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デザイン活動の成果を最大化するためのプロセス設計 〜サービスフェーズごとの事例〜

こんにちは。rootでデザインプログラムマネージャー(DPM)として活動している岸(@RyoheiKishi)です。
私たちrootは、事業と組織の成長を共に実現するデザインパートナーとして「Design Doing for More〜デザインの実践を個から組織・事業へ〜」というビジョンを実現しています。

今回は、前に投稿した記事「デザイン活動の成果を最大化するための目標〜事業フェーズごとの事例〜」の続編として「デザインプロセスの設計」について、いくつかのプロジェクトでの取り組み事例をご紹介したいと思います。

以下のような課題感を持つ方は、ぜひ読み進めてもらえると発見があると思います!

  • デザインの現場において、属人性やメンバーの知識・経験の差に起因する問題が頻発している
  • デザインプロセスの浸透・実践を狙っているが、環境やメンバーにフィットしておらず、実行しきれていない
  • デザインプロセスを立てて実践もしているが、うまく成果創出できていない

目次

  1. 成果に寄与するデザインプロセスを考えるために
  2. ケース紹介
  3. 立ち上げフェーズ
  4. 成長フェーズ
  5. 成熟フェーズ
  6. プロセス策定の上での重要なポイント
  7. プロセス化の前に属人化が必要
  8. プロセスはより良いものを生み出す余力を作る手法にもなり得る
  9. プロセスへ関与・参加しようとする動機や主体性にも目を向ける
  10. まとめ

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成果に寄与するデザインプロセスを考えるために

誰かと事業をなしていく上では、組織的な活動として「プロセス」を定めるべき状況は避けられません。デザイン活動においてもそれは同様です。ここで言うプロセスには、業務の流れを定めるワークフローや、チーム内での意思決定の仕組みとしての会議体・アジェンダ設計などが含まれます。

プロセスの認識がチーム内で共有されていないと、業務として成立しません。一人ひとりが自分なりのやり方で進めてしまうため、効率も低く、成果も不安定になってしまいます。

一方で、どんなことにもプロセスがあれば良いというわけではありません。フェーズや環境に応じて属人性を残し、プロセスを固定化しきらず、状況に合わせて柔軟に変えていくことも重要です。環境の変化に合わせたプロセスに対する取り組みを心がけることで、より事業推進に寄与するデザイン実践が実現します。

この記事では、rootのDPMメンバーのプロセス構築・改善・運用に関する取り組みを切り出し、各フェーズごとに分類しています。
事例を通じて、デザインプロセスをどのように定め、再現していくべきかについてのヒントが提供できることを期待しています。

ケース紹介

本章では、事業における提供サービスの状況を「立ち上げ」「成長」「成熟」3つのフェーズにわけ、それぞれのフェーズでの取り組み事例について紹介していきます。それぞれのフェーズごとに事業の状況、必要な取り組みの方針は異なり、それに応じたプロセスとの向き合い方があります。

それぞれの事例においては、サービスの概要や体制といった背景情報に加え、どんなプロセス設計をしたのか、その結果何が変わったのかを記載しています。

立ち上げフェーズ

サービスの立ち上げフェーズにおいては、まだチームの中での成功の型を見出せておらず、手探りな状況にあることが普通です。このフェーズでは、再現すべきことが何かを見定めることが重要になります。

柔軟な進行とマイルストーン達成を両立させた事例

サービス概要と体制:
HR領域の人事・従業員向けSaaSプロダクト。最初期からのサービス立ち上げ。CEOに加え、マーケ、人事、PdM、エンジニアとの協業。rootからはデザイナー4名をアサイン。
rootはコアプロダクトの設計、MVP開発、およびサービス全体のブランド設計、コミュニケーションデザインが役割。継続支援年数は1年未満。

プロセス設計・運用における課題と注力したポイント:
前提として、当面プロセスの設計・運用よりも、事業進捗が適切に推移するかに応じて柔軟に体制・環境の整備をすることに注力。PMFまでの期間はこの整備に徹する方針をとった。
そこで、ワークフローやフレームから導入をはじめるのではなく、コミュニケーションを密にとり、現場関係者がやりやすい方法を探索しつつ進行してきた。具体的には2日に1回、開発・デザインの定例を行い、加えてPdMとデザイナー間で15min程度のデイリーを実施。その分タスク管理は最小限の方法に抑えている。
頻度高くそれぞれの考え・気になりの共有を行い、出てきた課題に対して、振り返りや認識合わせを行いつつ進め方のチューニングを進めた。現在は、実装工程までの流れを一方向にするのではなく、ディスカバリーとデリバリーの行き来を前提としたワークフロー、コミュニケーションパスを運用している。
また、このサービスは初期構想が大きく、複数サービスが同時並行的に走るため初期から体制やプロセスの整備に一定の見通しは立てる必要もあった。そのためサービス設計の上で後戻りできないポイントの認識を揃え、マイルストーンをひいた上で開発を進めた。

プロセス設計・運用による成果:
ローンチ前(注:記事執筆時点)のプロダクトのため評価はこれからとなるが、ボトルネック排除とマイルストーン達成に集中した無駄のないワークフローやコミュニケーションを指向することで、事業の進捗を初動からストレートに出すことに貢献している。

チームのプロセス設計に対する認識を揃え、徐々にプロセス改善を進めた事例

サービス概要と体制:
アーリーステージの日程調整プロダクト。開発チームの規模は10名程度。rootからはDPM、リードデザイナー、プロダクトデザイナーをアサイン。継続支援年数は2年程度。

プロセス設計・運用における課題と注力したポイント:
当時はプロセスそのものの改善サイクルが回っておらず、石橋を叩きつつも渡らない状況が長期化し、期間単位での成果が見えづらかった。また分業体制(デザインはデザインチームで完結させ、それをエンジニアに渡す)をとる中で、コミュニケーションの分断による不要な手戻りが発生していた。
一方で「全員が納得のいくものを目指さなければならない」という認識がチームの中にあり、アジャイルな開発プロセスの導入がためらわれていた。
そこで、ベースとなるアジャイルなプロセスをDPMが作り、毎週の振り返りを通しアップデートを続けていく方法を提案。「これが正解ではなく、組織の中で暫定ベストを毎週更新していくことを前提にフレームワークと向き合う」という共通認識を揃えながら、プロセスの設計・運用を同時に進めた。
ワークフローはスプリントプランニングやデイリー、レビュー等のスクラムに近い形式を導入したが、振り返りのたびに、完璧なフレームワークは存在せず、常に改善箇所があるのが大前提であることに言及し、徐々に最適なアジャイルに仕上げていくマインドセットがチームにとって共通のものになるよう促した。

プロセス設計・運用による成果:
アジャイルな仕組みを導入することで、必要なコミュニケーションが円滑に進みチームの分断に起因する手戻りの負荷が軽減。スプリント単位で計画と付き合わせた振り返りもできるようになり、成果をチームで認識できるようになった。
チームに「暫定ベストを更新する」というプロセス設計の前提がたち、長く在籍していたメンバーからも「話しやすさを感じられるようになりチームとして活動しやすくなった」という声が上がった。

成長フェーズ

このフェーズではサービスの設計・開発において一定の成功パターンは見えているものの、人を増やして事業成長の速度を高めていく上で属人性や効率性がネックとなり始めるフェーズです。過度な型化に陥ることなく、成功のエッセンスを見極めてポイントを押さえたプロセスの設計と運用が求められます。

既存のあり方に基づいてプロセスを構造化し、チームの共通言語を作った事例

サービス概要と体制:
中小病院向け電子カルテのSaaS。すでにコアな部分のフィットは実現しており付加価値につながるサービス開発を推し進めている。rootはいくつかに分かれたチームのうちの1チームを支援する形で、リードデザイナーとプロダクトデザイナーそれぞれ1名をアサイン。PdM、エンジニア、ドメインエキスパートとの協業体制をとり、主にプロダクトの機能改善を担当しはじめた。継続支援年数は1年未満。

プロセス設計・運用における課題と注力したポイント:
root参画前の体制では、高いドメインの難易度・スピード感・プロダクトの持つ文脈の3つを一度に攻略しつつ、再現性をもった価値発揮ができる状態を目指した属人的な判断が行われていた。
外部デザイナーとの協業経験がチームにとって初めてであることもあり、それまでのデザイン担当者とチームとの間でどのようなやりとりが行われ、何を重要なポイントとすべきかの認識を揃える必要があった。
そこでメインの制作業務と並行しつつ、会議の観察・ヒアリング・チーム全体で業務の棚卸しを通じて、必要な属人性を失わない程度の粒度でプロセスの土台を作り、今までに行われてきた価値創出の流れを言語化しながら認識を揃えていった。
プロジェクト進行の中で、大まかにこのプロセスに沿った運用ができていることを逐次確認しつつ、振り返りの中でプロセスのどの部分に課題があるのかを明示しながら対話した。

プロセス設計・運用による成果:
チームの中で属人化していた取り組みや流れを、チームが共通言語として扱えるようになったことで、メンバーそれぞれが「何かうまくいかない」と感じた時に、その問題箇所を具体的な共通言語で表せるようになり、プロセス運用の改善に向けた具体的な議論ができるようになった。
また、領域理解・スピード・背景理解の3つを同時に実現する上で、必要な属人性を残したゆるやかなプロセスを運用することで、現場での判断余地を残しながらプロジェクトを進める環境が出来た。

チェックシートを活用しチームのコラボレーションを促進した事例

サービス概要と体制:
企業のセキュリティ対策状況の診断・対策方法の提案を行うサービス。チームは約30名ほどで、戦略企画、デザイン、開発に分かれている。rootからはDPM1名、プロダクトデザイナー2名がこのデザインを担当。継続支援年数は4年程度。

プロセス設計・運用における課題と注力したポイント:
アウトプットのクオリティが各デザイナーの知識やスキルの差によってムラがあり、またレビューにも時間がかかっているため、根本的なプロセスの改善が必要だと感じ導入に踏み切った。
そこでまず、プロジェクトのリーダー(PdM)に現状の課題感とそれに対する解決策を提示し前提を合意。短期的に結果を出すため、デザインプロセスの体系化(デザインのガイドラインとチェックシートの導入)と会議体の見直しを行った。
具体的には、品質に関わる項目をデザイナー1人で確認ができるものと、チームでの議論が必要なものに分解し、1人で確認できるものに絞ってチェックシートを作成。会議においてはチェックシート以外の、チームでのディスカッションが必要な項目を議題として上げることを取り決めた。
加えてプロダクト開発チーム全体にもチェックシートやその運用をしていくことを共有し、デザイナーだけではなくチーム全体でチェックシートの運用をサポートできるようにした。

プロセス設計・運用による成果:
チェックシートの活用により、各デザイナーのリサーチの量と精度が向上し、機能検討をより深くユーザーに寄り添った目線から進められるようになった。
またチームでの会議において発散・収束の時間をさらに多く取ることができ、無駄を省くためのものではなく、より良い品質を目指したり、新しいアイディアを生み出し具体化する上での余力を作るものとしてのプロセス運用が機能した。

成熟フェーズ

サービスの設計・開発において成功を再現するための一定の形式が見えている中、盲目的にプロセスに沿うのではなく、メンバー各々が判断をより主体的に行えるような取り組みが必要です。

ファシリテーションの方針を変え、チームメンバーの主体性を高めた事例

サービス概要と体制:
企業広報向けクリッピング業務支援サービス。事業規模的には成熟しており、その取り組みの方針にも一定の型がある状況。企画、営業、デザイン、開発チームに加えて、エンジニアリングとデザイン両面に専門性を持つアドバイザーが協業。rootはDPM + プロダクトデザイナーが参画した。継続支援年数は3年程度。

プロセス設計・運用における課題と注力したポイント:
このチームでは、すでに一定のプロセスが運用されており、プロジェクトの推進自体は出来ていた。しかし施策の実施判断や設計・成果物へのフィードバックについて、アドバイザーによる属人的な判断という文化が残ってしまっており、アドバイザーがいないと話を進めづらいこともあった。
理想はチームとしてはメンバーの主体的な判断を進められる状態なので、企画チームの判断力向上や、チームとしての判断経験を積む余地があった。
そこで、すでにある定例会議のファシリテーションの方針を変え、プロジェクトの参加メンバーが主体的に物事を決めていけるようにした。具体的には、会議オーナーを持ち回りにして議論に対するコミットメントを促したり、会議開始時のチェックインを通じて相互理解を進め、判断へのハードルを少しずつ下げられるように促した。
また企画チームの判断力向上を狙い、DPMと企画メンバーとの共同作業を企画。成果を作るまでの考え方の流れを構築・共有したり、想定されるアドバイザーからのフィードバックを先回りして解消できるようにサポートした。

プロセス設計・運用による成果:
会議を軸にチームメンバーへの主体性発揮を促すことで、全員がそれまでよりも主体的に議論・情報収集・比較判断できる状態に。
特に企画チームについては、別枠で進めた共同作業の時間によって、企画にデザイン観点をどのように織り込んでいくかの学習が実現し、またその実践の場としての企画設計・会議でのフィードバックというサイクルがうまく回った。
現在はチームへの実質的な権限移譲が起きアドバイザーがプロジェクトから離脱。それまであったプロセスが、完全にチームが主導するものになった。

プロセス策定の上での重要なポイント

プロセス化の前に属人化が必要

事業は常に変化していくことが前提である中、闇雲にプロセスを導入するのはアンチパターンになりがちです。
例えばサービスの立ち上げ直後は、何が成功なのかは一般的には見えていません。この状況では、プロセスに拘泥するのではなく、チームが変化に機敏に対応できる流動性が求められます。そのためプロセス化や再現性よりも、作ったものや整備したものを壊す勇気を持てることの方が大事になることもあります。

プロセスはより良いものを生み出す余力を作る手法にもなり得る

プロセスはチームに共通認識をもたらし、コミュニケーションコストや手戻りのリスクを減らすことに役立ちますが、より新しいアイディアを生み出しデザインに落とし込むための余力を作るもの、という捉え方もできます。
プロセスの設計によって、最終的に何を生み出したかったのか、運用によって欲しい状態が生まれているのかには注意を払う必要があります。

プロセスへ関与・参加しようとする動機や主体性にも目を向ける

プロセスがチームのものとして回っていくためには、プロセス運用に参加する動機や主体性といった要素は欠かすことができません。
課題を埋めていくことだけに着目するのではなく、目的に近づけた成果実感や達成成就した喜び、感謝が駆動する正のフィードバックループにも目を向け、動機や主体性を健全に高めていく取り組みを進めていくことが重要です。

まとめ

以上、サービスのフェーズに応じたデザインプロセスの設計・運用との向き合い方というテーマで、rootのデザインプログラムマネージャーがどのような活動を行っているかをご紹介してきました。

rootでは複数の事業・サービスフェーズに関わるメンバーが在籍しており、また1人で複数同時に関わることも相まって、普段からデザイン活動を相対的に評価できる、という特徴があります。 今回ご紹介したように、特定の切り口から横断的にナレッジを割ってみると、色々な発見が得られます。 また同じフェーズであったとしても組織文化や問題領域ごとにそのアプローチは異なるので、本当に再現可能なことはなんなのかを探求し続けることもできます。

これからも、事業成長にストレートに貢献するためのノウハウを、組織的に蓄積・発信し続けていきます!

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