2018年10月まで7年間、社外取締役・出資者として株式会社カラダノートをサポートしてきた穐田誉輝氏。当社代表の佐藤竜也が、あるプロジェクトをともにしたことからご縁がつながりました。ともにユーザーに特化した生活密着型事業を行なってきたふたりが、この領域での事業の意義やあり方について語り合いました。
ボランティアでの出会いから、朝食2回で4000万円の出資を決定
▲「朝食2回で穐田さんからの4000万円の出資が決まった」と話す佐藤。一方穐田氏は、「1ヶ月のボランティア活動を通して、真面目な人柄を信用していた」と言います
2011年から2018年10月まで、株式会社カラダノートの社外取締役を務めた穐田誉輝(あきた・よしてる)氏。株式会社カカクコム代表取締役社長、クックパッド株式会社代表執行役などを歴任しており、投資家としてもカラダノートを支援しています。
カラダノート代表の佐藤竜也と穐田氏の出会いには、創業間もない頃からご指導いただいていた田中祐介氏の導きがありました。
佐藤は2009年、穐田氏が携わっていた茨城県関連のプロジェクトに1カ月間、ボランティアとして参加しています。佐藤が穐田氏に当社の事業への協力を仰いだのは、それから2年ほどたった2011年のことでした。
佐藤 「朝食を 2回ご一緒させていただいて、出資が決まったんですよね。 1回目に事業の話をさせていただいた時点で、次は具体的なことを取り決めましょうと一気に話が進んで。
1カ月ご一緒させていただいたご縁が、出資と事業支援に変わったという、僕にはすごく印象的な出来事でした」
穐田 「決算書も事業計画書も全然見てないです。私は健康関連の会社がもっと世に出てきていいと思っていましたし、ボランティアで 1カ月世話になって、佐藤社長の真面目な人柄を信用していました。事業をやりますということなら、応援しますよと」
穐田氏は現在も複数の会社に出資していますが、出資する会社には基準があります。それは「世に必要とされ、出てきたらみんなが喜ぶだろうと思えるサービス」であること。
その意味で、高校生の頃から健康に対する意識が高い穐田氏は、健康領域で事業を行なう当社に関心を持ったのです。
4000万円の出資をほとんど即決で決めたのに対し、数万円単位の家電の購入などはすごく時間をかけて検討するという穐田氏。そこには、物事の価値に対する想いが感じられます。
穐田 「投資と消費は、まったく別物です。
1万円でも高いものは高いし、 1億円でも安いものは安い。 1万円と 10万円の服があったとして、 1万円の服で妥協してほとんど着ないなら、 10万円の服を 10回着ればその方がいいですよね。
私は趣味が『比較』なので、調べられるものは調べてから買っています。
『世の中の不便をなくしたい』というのが私のライフワークなので、企業への投資で不便が解決できるのであれば、投資することに迷いはないです。
不便を実感するのも仕事なので、何事も自分自身がユーザー目線で体験するようにしています」
穐田氏の過去の事業にも、この感覚は活かされており、佐藤はそのエッセンスを吸収しながら経営をしてきました。
「モノマネに負けるぐらいなら死んだ方がマシ」成功に必要な覚悟とは
▲穐田氏は、類似サービスを出しやすいIT業で、他者の追随を許さない強さは当事者視点であり続けることだと言います
穐田氏がこれまで手掛けてきた事業とカラダノートの事業は、ともに生活に密着した領域となっています。この領域で事業を行なう良さは、身近な人の役に立てること。
カカクコム時代、穐田氏は思わぬところから利用者の存在を感じることが何度もあったと話します。
穐田 「元々カカクコムは、激安商品の紹介とマニア向け口コミが中心の“キワモノサイト ”のような見られ方をしていました。
しかし、サービスを進化させ、収益を上げて上場したことで、ユーザー数も大きく増加しました。
ある時、ひとりで食事をしていたら、隣にいた OL ふたりが『引越しでカカクコムを使って……』って話をしてるんですよ。この人たち使ってるんだ、と思いましたね。
あと、闘病中の父親と福島の田舎にあるそば屋さんに入った時に、私たちのほかに 1組しかいなかったそのお客さんたちが、カカクコムについて話していました。
私自身も嬉しかったですが、父親を喜ばせることができました。『そのお客様のお代をこちらに』と言いたいくらいでした」
同様の経験を、佐藤もしています。
佐藤 「うちも妊娠育児のサービスに特化したことで、周りのママ友が『妊娠中使ってました』って言ってくれるのがすごく嬉しかったです。
一方で、電車などでたまたま妊婦さんがいて後ろからチラッとスマホ画面が見えたら、他社サービスを使っていたりする。それは非常に悔しいです。
そこは今後の課題でもありますが、身近なところで良しあしを実感できるのがこの事業の特徴ですね」
事業が成功するうえで重要なポイントはふたつあると穐田氏は考えています。
穐田 「努力するのは当たり前なので、結果が出るかどうかは“運と気合い ”だと思ってます。
事業をはじめるタイミングが早すぎても遅すぎてもダメ。その時の競合環境にもよります。これは運ですね。
気合の話で言うと、カカクコム社長の時は、『日本一買い物に詳しいのは俺だ』と思ってサービスを考えていました。
カカクコムのサービスは誰でも思いつきますし、似たようなサービスが乱立してましたが、モノマネに負けるぐらいだったら死んだ方がマシだと思ってました」
佐藤 「僕は穐田さんから、『サービスを使わない理由を全部つぶせ』『微妙に生き長らえるくらいなら会社をつぶしてしまった方が社会のため』と言われたことがすごく印象に残っています」
24時間365日当事者視点で考え続けて、より良いサービスにしていく。そんな覚悟があればこそ、事業の成功があるのです。
「お金を使うな、頭を使え」穐田氏の経営哲学の裏にある意図
▲新卒で大手VCに入社し、資金調達した企業を数多く見てきた経験からの穐田氏の経営哲学「お金を使わず頭を使え」
穐田氏は、「ネットサービスは、最も便利なひとつにユーザーが集中する傾向がある」と話します。その中で、常に一番便利であることが、私たちに課された使命。
カラダノートは、社内の子育て世代割合が高い会社です。実際に子育て中のメンバーが多く集まっているため、それをサービスの改善や開発に利用しない手はありません。
佐藤 「私自身も、主要アプリは実際に妻が妊娠中から出産、育児のタイミングで一緒に使用しつつ改善に役立ててきました。子育て中のメンバーが起案してスタートしたサービスも複数あります。
ただ、今後を見据えた採用課題という観点で言うと、子育て中かつビジネス経験が豊富な人材を集められるような工夫が必要とも感じています」
佐藤が穐田氏に言われた言葉でもうひとつ印象に残っているのが、「お金を使わず頭を使え」というもの。
穐田氏がそのスタンスで経営を行なうのには、新卒で大手ベンチャーキャピタル(以下、VC)に入社した経験からの気づきがありました。
穐田 「 VCから多額の資金を集めた企業を数多く見てきましたが、ほとんどが成功していませんでした。資金が多ければ成功するというのは勘違いです。
100万円を増やせない人が、どうして 1億円あったら増やせるのか?という話です。
経験則で言うと、お金を持つと、時間を買うという名目で、思考停止してしまう経営者が多い。とりあえず深く考えず広告を打つ、人を雇う、オフィスを広くする……。
回収を前提とした事業投資ではなく、消費してしまっている。それでは価値を生み出せません。
まずは、経営者がある程度全方位の業務をしながら頭がちぎれるぐらい考えて価値をつくるべきだと思います」
佐藤 「穐田さんも、カカクコムの最初の頃はユーザー対応も全部自分でチェックされていたと聞いて、それは僕もやっていました。
『お金を使わず頭を使う』ことは割とできるようになってきましたが、一方でいざという時のお金の使い方がまだそんなに上手ではないという課題感があります。
投資の規模感が備わっていないので、それは脱却したいと考えています」
「上場は焦るな」経験豊富な穐田氏が期待する事業成長
▲「上場は全てが変わるが全てがバラ色ではない。水が冷たいとわかって入るのと、勢い余って入水し心臓発作を起こす事があっては大変」と穐田氏は助言します
穐田氏は、2018年10月で7年間務めた社外取締役を退任。今後も大株主として当社との関係は続いていきます。「良い会社が世に出るのを応援したい」との考えから、当社にかかわり続けてくれました。
穐田 「 2018年 8月に社内から取締役が2名選任されたこともあり、社内の人がもっとリーダーシップを持って引っ張っていくべきだと思ったので社外取締役からははずれますが、良いサービスがもっと世に出たら嬉しいです。
『みんなが気づく前から僕は知ってたんですよ』と心の中で自慢したい。佐藤社長の過去の苦労や葛藤も、一部ですが、見てきてますので、今後も応援は続けたいです」
当社は将来的に上場を目指していますが、佐藤が穐田氏から言われていたのは、「上場が見えてきても、ギリギリでの上場は辞めたほうが良い。焦るべきでない。」ということでした。
その理由はなんだったのでしょうか。
穐田 「上場するとすべてが変わると言う人がいますが、すべてがバラ色ではありません。永続的な成長を求められますし、不特定多数を対象にした説明責任も発生します。
メリットだけでなくデメリットも伝えるようにしています。
そこまで覚悟はありますか?と。水は冷たいとわかって入るなら良いですが、勢いで入って、心臓発作を起こすようなことがあったら大変なので。きちんと覚悟と準備をして上場すべきだと思います」
そして、穐田氏が今後のカラダノートに期待することは、「圧倒的ナンバーワンであること」です。
穐田 「常に圧倒的なナンバーワンであることが普通。それは目標じゃなくて予定。そうじゃないと存在価値がなくなってしまう。
今みたいに、複数の類似アプリがユーザーのスマホに並べられてちゃダメですね。うちのだけあれば十分なんだよ!としないと」
それに対し佐藤は、圧倒的なシェアを獲得し、突き抜けた存在になると意気込みます。
佐藤 「そうですね。それは wantではなく mustです。
健康に関して困っている人はたくさんいますけど、健康領域でしっかり成長しているビジネスモデルはまだまだ数が少ないので、そこをもっと確立していきたいというのはあります。
あらゆる手段を念頭に、まずは妊娠育児領域で圧倒的ナンバーワンになります。関わりのかたちは変わりますが、今後ともご指導いただきたいと思っています」
「家族の健康を支え笑顔をふやす」というビジョンに向けて、カラダノートは今後も成長を加速させ、世に必要とされるサービスを提供していきます。