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そろそろ本気でジェンダーの話をしよう。IT分野のジェンダーギャップに取り組む2人と、あるスタートアップの取り組み。

IT分野のジェンダーギャップを解消することをミッションとする一般社団法人Waffleと、初期から活動を支援してきたEDOCODE株式会社。今回はWaffle代表の田中沙弥果さん・斎藤明日美さんと、EDOCODE代表の田村鷹正に、本気でジェンダーについて語ってもらいました。非営利法人代表とスタートアップ経営者という視点の違いと、月に一度は話すという信頼感から生まれる本音トークに注目です!
(聞き手:EDOCODE 山田響)


まず、Waffleさんが取り組む問題からスタートしましょうか。一言でいうと、どんなことを目指しているんですか?

田中:
一言でいうとすれば、「IT分野のジェンダーギャップを解消するための、教育とエンパワーメント」です。

田村:
”エンパワーメント“ってちょっとわかりにくい言葉ですね。

田中:
確かにそうですね。日本語にするとなんだろう、元気にする、パワーを持たせる、潜在能力を引き出すこと…。でもやっぱりエンパワーメントがしっくりくるよね?

斎藤:
他には、“Unlock the Potential”(アンロックザポテンシャル)って言い方もしています。教育に加えて、マインドセットが大事なんです。その可能性に対しての様々なツールがあり、そこに自分もアクセス出来るというマインドセットです。

田村:
なるほど。ところで、なんでITなんですか?

斎藤:
ITって体力が直接的に関係する分野でもないので、本来は女性も入ってきやすい職種のはずなんです。賃金も比較的高く、将来性もあるのに、男女比が偏っているのは不思議ですよね。

田中:
男性が多い職場というイメージ、社会的な固定観念や女性の自信の低さ、またメンターシップやサポートの少なさも影響していると思います。

今一番課題だと考えているのは、女子中高生の進路選択にITが入っていないことです。ITやプログラミングのイメージがあまり良くないことと、生徒が主体性を持った選択ができていないことが問題です。つまり生徒がやりたいと思っても、親や教師と意見が違う時にそちらに従ってしまうんです。

今のままでは、理系において女子が半分を占めるようになるのは、117年後になるというデータもあります。そのスピードをあげるために、さまざまな啓発活動をしています。

一方、田村さんはジェンダーについてどう考えてきたのでしょう?

田村:
僕は昔ながらの家庭に育ったこともあり、もともとは、「女性はこういうもの」という感覚があった方だと思います。俺は男だからなんとかしなきゃと思っていました。

田中:
意外!そこからどうしてWaffleを応援していただけることになったのか、すごく気になります。自分のジェンダーマインドに気づいたのはいつですか?

田村:
新卒で会社に入って営業をやっていたときに、同期の女性に負けることを経験したんです。そのとき、最初は「女の子の方がアポが取りやすいから」と思ってたんですけど、だんだん「あれ、男女の差じゃなくて本当に負けているぞ」と気づいて。

でも周囲を見ると、会社には女性のマネジメント層は少ないし、不思議だなと思いました。

斎藤:
典型的な“ガラスの天井”ですね。そこで課題だと思ったんですか?

田村:
いや、実際はそこまででもなかったと思います。会社勤めを辞めて、経営を本格的にやりだして、それから最近の働き方改革があって。自分の中で働くことの意味が変わってきたのが大きいのかな。

昔は、「働く=時間を提供すること」と思っていたんですが、それだとどうしても出産がある女性は不利になるんですよね。でも、時間に関わりなく成果を出すことの大事さがわかってきたときに、子育てなどで働く時間に限りがある女性が工夫しながらやっているのを見て、学ぶべきことがあると思ったんです。

でもいきなり変わったわけじゃないですよ。徐々に、少しずつ、です。

今EDOCODEは、ちょうど社員の男女比率が半々に近いですね(註: 2021年3月現在、男性11人(57.8%) / 女性8人(42.1%))。性別もだけど、年齢もほとんど気にしなくなったなあ。社員の歳も把握してないかも(笑)。

斎藤:
真面目に仕事に向き合うと、建前としての男女平等ではなく、そういうジェンダー格差のない状態に行き着くのではと思います。格差がないほうが合理的ですから。

そうすると、どうしていまだにジェンダーギャップが存在するんでしょうか?

斎藤:
原因は本当に複雑ですが、文化的歴史的にラベルがあったことが、その集団に意識として残っているというのは大きいです。たとえば参政権がない女性がいた集団、総合職で女性は取らない集団には、どこかにその意識が残ってしまうんです。

EDOCODEはスタートアップでゼロから始まっているから、合理的に考えたら区別する必要がなかった、そして結果として男女半々になったんだと思います。でも既にラベルがあるところから変化させていくには、やっぱり意識的な合意が必要です。たとえば男女比を50:50にしようといったような数の目標は分かりやすいから効果的なんです。

田村:
なるほど。でもそうすると、会社の効率をあげる話としてではなく、会社の義務という感じになりませんか?

斎藤:
ジェンダーギャップは、人権の問題ですから。でも、資本主義社会のなかでは、やはりプロダクティビティ(生産性)の話は無視できないですよね。

田村:
そうですね。実際半々にすることが義務化されたら、規模がそんなに大きくない会社は厳しいと思います。だけど、プロダクティビティとして効果的なんだとなれば、会社としても取り入れやすいかなと思います。

企業の話がでましたが、なぜEDOCODEはWaffleへ支援を始めたんでしょう?

田村:
EDOCODEは世の中の課題を解決していきたいというミッションがあります。そのためには、多様な意見が必要なんです。つまり、多様性を確保することを目的にしていたのではなく、いいプロダクトを作るためには属性が偏らない方がいいと考えて、そういう採用を行ってきました。

その結果として、僕は自信を持ってその方が良いよと今は言うことができます。でも日本全体での問題としては根深いんだろうなとも思っていました。そんなとき、Waffleという本気でジェンダーギャップに取り組んでいる団体に出会ったので、支援することにしました。ナチュラルな共感があったんです。

田中:
Waffleがビジョンとミッションを作っただけの初期の段階で、支援を決めていただいて。今考えるとありがたい反面、不思議でもあります。

田村:
最初お会いしたときに、課題について細かく調べられていて、この人たちは本気でやる気なんだ、と感じました。当時は人数も少なくお金もなかったのに困っている感じが全くなくて、この巨大なハードルを目の前にしても不安を感じている様子が全くありませんでした。それと、自分たちも大きい会社じゃないので大きなお金は支援できないけど、それでも助けになる支援すべきタイミングだと思ったのも大きいです。

斎藤:
その後はZoomで毎月定例会をしているんですが、本当にいろんな話で盛り上がっています。私たちは、いつも田村さんをピュアに信頼できる方だと感じています。世の中の課題がなくなればEDOCODEはいらないという言葉が田村さんから飛び出したり、そういう視点は私たちNPOと同じですね。

お二人は、Waffleをスタートさせた時に不安がなかったんですか?

田中:
そもそもハードルだと思ってないかもしれないです(笑)。

田村:
心強いですね!そもそもジェンダーに関する課題を感じたきっかけはなんだったんですか?

田中:
前職では、全国の学校現場向けにプログラミング教育の推進をしていたんですが、小学生段階ではプログラミングへの興味に性差がないのに、その後のプログラミングコンテストの参加者は年齢が進むにつれ男性ばかりになっていく。単純に変だな?と思っていました。そしてそれは日本だけの問題ではないと知って、いつか何かしないとと思っていました。

田村:
それはいつごろの話?

田中:
2017年の1月頃です。その後、2019年にFemtechが盛り上がっていたタイミングで、IT業界でのジェンダーギャップについても誰かが発信しないとと思ったんです。それをTwitterで出会った斎藤と話し始めたところから、Waffleが始まりました。

斎藤:
私はデータサイエンティストとしてIT企業に勤めていたのですが、同じく女性が少ないことに課題を感じていました。その後スタートアップに転職し、自分も採用面接に携わるようになってから、女性の応募が全然なくて、そもそも市場にいないんだということに気づきました。大学でも理系の女子は少ないですよね、そこから続く問題だったんです。

田村:
なるほど。その後は2020年に「ジャパンSDGsアワード」を受賞されるなど、勢いがすごいですね。時代を読む勘があるのかな。

斎藤:
田中は直感力があるんです。そして理想主義者でもある。逆に私はロジック型だからバランスが取れているんじゃないでしょうか。得意不得意があって、楽しくやれるから、NPOはCo-Founder型がおすすめかもしれません(笑)。

田村:
それは起業にも共通するかもしれないですね(笑)。

最後に、これからどうジェンダーギャップを解決していきましょう?!

斎藤:
ジェンダーギャップの話は複雑で、IT分野においての話だけでも、理系技術者や理系大学進学者数など数の男女格差、当該産業で働く男女の賃金の格差、そして10代のIT分野への関心における男女差など、一つ掘り出すといろいろな問題が出てきます。だから私たちが今やるべきことにフォーカスすることにしています。

昨年から行っている「Technovation Girls」というアプリコンテストの実施などは、「プログラマーはこうでなくてはならない」「女の子は理系科目は苦手」といったステレオタイプを取り除くための啓発活動ですが、それ以外では、今年は政策提言を積極的に実施していきたいと思っています。先ほどお話ししたように、女子中高生の進路選択は本人の意思だけでなく構造的な話も絡んでくるので。

田中:
女子中高生の話を聞くと、意思決定に先生の影響が結構ありそうということがわかってきたんです。なのでその実態調査もやりたいと思っています。生徒への啓発だけでなく、その周囲へも働きかけることができれば。

田村:
僕は今回お二人とお話しながら気づいたことがあって。それは、僕自身がジェンダーギャップという課題に気付けたのには、”会社”が重要なファクターだったんだ、ということです。それぞれの家庭にはその家独自の”当たり前”があるから、そこにもしジェンダーギャップがあったとしても、なかなかそれに自分では気づけないですよね。じゃあビジネスパーソンがジェンダーギャップを日常的に意識できる場所ってどこかというと、家庭のようにアクセスする頻度が高いけれど、家庭の当たり前が通用しない外のコミュニティである会社なんじゃないかなと思いました。

ジェンダーの問題というと、誰かの失言といったセンセーショナルなニュースが話題になることが多いけれど、本来はもっと身近で日常的なことだと思うんです。だからこそ、そういうニュースを糾弾するより、会社で「いろんな属性の人の意見聞きたいよね〜」という会話を日常的にすることのほうが、実は効果的なんじゃないかな、と。

経営者として会社の中で多様性に向き合っていくことが、実は社会的にもジェンダーギャップを解決していく重要なファクターになり得るんだと考えると、少し嬉しくなりました。

斎藤:
企業におけるジェンダーギャップを解消するためには、やはりりトップダウンからの働きかけが効果的だと思っています。経営者がジェンダーについて向き合うのは非常に大事。女性のIT人材を受け入れる需要が整えば、教育という供給側にも良い影響を及ぼすと思います。

田村:
今日はいろいろなお話できて楽しかったです。また来月もお話ししましょう!

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