【挑戦者側から、社会をおもしろくする。】
世界ランキング5位のプロ格闘家でありながら、CA(キャリアアドバイザー)としてもナイモノ随一の達成率。「仕事」と「人生の目標」を両立する考え方に迫ります!
格闘家としての日々の激しい練習と、CAとして学生の人生に向き合いつつも数字が求められる環境の中で、格闘技と仕事をどう捉えているのか。そこに生まれるギャップと共通点について、過去から現在、未来まで、ちょっと変わった働き方に迫ってみました!
「教える立場」の恩師の言葉
「“やさしく寄り添い続ける”のは、うまくできないんです。
ぼくがとにかく大事にしているのは、学生の士気を高めること。彼らが自走できるマインドセットにすることですね」
他のCAとの違いについて、後藤はこう表現する。
その考え方のルーツは、大学受験の浪人時代。
高校では300人以上の中で、常に下位10人に入る成績だった。志望校に落ち、浪人の道を選んですべてを勉強に振りきった。そこである予備校の講師に出会ったことで、後藤は学ぶことの面白さを知った。結果的に、目標だった北海道大学に合格した。
浪人生活を終えてからも恩師とは関係が続き、社会人になってからもそれは続いた。
そんなある日、二人で焼肉を囲んでいたときのことだった。
「人に教えるときに、大事にしていることは何ですか?」 ふと後藤が質問を投げかけると、恩師から返ってきたのは「教える人間の最大の目的は、自走できるようにすること」という言葉だった。
教え方のテクニックや方法論ではない。教師が生徒とかかわる時間は、1コマせいぜい90分。だからこそ、それ以外に何倍もの時間を日常的にすごしている生徒たちが、自ら考え、自分で動き、「自走」できるようにすること。
ナイモノに入社して2年半、CAとして学生とかかわる上で、後藤は今もその言葉を大切にしている。
プロ格闘家とCA業務の両立
後藤はCAとしてナイモノで働く一方で、総合格闘技のプロ選手として世界を目指して戦う日々を送っている。
高校時代に格闘技に出逢ってから、浪人時代の1年間以外は、人生の大部分を格闘技に捧げてきた。その舞台で世界ランキング5位、環太平洋ランキング2位(2022年8月時点)。「北大卒のインテリファイター」と注目されるまでになった。
しかし本人は「もちろん話題として取り上げてくれるのはうれしいんですけど、ぜんぜんインテリでもないですし、“気合いと根性”の格闘家なので(笑)」と、笑う。
ジムで激しい練習をこなしてから会社員として出社し、数十人の学生たちに連絡やアドバイスを送り、オンライン面談をした後に、もう一度ジムに戻って練習をする。自宅に帰ってからもリモートで仕事に取り組む。他の社員と比べると、勤務時間としては7割ほどでありながら、突出した達成率を残し続けている。
「うちのジムは本当にえげつないくらい練習するので、最初は時間的にも頭も身体もしんどかったです。ナイモノも数字に対して徹底的に追いかける社風なので、頭も身体もいろんなところを使わなければならなくて……。でも、もう慣れちゃいました。完全に切り替えていますね」
格闘家として「外の世界」を知る意味。
もともと大学時代の就職活動でも、最優先は「格闘技を続けられる」ことだった。
ある程度の大手企業であれば、スポンサードのような関係を結べる可能性もあるかもしれない、とも考えていた。NTTや楽天など複数社から内定を得たものの、あくまでも立場や条件は通常の大卒社員と変わらない。どれだけ交渉をしてみても、週5日の通常業務が前提となる。
一般企業への就職を諦めてかけていたとき、当時利用していたジョーカツから連絡があった。
それまでも担当のCAに「格闘技をしながら働ける会社を」と伝えていた。当初は「そんな会社はさすがに……」と言われていたが、幸運にも条件が合致するWEBマーケティング会社と出合ったことで入社が決まった。
しかし、実際に入社後に働きながらトレーニングを並行していく中で、どうしても「まだ足りない」という想いが拭えなかった。
高校時代から本気で格闘技に取り組み、目の前に掲げた目標に向き合って戦い、機会があれば見知らぬ世界に飛び込むことを臆さず、カナダやタイでも新しい挑戦を繰り返してきた後藤にとって、「限界を超える、世界を広げる」ためには、現状では満足できない……。
「格闘技の師匠はいつも“格闘技しか知らない人は格闘技のことも何もわからない”と言っていて。視野としても視座としても、まだまだ広げて高めていきたい、と思ったんです」
「自立と自己実現」という目標
「学生時代は、スポンサーがつけば格闘技に集中できる、とも考えていました。ただ、実際に格闘技のプロとしてやる中で考えたのは、スポンサーがついてくれると、食べていく(お金をもらう)ことが目的になっちゃう側面もあるな、と感じたんです。
格闘家として強くなりたいという想いと、生活をしていくためのお金への意識がごちゃごちゃになってしまうと、本質から外れちゃうんじゃないか、と」
生活と格闘技―――。
後藤にとってのそれは、「自立と自己実現」の2つの目標を課すことだと言う。
生活が成り立たなければ、格闘技は続けられない。とはいえ、生活のためにアルバイトで時間を費やしてしまえばトレーニングに制限が生まれる。決して「注目されていない格闘家だから、アルバイトやスポンサーで食いつなぐのが当たり前」だという考え方は、当然だとは思わない。
格闘技での自己実現と金銭的な自立を、より高いレベルで両立する道を模索していた後藤は、新卒で入社した会社を辞めた。
その後、ナイモノに入社したのはジョーカツ時代からの縁。社会人になってからもCAや代表の霜田と連絡をとっていたこともあり、後藤の格闘技への想いや仕事に対する考え方やスタンスへの理解があった上で、「本気で格闘技と社会人を両立するつもりがあるなら」と、入社が決まった。
両立してこそ見えた「共通点」
「CAとしての自分のスタイルというか、やり方が見えるようになったのは1年間の流れを経験したのが大きかったと思います。
全方面から助けるのではなくて、彼らが自走できるように全体像を把握した上でサポートをする。どのタイミングでどんな声のかけ方をすればいいのか、面談を組むタイミングや時期による学生の心情を理解した上で、求められているものを提示することで、彼らも変化していくんですよね」
格闘技は「どうしたら相手が嫌がるかを考える仕事」。一方でCAの仕事は、「相手の未来を良い方向に向ける仕事」。真逆でありつつ、そこには共通点もある。
相手が得意とする部分に気づき、それに対応する。逆に、相手が自分で認識していない動きや思考を読むことで、反応の仕方を変える。仕掛けるタイミングや、それを察知する流れを把握するのは、細かい言動にまでアンテナを向けているからこそ。日々の成果や反省も、数字や文字に換えることで次につなげることができる。
「格闘家の中では、“会社員をしながら片手間で格闘技なんて……”という雰囲気もあります。
ただ、ぼくは両方が相乗効果を生んでいるのを感じているんですよね。練習だってKPIで考えて、ミット打ちやラウンド数と疲労感を数字で設定すると、見えてくるものがある。それこそ“格闘技しか知らない人は格闘技のことも何もわからない”にも通じるものがあると思うんです」
「記憶に残る試合」に人生を懸ける
学生が「自走できるようにする」。それが実現できれば、学生にとっても複雑な知識やテクニックに縛られることなく、魅力も自然に引き出されていくし、就活を通して自ら学んで成長もしていける。
「ぼくには“自分が死んだ後でも、観てくれた人の記憶に残る試合を1試合する”という人生の大目標があります。練習でも仕事でも自分を追い込んでいくけれど、それは自分の人生を常に最高にしていくため。
たとえば、チャンピオンになるとか世界一であるというのは、あくまでも結果であって、幸せなのはその“状態”ではないと思うんです。それを追いかけている“過程”に幸福感を得ていきたい」
後藤が日々向き合っている学生たちにとっても、当然、内定そのものは目的ではない。その後には社会人として働く日々があり、そこで目指すべきものは変わっていく。彼らがその環境におかれたときに、自分で自ら考え、自分で動き、自走できるように……。後藤のそのスタンスは、自分が苦悩して考え、本気で格闘技に取り組んできたからこそ見つけた道でもある。
「最初から“記憶に残る試合を”と考えていたわけじゃなくて、やってきた中でずっと考え続けてきて、見つけたんですよね。それこそ、最初の頃は“何ができないのかすらわかってない”し、“自分の明確な強みがわかっていない”。格闘技でも仕事でも同じだと思います」
自走することで、自走する人を増やす。
今後、ナイモノが拡大期を迎える中で、新しい仲間に求めるものとは……。
「まあ“強い人”が合いますね、やっぱり。とはいっても、もちろん力や体格の話じゃなくて(笑)
精神的な部分で強い人。表面的には柔らかさがあったり、弱そうに見えたりしてもいいんですけど、どこかの分野で負けず嫌いだったり、耐えながらも前向きだったり……。それって“強さ”なの?と思われるかもしれない部分でも、自分を高めることに貪欲な人がいいかもしれないですね」
「自立と自己実現」の両立も、「自走する」という意味でも、後藤自身がそれを体現してきたからこそ、CAとして学生に向き合う際にも、実体験に裏打ちされた言葉が生まれる。プロの格闘家として、プロのCAとして、後藤は行動と思考を積み重ねることで自身が活躍できる環境に飛び込み、成果を生み出してきた。
人生を通して「誰かの記憶に残る試合」を追い求めながら、格闘家としての道を突き進んでいく後藤。その一方で、CAとしても学生の人生にかかわる就活の場で向き合い続けていくことで、学生たちの記憶に残る影響を与え続けている。