データに基づく論理的なマーケティングを提供するデジタルエージェンシー、FICC。そのなかで「消費者の心を動かすクリエイティブ」に注力するクリエイティブディレクター、林信輔。
たとえどんな素晴らしいマーケティング戦略だろうと、消費者との接点であるクリエイティブが心を動かすものでないといけない ― そう話す林は、日々クリエイティブの現場において何を考え、どう行動しているのか。インタビューを行いました。
最終的に「消費者の心を動かす」のはクリエイティブ。戦略やマーケティングではない
僕が考える価値提供についてですが、ビジネスにおいてだと、FICCがプロモーションに携わった製品などが売れて、クライアントの売上が上がって、「クライアントが描くビジネスゴールを達成すること」が価値提供だと思っています。だけど、そういった数値目標は絶対達成すべき目標じゃないですか。その先にある、僕が関わらせていただいたプロジェクトによって、クライアントの担当者さんが昇進したとか、評価されたとかまで達成するべきだし、達成させたいですよね。
そしてクリエイティブに携わっている僕にとって消費者に対する価値提供としては、「消費者の心を動かすクリエイティブ」をつくり、そのクリエイティブの質を高めていくこと、だと思っています。消費者が本当は必要としている商品でも、クリエイティブによって届かなくなるかもしれない。消費者はマーケティングとか戦略とかを意識せず、目にするクリエイティブこそが、その商品のすべてですからね。
だけど、クリエイティブをずっとやってきて、「クリエイティブって本当に価値あるのかな?」と思った時期もあって。FICCがマーケティングにシフトしていくタイミングでも、「クリエイティブのできること、クリエイティブの価値って小さいのでは?」と考えたこともある。
でも最終的にユーザーに届くものはやっぱりクリエイティブでしかないと気づきました。だから、クリエイティブというものは、施策が成功するかどうかの「大きな変数」だなと思います。
「なんの感情も生まれない」ことが一番サイテー。無難なことを避けるべき
では、クリエイティブでどうやって消費者の心を動かすかと言うと、実はまだ消費者の心を動かせた実感はなくて(笑)。実際に商品が売れた、売れなかったということしか分からない。なにかしら感情が動いたから、アクションしてくれているはずなんですけどね。
というのも、たとえばユーザーに「嬉しい」という感情になってもらいたいと思っていても、別の感情を抱くかもしれないじゃないですか。だから、クリエイティブによって引き起こされる感情の精度をより上げるためには、FICC的には「データが……」みたいな話もしたほうが良いのですが。もちろんデータもすごく客観的で重要な指標として参考にします。ただ、個人的には経験であったり、「自分が信じる良いものかどうか」だったりも重要だと思うんですよね。
ある意味、最後は博打的な部分があるんですよ。感情といっても一人ひとり違うので。「嬉しい」と言っても、受け手それぞれ違う感情のはずなので、最後は自分が信じる一手に賭ける、その一手を信じてもらう、ということが大切なのかなと思います。
もちろん失敗したらどうしよう、と怖いわけですよ。だけど、チャレンジしないと何も起きない。そして「何も起きない」のが一番最悪ですよね。無というか、「良くもないし、悪くもない。どうでもいい」というのが一番サイテーだなと。
なのである程度リスクを負って、チャレンジすることが重要で。逆に言えば、なるべく “無難なこと” を避けるようにしています。
しかもクリエイティブの領域だと、同じようなものがない方がチャンスがあると思うんです。すでに前例があるやり方は、追いかけていくだけになるのでつまらないじゃないですか。新しいことの方がリスクは当然あるけど、新しい価値を生み出すことに他ならないなと。
クライアントと直接仕事をすることで、目的を理解したデザインがつくれる
何かしら消費者の感情を動かすために、日々チャレンジの連続なんですけど、「いつもチャレンジできる環境に身を置く」ということ自体が僕にとって最大のチャレンジかなと思っていて。
以前までは、自分のそんなに大きくない裁量の中で、Webサイトをガシガシつくっていく、ということをやっていました。その1,000本ノックの中で、スキル的に大きく成長できたし、今の自分に欠かせないベースができたと思っているのですが、制作していたのものが、結果的には、大きなプロジェクトの中のほんの小さなものでしかなくて。俯瞰してみると、他の人がやっているのにちょっと乗っかるだけ、のような感覚があって。自分がやっていることが本当にプロジェクトやその先のクライアントさんへ貢献できているのか?という疑問がありました。
そこでできるだけ仲介を挟まずに直接クライアントさんと仕事ができる会社がいいなと思って出会ったのが、FICCでした。FICCでは価値を提供する相手、すなわちクライアントさんと直接仕事をさせてもらっているので、クリエイティブの目的が明確だし、チャレンジしないと達成できない目的ばかり。
しかもFICCはできる人が多いので、常にいい刺激をもらえるんですよね。結果的にFICCで、戦略的な思考方法、全体を俯瞰して見るチカラといった “モノの見方” みたいなものが身につくようになりました。
「クリエイティブは副次的なものではない」マーケティングだけではないFICCのチカラ
今後チャレンジしていきたい目標としては、「指名をもらえるディレクターになる」ということ。クリエイティブディレクターとして「僕と仕事したい」と思ってもらえないと、FICCに貢献できてないなと思っていて。
なぜなら、FICCは「マーケティング戦略」というのが主の商品で、クリエイティブはそれにくっついてくる副次的なもの、とクライアントからは認識されているかもしれない。だけど、それは嫌なんですね。クリエイティブは副次物ではなく、マーケティング戦略とセットの実行力として欠かせないので、そういった意味でのFICCのクリエイティブ力というものを示していきたい。
だから、指名をもらえるために自分自身のブランディングというよりも、「いいものをつくっている」という実感を持てるように、いまはただ頑張る。それだけですね。
そして、いまはチームをマネジメントする立場でもあるんですが、意識しているのは自主性を大切にするということ。メンバーには「個のチカラで突破できるように」と伝えているんです。
みんなが新しいことに挑戦している環境なので、最終的に自分自身が強くないと突破できないんですよ。新しいことをやるって、デザインスキルとかだけでなく、人間力とかも試される環境。チーム一丸となってなにかをやるというよりも、突破できる個人のゆるやかな繋がりとしてのチーム、を目指しています。
そうなると、チームである意味ってあるの?って話なんですけど、「枠があること」が逆に自由に動けたりもするんですよね。まったく何もない状況で自由にやれって言われても、逆に自由にできないじゃないですか。個人で突破しつつも、状況に応じてサポートし合えるのチームっていいな、って思います。
そのためにも、「スペシャリティを持ってほしい」とメンバーにはよく伝えているのですが、同じような人が集団にいたら利がないけども、バラバラのスペシャリティを持った人たちがいることで相乗効果が生まれるし、サポートし合える。
個人のチカラを思いっきり試したい、チャレンジし続けたい人にとって、FICCのクリエイティブチームは非常に良い環境なんじゃないかなと思います。
インタビュー:FICC 林信輔 / 文・写真:永田優介