フェンリルがオオカミについて調査!? こんにちは、ブランディング部プロモーション課で撮影やコーポレートのデザインを担当している川本です。
突然ですが、フェンリルのこのロゴマーク、何をモチーフにしていると思いますか?
すぐわかった!当たり前!という方もいらっしゃるかと思います。
これは右を向いて遠吠えする「オオカミ」をモチーフにしているものです。
「フェンリル」の社名は北欧神話に登場する巨大なオオカミからきています。
この由来は、「オオカミのようにひとりひとりが強く、そして集団行動を大事にする組織でありたい」という想いがこめられています。
フェンリルでは、スタッフが「体験すること」を大切にする風土があります。
体験を重ねることが、他にはないアイディアや、クリエイティブなものを生み出すことにつながっているという考えです。
今回は、フェンリルのモチーフであるオオカミを、根本的に知ることでより深いレベルでのブランディングを行うことが目的です。
オオカミの生態に詳しい専門家からお話を聞き、その体験をブランディングに活かすためフェンリルデザインとブランディング部の数名の有志スタッフが、国内でも数少ないオオカミ研究家のひとり、角田裕志さんにお話を聞かせていただく機会を得ることができました。
いつものフィードとは雰囲気の違う内容になっていますが、興味深いお話をたくさんお聞きすることができたので、ぜひ楽しんでいただきたいです!
角田裕志さんのプロフィール 角田裕志(ツノダ ヒロシ)
専門:動物生態学・保全生物学
日本でのオオカミ研究の第一人者
オオカミってどういう生き物? ー本日はお忙しい中お時間いただきありがとうございます。早速ですが、角田さんは国内では数少ないオオカミの研究をライフワークとして行っておられると聞いています。角田さんの研究内容はどのようなものでしょうか?
国内でオオカミを研究している人間は私を含め、片手で足りる程度だと思います。
というのも、日本にオオカミは生息していないので国内では研究できないんです。私は主にオオカミの生態を研究しています。
大学院ではポーランドでオオカミ研究のプロジェクトに携わり、卒業後は国内の大学の研究員としてブルガリアでオオカミを含む野生動物の研究プロジェクトをはじめました。現在は県の研究機関で勤務の傍ら、自主的な研究として海外調査を継続しています。
専門としては動物生態学・保全生物学です。海外を対象とした研究では、オオカミなどの捕食動物が生態系の中で果たす役割や、オオカミを再導入をした地域での植生や生態系の回復に関する研究を主に行っています。
タイリクオオカミ(ハイイロオオカミ、 Canis lupus )(以下オオカミ)はかつてヒト以外で最も生息分布域の広い哺乳類でした。
旧大陸(ユーラシア大陸)におけるハイイロオオカミ亜種の生息分布
旧大陸(ユーラシア大陸)におけるハイイロオオカミ(Canislupus)亜種の生息分布 (角田裕志(2009)オオカミの進化と世界分布 フォレスト・コールNo.14より):角田さんご提供資料 ーニホンオオカミなんかも絶滅したオオカミの一つですよね。某アニメのイメージなどから山奥にいるイメージがありますね。
そうですね、オオカミは山奥の動物・森林の動物というイメージを持ちがちですが、実際には環境適応能力が高く、様々な環境に生息できる動物なんです。
今でも中欧や東欧では人里にオオカミが生息する地域は数多くあり、集落でオオカミに出くわすこともめずらしくありません。
ニホンオオカミの剥製
角田さんご提供資料
オオカミの生息環境画像:人間との関係図
中・東欧では人里にオオカミが生息することも多い。ポーランドでは生息地内に人間の集落や農地が多数含まれ(左)、集落にオオカミが出てくることも珍しくない(右):角田さんご提供資料 15世紀ごろからヨーロッパでは土地開拓の影響でオオカミの獲物である草食動物が減少し、家畜被害が拡大するようになりました。そのためオオカミは害獣という扱いを受け、人間がオオカミを駆逐し、絶滅させてしまった地域があります。
先ほどご指摘のあったニホンオオカミは、鎖国解除によってかつてはなかった狂犬病やジステンパー、狩猟、餌になる草食動物の減少など様々な要因が影響して絶滅してしまったというのが有力な説です。
オオカミがいなくなり、天敵を失ったシカなどの草食動物が異常に増加し、地域の植物が食べ尽くされたことで森林や植物が衰退し、森林をすみかとする鳥や昆虫などほかの動物にも影響が出ている地域が多くあります。
そうした中、アメリカ合衆国のイエローストーン国立公園では、絶滅したオオカミを再び導入するという思い切った施策で、生態系を以前まで取り戻すことに成功した地域もあります。
シカが増えたことによって起こる問題:森林植生(特に林床植生)に対する影響
シカが立ち上がった際に口の届く高さ(約1.5~2m)よりも背丈の低い植物は強い採食圧によって消失する。:角田さんご提供資料
オオカミ復活後の植生回復
1997年と2001年にイエローストーン国立公園内のソーダ・ビュート川とラマー川の合流点付近で撮影された比較写真。AとBで、見通しの悪い場所などエルクの利用頻度が減った河畔林で顕著なヤナギやヤマナラシの回復が見られる。Ripple, W.J., & R.L. Beschta (2003) Wolf reintroduction, predation risk, and cottonwood recovery in Yellowstone National Park. Forest Ecology and Management vol.184, pp.199-203.
ー思い切った施策ですね!複雑に生態系が絡んでいるんですね。
実際にはオオカミの直接的な効果は、草食動物の捕食とコヨーテへの干渉的競争(攻撃や捕殺)だけなんです。ただ、間接効果によって、直接の関係が少ない
様々な生物・森林植生・河川環境にまで影響が及んでいるんです。
オオカミの再導入によるイエローストーン国立公園の生態系の変化
角田さんご提供資料
ーでもオオカミと共存するのはやはりリスクがありますよね。
野生の餌(主に餌となるシカ類)が生息環境に十分でない場合は深刻な家畜被害があるのは避けられません。しかし、オオカミが人を襲うという可能性は低く、年間でいうと70億人のうち、1〜2人という割合です。大体、サメに襲われて死亡するのと同じくらいのリスクでしょうか。
世界の動物による人間の年間死亡リスク
gatesnotes The blog of Bill Gates 25 Apr 2014
実はオオカミの死亡要因は交通事故が一番多いんです。次いで捕殺や密猟です。先進諸国ではオオカミが安全に暮らせる生息地の確保が大きな課題となります。また、飼い犬との接触による病気も個体減少の要因になるんです。
ドイツで復活したオオカミの死亡要因図
ラウジッツ地方における原因別(左)・年別(右)のオオカミの死亡例数(M. Vessel氏の許可を得て講演資料を基に作成):角田さんご提供資料 オオカミの死亡要因は交通事故が多い。道路網が発達した先進諸国ではオオカミの生息地の確保(道路や都市による分断)が大きな課題となる。また飼い犬との接触による病気(パルヴォウイルス等)も個体減少の要因になりうる。
ーなるほど…オオカミの再導入は難題が多く、かなり条件に適した土地でないと難しいのですね。日本でもオオカミが見られる日はまたくるんでしょうか。
そうですね、やはり生態的な条件はもちろん、オオカミの保護の主流化といった社会的な理解、保護管理技術が揃わないことにははじめられるものではないと思います。
私個人の意見としては、生態系機能回復や生物多様性維持という目的でのオオカミ再導入には賛成です。ただ、これについては科学的な評価と議論をしっかり行うべきだと思っています。
日本固有種であるニホンオオカミは絶滅しているので、再導入するなら近縁種のオオカミを導入することになるかと思いますが、狂犬病の発生等のリスクや生態系に何らかの影響をもたらす可能性は否定できない部分もあります。
また、主にオオカミが主食とするシカの内的増加率はオオカミの捕食率よりも高いのです。
再導入は人里に降りて農作物を荒らすシカやイノシシに効果があるとも考えがちですが、一般的に人里を避ける性質のオオカミでは、効果はそこまで単純ではありません。
また、再導入したからといって、簡単に植生や生態系が完全に元に戻るわけでもないのです。
ただ、成し遂げられないことはないと思っています。私も日本でオオカミを復活させる希望のために日夜研究しています。
角田さんのオオカミに関する深い智見や洞察に、一同目から鱗が落ちまくりでした。
オオカミに関するQA すっかり学生の頃に戻った気分の中、ここからは参加メンバーから角田さんへの質問タイム。
オオカミに関する疑問を伺いました。
Q フェンリルのロゴってオオカミに見えますか?
角田さん
私は見えました(笑)とは言っても私はすでに本日お話させて頂く趣旨を伺っていて、オオカミという前知識があったからかもしれませんが… フェンリル
良かったです、ありがとうございます!(一同一安心)フェンリルのロゴマークはオオカミのシルエットであることをもっと広めたいです。
Q オオカミのシルエットで特徴的な部分はどこでしょうか?
角田さん
基本的に犬と同じで見分けはつきにくいです。シルエットでの違いはほぼありません。なのであえてイラストなどでは遠吠えのポーズで描かれることが多いのかなと。 あえて言うなら、オオカミは胸毛やたてがみがフサフサしているので、そこを強調しているキャラクターが多いような気がします。
Q 国内外の文化で遠吠えに特別な意味はありますか?
角田さん
主にヨーロッパでは不吉のイメージや前兆として扱われていることが多いですね。 時代背景もありますが、グリム童話では悪者であったり、フランスではジェヴォーダンの獣の逸話などがあり、牧畜が盛んだった土地で、家畜を襲うオオカミは、怪物や魔物のような位置付けで忌み嫌われている存在でした。
日本やネイティブアメリカンはアミニズム(自然崇拝)の信仰のせいか、畏怖の念と共に神秘的なイメージから信仰の対象として見られていました。 ニホンオオカミを神格化した、大口真神(おおくちのまがみ、おおぐちまかみ)などはその1つですね。オオカミ(=大神)という言葉はこの言葉から来ていると言われています。 埼玉県にある三峰神社の狛犬(オオカミ)
角田さんご提供資料
Q 国内でオオカミの遠吠えを聞くことはできますか?
角田さん
野生動物は基本とても効率的で無駄なエネルギーは使わない動物です。吠えるのも意味がある時しかしないんです。遠吠えは仲間とのコミュニケーションやコンタクト、縄張りの牽制のために行っていると思われています。なので複数匹のオオカミを用意して辛抱強く待つか、オオカミの鳴き真似をして遠吠えを誘発するとかでしょうか… よく満月に向かって吠えているオオカミのイメージがありますが、不思議なことに満月の夜は本当に鳴く傾向があるんですよ。空気が澄んでいるとか、月明かりで明るいから活動的になるとか、理由はわかっていませんが… 日本なら多摩動物園は飼育頭数が多いのでそこか、旭山動物園でしょうか。海外だとドイツ、ミネソタ州あたりに研究施設があるのでそこ辺りが良さそうですね。 フェンリル
本当に満月の夜は吠えるんですね!!!(一同驚き) 角田さん
余談ですが、救急車のサイレンに反応して遠吠えする犬がよくいますが、イヌ科の遠吠えとサイレンの音の波長はとてもよく似ているのかもしれません。 人間も生物としての歴史の中で獲得した恐怖や危機の感覚で、このサイレンの音は作り出されたのかもしれませんね。
Q なぜオオカミを研究しようと考えたんですか?
角田さん
昔から動物が好きで何かしら動物に関わる仕事をしようとは考えていました。 初めは恐竜を研究する古生物学者やイヌに関係する仕事に興味を持っていましたが、野生で生きている動物に興味を持つようになりました。ちょうどその時、高校生の時ですが、あるオオカミ研究家(その後の恩師)のオオカミ復活に関する新聞記事を読んで、それに衝撃を受けまして。それからオオカミの研究をしようと決めました。
Q オオカミの性格を人に例えると?
角田さん
人間ですか!うーん、あえていうなら、超イクメン、子育てを率先するタイプでしょうか。 オオカミの社会は厳格な階級制で、パックと呼ばれる家族単位で群れを形成します。ゆえに家族の絆が非常に強く、家族で協力して狩り・子育てをすることで知られています。 特に父親は、巣で子育てをしている母親と子供のために毎日何時間も餌を探して巣に持ち帰るんです。また、オオカミは足で狩をする動物で、数頭の群れの仲間とチームワークを駆使して、時速50キロで何時間も走り続けて獲物を追い詰めます。なので「一匹オオカミ」という言葉から孤独なイメージがありますがとんでもない!どっちかというとチームワークを大切にし、コミュニケーション能力が高いんです。 フェンリル
家族を大切にし、仕事ではチームワークとコミュニケーション能力に長けたプロフェッショナル性を発揮する…家族とプロフェッショナル性を大切にしてほしいというフェンリルの社風を理想的に体現していますね。
Q 犬とオオカミの違いとはなんでしょうか?
角田さん
特徴としては歩き方でしょうか。犬は人間の様にバラバラに足を踏み出すので、左右に振れた歩き方をするんです。なので足跡は2本の平行線が付きます。しかしオオカミは足の踏み出しが一直線なので、跡も一直線にしかつかないんです。 また、オオカミはそんなに鳴いたり吠えたりしない動物です。野生動物は意味がない時は鳴かないんです。頻繁に鳴いたら獲物に見つかってしまうというのもあるんですが(笑) 犬がよく鳴いたり吠えたりするのは人間と生活を始めて獲得したものなんです。
Q オオカミの寿命ってどれくらいなんでしょうか?
角田さん
野生のオオカミの寿命は5、6年と言われています。飼育化になると犬とは何ら変わらなくなるので犬と同じくらい生きます。
Q オススメの参考図書はありますか?
オオカミの生態から神話まで、オオカミのすべてが掲載されていると言っても良いボリュームです。これを読めばオオカミのことが大体理解できるかと思います。オオカミのあらゆることが知りたい時の入門書としておすすめです。
オオカミの群れにたった一人で入り、群の一員として認められた男性の話です。群れの成り立ちや、コミュニケーション、愛情など、本当のオオカミに触れられる本です。研究著書ではありませんが、読み物としておすすめです。
オオカミだけでなく、ジャッカルやキツネなど野生のイヌ科についても紹介されています。とにかく写真が美しく、眺めているだけでも充分楽しめます。特に大自然とオオカミの美しい写真は一見の価値があります。
今回お話させていただいた、イエローストーン公園のオオカミの再導入の話が描かれています。オオカミだけでなく、食物連鎖においての捕食者の真の必要性と奥深さを知ることができる本です。 あっと言う間に2時間ほど経過。
オオカミに関する興味深いお話をたくさん聞くことができました。
フェンリルの体験を大切にする文化によって、興味深い経験や体験をしていただける方がどんどん増えています。
ネットで簡単に情報が収集できるこの時代に、遠方まで足を運んだり、本を読んだりして本物の情報を得る事こそ、本当に貴重で大切な体験だと言う事を今回の校外学習で感じることができました。
フェンリルでは、この他にカンファレンスや社外勉強会参加費補助制度など様々な勉強会の参加も後押ししています。
最後になりますが、今回オオカミに関する貴重なお話をしていただいた角田さん、本当にありがとうございました!