長岡花火財団(新潟県長岡市)とフラー株式会社(千葉県柏市)が共同で開発した「長岡花火公式アプリ」が、旅行関連のカテゴリで2年連続ストアランキング1位を獲得しました(2018年8月3日付)。イベント時のアプリの有用性を証明したのはもちろんのこと、アプリ企画から開発、ローンチ後のブラッシュアップに至るまで、不断の共創を続けたのが身を結んだ形です。
「長岡花火公式アプリ」がランキング1位を獲得した裏側ではどんな動きがあったのでしょうか。地元・新潟で奮闘するフラーのメンバーに話を聞きました。
長岡花火公式アプリとは? 長岡花火公式アプリは、一般財団法人長岡花火財団が主催する「長岡花火」のプロモーションを目的に、2017年に同財団とフラーが連携して開発しました。2018年7月には、App StoreとGoogle Playの両ストアで大幅アップデート。チケット販売情報の提供や観覧席の案内のほか、花火のプログラムや長岡の観光情報、当日の会場マップなどをオフラインで確認できるようになりました。さらに、一連の情報や災害など、万が一の緊急速報をユーザーに即座に届けることができるアプリのプッシュ通知機能を生かし、特に今年は猛暑の中、熱中症への注意喚起を促すプッシュ通知の配信を実施しました。
長岡花火開催期間の2、3日の両日で、アプリ利用者数*1は合計約5万2,000人を突破。昨年の3万3,000人を大幅に上回り、より多くのユーザー様にご利用いただきました。8月3日にはApp Storeの無料ランキング(旅カテゴリ)、Google Play急上昇ランキング(旅行&地域カテゴリ)でいずれも1位を獲得。長岡花火開催期間中に2年連続でストアランキング1位を獲得したことになります。
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長岡花火公式アプリのリニューアルで取り組んだ大きな施策の一つが、スポンサー広告です。アプリを通じた広告収入を生み出し、一部を協賛金として還元することで、プロダクトだけでなく協賛金までも共創しながらアプリを成長・拡散させることができました。
アプリを成功させるため、フラーのメンバーは長岡花火財団をはじめとする地元の関係者とどのように連携を図ってきたのでしょうか?地元との連携の視点でフラー新潟支社長の坂詰将也に話を聞きました。
フラー新潟支社長・坂詰将也 1988年7月21日生まれ、新潟県長岡市出身。長岡工業高等専門学校から長岡技術科学大学へ編入学。前職ではプラントの計装制御エンジニアを担う。現在、フラー新潟のビジネス全般をマネジメント。
アプリは「ものづくり」 ーー「長岡花火公式アプリ」ではどういう役割をしてきましたか? セールス兼プロジェクト・マネージャー(PM)として、アプリのディレクションをしてきました。お客様である長岡花火財団の意見を開発メンバーにつなぎながら、より良いアプリとするために一緒に作りこんでいきました。
ーー前職でもセールスの経験はあったのですか? いえいえ!実は前職はプラントエンジニアだったんです。さまざまなプラントや構造物を机で設計して、実際の施工の現場でも対応をするという「ものづくり」をしていました。
現場でお客さんや職人と構造物を作り上げていくという意味では、フラーの共創事業とも通じる部分があると思います。
セールスだけでなく、作りたいものを一緒に考えて、フィットするものを考えるというところが、前職と似ている感じがじます。
ーー今回の長岡花火アプリでは広告機能という目玉を作りましたね。 はい、協賛金を募る新たなチャネルを創出したいというお客様のニーズに応えるための発案でした。発案を受け、長岡花火公式アプリのスポンサーという形で広告協賛金を募ってtoBのお客様に訴求する提案を私がしました。
アプリの世界では広告運用により収益基盤を確保しているゲームやアプリがたくさんあります。その枠組みを、イベントアプリの花火アプリにも活かせないかと提案したのです。財団の職員の皆さんは本当にアプリに対する理解が深く、「やってみよう」ということになりました。
広告主様には当日の長岡花火の会場で、花火を見ながら長岡花火のアプリにマッチする広告をアプリユーザーが見ることができれば、大きな広告体験につながることを強くアピールしました。結果として3社に出稿いただきました。
圧倒的に高いエンゲージメントをアプリ広告で実現 ーー広告の効果はどうでしたか? 想像以上の結果が数値にあらわれました。今回は全画面広告とスポンサータブの2種類の広告を表示しました。全画面広告で、最も効果が大きかったものはクリック率36%と、一般的なウェブやアプリの広告に比べエンゲージメントが圧倒的に高かったのです。
また、今年の長岡花火アプリ利用者を対象としたアンケートでは、広告主への評価は5段階評価で4.1を超えました。定性、定量の高いエンゲージメントの高さが今回のアプリ広告の最大の成果の一つといっても過言ではありません。
ーーどうしてそのような高いエンゲージメントを実現できたのですか? 大きく分けて3つの要因があると思います。
一つは、クリエイティブをアプリに最適化したことです。アプリの表示に最適な文字の大きさや写真の使い方などを追求しました。
もう一つは、最適化されたクリエイティブから長岡花火を応援する気持ちがユーザーに伝わったということです。地元のイベントを理解して、その気持ちに寄り添うことを念頭に、文言やイメージ画像を作成・出稿しました。私自身、出稿していただいたお客様を直接ご訪問し、一緒になって広告に載せるメッセージの作成まで行ったことが良い結果につながったと思います。
そして、広告の発信の仕方、広告体験のあり方も工夫しました。実は、アプリを起動した直後に表示する全画面広告は、6時間に1回しか出ないようにしたのです。
イベントアプリで広告が起動のたびに何度も出てきたら、正直煩わしいですよね?そこで、ユーザーのストレスが少なく、エンゲージメントも高い時間や頻度はどれくらいなのか、フラーの大手広告代理店出身のメンバーと長岡花火アプリのデザイナーが何度もディスカッションを重ねて、設定しました。
結果として、広告体験もユーザーのアプリの利用体験も両方損なうことなく効果を高められたと思います。
ーーランキング1位を獲得したことについてどう感じましたか? 本当に嬉しかったです!長岡花火財団のみなさんがすごく喜んでくれて、びっくりしてくれたのが印象的でした。
実は、このアプリは広告費なしでプロモーションをしたんです。
フラーのメンバーが地元のテレビに働き掛け、機能の説明などのプロモーションを展開しました。その結果、テレビでアプリのことが多数紹介され、プロモーションがきちんとできたのです。
さらに、セブン-イレブンの店舗にPRチラシをおいたことがユーザー認知につながりました。PRチラシのアトリビューションで、ダウンロードが飛躍的に伸びた可能性もあります。これからデータに基づいた分析をしていく必要があると感じています。
また、去年に引き続いて結果を出せたので、現状でやっている手法が間違っていないんだと自分たちも自信を持ちました。長岡花火財団のみなさんにも施策の重要性を理解していただける出来事となりました。「1年のたった2日のためにアプリを作るのか」という声もありまたが、結果としてアプリをダウンロードした人がたくさんいて、施策を展開する足がかりになったと感じています。
ーー長岡花火財団の職員の方とのコミュニケーションはどうでしたか? アプリ広告をすることについて、当初、先方に説明したらやらせてくれないのではないかと不安はありました。そもそもすでに協賛金を集めているのに、「また協賛金を集めるの?」と言われるのではないかという懸念があったからです。
でも、それは杞憂に終わりました。
さまざまな挑戦に対して「やってみようよ」と前向きに信頼してくださる方がいて、前に進むことができたのです。
本当に心強かったです。地元出身者が多くて、信頼を得られているのもあるかもしれません。地元の人と一体で作っていくという意味で、昨年以上に難しい部分はありましたが、得られるものも大きかったですね。
実は今回、アプリ協賛に加えて、あらたな取り組みとして、花火大会の会場内でのブース出展も提案して展開したんです。アプリの広告とブース展示のセットで、フラー側から提案したんです。
そして、実は一回断られました。コーヒーなどの飲み物をサンプリングすると他の売店と食い合ってしまうのではとの懸念があったからです。
提案はできても、現地の調整が一番難しいんです。そこは長岡花火財団の職員の方が本当に調整をしてくれました。忙しい中で新規の調整をするというのは至難の技なのに、もう本当に神様レベルです。NTTコミュニケーションズさんの大型64inchモニタサイズのKirari for Mobileを活用した長岡花火を立体的に表現する展示ブースを長岡花火財団の観光案内所の一角に出展することができました。
ーーアンケートも5000件以上集まりましたね。 はい!実は去年は7000件集まっていて、数は減っています。でも今年は、回答数が多少減っても、内容の濃い設問をたくさん設定して、次の施策につながるアンケートをすることを念頭にアンケート提案し、花火大会直後に実施しました。
その結果、5000件というアンケート調査としては本当に十分すぎるくらいの膨大な来場者のみなさんの知見が集まりました。これは想像以上でした。アンケートをもとに、広告に対する評価の測定もできました。アンケートをしないとわからないことでした。
この結果をしっかり分析して、来年さらに喜ばれるアプリにするべく一緒に共創していきたいと思います。
地域とテクノロジーをフラーがつなぐ ーー地方のIT化の現状についてどう感じていますか? 一般的にどこの地方も一緒だと思うのですが、ITを活用したくても自社で全体戦略を立てられなかったり、周りに相談したくても協力できる企業が少ないという状況に陥ってる印象を持たざるをえません。一方で、都内などでITの最先端に携わる方たちに相談して、普段使っている言葉やコンテキストで説明されても「ITの専門でない方々にどこまで意図が伝わっているのだろうか」と、心配になることがあります。
僕のような立場の人間がアプリ開発と地方の架け橋になり、コミュニケーションをつないでいくところが共創事業の大きな意義だと思います。
ーーーーフラーのメンバーとして新潟で働く醍醐味はなんですか? お客さんと密着して仕事をして、リアルのコミュニケーションとアプリがつながるところに、地元・新潟で働く醍醐味があるなと思います。今回も地元の地の利を生かし、長岡花火財団の職員の方と夜遅くまで対面で調整をしました。長岡花火アプリは、地元の方々とのコミュニケーションの賜物です。
地方にはITの施策に困っている人がたくさんいる一方で、危機感を持っていても具体的な施策ができない場合が多いんです。それを助けられるのが弊社だと思っています。ローカルで困っている人と手を取り合って仕事ができる点が新潟支社で働く魅力です。地域とテクノロジーをフラーがつなぐという大変に貴重な立場、楽しいと思います!