目次
はじめに
AI を Copilot として活用したことにより生まれた変化
AI による生産性革命
コミュニケーションコストの削減
そして、役割は AI Agent へ
労働代替による組織構造の変化
社内データ基盤の重要性
AI の強みと人の強み
AI 時代の組織戦略とは
1. チームを最小人数で構成する
2. AI 活用基盤
3. AI 風土・文化醸成
さいごに
はじめに
こんにちは、株式会社キカガク執行役員 CTO の祖父江です。
2025 年の目標設定は皆さんされましたでしょうか?私は今期のテーマを「フォーカス」として、何か禁止しようかなと思い、唯一の趣味である麻雀を禁止しました。大学時代から約 12 年間、何よりも麻雀をやってきた人生だったのですでに手が震えています。2026 年は思いっきり麻雀をします。
さて、今回は AI の話を書きます。仕事としては「キカガク AI 元年」へいろいろ思考したり、どう活用できるのかを手を動かしまくっています。近年、言うまでもなく AI の進化は目覚ましく、私たちの生活や仕事に大きな変革をもたらしています。2023 年から 2024 年前半にかけては、人間の仕事をサポートし生産性を向上させる「Copilot」としての AI が注目を集めました。2025 年からは、人間の労働を代替し自律的にタスクを実行する「Agent」としての AI の時代が本格的に始まる気配がしています。
本記事では、この AI の進化がもたらす変革を掘り下げ、組織における AI 活用戦略の重要性と AI 活用のヒントを少しでもお届けできたら幸いです。
AI を Copilot として活用したことにより生まれた変化
2023 年から 2024 年前半にかけて、ChatGPT を皮切りに AI は私たちの仕事における強力なアシスタント、つまり Copilot として活躍してきました。特に生成 AI の登場は、この流れを加速させました。
AI による生産性革命
普段私は Cursor を好んで開発をしているのですが、AI を活用したコーディングでは、従来数週間程度かかっていた機能開発が、わずか数日で完了するケースも珍しくありません。これは単なる生産性向上だけでなく、仕事の進め方そのものが大きく変わったことを意味します。
人の仕事は「業務の入口と出口を抑える」ことになり、その間のタスクは AI に実行してもらい、都度フィードバックし、完了まで人間が伴走します。コーディングであれば、入口は要件定義ですし、出口は受入要件(テスト設計)になります。いかにここをタスク着手までに言語化しておくのか、また完了までのステップもステップ毎に構造化しておくのが精度の観点では重要です。人間からすると Markdown でも良いですし、AI にとっては YAML が良い場合もあります。
ただし、一定開発の歴史や規模があり、ソースコードが大きな既存プロダクト開発においては、やはりそれまでのコンテキストをどう渡すか?であったり、依存関係を可視化することが難しい箇所もあります。その為、現在のコンテキストウィンドウで渡せる情報の限界値もあるのでここは工夫が必要だと感じます。弊社においても全く新しい開発と既存プロダクトへの適用だと異なる難しさがあります。
コミュニケーションコストの削減
従来の開発では、メンバー間で仕事の背景、ゴール、要件など、様々なコンテキストを共有する必要がありました。しかし AI 活用により、各職種の能力を一人で拡張でき、完全なコンテキストを保持したまま作業を進められるようになりました。これはこれまででは起き得なかった革命で最も大きな変化なのではないかな、と実感しています。
例えばプロダクト開発において PdM、デザイナー、フロントエンジニア、バックエンドエンジニア、QA エンジニア、インフラエンジニアなどを一人で担当できます。もちろん深い専門性が求められることは実際の業務においては多々ありますので、ツールを利用するだけでは表面的な作業は代替できても、顧客への提供価値を創出できません。しかし、少なくとも AI による個人の能力拡張は大幅に可能になっており、これにより、人と人のコミュニケーションコストが削減され、開発期間の短縮につながっていると感じます。
そして、役割は AI Agent へ
2025 年からは、AI は Copilot の役割を超え、Agent として自律的にタスクを実行し、人間の労働を代替するサービスがどんどん出始めています。もちろん市場を見る限り、まだ完全に自律的かと言われるとそうではないケースもありますが、今後の o3, Gemini 3.0 のリリースを考えると、Planner としての精度や保持できる Memory の大きさが向上することで適用できる範囲も増えていくことが予想できます。
労働代替による組織構造の変化
Agent としての AI の登場は、組織構造を大きく変えます。定型的な業務は AI が代替し、人間はより創造的で高度な業務に集中できるようになります。これにより、組織の効率性と生産性は大幅に向上するでしょう。また、この変化は諸刃の剣であり、AI をうまく活用できる組織は大きく成長する一方、AI の進化に対応できない組織は取り残されることになるでしょう。
Agent 時代には労働代替により、Agent サービスのプライシングは現在の数万円〜数十万円から、数百万円〜数千万円へと変化するはずです。人件費と同等でありながら、24 時間稼働可能で高度な知能を持ち、必要に応じて解約できるため、企業は Agent 活用へと傾いていくのではないかなと考えられます。
社内データ基盤の重要性
Agent の活躍には学習データや Accessible なデータベースが必要です。組織内に蓄積された情報は、大規模言語モデルを開発している Big Tech も持っていない、とても貴重なデータです。社内情報の蓄積方法が、将来の競争力を左右する重要な要素となるでしょう。その未来に向かって今からデータの整備をしていく必要があります。
社内情報の適切な管理は、AI の進化への対応に不可欠です。情報が整理されていなければ、AIは適切な学習ができず、期待する成果を上げられません。情報管理の重要性は、今後さらに高まっていきます。
AI の強みと人の強み
Agent が台頭してくる一方で現状は AI を触れば触るほど、人間の強さや魅力も実感します。つまるところ「人は人にしか興味がない」というのはとても重要な示唆だなと思います。
数年前に将棋 AI が登場し、あのとてつもない頭脳をお持ちの棋士が AI に負けたと話題になり、将棋業界が終わってしまうなどの悲観的なニュースで溢れましたが、今では過去最大の人気になっています。AI によって藤井先生は誕生し(と言っていいはず)、これまででは考えられない成果を出しています。また将棋ファンとしては、羽生善治先生の詰みを確信したときの手の震えに興奮するものです。もう将棋 AI に人類は勝つことはできないかもしれませんが、優秀な将棋 AI 同士の対局を誰か見ているでしょうか?スポーツになっているでしょうか?難解で高度な対局かもしれませんが、やはり「人は人にしか興味がない」ことは認識しておきたいです。
AI 時代の組織戦略とは
AI 時代を生き抜くため、組織はどのような戦略を立てるべきでしょうか。以下に、3 つの具体的な戦略と弊社の取り組みをご紹介します。
1. チームを最小人数で構成する
AI の活用により、少人数でも従来以上の成果を上げることが可能になります。チームを最小限に抑えることで、コミュニケーションコストを削減し、より効率的な組織運営を実現できます。
- 具体施策:
- プロジェクトごとに必要なスキルを持つメンバーを厳選し、少人数のチームを組成しています。これにより、コミュニケーションの円滑化と意思決定の迅速化を実現しています。現在 CTO 室を立ち上げて AI 活用を進めていますが私含めて 2 名体制でとにかくスピード重視で進めています。
2. AI 活用基盤
AI を最大限に活用するには、組織全体での基盤整備が必要です。AI ツールの導入だけでなく、データ基盤、データが自動で貯まる仕組みなどを検討します。AI は与えられたコンテキストに基づいてタスクを設計&実行するため、適切なコンテキスト提供の準備が不可欠です。コンテキストが少なかったり、抜け落ちているとそれまで大規模データで学習している結果に寄っていき、それっぽい間違った操作を平気で実行します。組織内の情報を整理し、AI がアクセスしやすい構造にすることが AI オンボーディングには重要です。
- 具体施策:
- キカバディ(社内向け生成 AI 活用基盤): 従業員が生成 AI を安全かつ効果的に活用できる社内基盤「キカバディ」を開発・運用しています。この話はまた次回で詳しく書くつもりです。具体的には「フリーチャット」「業務シーン特化」「プロンプトストア」「エージェントストア」「社内データ・指標一覧」などの機能を実装しています。
- 議事録 AI の活用: 議事録作成を AI で自動化しており、業務効率化を実現しています。会議中や会議後の事務作業時間を大幅に短縮しました。ちなみに内製化しているのですが、精度がとても高く驚いています。
- データ整備:こちらは現在進行中で社内のデータ整備やツール整備を進めています。特に生成 AI によってこれまで取得することができなかった、もしくは費用対効果が合わなかった領域までデータを取得できるケースが増えています。
3. AI 風土・文化醸成
AI に限らず組織で新しい何かを浸透するためには風土・文化醸成が不可欠です。ツールを導入しても導入する側は強い熱量やそれまでの苦労があるので「みんな喜んでくれるかな」と思いがちですが、導入される側からすると「ナニソレ」状態です。輪を大きくしていくためにアーリーアダプターを巻き込み、大きな渦にしていきます。
- 具体施策
- Weekly 生成 AI レター:毎週 AI/LLM チームでキカバディの機能リリースや色々な AI テックニュース、企業の AI 活用ニュースを DB に貯めて共有しています。
- ヒアリングをして小さく試す:あとは業務への活用可能性をヒアリングして、まずは小さく試していただく機会がないかを検討したり、発信をして巻き込んでいく人を増やしていく活動が重要です。
さいごに
AI の進化は新たな可能性と課題をもたらします。AI と協働し成長していくには、組織全体で AI への理解を深め、積極的な活用を進める姿勢が求められます。私たちの働き方と組織構造を大きく変えようとしています。Copilot から Agent への AI の進化を正しく理解し、積極的に活用することで、組織は飛躍的な成長を遂げることができるでしょう。弊社もそのための準備を進めていきます。