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NOT A HOTEL Androidアプリがリリース、“ブランド起点”のアプリ開発の裏側

2024年2月26日、NOT A HOTELは滞在者向けのAndroidアプリをリリースした。ソフトウェアエンジニアである中野陽基はモダンな技術で新規開発をしていた前職のノウハウを活かし、たった一人でAndroidアプリを開発していた。そこに、大規模開発の知見を引っ提げた池永健一が加わり、2人のソフトウェアエンジニアとプロダクトマネージャーである布川悠介からなる3人体制でリリースまで漕ぎつけた。

「すべての人にNOT A HOTELを」をミッションに掲げるNOT A HOTELは海外進出にも乗り出そうとしている。世界で圧倒的にユーザー数の多いAndroid(アプリ)を開発するのは必然ともいえるが、その開発プロセスにはいくつもの壁があったという。スタートアップならではのスピードとNOT A HOTELが追求するブランドの両立ーーこの困難な課題に対し、3人はバリューである“超自律”を体現しつつ、どうやって乗り越えていったのか。

一つの区切りを迎えた今、ここまでの軌跡を振り返りつつ、迫る未来の展望を語り合う鼎談を実施した。

※取材はアプリ検証が完了した2月7日、NOT A HOTEL FUKUOKAで実施


海外展開に際し、Androidアプリリリースは必然だった

ー本日(編注:取材はアプリの検証が完了した2月7日に行われた)無事にリリースに向けた検証を終えられたということで、まずは今の心境から聞かせてください。

中野:NOT A HOTELのアプリは、実際にアプリで鍵の開け閉めをしたり、スマートホームコントローラーの動作を試したり、現地でしか実際の使用感を確かめられない機能がたくさんあります。最低限の動作確認は取れたので、一旦はホッとしていますが、一方で改善点もいくつか見つかりました。仕上げの段階としてどこまで品質を上げられるか、最後の勝負といったところです。

ーここまでエンジニア2人というリーンな体制で開発を行われてきたかと思うのですが、どんな役割分担で進めてきたのか教えてください。

池永:実は、明確に役割分担があったわけではないんです。基本的には「やれること」と「やらなければいけないこと」の優先度順に、手が空いている方がどんどん進めていく体制をとりました。まさにNOT A HOTELがバリューに掲げる「超自律」を体現するスタイルと言えるかもしれません。

池永 健一:慶應義塾大学大学院修了。SONY株式会社にて家電の組み込みソフト、連携アプリ開発に従事。その後、LINE株式会社にてアプリ開発を担当。23年11月NOT A HOTEL参画。

ープロダクトマネージャーである布川さんは先行開発していたiOSアプリと兼務するかたちでAndroidも担当していますよね。1人で両方を見なくてはいけない苦労があったかと思うのですが、振り返るといかがでしょうか。

布川:もちろん少ない人数での開発はときにタフなシーンもありました。ただ、先ほど池永さんから「超自律」という言葉があったように、エンジニアの二人が主体的に推進してくれているので、不安を感じたことは一切なかったですね。二人が背中を合わせながら、お互いにチームワーク良くボールを拾い合ってくれている印象でした。僕がプロダクトマネージャー業務に専念できたのは、二人のおかげですね。

ーiOSアプリに後続するかたちでAndroidアプリがリリースされるわけですが、なぜ今のタイミングなのでしょう。

布川:NOT A HOTELはミッションに「すべての人にNOT A HOTELを」を掲げているように、創業期より国内のみならず海外への進出も視野に入れていました。初の拠点であるNASUやAOSHIMAの開業から一周年を迎え、いよいよ海外展開が視野に入ってきたのが、まさに今のタイミングだと思います。

海外展開に際して、当面の軸は大きく二つあります。一つは日本国外の方々にNOT A HOTELを購入いただきオーナーになっていただくこと。もう一つはインバウンドの文脈でもありますが、NOT A HOTELをホテルとして利用してもらうことです。いずれにせよ、世界的には大半を占めるAndroidユーザーを無視することはできません。(日本のiOSユーザー割合が69.3%、Androidが30.6%なのに対し、世界的にはiOSが28.5%、Androidが70.8%と反対の構図になっている。参考記事はコチラ)。

リリースを迎えたNOT A HOTEL Androidアプリ

池永:最近、偶然こんな光景を目にすることがありました。僕の知り合いがギフトとしてもらったNOT A HOTELの宿泊券をAndroid端末から予約していたんです。ただこの方は、毎回Webアプリを立ち上げるためにLINEで受信したギフトのリンクを経由していました。これはユーザーからすると使い勝手が良いとは到底言えません。iOSよりはユーザーが少ないとはいえ、国内でも3割もの人がAndroidを使っています。今後、間口を広げていくためにも、Androidアプリの開発は必須なんです。

中野:NOT A HOTELは建築から運営まで一気通貫して自社で手がけているからこそ、クオリティが統一された世界観、そして体験を実現できていると思います。それにもかかわらず、アプリの品質が「とりあえず動くレベル」だとブランドそのものに毀損を与えてしまう。テクノロジーもNOT A HOTELを特徴づける構成要素であり、切り離して考えることはできません。アプリの利用を「宿泊体験」の一部と捉えれば、アプリの品質を上げることは体験の質そのものに直結します。建築や運営の方々が追求する細部の一つひとつへの拘りを、アプリにも適用してくことでNOT A HOTELならではの世界観が創られると考えています。

中野 陽基:電気通信大学大学院修了。グリー株式会社にてゲーム、アプリの開発に従事。その後、食の領域でアプリ開発に携わる。23年6月NOT A HOTEL参画。

正解が変わり続ける。iOSに後発する開発ならではの難しさ

ー具体的な開発プロセスも振り返っていきたいと思います。すでにiOSアプリが開発されていたことで、参照できるコードベースがあったわけですよね。そうしたなか、実際にはどのようにAndroidの開発を進めていったのですか。

中野:iOSが先行していると、それを模倣すればよいのでは?と思うかもしれませんが、実際には後発ならではの難しさがあります。現在、iOSで動いている機能が正解だとしても、来週には新しい機能が追加されて変わっているかもしれない。その都度、何を正解としてAndroidの仕様に落とし込むのか、その判断がとても難しいんですよ。

布川:iOSのコードベースを型として参考にすることはあれど、細かい仕様は未だに変化を続けています。iOSの仕様の変化を見込みつつ、Androidの開発進捗と整合性を持たせるコントロールは相当な難易度ですよね。

布川 悠介:首都大学東京大学院修了。エンジニア・PMを経験後、ハルモニアのCPOとしてホテル、高速バスのレベニューマネジメントシステム開発に従事。22年8月NOT A HOTEL参画。

池永:正直、ドキュメントもそこまで綺麗にまとまっているわけではないですし、参考にするiOSのコードも変わっていくので、キャッチアップが難しい。早い開発スピードを前提にしつつ、流動的な正解と向き合わなければいけない難しさはあります。それでも基本的にはUIモックとiOSのコードを参照しつつ、疑問点があれば歴代の担当メンバーに質問するかたちで進めています。

中野:もちろんiOSのコードを参考にすることはあるんですが、それはあくまでも歴史的に積み重ねられてきた結果としてのコードです。仮に「今、ゼロベースで書くなら?」と自問自答すると導き出せる、“あるべき姿としての正解”もあるはず。そうした最適解を追求するのか、安定をとってすでに動いているものを模倣するのか、そうした決断をしばしば迫られます。そこに裁量を持って開発できるのは刺激的でしたね。

布川:これはAndroidを問わず、NOT A HOTELのソフトウェア開発全体の難しさなのですが、「未来予測のしづらさ」があると思います。プログラムを組み立てる過程では、ユーザーの使われ方を予測し、そのロジックに則った設計を施します。その確度が高ければ高いほど、結果として綺麗な仕上がりになる。一方、まったく新しいサービスをゼロからつくっているNOT A HOTELでは前提そのものがひっくり返ることが少なくありません。

中野:たしかにそうですね。自分はそれにいい意味で日々警戒しながらコードを書いています(笑)。マクロな目線で見ても、そのくらいの意識で設計やシステム全体を考えていく必要がありますね。

トップダウンとボトムアップで浸透する、“NOT A HOTELらしさ”

ーそんな困難を乗り越え、ブレークスルーしたエピソードがあれば聞かせてください。

中野:日本はiOSファーストが顕著なので、そのなかでのAndroidエンジニアの責務と言いますか、役割はあくまでAndroidユーザーにとって違和感のないアプリをつくることだと考えています。NOT A HOTEL入社当時はそうした思いのもと、開発を推進していました。ただ、NOT A HOTELが持つ独自のデザインシステムに適合させながら開発を進めていくうちにやや考えが変わっていったんです。

まずはNOT A HOTELらしさを追求したうえで、Androidとしても違和感のないアプリを開発する。つまり、iOS・Android以前に“NOT A HOTELらしさ”を開発のベースに置くように思考が変化したんです。

布川:アプリのNOT A HOTELらしさの根底にあるのは、デザインシステムですよね。新しい機能をつくるにしても基本的にはそのベースに則ることになる。逆に、Androidっぽさとか独自性だけを追求していると、“ただそれだけ”になりブランドが置き去りになってしまうんですよ。それは「ブランド」を大切にするNOT A HOTELの特徴かもしれませんね。

中野:もちろん、NOT A HOTELらしさの源流は創業者である濵渦さんの思想そのものだと思います。一方、その思想を受け取った各メンバーがボトムアップでモノづくりに励むうち、それ自体がまた新たなカルチャーとして醸成される。この循環が熱量を持って繰り返されることで、明確に言語化はしませんが、メンバー間で暗黙的に共有される“NOT A HOTELらしさ”に昇華しているのだと思います。

布川:それ、めっちゃわかります。ほとんどのメンバーはブランドづくりに携わったことがないから、難しさは当然あります。でも想像してみてください。もし、歴史ある海外のファッションブランドのアプリを開発することになったら、小手先の技術以前に「そのブランドのルーツは何か」「ブランドのコアは何か」を考えると思うんですよ。逆に、そこを無視してアプリなんてつくれませんよね。ブランドにこだわるNOT A HOTELもまったく同じ考え方だと思います。

池永:そういう意味では、NOT A HOTELは言語よりもヴィジュアルでブランドイメージを共有し合っているかもしれませんね。「このビジュアル、このデザインがNOT A HOTELっぽいよね」と、まずは全員の目線を徹底的に合わせる。僕もまだ入社して数ヶ月ですが、ヴィジュアルを共有することで、理解がとても早く進む実感があります。

ー開発体制や仕事の進め方の面ではいかがですか。

中野:ある程度の高い水準の経験と知見があるからこそ、エンジニア同士で互いの行動に違和感を持つ場面はほとんどありません。印象的だったのは、一般的には形骸化することも多いコードレビューが正しく機能していることでした。今のAndroidのコードベースは僕がはじめにつくったものではあるので、独善的な実装も多かれ少なかれあり、池永さんの客観的視点によって気づきを得ることも少なくありません。

池永:技術水準に加え、品質に対する考え方も近いのも大きいですね。コードレビューで改善点が見つかったときには、より良いものをつくるためにフィードバックをすんなり受け入れるマインドをお互いに持っているのもやりやすさにつながっていると思いますね。その一方、同じマインドではあるものの、強みが異なるのも良かったポイントの一つだと思います。僕と中野さんがまったく同じ得意分野だったら、互いに背中を預けられませんし、何より多様なフィードバックも得られにくい。

中野:スキルの上達は勉強で埋められることも多いと思うので、「自分の武器はこれだ」と強みを持っている人がNOT A HOTELらしいエンジニアなのかもしれないですね。エンジニア同士はチームとして課題に取り組むわけなので、適材適所で活躍できる環境であることも良かったポイントだと思いました。

まだゼロイチのフェーズ。守りから攻めの開発スタイルへ

ーAndroidリリース以降、今後の課題やポテンシャルで今見えていることを教えてください。

中野:Androidのアプリ開発に関していえば、「まだ始まってもいないし、終わってもいない」ーーそれがリリースを迎えた今、率直に思うことです。NOT A HOTELに入社して初めてゼロからアプリをつくり上げる経験をしました。ユーザーにとって自分がつくったアプリが本当に刺さるものになっているかどうかの答え合わせはまだ先です。その結果は恐ろしくもあり、楽しみでもありますね。

課題もポテンシャルもとてもたくさん積まれています。どこから手を出すのか迷うくらいです。リリースに至るまでは守りに寄った開発スタイルでしたが、今後はいち早く攻めに転じていきたいですね。

池永:今回リリースを迎えたわけですが、個人的には依然としてゼロイチのフェーズにあると思っています。今後やりたいことに関しては、中野さんと「やりたいことリスト」を溜めているところです(笑)。このリストを一つひとつ消化していくことで、間違いなくアプリの品位が向上すると思うので、今後チーム体制も強化しつつ、実現していきたいですね。

布川:自分はそもそもAndroidユーザーなので、当初、Androidアプリが存在しないことがちょっと悔しかったんです(笑)。とはいえアプリで操作したいから、NOT A HOTELに泊まるときはiOSを持ち出さなきゃいけなかった。なので今回ようやく真のユーザーになれる喜びを感じています。将来的にはGoogle Payやウォッチアプリなど「Androidを持っていてよかった」と思える機能が実装されるといいですね。

池永:自分は折りたたみスマホ(fodable phone)を使っているので、ゆくゆくはその対応も行っていきたいと思っています。あとはタブレット対応もやりたい…。今はユーザー体験のベースをつくり込んでいるフェーズなので、一日でも早く独自開発のスタートラインに立ちたいですね。

ーそれぞれの「やりたいことリスト」が豊富ですね(笑)。

布川:最終的には“世界で勝てるプロダクト”をつくりたいですよね。池永さんの前職がたまたまソニーですが、自分は世界で愛用されるソニー製品が大好きでした。いつか自分も世界中で知られるプロダクトづくりに関わりたいという思いを持ち続けてきました。それが達成できるチャンスがNOT A HOTELにはあると思います。こうしたチャンスは滅多にあるわけではないので、掴み取りたいですよね。

中野:エンジニアに限った話ではないですが、機会を逃さないのは大切ですね。事業的な話にせよ技術的な話にせよ、外部で話題になった時点で、一番面白いフェーズは終わってしまっていることが少なくない。その意味で、NOT A HOTELはまさに今から世界へ打って出ていこうとしている、またとない刺激的なタイミングです。この挑戦にベットできる気概のある人にとっては最高の舞台だと思います。なにより自分自身がこの挑戦を誰よりも楽しんで、Androidアプリを最高のかたちで世界に広げていきたいと考えています。

採用情報

現在、NOT A HOTELのソフトウェアチームではAndroidエンジニアやiOSエンジニアをはじめ複数ポジションで採用強化中です。カジュアル面談も受け付けておりますので、気軽にご連絡ください。

STAFF
TEXT:Ryoh Hasegawa
EDIT/PHOTO:Ryo Saimaru

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