みなさんはじめまして、MNTSQのCo-founderで取締役をしています堅山です。
MNTSQの中では自然言語処理や機械学習のエンジニアリングと、ファイナンス的なところをやったりしています。なので、日々、Jupyter NotebookとExcel/Google Spreadsheetをずっと開いて仕事をしています。
なぜそういう二足のわらじを履いているのかというと、もともとは大学院では情報系の分野を専攻していたのですが、新卒で投資銀行のIBDに入ったからです。その後すぐに、MNTSQの取締役でもある安野と一緒に自然言語処理を専門とした会社を立ち上げたため、財務モデルがバリバリ回せます!!といった感じでは全然ないのですが、いろいろな方にお手伝いいただきながら頑張っております。
さて、MNTSQは、日本の四大法律事務所の一つである長島・大野・常松法律事務所と株式会社PKSHA Technologyとの資本業務提携のプレスリリースを10/21付で発表しました。
MNTSQ: https://www.mntsq.co.jp/
NO&T: https://www.noandt.com/data/topics/index/id/19161/
PKSHA: https://pkshatech.com/ja/news/2019-10-21/
今回の提携は日本経済新聞やlaw.comなど、国内外のメディアにも取り上げていただき、大きな反響をいただきました。また、特にリーガルテック業界のみなさんや弁護士業界の方々には興味を持っていただき、契約書サロンの岩崎弁護士には本提携の意義について素晴らしい解説記事を書いていただきました。
一方で、リーガルテックなんてよくわからないし興味ない、という人も多いと思います。わたしもMNTSQをはじめてから、なぜリーガルテックなの?と、聞かれるようになりました。上記のプレスリリースを公表してからは、なぜ大手事務所と提携をしたのか、ということについても質問を受けます。
そこで、今日はなぜわたしがMNTSQでリーガルテックに取り組んでいるのか、ということについてお話できればと思います。この文章を通じて、わたしのようなリーガルなバックグラウンドがない人にとっても、リーガルテックは熱くて面白い分野なのだということが伝われば幸いです。
なぜリーガルテックなのか?
世の中には様々な課題があり、わたしが取り組んできた自然言語処理を活かせる領域もたくさんあります。CEOの板谷のように、個人的に法務領域に対する原体験があるわけでもありません。そんなわたしがリーガルテックに魅力を感じるのは「複数領域の専門性が必要な領域」であることです。
わたしのバックグラウンドはバイオインフォマティクスという、情報科学の力で生物学の領域の問題を解決したいという分野で、リーガルテックとは全然関係のない分野なのですが、ひとつ面白い共通点があると思っています。それは両者とも「複数領域の専門家が知見を出さないと成果が出せない」ところです。
バイオインフォマティクスでは、生物学と情報科学の専門家が協働し、実際の実験から得られた観測結果をもとに、情報科学の知見からそれを説明するモデル・数式を考え出したり、またはモデルから今まで知られていない挙動が予測され、実験によって実際に確かめられるといったプロセスを経て新しい知見が得られます。両分野の専門家が対等に役割を果たし、協同していくというプロセスが必要です。
リーガルテックにおいても、例えば機械学習エンジニアと法律家が協働していくことで初めて良い製品が作れます。シンギュラリティが起きていない以上、人間が行っていることをコンピュータですべて再現することはできません。法的にこうあるべきという理想と、いま機械学習でできることの上手な積集合を切り取ることが必要です。法律家の立場が強すぎればできないことをやろうとして消耗してしまうでしょうし、逆にエンジニアが強すぎれば法的に意味のない精度を追い求めてしまうことになりかねません。他分野でも同じで、法律家とエンジニアやデザイナー etc…が対等に製品を作っていく必要があります。
なぜいまなのか?
Marc Andreesenが2011年に”Software is eating the world”と言ってから10年近く経過し、ソフトウェアやインターネットは本当に生活の隅々まで浸透しました。裏返せば、「明らかに良いことが自明なマーケット」というのはすでに大きなプレイヤーがいるということでもあると思います(もちろん全てではないですが)。
しかし、2019年になってもソフトウェアが浸透していない領域は、特にエンタープライズや特殊なドメインにおいては、まだまだたくさんあります。それはなぜかというと、実際は業界によって差があると思いますが、例えば以下のような理由があると思います。
- 規制が激しい市場
- 技術的なゲインが小さく既存オペレーションを置き換えられない
- ニッチな領域や高度な専門性が必要で、取り組める人がいない
「複数領域の専門性が必要な領域」というのは、リーガルテック以外にも当然たくさんあります。ですが、リーガルテックはいままさにこれらの障害を乗り越えようとしている点が特徴的だと考えています。
1に関しては、例えば日本では様々な契約や通知がどんどん電子的手段で行えるようになっています。世界的にも、リーガルテックに対する規制緩和はかなり進んできています。
2に関しては、安野の記事のように、いままさに自然言語処理においてはブレークスルーが起きているところです。
3に関しては、たくさんの弁護士や法務担当者の方にリーガルテックに興味を持っていただいている現状があります。特にMNTSQは、CEOの板谷が弁護士であるのみならず、NO&Tという日本の四大弁護士事務所との人材交流があります。
実は、歴史を振り返り、特許や過去の人工知能研究をたどっていくと、いまあるリーガルテックと似たようなモチベーションのシステムは実は昔から提案されていたりします。
日本でも先駆的な研究者らによって様々な研究が行われてきました。しかし、残念ながら、これらの挑戦の成果は実用化され普及することはありませんでした。市場には技術的な側面からも、事業的な側面からも、正しいタイミングがあると思います。新規事業の成功の90%は、実はタイミングで説明できるという話もあるくらいです。
リーガルテックという領域は、まさにいまが夜明け前、正しいタイミングだと信じています。
なぜMNTSQなのか?
さて、リーガルテックという分野の中でわたしはMNTSQで何を目指しているのかという話を最後にしたいと思います。
MNTSQでは、リーガルテックの面白さのコアが「複数領域の専門性が必要な領域」であることならば、リーガルテック企業はトップの専門家の知識が集まる場所であるべきだと考えています。また、MNTSQがターゲットとする一般企業の法務や法律事務所のオペレーションは、基本的には現実にすでに動いている仕組みと積み重ねがあります。それをリスクを取って変革するには、企業法務の世界を知り尽くしたプレイヤーと密接に取り組む必要があると思います。
長島・大野・常松法律事務所と株式会社PKSHA Technologyとの資本業務提携によって、MNTSQがリーガルとテクノロジーの交差点となる。こんなに面白い状況はなかなかないと思っています。
MNTSQはまだ法人設立後1年経っていませんが、すでに、複数領域の専門家が協働して働くカルチャーが根付きつつあります。このカルチャーをより育てていくことがわたしの非常に面白いチャレンジだと思っています。
わたしもCOC条項(Change of Control条項)を契約書から(だいたいは…)見つけることができるようになりましたし、リーガルチームのメンバーが新しい機械学習モデルのPrecision / Recall (機械学習の精度評価指標)を計算して、False Posivite(偽陽性) な条項の一覧を列挙してくれる、といったMTGができるようになってきました。
各専門家やステークホルダーがMNTSQを通じて、他の専門家やカルチャーを吸収しつつ自分の専門性を活かせる環境を作っていきたいと思います。
ということで、MNTSQでは、リーガルなバックグラウンドがあるかどうかに関わらず、様々な領域の専門家の方と協働していける環境を目指しております。リーガルテックは今が一番面白い時期だと思いますし、MNTSQもどんどん成長していきます。そのような環境で、ご自身の専門性を発揮されたい方とぜひ一緒に働きたいです!
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Twitter: @YotaroKatayama