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エンタープライズSaaSのデザイナーは電気羊の夢を見るか?

2022年6月にMNTSQ(モンテスキュー)株式会社にデザイナーとして入社しました、久保信介と申します。この記事は、いわゆる「入社エントリー」というやつです。

入社エントリーとは、新しい仕事環境へのオンボーディングも進み、なんとかだんだん慣れてきた気がする、同時にまだまだ転職したてのフレッシュな感覚を持ち合わせている、そんな入社して1ヶ月くらいのタイミングでなんか書いとこうぜ! というものです(そして会社としては採用やらブランディングやらに役立てたいね! というものです)。

いまデジタルのデザイナーにはたくさんの選択肢があって、これから進む方向や強くしていきたいスキル・知識に迷っていたりするひとも少なくないんじゃないかなと思います。この記事で紹介する業務システム・基幹システム、SaaSのプロダクトデザインの話がなにか参考になれば嬉しいです。

  • 自己紹介
  • MNTSQとは
  • MNTSQでなにをするのか
  • MNTSQでどうしてそれができるのか
  • We are hiring!

MNTSQは大企業の業務ユーザーを対象に、CLM(契約ライフサイクルマネジメント)のためのSaaSプロダクトを提供しているすごいスタートアップです。なにがすごいのか、について説明する前に、この記事を書いている私がこれまでどんな経歴を歩んできたデザイナーなのか、お話しさせてください。

自己紹介

私はここ10年くらいの間、業務システム・基幹システムのUIデザインを多く手がけてきました。MD(マーチャンダイジング)システムや顧客管理システム、経営ダッシュボードなど、企業内部での業務プロセスについてのコンサルティング(今でいうDXのご支援)の一環として提供されるソリューションとしての業務アプリケーションのデザインです。

企業が業務で使うシステムのデザインは、長らくの間「機能がある」ならばそれでよい、というような状態で放置されてきたといえます。いっぽうで、コンシューマー向けのシステムは機能だけでなく体験価値が重視されるようになり、効果的で心地よく使えるようにどんどん洗練され、アップデートされてきました。

業務システムのユーザー体験が残念なままになりがちなのには、もちろんそれなりの理由があるのだと思います。購入を決定するのが実際のユーザーではないことが多いこと、トレーニングによってシステムの操作を教育する前提があること、そして悲しいことに、仕事は面白くて楽しいものであってはならず、そういう堅苦しさをソフトウェアもまとっているべきという“空気”などです。

しかし、世界はどんどん進化していっています。質の悪いシステムは生産性を下げ、進んだコンシューマー向けソフトウェアの優れたエクスペリエンスを経験した業務ユーザーはもはや我慢できないでしょう。2018年に「『デザイン経営』宣言」が経済産業省より発表されるなど、「デザイン」についての意識も高まりをみせ、デザインが悪ければ顧客を失うことになると、いまや多くの企業が気づいています。

業務システムをきちんとユーザー目線でリデザインすることで、はたらく人びとが業務システムという道具の日々の利用体験のなかで無駄にストレスを感じることを減らし、楽しく快適に本来の価値ある業務にうちこめるように、デザインのちからでどうにかできたらと思い、ずっと向き合ってきました。

要件定義段階からデザイナーとして参加し、プロトタイピングを活用して進めるアプローチのために、UIデザインライブラリーやデザインシステムを整備したりもしてきました。業務システムならではの特殊なUIパターンやその使用例、どういう場合にどんなUIが有用かの判断軸も掲載したガイドドキュメントなどを、PMや開発者などプロジェクトメンバーの中でUIデザインの目線を揃えたり、一貫性や品質の標準化に活用していました。

ちなみに業務システムをデザインするようになる前は、渋谷のITベンチャー企業でtoBのWeb制作やWebサービスのデザイン、大手家電メーカーのカタログ・SP広告を手がける広告事務所でWeb部門を担当していたりしました。toCのソーシャルキュレーションサービスのスタートアップの共同創業者デザイナーという経験もしています。

MNTSQとは

さて、MNTSQはなにがすごいのか。

MNTSQは、かんたんに言うと、エンタープライズ×リーガル×自然言語処理×SaaS。でもこれをやるのはぜんぜんかんたんじゃないのです。

まず、エンタープライズとSaaS。いま業務SaaSはとても隆盛で経理部門や総務部門、人事部門といったバックオフィス系のみならず、セールス部門や事業部門のプロジェクト管理など、企業のなかのさまざまなしごとを対象にしたSaaSが登場していますが、その多くはどちらかというと中小規模の企業向けです。一概には言えないものの、中小企業は、SaaSとしてある程度画一的に提供されるプロダクトの設計に合わせて、自社の業務オペレーションのほうを変更しやすいと言えると思います。対して大企業はワークフローや業務オペレーション、自社流のさまざまな慣習の複雑さがSaaS導入の障壁になることもあると聞きます。SaaSだけど導入先個社ごとに仕様を調整するとあっては、運用負担を軽減できるといったSaaSのメリットが小さくなってしまいかねません。

それからリーガルと自然言語処理という、どちらも非常に高度な専門性が必要なドメイン。司法試験は指折りの難関資格として知られているとおり、法律を扱うにはとてもたくさんの知識が必要であり、加えて細部にいたるまでの正確さと責任が問われる領域です。自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)は人間の書き言葉や話し言葉をコンピューターで処理・解析する技術のことで、人工知能(AI)と言語学のいち分野とされています。という説明だけでも、とても高い能力が必要な印象です。

MNTSQではこうしたひとつひとつでも高度で複雑なものをさらに掛け合わせて、企業の契約ライフサイクルマネジメント(CLM)のためのプロダクトを提供しようとしています。契約はすべての企業が避けては通れない、企業活動において超重要な領域ですが、その割にはデジタルを活用した業務の変革が現状あまり進んでいません。そしてMNTSQのプロダクトは(まだまだ発展途上ではあるものの)すでに多くの企業で利用されていて、熱意のあるフィードバックもいただいています。会社はSaaSスタートアップの重要な指標とされているT2D3を達成してぐんぐん成長しています。

つまり、難しいことに挑戦して、価値を提供して、めっちゃ伸びているのです。

すごい!

MNTSQでなにをするのか

MNTSQでは、そうしたこれまでの自分の経験や知識を活かし、はたらく人びとをデザインのちからで救いたい(エラそうですみません)というこれまで感じてきたことを、契約の基幹システムのデザインというかたちで実現できるのではないかと思っています。たくさんの人たちの仕事の根幹にある契約書というもののありかたが変わるという世の中へのインパクトは壮大です。

そして、AIを活用して人間が業務をするための、まだ存在しない道具のデザインのスタンダードを探るというのは、とてもエキサイティング……! コンテクスチュアルなUXの実現に、AIはどう関わっていくのでしょうか。未来のあたりまえをつくりだすプロセスにいま関わっていけるという感覚にワクワクします。

私はふたりのこどもたちの父でもあります。いまはまだ中学生と幼児のかれらが大人になってなんらかのビジネスの現場に立つころ「えっパパのころって契約書って人間だけでつくってたの? それってスゴイ! けどそれで大丈夫だったの?」って言われたいです。

AIというのは、SF的な夢想の題材として面白く、また近年機械学習・深層学習が盛り上がりをみせていることは周知のとおり。でも、将棋やチェスで人間に圧勝する、ポケモンの物語を生成する、人間の代わりに電話で話す、など次々と発表されるニュースやコンセプトにはわくわくするものの、いま現在はまだまだ実用的な道具に使うにはほど遠い先進的な“おもちゃ”だったり「なんちゃってAI」なのではという印象を持っていました。しかし、契約書というのは、論理的な構成が確立していたり、指し示すものを明確にするための独特な言葉づかいのルールで書かれているために(人間が普通に使う“自然”な話し言葉や書き言葉とくらべてより)パターン化や解析がしやすく、自然言語処理の実用に向いているのだそうです。

そして、難しいとされているエンタープライズSaaSという観点からも。契約にまつわる業務というものは、最終的にはその企業ごとに独自なわけではない共通の「法律」にもとづくために、大企業でもSaaSの価値が成立しやすい、とMNTSQでは考えられています(代表の板谷による説明)。また、大企業での複雑な業務への導入・適用のために必要なプロフェッショナル・サービスをうまく提供することで、業務要件のバラつきを吸収してプロダクトの純粋さを保つのに適しているようです。

作りきり(保守はありますが)の受託で作る業務システムとくらべて、SaaSは終わりのないデザイン改善を、ビジネス目線も共有しながら継続的に行っていく必要があります。そして、スイッチングコストが比較的高いといえる基幹システムだからこそ、ユーザーの不満に向き合い、より良い信頼関係を構築していくことが重要です。業務システムはコンシューマー向けとくらべてユーザーの定性的で直接的なフィードバックを収集しやすいという面もあり、定量的なデータとあわせて、改善に活かすことができます。(このあたりのユーザーの声を開発にどう参考にしていくのかの姿勢については、ぜひPdM川瀬のメッセージもご一読ください)

つまり、デザイナーとしてひとつのプロダクトを磨き続けることに長期的に取り組める、ということ。UIのデザインを通して仮説を検証し、ユーザーに業務プロセスのありかたを提案し、サービスを成長させていくことができます。中長期的なユーザーの満足度が重要なので、一時的に気を引くために人間の認知のクセを悪用したデザインのダークパターンを使うような後ろめたいことはしなくていいのです。

MNTSQのプロダクトは、高速で仮説を検証するために猛スピードで作ってきたものを次のフェーズに進めていくタイミングです。このあたりでUIの一貫性やふるまいのルールを見直しておくことは、これからの成長にとって重要だと思っています。後述しますが、MNTSQは自律的に動くメンバーばかりなので、判断のよりどころとなるデザインシステムがドキュメントとして整備されていることがよりよく効いていくはずだと考えています。

そして、プロダクトそのものだけでなく、マーケティングやセールス、サポートなどカスタマージャーニー全体を通して、BX、コミュニケーションデザインの面でも、そしてそれを実現する組織づくりの面でも貢献していきたいです。やることたくさん!

MNTSQでどうしてそれができるのか

複雑で難易度の高い領域の掛け合わせを実現するために、法律、アルゴリズムをはじめ、さまざまなプロフェッショナルが集まっています。そして、お互いの専門性をリスペクトし、デザインのちからについても期待を寄せてくれていると感じています。入社して1ヶ月、社内で「デザインのことはよくわからないから…」といってデザインを他人ごととして距離をおくようなひとには出会っていません。ここでいきなり広義の「デザイン」を取り出すのはちょっとズルい気もしますが、みんなそれぞれの立場でより効果的に課題を解決するために仮説を組み立てフィードバックループを回すデザインマインドを持って仕事しているんだなーと思っています。

もちろん同じようにビジネスのこと、セールスのこと、法律のこと、アルゴリズムのこと、エンジニアリングのことなど、デザイナーも興味を持って事業の重要部分について理解することが求められています。入社してまだ1ヶ月ですが、新しい知識や視点に触れて自分がアップデートされていく感覚です(インプット大変ですが)。それぞれの領域の垣根を超えて横断的に協力しあう姿勢が前提となっていることは、よりよいプロダクトを実現するために重要です。2週間に一度、社員全員がプロダクトをさわってフィードバックをする機会が設けられているのですが、それぞれの視点から、丁寧で率直な意見が共有される土壌があると感じます。

それから私が魅力を感じていることのひとつに、ドキュメント文化と透明性があります。MNTSQでは意思決定やその理由、議論の経過をドキュメントとして共有し、全メンバーがアクセスできるようにしています。デザイナーとして基本的に私は課題を解決したいと思っています。さまざまな情報が透明性高く共有されていれば、ここをこういうふうにしてほしい、というWHATとHOWの要望の背景にある、なんでそうしたいのかというWHYを理解し、それなら本当に必要なのはこっちのWHATとHOWなのでは? とより適した解決策を提示することもできます。

加えて、ドキュメントとして共有するということは言語化するということでもあります。私は自分がデザインする時のプロセスに「言語化」も組み込まれていると思っています。いったん自分で言葉にしてそれをまた自分で取り込む(そして繰り返す)ことでデザインの精錬をするという感覚です。そしてなぜそのデザインがよいのか、論理的にあるいは経験則的に、または認知バイアスだったりでも、デザインの根拠をそれなりに説明できることを大事にしてきました。UIデザインのなかで、言葉はラベリングやメッセージの伝達といったユーザーとのコミュニケーションの面でも、とても重要な要素です。広告事務所時代、コピーライターとタッグを組んで仕事をしていたころに、言葉の使いかたの重要性を身体に染み込ませるように学んだせいもあるかもしれません。MNTSQのドキュメント文化はそんな私にしっくりくるように感じます。

We are hiring!

さいごに、入社エントリーの定番、“おさそい”です! この記事をとおして業務・基幹システムのSaaSやMNTSQの文化に興味を感じたら、ぜひ気軽にご連絡ください。

これまである程度デザインやってきて、次にどういう方向に進んでいったらいいんだろう、次なる成長のキーはなんだろう、と迷っているのだったら、自分の軸足はこのへんかなーと専門性を磨きつつ横断的にはみ出してみることもできるMNTSQは、新たな視点や立ち回りかたを発見するのにいい環境かもしれません。

それに最先端のアルゴリズムをプロダクトに落とし込むデザインの経験はなかなか得がたく貴重で、デザイナーのキャリアとしても価値あるものになるんじゃないかなーと思います。

なお、この記事のタイトルは、自然言語処理と人工知能(アンドロイド/レプリカント)との連想からフィリップ・K・ディックの名作SFのタイトルをもじってみた以外にとくに意味はありません。ちょっと言ってみたかっただけです。ただ、MNTSQの創業者の一人であるAnno TakahiroはSF作家でもあり、ハヤカワSFコンテスト優秀賞を受賞した『サーキット・スイッチャー』はメチャクチャ面白いのでここにおすすめしておきます。

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