2019年最初の開催となる、丸の内アナリティクス主催のミートアップイベント、バンビーノを実施しました。
第17回となる今回は、「情報銀行」について。
データの利活用と法整備に対する議論がさらに進展していくであろう2019年、「情報銀行」という個人情報管理のあり方は今後いっそう無視できなくなっていくでしょう。
今回は、金融銀行の立場からこのテーマにどう取り組んでいくのか、みずほフィナンシャルグループの多治見様にご登壇いただきました。講演内容の一部をご紹介します。
新しいデータ流通の世界を作ろう
株式会社みずほフィナンシャルグループ
みずほ銀行 デジタルイノベーション部 IoT・ビッグデータビジネスチーム
次長 多治見 和彦 様
みずほフィナンシャルグループのデジタルイノベーション部で、データに基づいた新規ビジネスの創出に取り組んでいる多治見氏。「新しいデータ流通の世界を作ろう」というテーマで、「情報銀行」の仕組みや定義から、同グループが取り組んでいる実例までお話いただきました。
そもそもこれまで個人情報は、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)といったアメリカを代表するプラットフォーマーによって勝手に収集されるものでした。欧州では近年のこうした状況を問題視し、「個人情報は個人に帰属するものである」という議論が活発化します。
まず前提として「情報銀行」は、こうした流れの上に存在する仕組みになります。
日本でも、平成29年3月の内閣官房IT総合戦略室による取りまとめでは、以下の3つの仕組みが提示されています。
① パーソナル・データ・ストア(PDS)
個人が自らの意思で自らのデータを蓄積・管理する仕組み
② 情報銀行
情報銀行という組織がデータをとりまとめ、提供した個人が資産運用のようにまとめて運用してもらう仕組み
③ データ取引所
PDS・情報銀行・データ利活用事業者間のデータの取引をサポートするもの
こうした欧州の考え方が浸透した場合、新しく「個人の許諾を得た」企業が、個人情報を様々な事業活動に活用することができるようになります。ただし、その潮流が日本において、どのように広がって行くかということについては、見解が分かれているのが現状です。
みずほグループでは、個人が企業へのデータ提供に消極的であるとした場合と、データ提供に積極的に同意する場合との二つのシナリオを通し、新規ビジネスを検討しているといいます。この二つは、それぞれ潜在顧客層の性格も異なる上、市場規模も成長速度もまったく別物になると予測されます。
前者は、より多くの個人から信頼を得やすい大企業が、大規模なデータ収集を行う仕組みが進展していくと見られますが、ビジネスとして形にするにはそれなりの時間を有するでしょう。
後者は、前者に比べ規模が大きくなりにくいですが、情報の利活用に期待するアーリーアダプターを囲い込み、早期ビジネス化が期待されます。
多治見氏は、後者を「一部のデータ提供に積極的なユーザーに向けたニッチなサービス」としたうえで、「後者のアプローチの事業をやりたい」と考えたそうです。その一例として、パーソナルデータストアの役割を果たすマッチングプラットフォームプロジェクトをご紹介いただきました。
今回はメガバンクの担当者から、情報銀行の話を聞けるというまたとない機会となりました。
情報銀行という新しい概念が社会に浸透していくなかで、一体どの企業がその立役者になっていくのか……膨大なデータを取得しやすい大企業は、そのような点で動向が注目されやすいとも言えますが、今回の多治見氏のお話からは、スタートアップと積極的に協働し、これまでにない新しいデータ流通の方法を模索しようという、大企業のチャレンジングな姿勢を伺い知ることができたように思います。
情報銀行とデータエクスチェンジ
社団法人丸ノ内アナリティクス 代表理事
株式会社グラフ 代表取締役
原田 博植
丸の内アナリティクスの代表理事であり、株式会社グラフで大企業向けのAIアルゴリズム開発を行う原田は、経済産業省の「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」の一員でもあります。
今回は、経産省の研究会に携わる立場として、情報銀行という新しい仕組みにどう取り組んでいくべきか、また実務経験をもとにデータエクスチェンジ(個人および企業の健全なデータ相互利用による経済活動)が活性化するにはどのようなことが必要か、ということについて話しました。
情報銀行などの新しい仕組みについて議論する前に、やるべきことが大きく二つあると原田は言います。
まず一つは日本個別のデータにまつわる外部環境問題を見直すこと。
ヨーロッパがGDPRなどデータの取り扱いに対する独立したスタンスを提示し始めているなかで、日本はいまだに自国民のデータベースをアメリカに依存しきっており、完全に後手に回っています。
多治見氏の話のなかでも言及されたGAFA──このアメリカの巨大なプラットフォーマーに日本のデータはことごとく収集され、今や日本人のことはアメリカのデータベースの方が知っているという状態ができてしまっています。
こうしたデータプラットフォーマーが色々なデータを掛け合わせて占有すればするほど、より強大な力を持つようになり、市場の健全な競争は阻害されていきます。この事実を正確に認識して、特に米国と固有の関係性を持つ日本企業は実感と対策を講じなければならない、と言います。
一方で、個別の企業が自社のデータを適切に取り扱っていくことも当然のことながら必要です。
原田は自身が代表を務める株式会社グラフでの事業実例を通して、日々大量に生まれているログコレクション・データの取り扱いがいかに重要かということを説きます。
データを貯めるだけ溜め込んでも、必要なときに最適なデータをすぐ取り出せなければ意味がありません。「とりあえずデータを貯めておく」ではなく、「データで何をやるのか」を現場サイドから逆算していかなければ、実際に活用していくまでに果てしない時間と労力を費やすことになりかねません。
ほとんどの企業では、まだファーストパーティデータ(自社のサービスから得られるデータ)の磨き上げすらできていないのが実情だと言います。自社事業のなかに眠る宝の山とも言えるファーストパーティデータを磨き上げ、その付加価値を上げることができてはじめて、ようやく利益創出に結びつけることができるのです。
昨今、情報銀行やデータエクスチェンジという話題が盛んに取り上げられるようになりましたが、まずは個別環境を理解した上での国全体の指針創出という大きい部分と、企業個体がデータを活用するための土台作りが重要であると言えるでしょう。
今回は、「情報銀行」をお送りしました。この回のあとも報道で盛んに取り上げられている話題であり、2019年より議論は活性化していくだろうと見込まれます。
会場の都合により抽選式で50名の方のみのご招待となりましたが、次回よりまたできる限り多くの方々と様々なデータにまつわる議論を行えるよう、今年もイベントを企画してまいります。
次回バンビーノは4月以降に開催の予定。
また詳細が決まり次第、こちらでもおしらせしてまいります。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!