調査リリースが、メディア取材など会社にとって有効なPR手段となるためには、何が必要なのでしょうか。株式会社カラダノートの「妊婦加算」に関する調査リリースは、多くの取材を集め、制度凍結という形で国をも動かすことになりました。その経緯と、リリースの際大切にしたポイントを、PR視点を踏まえてご紹介します。
SNS投稿をきっかけに調査リリースを出すと、1カ月半で国が動いた
▲2018年4月の診療報酬制度改定で、妊婦が医療機関を受診すると「妊婦加算」が加点されていた
2018年12月19日。妊娠中の女性が診療を受けた場合に加算される追加料金「妊婦加算」制度が、2019年1月より凍結されるという厚生労働省による発表がありました。
2018年4月の診療報酬改定からスタートした「妊婦加算」が、たった9カ月で制度凍結にいたった背景には、世間からの声と過熱した報道が影響しているといえます。
メディアで「妊婦加算」が大きく取り上げられたのは2018年11月~12月。その一因となったのは、株式会社カラダノートが行い10月30日付で発表した、ひとつの調査リリースでした。
広報/PR担当者として調査を進めた彦坂真依子は、2018年9月に、SNS上で「妊婦加算」が話題となっていることを発見しました。
彦坂 「事業の性質上、妊婦やお母さん関連のニュースはチェックしています。そのなかで、あるツイートがトレンドとして話題になっていました。
妊婦加算を知らずに診療を受けて、会計を上乗せされたことに反発する趣旨の投稿でした。他のユーザーからも『少子化対策と逆行している』など、多くの批判が寄せられていました。
ただ私たちは、妊娠育児期にフォーカスした事業を行っているものの、その当時妊婦加算制度についてよく知りませんでした。
これは、当事者である妊婦さんでも知らない人が多いのではと思って、アンケートを取ることにしました」
妊娠層、育児層のアンケートベースでの意見収拾は当社の得意なことのひとつです。妊娠中の方を対象に10月13~18日にメルマガ形式でアンケート調査を実施しました。
その結果をもとに10月30日にリリースしたのが、「誰のための妊婦加算? 安心な医療と盤石な医療体制を期待するママたちの本音 診療報酬【妊婦加算】に関する意識調査(https://corp.karadanote.jp/archives/1603)」 です。
リリース直後からインターネットメディアを中心に取り上げられ、民放キー局をはじめとするテレビ局でも1カ月以上にわたり続々と報道。すると、厚生労働省が動き、12月19日に年明けから制度凍結決定という急展開を迎えました。
結果的に、社会を突き動かす形となったこのアンケート調査から、私たちが見い出そうとしたこと。それは「当事者である妊娠中の女性たちは、実際のところどう思っているのか?」ということでした。
ネットで埋もれてしまう“アンチではない方の意見”も拾って伝えていく
▲妊娠中のユーザーを対象にアンケート調査を実施し1781件の回答が寄せられた。当事者である妊婦の約7割が妊婦加算制度を知らなかった
アンケート調査の有効回答数は1781。そのうち妊婦加算について「知っている」と答えたのは、わずか25.9%でした。
加算対象者である妊婦本人が、加算について知らないという事実が判明し、適切な周知がされていないことに課題感を覚える結果となりました。
また、制度への賛否については、反対が67.4%と最も多く、当然のことながら「少子化対策への逆行」といった、先のSNS投稿のような反発の声もありました。
しかし、「賛成」や「どちらでもない」の意見のなかには、それとは異なる見方も見られたのです。
その多くが、「加算によって妊婦に真剣に向き合ってくれる医療機関が増え、安全な医療が受けられるようになるならいい」といった、「安心安全な医療」を求める声でした。
そもそも妊婦加算が適用された背景には、風邪などの症状でも妊婦が婦人科や産婦人科に行くことを求められ、婦人科・産婦人科に患者が集中してしまうという現場の状況がありました。
加算適用によりその問題を解消し、盤石な医療体制の構築を目指すという目的があったとみられています。
当事者である妊婦のなかには、その点を理解した冷静な意見もあります。ネットやSNSの炎上のなかでは埋もれてしまうような、そういった視点を伝えることが、リリースの意義であると彦坂は考えました。
彦坂 「 SNS投稿が注目された論調を見ると、真っ向から反対している意見ばかりでした。
ですがアンケートをとってみると、『安心安全な医療を受けられるなら高い金額じゃない』などの意見も一部あって。制度に対するそういうアンチサイドではない側の意見にもフォーカスを当てたいなと思いました。
この結果を踏まえて、まずは『加算制度そのものの当事者への正しい周知が必要』というところ。
それに加えて、自分の財布からお金が消えていくことだけが焦点になってしまっている傾向があったので、そもそもの妊婦加算の意図を見つめたうえで、『安全な医療体制を求める声がある』ということを調査リリースのテーマとして絞りました」
ネット、新聞、テレビ各局からの取材依頼。報道が報道を呼んだ
▲当社の調査結果が掲載された新聞記事がきっかけでテレビへの露出獲得にもつながり、報道が報道を呼んだ
焦点を絞り、妊婦加算の認知度と賛否のデータ、そして妊婦の意見を打ち出した内容で10月30日にリリース。9月にTwitterでの議論が話題となっていたこともあり、リリース翌日から、ネットニュースで取り上げられはじめました。
彦坂 「インターネットメディアにニュースであがるのと同時期に、大手新聞社様から認知度データの使用許可とアンケート内のコメントが詳しく知りたいという問い合わせがありました。そのあとテレビからの問い合わせも殺到しまして。
11月14日にフジテレビ系列の夕方の報道番組で認知度調査結果が出たのを皮切りに、日本テレビ系列の朝の情報番組や、フジテレビ系列の昼の情報番組などで話題になったり、報道が報道を呼ぶような形で、一気に拡散していきました」
このような報道の加速をもたらした理由は、妊婦という「当事者」の意見や認知度データを取っていたのが当社だけだったこと、また、世論が冷めないタイムリーなうちに調査し、リリースを出せたことにあると私たちは考えています。
彦坂 「でもまさかここまで伸びるとは思いませんでした。民放キー局のほぼすべてから取材依頼が来て。調査の経緯とか、リリースに載せきれなかったコメントなどを電話でフォローしていきました。
どんな形であれ、注目を集められたことはよかったです。当社としては、データの出典に社名を入れていただくようお願いしておりました。なかにはナレーションで社名を読み上げていただいた番組もありまして。そういう部分でもPR効果は絶大だったと思います」
大事なのは、世間の論調に飲まれず、俯瞰して調査し発信していくこと
▲広報の彦坂(写真右)は、テーマの現状や事実を理解し、会社として意思のある調査リリースを出すことが大切だと考えている
今回の報道及び凍結までの一連の動きに対して、当社の調査リリースが一因となったことは、企業として大きな財産になりました。
彦坂 「凍結の賛否はもはや私たちが語るべきところではありませんが、ベンチャー企業のひとつの調査リリースがきっかけとなって、報道を動かし、ひいては国を動かすことになったっていうのはすごく大きなことですね。
妊婦加算が再検討される余地ができたというのと、報道のおかげで妊婦加算に対する認知度を上げていくことにも貢献できたと思っています」
また、この調査リリースがここまで飛躍した理由としては、時勢をうまくとらえたという点もありますが、そこに明確な「意思」があったからではないかと彦坂は分析します。
彦坂 「いわゆる世間の論調に対して、『実際のところどうなの?』と俯瞰で見るというのは大事ですね。
最近だと『子連れでの居酒屋利用に関するアンケート調査』を出しましたが、インターネット上では、『子どもに悪影響だ』とか『大人の社交場だから連れていくべきじゃない』など、当事者以外の人が決め付けるような意見が強かったりします。
そこを『実際のママはどう思ってるの?』と聞いてみると、世間の論調と同じ意見もあれば、そうじゃない意見も出てきます。
その現状や事実をしっかり理解して、会社として意思のある調査リリースを出す。そういう意識が大切だなと、今回の妊婦加算の件で実感しました」
私たちは、「世間で言われている意見に乗ったリリースを出してもほとんど意味がない」との考えのもと、広報/PR活動を行っています。PR視点から見ても、「意思」を持った調査リリースは非常に重要ととらえています。
特に当社は現在、妊娠層から育児層を中心とした事業を行い、事業を通して彼女たちの伴走者であることを大切にしています。そうあるからには、子育て世代のリアルな声を世の中に発信していくことは、会社のPRとして有効であると同時に、私たちに課されたミッションでもあるのです。
私たちカラダノートは、今後もその視点を忘れず、リアルな声を丁寧に拾いながら、意思のある調査リリースを発信し続けます。