巨大なビルにスマートフォンからのメッセージを映し出す都市型屋外イベント。
渋谷スクランブル交差点の人の波に乗って楽しむサーフィン。
離れた場所でラリーする光のバトミントン。
ここ数年、デジタルインスタレーションは単なる目を引くためではなく、興業としても商業としても、着実にその価値が認知されるようになった。
1998年の創業以来、Webを中心に技術と表現を駆使したインタラクティブコンテンツを手掛けてきた老舗イメージソースは、現在このデジタルインスタレーション領域においてもリーディングプレイヤーとして活躍している。
2006年に手掛けたメゾンブランドでのインスタレーションを皮切りに、アディダスやナイキをはじめ、数々のグローバル企業とともに、数多のプロジェクトを成功へと導いてきた。環境要因等さまざまな変化を重ねてきたこの10年を経て、同社はいま、どのようにデジタルインスタレーションと向き合っているのか。
業界でも珍しい、この領域を専門に手掛けるプロデューサー加藤雄也氏と、ディレクター佐々木伽耶人氏に伺った。
インタラクティブコンテンツに最適化された環境
——はじめに、加藤さんとデジタルインスタレーションとの出会いを教えてください。
加藤:「場所や空間全体を作品として体験させる」という意味でのインスタレーションは、学生の頃から、美術館やイベントスペースで数多く体験してきました。
その中でも、デジタルを用いたインスタレーションで強く印象に残ったのが、偶然にもイメージソースの作品でした。渋谷の街並みを使ったゲームのプロモーションのインスタレーション作品『BIG SHADOW』を生で体験したんです。そのときは、誰が作ったかも知らなかったですし、まさかこの時、自分がこのコンテンツをつくった会社に入るとは、思ってもいませんでした。
——すると、加藤さんはもともとどのような経緯で今のお仕事についたのでしょうか。
加藤:はじめは、多摩美術大学のプロダクトデザインを卒業した後すぐ、世界的に有名なデザイナーである吉岡徳仁さんの事務所に入社。インテリア、プロダクトデザインだけに限らず「空間における感動体験とは何か」を考える経験をさせてもらいました。
海外案件が多かったこともあり、年齢や言語を超える「体験」をつくりたいと強く思ったことを覚えています。この時の貴重な経験は、今に生きているものが多いとと感じています。
ただ自分自身でも、より領域広げたいと思い、4年ほど働いた後、転職。映像や3DCG、WEB、アプリなどのデジタル領域を手掛けるプロダクションで、さまざまな領域のプロデュース・制作業務を経験しました。この時は、忙しいながらも、どのようにチームで仕事に取り組んでいくべきかを考える機会が多く、マネジメントの面でも非常に良い経験ができました。
——ここで、デジタルインスタレーションも手掛けるように?
加藤:そうですね。いくつかのデジタル体験型コンテンツを担当しました。ただ、当時は基本的に最先端の技術を使ったテクニカルなものをやる時に、エンジニアやプログラマーは外注で、制作は基本外部。コミュニケーションコストも高く、都度適切なパートナー探しに奔走することもあり、注力するなら内製する必要性は感じていました。
——その想いから、イメージソースへ?
加藤:これまでの自分自身の経験をもっと活かせる環境がないかと思ったんです。その中でイメージソースは、Webのれい明期から業界でも名が知られており、クリエイティブを突き詰めるなら面白いことができそうだと感じていました。加えて、先ほどお話しした作品の印象や、内製環境があることもあり、2017年に入社しました。
——入社後は、どのようなプロジェクトを経験されたのでしょうか。
加藤:プロジェクト自体は提案も含めるとそれなりの数を経験しましたが、一番印象的だったのは、入社後はじめて担当したNTTドコモ代々木ビルとスマートフォンがシンクするプロジェクションマッピング、YOYOGI CANDLE 2020です。
経験はあったとはいえ、かなり大規模なプロジェクト。不安もありましたが、前職で仮説として持っていた内製体制が大いに効き、デザイナーやデベロッパー含め、チーム一丸となって取り組めたことで、爆発的な推進力が生まれたプロジェクトでした。
——具体的には、内製体制はどのように効果を発揮したのでしょうか。
加藤:まずは、コミュニケーションを密に取れるので、「妥協せず、徹底的に完成度を上げる」という意識が、企画から実行までのあらゆるプロセスで強く共有できていました。ただ、マネジメントとしては入ったばかりのタイミング。苦労した面もありましたが、クライアント、チームメンバーとも確実に信頼関係を築けていけたので、とても手応えのあるプロジェクトになりました。
一連のプロセスの経験値がものをいう世界
——佐々木さんは、加藤さんが入社した翌年に新卒で入られたんですよね?
佐々木:そうですね。僕は芸術学専攻出身でしたが、デジタルインスタレーションどころか制作も未経験でこの業界に入りました。就職先を考えていた頃、たまたまYOYOGI CANDLE 2020を知り、強くひかれたのがきっかけです。
音楽やメッセージ、映像など、多様なデジタルコンテンツを連動させてひとつの作品にしている点に感動して。こんなものを企画できたら面白いだろうなと思い、門をたたきました。
——入社後は、どのように経験を積まれていったのでしょうか?
佐々木:最初に加藤さんについて、アシスタントとして動きました。はじめに関わったのは、Heineken STAR GROOVEという体験型音楽アクティビティの制作です。入社したその日に「ロケハン行くよ」と言われ、名刺すらない状態でクラブに連れて行かれて……(笑)。
どのようにプロジェクトが進んでいくのかから、どのような方々が関わるのか、どこに課題が生まれやすいのかなど。さまざまなことを実践を通して教わりつつ、仕事を切り出してもらいながら進めていきました。
加藤:ディレクター、かつデジタルインスタレーションの場合、プロセス全体の把握と関係各所とのコミュニケーションは肝です。なので、まずはプロセスを一通り体験する。かつ、どのような関係者がおり、どのようなコミュニケーションを取るのかを一通り現場に入って見てもらうのが、はやく成長できる。いきなりではありましたが、あえてお願いしました。
——その後、徐々に仕事に慣れていったと。
佐々木:次のBIT WAVE SURFIN'から、主担当を任せてもらいました。前のプロジェクトで一通りのプロセスを見れていますし、あとは実践で経験を積んでいった形ですね。ここでは、初期段階から参画できたこともあり、全体感を見据え、やるべきことをやれたと感じています。
加藤:もちろん、僕も全体からディティールまで見ていますし、いきなり客先にひとりで行かせるようなことはしません。アウトプットや企画書もレビューします。ただ佐々木には、主体性を持って動いてもらいたかったので、ある程度、自分から率先して動けるような環境づくりを心がけました。
単なる管理ではない。クリエイティブの要所である意識
――ここまでお話を伺うなかで、デジタルインスタレーションのディレクターならではの、求められる要素があるように感じています。加藤さんは多様な領域を経験して今デジタルインスタレーションに取り組まれていますが、どこにその要諦があると思われますか?
加藤:あくまでイメージソースでは——ですが、「クリエイティブとマネジメントの両立」が欠かせないと感じています。「プロデューサーだからスタッフィングやコスト管理を」「ディレクターだから進捗管理を」といったマネジメント業務だけでは足りません。
たとえば、僕と佐々木が担当した、自社プロジェクトSPACE LIGHT SHUTTLEはまさにこの両立が求められました。このとき僕は、企画部分のコンセプトワークからリサーチ、提案時のCG制作も担当。クリエイティブの視座をもちディレクションするだけでなく、自身もクリエイターとして手を動かすことも辞さない姿勢です。
デジタルインスタレーション案件の場合、外部パートナーとの関係構築や、予算やスケジュールの見通しなど、現場での経験量が企画や提案にも跳ね返ります。パートに分けて任せることもできますが、全体が見えないと最適化されづらい。企画〜ディレクションまでを一貫して担えるようになるためにも、早々に全体感を把握してもらい、精度を上げる経験をしてもらったんです。
佐々木:僕も、SPACE LIGHT SHUTTLEでは音源の制作等でクリエイティブワークも担当しています。この作品は室内で物理的なシャトルではなく“光のシャトル”を打ってバドミントンを楽しむインスタレーション。
触覚デバイスに「打った」感覚をフィードバックするには、振動を起こす“音源”が必要でした。僕は趣味でDTMの経験があったので、ここで使う音を制作。生音のほうがいいのか、デフォルメした音のほうが良いのか、試行錯誤を重ねました。
――なるほど、クリエイターと対等に会話できるだけでなく、自身もクリエイティブを担う位のスタンスも求められると。
加藤:もちろん、実際に手を動かすかはプロジェクトによります。ただ、我々はクライアントと自社のチームの両方に挟まれるポジション。チームへの伝え方一つでアウトプットのクオリティに圧倒的な差が出ます。
そことの適切なコミュニケーションには、クリエイティブ側と同じ目線で会話することは欠かせない。だからこそ、クリエイティビティとマネジメントの両立が必要なんです。
佐々木:ディレクターというと、クリエイティブのロールとは遠いように思われますが、実際はクリエイティブの要所を担っている。この意識は非常に強く持っています。社内に制作チームがいることもあり、最良のアウトプットへと導くのも僕たちの責務です。苦労する点も多いですが、そこに大きな面白さがあるんです。
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