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【ユーグレナプロジェクト】誰もなし得ていない、ミドリムシの屋外大量培養技術を確立せよ。

技術を確立せずに起業

一ヶ月で、わずか耳かき一杯分。
ユーグレナ社を創業した出雲は悩んでいた。2005年の夏時点で、ミドリムシを培養できる量はこれが限界だった。食物連鎖の最下層に位置するミドリムシは、その栄養価の高さゆえに、バクテリアやプランクトン、昆虫などにとってもごちそうとなる。どんなにクリーンな環境で培養しても、外部から他の微生物がわずかでも侵入すれば、たちまち食い尽くされてしまう。これまで、世界中のどんな研究者もこの壁を乗り越えることはできていない。
「どうしたらミドリムシだけを大量に増やすことができるだろうか」

耳かき一杯分に一ヶ月かかっていては、事業化はとうてい不可能である。しかし、出雲は必ず成功させるという覚悟でユーグレナ社を立ち上げた。そう、培養技術が完成したから会社を作ったのではない。絶対に大量培養を成し遂げようと自分たちを追い込むために、会社を作ったのだ。もちろん、一か八かの大きな賭けだった。

                  ※顕微鏡で見るユーグレナ

この出雲の決心が、ミドリムシ研究の権威である大阪府立大学の中野長久先生を動かした。「若い二人に力を貸してやってくれないか」と日本中の先生方に声をかけてくれたのだ。そのおかげで出雲と鈴木は先行する先生方のデータを基に研究を進めた。


発想の転換

「どんなにクリーンな環境を作ろうとしても、微生物や異物の混入をゼロにするには莫大なコストがかかる。だが、そんな無菌状態でしか繁殖できないなら、ミドリムシはとっくに絶滅しているはずだ。ひょっとして自然界には、ミドリムシだけが繁殖できるような環境があるのではないか……?」

そう考えた出雲は、実際の研究を手がける取締役の鈴木とともに、ある発想の転換をした。「異物を混入させないクリーンな環境」を作るのではなく、「ミドリムシしか生きられないような培養環境」を目指す方向に切り替えたのだ。

たとえば、蚊の侵入を防ぐには蚊帳を二重三重にすればいいが、人が出入りするときに必ず隙間はできる。ひとたび中に蚊が入ってしまえば、血は吸われ放題だ。しかし、蚊取り線香はどうだろう。オープンな環境なので近付こうと思えばいくらでも近付けるが、煙を嫌がって蚊は逃げていき、血を吸われずに済む。つまり、「入れるけれども、ミドリムシ以外は嫌がって近寄れない培養環境」を作ればよい。

そして、2005年12月16日。会議室で今後の会社の運営を話し合う出雲のもとへ、石垣島の鈴木から電話があった。


左から時計回り 鈴木、恩師の中野先生、出雲

「出雲さん、やりましたよ! プールがミドリムシでいっぱいになりました」
「本当か!」
「ええ、今も順調に増え続けています。培養成功といって間違いありません。これから“収穫”します!」
“いつかは成功できる”と思っていたが、“いつまでにできる”か確信はなかった。鈴木からの知らせを受けて出雲は天にも昇る思いだった。

このとき穫れたミドリムシは、乾燥した状態で66キログラム。これまでグラム単位でしか培養できなかったミドリムシに、事業化の道が開けた瞬間だった。大量培養の研究を始めて3年後、会社の設立から4ヶ月後のできごとである。(なお2017年 4月現在では、年間で最大160トンの生産能力を持つまでになっている)。

ミドリムシの培養成功は、大阪府立大の中野先生をはじめ、ご協力下さった先生方のお力無くしては到底実現できないことだった。まさしく、日本中の研究者が総力を上げて何十年も続けてきた研究のバトンを最終ランナーとして出雲と鈴木は受け取り、培養というゴールテープを切る栄光を与えてもらったのだ。

euglena Data

~ミドリムシに含まれる栄養素について~



登場人物

代表取締役 社長 出雲 充


「中野先生をはじめとするミドリムシを研究されてきた先生方のおかげです。嬉しいという気持ちはもちろん、成功させることができてホッとした気持ちも大きかったです。」

取締役 研究開発担当 鈴木 健吾


「今まで研究されてきた皆様の知恵とアイデアを結集させることで、新しい素材を提供できる体制が整ったことが嬉しかったです。今後さらに、より良い商品・サービスを提供できる研究開発に邁進していきたいと思います。」

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