NOT A HOTELは11月に開業一周年を迎え、さらに総販売金額119億円を突破することができました。2022年11月に青島(宮崎県)、同年12月に那須(栃木県)が開業し、2023年11月には国内で5つ目の拠点となる福岡が開業。今後も北軽井沢やみなかみ、石垣、瀬戸内など、新たな拠点の開業も控えています。
♦️ NOT A HOTEL 1st ANNIVERSARY
今回は開業一周年を記念し、NOT A HOTELを投資家の立場からご支援をしていただいているANRI代表の佐俣アンリさんとNOT A HOTEL創業者兼CEOである濵渦伸次による対談イベントの内容をレポート。開業前後の日々をさまざまなエピソードをもとに振り返りながら、今後のNOT A HOTELの展開やチャレンジについて熱い掛け合いが行われました。
開業から一周年、総販売金額119億円のNOT A HOTELは“ポエム”から始まった
ーNOT A HOTELの創業当時の話から入っていこうと思います。どのような経緯でNOT A HOTELは誕生したのでしょうか?
濵渦:まずはNOT A HOTELを創業してからの三年間を振り返らせてください。この会社を立ち上げたのは2020年4月。みなさん思い起こしていただきたいのですが、この頃はちょうどコロナが流行しはじめ、東京が初めてのロックダウンを行ったときです。NOT A HOTELでは新しい拠点を販売する際、実物ではなくCGパースを利用するのですが、設立当時はCGすらなくて、あるのは僕が事業への想いを込めた“ポエム”だけだったんです。
https://twitter.com/Anrit/status/1349590146513924096
このツイートにあるように、アンリさんには「ほぼ」ではなくて「ポエムしかなかった」といじられていますが、一応エクセルで作成した事業計画書もありました(笑)。ただやっぱり、そのときの想いを込めたのはポエムの方で、泣きながら「NOT A HOTELは最高だ」と約100ページにもおよぶポエムを書いたんです。そのなかから選りすぐりのものをまとめてアンリさんのもとへ持っていきました。ただ実は、アンリさんとは元々面識はなかったんです。NOT A HOTELを立ち上げるちょうど1ヶ月ほど前に、著書である『僕は君の「熱」に投資しよう』を読んで、「日本にこんな投資家がいるのか」といたく感動したんです。本を読み終わった勢いそのままに、まるで学生起業家のように、Twitter(現X)でアンリさんにDMを送りました。
濵渦が自ら制作したポエムだけの事業計画書
佐俣:普通、二回目の起業家の場合、関係性が何年もあることが多いんですよね。たとえば、ジョーシスの松本さん(ラクスル創業者 松本恭攝)はもう16年くらいの付き合いになる。お互いの人間性がわかった上で投資するケースが多いのですが、濵渦さんはすれ違ったことすらなく、DMが「初めまして」でしたね。
濵渦:すぐにDMを返していただいて。ポエムを持ってアンリさんに会いに行ったのが、NOT A HOTELを設立するちょっと前でした。冒頭でも触れたように、当時はコロナ禍でロックダウンの真っ只中。アンリさんに相談させてもらったのはいいものの、僕自身もまだ迷いがあって、成功する自信を失いつつありました。なので、相談の後日「この状況で出資してもらうのは悪いな」と思い、一度お断りに伺ったんです。
ーえ、そうだったんですか!
佐俣:そのときのことは鮮明に覚えています。ちなみに僕らが投資を決めた最終的な理由は、濵渦さんが自ら「出資は見送っていただいて大丈夫です」とわざわざ断りに来てくれたからなんです。「ここまで誠実な人なら、僕らは一緒にやった方がいいんじゃないか」と思えた。
濵渦:そのとき「投資家であるアンリさんがこの覚悟なのに、自分は覚悟しないでどうするんだ」とスイッチが入りました。
NOT A HOTEL 代表取締役 CEO 濵渦 伸次
佐俣:僕らだって不安でしたよ。コロナ禍の移動が難しいときに、旅行のカテゴリーは一番手が出しにくいですから。でも、これくらいちゃんとした人が、誠実に話してくれるなら、投資した方がいいと思ったんです。
ーアンリさんが投資をするうえで、起業家を見ているポイントは他に何があるんですか?
佐俣:実は僕らも結構ちゃんと見ているんですよ。濵渦さんがどんな評価を受けているのか、アラタナ、ZOZO、ヤフーの関係者から話を細かく聞きました。これが恐ろしいことに、みんな絶賛するわけです。僕らは二回目の起業家に投資するとき、基本的には「どういう時価総額をつけて欲しい」といった議論をあんまりしないんです。筋を通した人間は絶対にこれからも約束を守るだろうから、僕らが見るのはこれまでしっかりと筋を通してきたかどうか。だから、ある意味で一番嫌なデューデリジェンスなんです。あとはやっぱり、濵渦さんが最初に持ってきてくれたポエムがよかった。逆にポエムがなかったら投資はできませんでした。
濵渦:みんな、ポエムを書きましょう(笑)。
佐俣:だって、見たことがないものだから。それに対して、「何がつくりたいか」の解像度がすごく高かったんですね。「何年後、こういう瞬間に、自分はこういう体験をしている」ーーそんなことがめちゃくちゃ細かく書かれていました。それがわかれば、ぶっちゃけそこまでエクセルの数字を見る必要はない。つくりたい世界に対する解像度と、筋を通す人間であること。この二つで最後は(投資を)決めたし、それ以外にはなかった。
不動産をネットで15億販売、あるのはCGパースのみ
濵渦:それからNOT A HOTELを立ち上げ、10億円を調達してすべてが始まったんです。
佐俣:でも、まさかその資金で那須の牧場(NOT A HOTEL NASUの土地)を買うとは思いませんでしたが(笑)。
濵渦:一目惚れで(笑)。しかもその当時、僕は不動産の素人で、農地に建物が建てられないことを知らなかったんです(笑)。買った牧場には20頭の馬がいて、馬は車両なので、その馬たちが最初にNOT A HOTELのバランスシートに載ったんです。そんなスタートアップないですよね(笑)。
NOT A HOTEL NASUの目の前に広がる約16万坪の牧場
ーこの那須の土地を購入した時点で、どのくらい未来を想像していたんですか?
濵渦:購入した牧場の将来の完成図として「MASTERPIECE」が見えていたんですよね。高単価の物件をオンライン上のショッピングカートで「今すぐ購入」で買っていただくモデルは「さすがに頭がおかしい」と言われたんですが、「いや、これは絶対に売れますよ」と言い続けたんです。ただ、実際には「売れないかも」という不安もあって、実は販売のタイミングを二度ほど延期しているんですよね。
でも蓋を開けてみると、販売スタートから24時間以内で15億円分が売れました。実はこの数字は今でも過去最高の販売実績だったりするのですが、一日でこれだけ売れるのは奇跡的で、今やってもおそらく難しい。CGパースで物件が売れて、実際に建物ができる。ここまできてようやく「詐欺師じゃない」と認められました(笑)。
NOT A HOTEL NASUの販売サイトに掲載したCGパース
一同:(笑)
濵渦:写真ではどうしても伝わらないのですが、実物をみると建物がとにかくすごい。振り返ると、土地も建築もケチらず、妥協せず、つくり切ったのが大きかった。「NOT A HOTELは富裕層向けのビジネス」と思われがちなのですが、実はそうじゃない。今まで一部の人しか買えなかったものを12分割したり、36分割することで、民主化する。僕らのミッションは「すべての人にNOT A HOTELを」。なので、トレンドだからNFTをやるのではなく、今まで36分割までだったものを365分割するとどうなるのかを実験したくて、その結果NFTという技術を使ってみました。最近発表したDAOも新しい売り方のチャレンジ。次々と新しい仕掛けに取り組みつつ、あくまでも販売するプロダクトはNOT A HOTEL、たった一つです。
ー新しいチャレンジも増えてますが、ここ1年でメンバーも一気に増えましたね。
濵渦:そうですね。僕らは土地を探して仕入れるところから、運営までを自社で一気通貫で行っています。全部を一手に担う企業はなかなかないのではないかと。創業したばかりの頃、noteで「10人で上場を目指す」と決意表明をしたのですが、(創業から一年半は10数人のメンバーだったのが)現在では150名ほどの組織に成長しています。採用して組織化することを決めたきっかけになったのが、アンリさんに言われた「濵渦さん、やっぱり山登りましょうよ」という言葉でした。
佐俣:経営をやっていると悩みの8割くらいは人のことになる。なので、少数精鋭でやりたくなる夢ってあるんですよね。僕も経営者なのでわかるのですが、NOT A HOTELはやろうとしていることがあまりにも大きいので、10数人ではちょっと無理があるだろうと(笑)。それにしても、清々しいくらいにメンバーが増えましたね。
濵渦:本当そうですね。繰り返しですが、NOT A HOTELは土地探しからチェックアウトまで一気通貫で行っているので、文字通り、チームが多種多様。建築やソフトウェア、セールス、コーポレート、それにシェフや運営スタッフもいます。これだけ幅広い職種のメンバーがワンチームで一つのプロダクトをつくっているのは僕の誇りです。拠点は現在7箇所。次にできる北軽井沢、みなかみ、石垣、瀬戸内...どんどんと開発を進めているところです。日本には宝物のような土地がたくさんあり、それを見つけていくのがめちゃくちゃ楽しい。創業当時は、素人同然のところから始まったのが正直なところなのですが、一生やっていきたいと思える事業だといつも思っています。
職種がまるで異なる多様なメンバーの手によって、一つのNOT A HOTELがつくられる
“常軌を逸脱する”ほどのこだわりが、確かなブランドをつくる
ーでは次に「アンリさんが最初の投資家でよかったと思うポイント」を濵渦さんに伺いたいと思います。
濵渦:半分冗談で半分真面目なのですが、一番は「(アンリさんが)不動産を好きなこと」ですかね。不動産はものすごい大きいマーケットなのに、投資家には敬遠されがちなんです。なので、投資家探しも苦労したのですが、アンリさんの一言目が「いいね、面白い、欲しい」だった。それがもうシンプルに嬉しくて、初期の自分のマインドとしてすごく救われた部分があったんです。
佐俣:投資家である以前に、ひとりの人間として欲しいと思ったんですよね。NOT A HOTELが届けたかった世代、あるいは伝えたかったカルチャーと自分が近しかった。だからユーザーとして「欲しい」と直感的に思えたのではないかなと。NOT A HOTELの事業と世界観を直感的に理解するのも難しいはずですよ。
ANRI 代表パートナー / General Partner 佐俣 アンリ氏
濵渦:アンリさんはうちの最大投資家でもあるのですが、いつも課題が出てきたとき、「(NOT A HOTELである)僕らは」って言い方をしてくれますよね。これは起業家として精神的な支えになると思っていて、本当に何度も救ってもらいました。
佐俣:僕の投資のなかでも、NOT A HOTELには最大額の投資をさせてもらっているんですよね。最大額を投資させてもらったって、牧場や馬を買われるわけです(笑)。もう自分ごととして考えないとやってられないですよ。ただ、NOT A HOTELの大きな方向性や叶えたい世界観をわかっているので、細かい意思決定にまでごちゃごちゃ言うつもりもない。
そもそも、ソフトウェアに造詣の深い人たちがつくるハードウェアだからこそ、立ち上がる世界観がNOT A HOTELのコアバリューになっている。投資家としてNOT A HOTEL以外の近しい業態もみますが、“景色がいい場所に豪華な建物をつくれば売れる”と勘違いしている人が少なくない。もしかしたらNOT A HOTELを表面だけ理解するとそう見えるんですけど、実際は全然違う。NOT A HOTELという世界観がまずあって、ソフトウェアや建築に尋常ないこだわりの塊がある。ブランドとしてどんなメッセージを伝えて、何を伝えないのか。ものすごく細かいものの集合体ではあるものの、最終的なディレクションは濵渦さんがやっているので、そこに僕は絶大の信頼がある。「画竜点睛を欠く」ではないですが、「景色がいい場所にいい建物を建てれば売れる」というのは幻想に過ぎない。
濵渦:もちろんまだ全然調子に乗ってはいけないフェーズなのですが、一つだけあるのはすべてのプロジェクトを「自分の家をつくる気持ち」で向き合っているということです。自分自身でもNOT A HOTELを2拠点購入しています。あとはやはり、自分の友人だったり、そのさらに友人も購入してくれているので、その人たちの期待も裏切れないじゃないですか。だから原価率もめちゃくちゃ高い。
アメニティの一つひとつにも、こだわっていないところがないです。タオルなんか一年かけてつくりました。まだまだすべてが足りているわけではないですが、「ここは妥協したな」という点はありません。現場の細かい変更一つの積み重なりでブランドは決まっていくものです。逆に言えば、妥協によって崩れていってしまう恐怖が常にありますね。
NOT A HOTELで過ごす時間を彩るアメニティ選びにも、多くの時間を費やした
佐俣:僕はNOT A HOTELの投資家でありながら、NOT A HOTELを購入しているオーナーでもあるのですが、先日オーナー向けの連絡に恐ろしさを感じて。「何かな」と思ったら、「〇〇という理由で、今回歯ブラシを変更しようと思います」という連絡がPDFで届いたんですよ。これはちょっと「常軌を逸しているな」と。だって、コストカットとかでもなく、こだわりを突き詰めてアメニティの一つである歯ブラシを変更しようと思うって。
濵渦:実は、あの文章は僕が書きました。元々、外国製の高品質な歯ブラシを使っていたのですが、プラスチック製で毎回捨てることに抵抗感があったのと、日本人の口のサイズに合わないことが変更の理由です。ただ、その歯ブラシも慎重に選んだものだったからこそ、僕らも変更には勇気が要ったんです。2〜3ヶ月ほど議論を重ねて、竹製の歯ブラシに変える決断をしました。それをオーナーさんにどうやって伝えようか、僕が直接下書きし、あーでもない、こーでもないと何度も書き直してあの文章になったわけです。
佐俣:だからもう、常軌を逸脱しているんですよ。でもブランドをつくるには、それくらいこだわらないといけないんだろうと思って、ユーザー体験としてはめちゃくちゃよかったんです。今日ここの会場(ASAKUSA - NOT A HOTEL EXCLUSIVE)に来ていただいている方はご覧の通りで、意匠はもちろん、アメニティ一つとってもこだわりを感じ取ってもらえると思います。
美しく並ぶカトラリーケースや洗面台のアメニティがぴったり並ぶトレイ、さらにはスマートホーム対応のタブレッド埋め込み型のベッドなども自社で開発
佐俣:普通の合理性で考えれば、「こうした方がコストダウンするじゃん」とか「こっちの方がメンテナンス楽じゃん」と思う箇所がたくさんある。ただどうしても、採算性やスケジュールを理由に妥協したものはつまらなくなってしまう。言ってしまえば、エクセルでつくった建物ができあがるんですね。そこを妥協せずに、世界観を突き詰めると、こうした場所ができる。しかもNOT A HOTELは一人のアーティストではなく、チームじゃなきゃつくれないものだから面白いですよね。
濵渦:実はNOT A HOTELには、ホテル出身者がほとんどいないんです。初期から土地の仕入れをやっているCFOの江藤は投資銀行出身。「ホテルだとこれが当たり前」といった凝り固まった価値観がなかったのは結構大きかったです。那須の土地は東京ドーム11個分に相当する16万坪。そこに2棟しかない。ちょっとアホなんですよ(笑)。
佐俣:初めてユーザーとして青島に行った時に、電気などのスイッチがないことに驚いたんです。つまり、あらゆる家具をIoTで繋げるソフトウェアの仕組みとハードウェアとの調和。これって想像するに、難易度もコストも高いはず…。
空調、照明、サウナの温度をタブレットひとつで操作が可能
濵渦:スイッチを導入すれば、僕らの営業利益が数億円伸びますよ(笑)。
佐俣:おかしいですよね(笑)、採算性を完全に無視して、「儲かる」を否定している。でも、こういったこだわりの積み上げの先にしか表現できない世界観なんですよね。
濵渦:なんとか事業開始初年度から三年目で初めて黒字化しました。今期もちゃんと利益が出始めたところです。僕はやはりいい事業は初めから利益が出ると思っています。だから赤字を掘るよりも、しっかりと利益が出ることにこだわってやってきました。「儲からなさそう。採算が取れなさそう。でも実際は儲かっている」がやりたいんです。まだまだギリギリ儲かり始めたところですけどね。僕らは「売って終わり」ではなく、そこから50年間の運営・維持管理をオーナーの方々に約束しないといけない。だから絶対に黒字が必要になる。ここの責任は普通のスタートアップと僕らはちょっと違うところ。世界観を突き詰めて無茶をすることがあっても、しっかり黒字にすることはこだわってやっている部分です。
「預言者に近い」ーーコロナ禍の逆境でスタートし、どうして急拡大できたのか
佐俣:NOT A HOTELはエモーショナルな部分が原動力の事業でありつつ、だからといって数字やステップ論をなおざりにしているわけではない。振り返ってみると、やはり初期に牧場を買ったのはよかったんじゃないかと思っているんです。コロナ禍の当時、牧場とかってみんな一番手放したかったはずなんですよ。そのタイミングだったからこそ、普通は市場に出てこない土地が売りに出ていた。
濵渦:「3〜4日で購入を決めてくれ」と売主から言われたので、あそこで買う決断ができたのはよかったと思いますね。
佐俣:しかも、その後から建築費の高騰が始まったじゃないですか。そうした奇跡のウィンドウを偶然当てたんですよね。それでもあの当時はみんなが一番怖いタイミングだったのは間違いない。ちょうどダイヤモンド・プリンセス号が封鎖された、初めてのロックダウンの時ですよ。「ホテルをやるのに投資しちゃダメだろ」と社内でも相当議論になりました。ただ結果的に、その苦しいタイミングで意思決定しているから、他の人が後ろからついていこうと思ってもできない。あと、NOT A HOTELがすごく売れたのは、コロナ禍の閉塞感があったからこそかもしれない。家から出られない期間が長く続いたからこそ、「こういう場所に行きたい」という願望にプロダクトが乗っかった。
濵渦:僕もアンリさんも“逆張り”が好きなんですよね。否定されたらやりたくなっちゃう。2007年にアパレル×ECのアラタナという会社を立ち上げたときは、まだZOZOも小さくて、「ネットで洋服が売れるわけないよ」と言われていました。今回も「ネットで不動産が売れるわけないでしょ」と言われれば言われるほど、やりたくなってしまう。
濵渦:「これが絶対にできる」ーーつくりたいサービスの解像度の高さは、初期の支えなんですよね。そこに対して、アンリさんから始まり、他の投資家さんも賛同してくれて投資をしてくれた。
佐俣:でもですよ、この構想自体はコロナ前ですからね。コロナ前に人間が複数拠点を持って、働くことができる世界をまだみんなイメージしていないですよ。結果的にコロナで前倒しされた世界観なので、これは結構恐ろしいこと。濵渦さんは強運だし、預言者に近い。
ー事業を急拡大させるということは、同時に組織も急拡大しなければなりませんよね。改めて、リモート時代における組織づくりで意識していることはありますか?
濵渦:リモート時代に必要なのは“プロダクト”だなと思っていますね。もちろんビジョン・ミッション・バリューも大事なのですが、環境がリモートになると、いかにプロダクトがいいのかどうかに懸かっている。メンバーの職種や働く場所がバラバラでも、同じプロダクトに向かっていると組織でやる意味があるんですよね。プロダクトが欠けていると、どうしても人に向かってしまうじゃないですか。プロダクトに向かっている組織だと、自然にブランドに対する意識も強まっていく。NOT A HOTEL AOSHIMAをつくったとき、各チームから是正箇所が1,500も上がってきたんです。普通は見逃してしまうことでも、NOT A HOTELではそうはいかない。クオリティアップできる箇所がまだまだある。すべてのチームの意識が同じ方向に向く組織は強いと思うんです。
佐俣:全員でフィードバックし合うからこそ、代替不可能なNOT A HOTELの体験が生まれるんですね。ブランドや体験ってお金をかければ実現できるものではなく、細部のこだわりの集積だと思っていて。有名なところだとAppleのジョブズでしょうけど、濱渦さんも負けないくらいこだわりが強い。僕もいろんな会社に投資していますが、あのプロダクトは一人ではつくれない。建築家だけでも、エンジニアだけでも、サービススタッフだけでもつくれない。チーム全員でしかつくれないプロダクトだからこそ、チームワークを大事にしているんですよね。
「NOT A ◯◯」のフォーマットが秘める可能性ーー50年後の未来を想像する
佐俣:未来がある瞬間、イノベーションによってつくられるというよりは、過去を振り返ってわかるものなんですよね。NOT A HOTELがある生活をコロナ前にイメージすることはできなかったけれど、今なら自然と受け入れられる。ある日、鐘が鳴って世の中が一変するんじゃなくて、じわじわと漸次的に変わる。気づいたときに、「もうZoomがない世界には戻れないわ」みたいな。
濵渦:AIなんかはまさにそうですよね。停滞期が何年もあって、ようやく突き抜けた。その意味でも、アンリさんは難しい案件に多く投資されていますよね。
佐俣:たとえばLuupなんかは5〜6年前の創業時から投資させてもらっていますが、今のように、ここまで街のインフラになるとは思っていなかった。投資家ってとてもいい仕事で、自分が未来を見える必要はなくて、未来が見える人を見つければいい。起業家に会い続けていると、何人か未来を見れているだろうなと思う人に出会うことがあります。そのなかで複数人が共通で同じに見ている未来がある。すると、この未来はきっと現実になるんですよ。これは預言というより、未来をつくるエネルギーを持っている人たちがみんなそこに向かうから、未来もその方向で動いていく。
濵渦:やっぱりアンリさんは起業家を信じる力が強いですよね。
佐俣:わからないですからね。僕も事業側にいましたし、自分でも投資会社を経営していますが、未来のことはわからない。ならば、「この人に任せよう」と、ドーンと構えているしかないというか。
ーでは最後にNOT A HOTELの未来について、それぞれから伺いたいです。
佐俣:スタートアップの仕事をしていると、「グローバルで頑張りたい」という起業家がいますが、やはりソフトウェアの輸出は本当に難しい。じゃあ何だったらグローバルで勝てるかといえば、NOT A HOTELのようなコンセプトとクリエイティブで戦うアプローチはすごくあると思う。
濵渦:そう言っていただけて、励みになります。NOT A HOTELのプロダクトは言語を問わない、非言語なプロダクトでもあるので、海外にも販売できるし、このモデル自体を展開することだってできるかもしれない。だからこそ、事業を長く続けていきたいですし、いつかNOT A HOTELが日本にとって誇れるプロダクトになるといいなと思っています。
採用情報
現在、NOT A HOTELでは全方位で採用強化中です。カジュアル面談も受け付けておりますので、お気軽にご連絡ください。
NOT A HOTEL CAREERS - NOT A HOTEL
STAFF
TEXT:Ryoh Hasegawa
EDIT:Ryo Saimaru