以前から危機感を持ってCOVID-19によるクラスターを把握し、感染者の行動履歴を含めて発表していました。それでも尚、往来に伴う感染者が徐々にと増えていく中、「DORSCON」という感染アラートが国から発出されました。また、4月初旬からは「Circuit Breaker」という外出禁止を中心とした施策がなされました。
「Circuit Breaker」の概要
「ロックダウンではない規制」を指しており、シンガポールでは学校の授業のオンライン化、オフィスは例外医療関連、飲食店、スーパー、銀行など)を除いて閉鎖、自宅待機を大原則としマスク着用が指示された。
しかし、インドやバングラデシュ等からの外国人労働者が多く暮らす寮(大部屋での相室)での大規模感染が発生し、感染拡大防止のために隔離と大規模な検査を実施するに至りました。そのため、無症状者を含めて感染者数は指数関数的に増えましたが、シンガポール国内では感染者の把握と厳格な感染管理がなされています。
出典:シンガポール保健省
具体例を挙げると、自宅で2週間隔離されている入国者に対して、電子腕輪を装着させることで外出をしないように管理したり、スマートフォンに依存しないウェアラブルデバイスを配布して、感染者の把握が行われました。各種の厳格な措置の結果、6月下旬よりCircuit Breakerは一部緩和し、制限はあるものの外食や人との接触(5人まで)が許されるようになりました。
現在もリーシェンロン首相は英語、マレー語、中国語を操り、国民に対して繰り返しスピーチをしています。スピーチで繰り返し使っていた「decisive」という言葉通り、政府は様々な対応策に対して素早い意思決定と導入を意識しているように感じられます。
Circuit Breaker期間中は外出して人と会えば罰金や禁固刑となるため、非常に神経を使う日々だった一方、クラスターの把握と公表、4回に渡る全居住者へのマスク配布(自動販売機含む)や接触履歴把握のためのデジタル活用導入など、各種施策に関しては「政府がDecisiveである」という点が国民の安心感へと繋がりました。
また、政府のスローガンは「SG United」、つまりシンガポール全体が一致団結しようということでした。国民の大多数が個々人の役割を果たして集団に貢献するという点は、日本にも共通するアジアの価値観の良い側面であるかもしれません。
シンガポール国内における感染対策事例
シンガポールで行われているパンデミック対策の中でも特異な事例として、感染者追跡を目的とした「ウェアラブルデバイスの配布」が挙げられます。このデバイスは、車のキーなどにもつけられるサイズで、スマートフォン経由でデータを送信し個人の感染動向を把握可能にする機器です。
Image: THE STRAITS TIMES
開発の背景として、スマートフォン向け感染追跡アプリ「トレース・トゥゲザー」のダウンロード数の伸び悩みがあります。国民の19%(約108万人)がダウンロードしており、政府は75%まで引き上げる必要があるとしています。
このアプリの課題点は、モバイルにおいてバックグラウンドで機能しないことです。アプリを常に開いておく必要があり、電力の消耗が早かったり、他の作業を妨げてしまう可能性があったのです。そのような点にシンガポールの国民は不便さを感じてしまい、全国にアプリが広まらなかったと考えられます。
その結果、シンガポール政府は感染者の管理・把握を徹底させるために、ウェアラブルデバイスを開発し、配布の決定に踏み切ったのです。現在はスマートフォンを持たない市民へ優先・試験的に配布されており、有効性が証明されれば全国民への配布が予定されています。
しかし、スマートフォンに依存せず電源をオフにしても追跡されてしまうということから、国民からの反感を煽っているのも事実です。携帯電話の所有の有無を問わずに、市民を「24時間365日追跡する」ことにデバイスが使われる可能性があると指摘されています。
これに対し、政府はプライバシーの問題に対処するためデータは個人の端末の内部のみに貯蔵され、アクセスが許されるのは国家の保健省のスタッフのみとし、その個人が検査で陽性と判断された場合に限ってデータの取得が許されると言及しています。今後はさらに開発を進め、将来的にはモバイル通信に対応するチップを内蔵し、GPSを活用した詳細な位置データの把握も可能になるそうです。
感染者の管理・把握とプライバシー。この2つの問題に同時に向き合っているシンガポールの動向には世界が注目しています。世界がコロナに立ち向かう中で、テクノロジーを用いた感染拡大対応策はさらに発展していくでしょう。一概に比べられるものではありませんが、日本と比べるとややシンガポールの方が先の議論を行えているようにも思えます。
働き方の変化や業務遂行上の困難への向き合い方
(以下、弊社社員談)
個人の作業に関しては、在宅勤務自体は新しい働き方ではなく、もともとアメリカやヨーロッパ諸国との会議で変則的な時間での勤務があり、在宅勤務やフレックス勤務には慣れていたため、リモートでの作業に対し行き詰まりを感じることはありませんでした。しかしCircuit Breakerにより、お客様のところへ訪問できないことが大きな困難でした。
オフラインでのコミュニケーションは少し雑談を挟んだりとアイスブレイクの時間を取って良い雰囲気を作れたのですが、オンラインでは本題である話がいきなり始まってしまうため、伝えたいことを的確に短い時間で伝えるスキルがさらに必要となりました。言いたいことを正しく伝えるのは長いお客様でかつ対面であってもさほど簡単ではなく、オンラインについては話し方やプレゼン方法を変えるなど様々な試行錯誤を繰り返しています。
一方、マネジメントの面は変わりました。新しい働き方に急激に対応しなければならないメンバーがおり、対面でのコミュニケーションができない在宅勤務といった働き方の違いによるストレスや働き方が激変しそれに対応しなければならないストレスが予想され、彼らのレジリエンスをサポートする取り組みをしていました。
そうすることで、在宅勤務でコミュニケーションの頻度は下がっても、集中力や活力の維持するとともに業務パフォーマンスも安定、向上させることができるからです。
例えば、毎日のランチタイムに顔出しのビデオ会議室を開けておいてランチを一緒に取って顔色を見る(上司とランチするのも仕事になっちゃいますが…)、メールではなくチャットでリアルタイムに返信して声を使ったコミュニケーションを取ってみたり、熱心なメンバーが残業をし過ぎてしまわないように、夜遅くにオンラインになっていないか確認して終業を促すといったことをしていました。
本当に真面目なメンバーが多く、日頃は安心感につながっている頑張りが今回はマネジメント上の苦悩につながりました。
終わりに
今回のストーリーでは、コロナ禍におけるシンガポールの現状、政府の対応策、そしてウイルスがもたらしたパクテラ社員の働き方への影響を紹介いたしました。パクテラでは、引き続きデジタルの観点から、社会情勢の変化について情報発信を続けていきます。ぜひ、今後もよろしくお願いいたします。
※本ストーリーの情報は、以下の発行体による公開情報に基づき、弊社担当者によって加工及び編集が行われた。
シンガポール保健省・The Wall Street Jounal