SaaS製品であるグループウェアを提供するサイボウズでは、2020年にカスタマーサクセス部を立ち上げ、顧客サポート体制の強化を進めています。世の中全体を見てもまだまだ新しい領域だと目されているカスタマーサクセス。その企画業務を担うのが、今回の記事で紹介する寺田翔一さんです。
寺田さんは新卒で大手通信会社に入社し、営業企画や商品企画を経験してサイボウズに転職しました。現在の仕事のやりがいは「ものを売ることではなく、製品を通じた顧客の成功を純粋に追求できること」だと話します。
「営業」でも「商品」でもなく「カスタマーサクセス」を企画するという仕事。その現場で感じる面白みや、転職によって得た手応えについて語ってもらいました。
(話を聞いた人)
寺田 翔一(てらだ・しょういち)さん
カスタマー本部 カスタマーサクセス部
1986年愛媛県松山市生まれ。2009年に大手通信会社へ新卒入社し、情報機器やサポートサービスの商品戦略などを担当。2020年にはカスタマーサクセス組織の立ち上げを経験する。2021年1月にサイボウズへ入社し、サイボウズOfficeのカスタマーサクセス戦略立案やデータ分析などに従事。
まずサイボウズのプロダクトに興味を持ち、働き方にも惹かれた
——寺田さんが前職の大手通信会社で担当していた業務について教えてください。
高知県の家電量販店でインターネット回線契約の販促活動を行うルートセールスからスタートしました。ジョブローテーションで全国転勤を繰り返しながら営業企画や商品開発などに従事し、転職前の最後の1年には、BtoBのサブスクリプションサービスを担当し、サービス導入後の活用支援を行うカスタマーサクセスチームの立ち上げを経験しました。
これは、私が「カスタマーサクセス」という言葉を初めて知ったタイミングでもありました。それまでは電話回線やインターネット回線など、比較的長期利用を前提としたインフラ事業に携わっていたからです。SaaSの世界では、導入後の顧客体験次第では簡単に離脱されてしまうことも、必須の存在になることもある。「こんなにシビアで魅力的な世界があるんだ」と知って、カスタマーサクセスの世界に関心を持つようになりました。
——サイボウズに興味を持ったきっかけは?
サイボウズが開催する大規模イベント「サイボウズDays」に足を運んだことです。
大阪会場の kintone ブースで、営業の方に製品デモを行ってもらいました。ほんの数分のドラッグ&ドロップだけで営業日報アプリができあがるんです。当時、社内のシステム改修業務に携っていて、ベンダーとの要件整理から実装準備の調整に膨大な時間がかかって苦労していた私は、アジャイルを地で行くような kintone に感動しました。会社に戻ってからは上司に「うちでも kintone を商材として扱いたい」と直訴したほど。まずはプロダクトからサイボウズへの興味を深めていったんですよね。
kintone に出会って数か月後に世の中はコロナ禍に突入。緊急事態宣言下で初めて経験したリモートワーク生活では、自身の仕事観や理想のライフスタイルについて深く見つめ直すようになりました。
そんな中、サイボウズが取り上げられたテレビ番組『カンブリア宮殿』を見て青野さん(サイボウズ代表取締役社長:青野慶久)の考え方に惹かれました。青野さんの著書や『サイボウズ式』の記事を読み進める中で、サイボウズの考え方と自身の理想がマッチしている部分が大きいことに気付いたんです。
行動レベルでの細かい指示なし。「自立」を重視した仕事の進め方
——どのような点がマッチしていると感じましたか?
社内で組織を超えて情報共有することの重要性です。前職では、社内の情報共有は必要最小限に留めるのが暗黙の了解でした。重要な情報の多くは各部署でアクセス制限をかけたファイルサーバーや個人メールの中にあるので、部署を超えた情報共有や、よりよいアイデアの創出はなかなか生まれません。
このような環境だったので、当時は他部署の情報をキャッチして上司に報告することも若手社員の大事な役割でした。
数年前に流行した銀行ドラマのように、同期入社の繋がりをフル活用して情報を入手したり、事前に根回しをしたりといった、いわゆる「大企業のサラリーマン」としてのスキルは磨かれていきましたが、それが社外で通用するスキルなのかはいつも不安に感じていました。
——その不安を、サイボウズではどのように解消できると感じましたか?
成長という点で私が特に惹かれたのは、サイボウズが「自立」を重視していることです。全員が「チームワークあふれる社会を創る」という理想の実現を目指し、そのために一人ひとりが自立して考え、行動する。会社は社員を信じて、性善説の立場で制度や施策を作って後押しをしてくれると感じました。
一般的な会社制度は、平等性や公平性を過度に重視したルールや、不正対策のために存在するルールが多いのかもしれません。でもサイボウズでは「社員は最高のパフォーマンスを発揮してくれるはずだから、支給するPCは好みのものを選べるようにしよう」といった考え方で、社員に選択の余地があるケースが多いんですよね。
とはいえ、それは単に人に優しいだけの世界ではないとも思いました。自分で考えてアクションしないと仕事も評価も付いてこない。自分の市場価値を高めるにはどうすればいいか、一人ひとりが考えないといけない。自身にとって最高の環境を自ら選択し、会社が提供してくれているのなら、うまくいかなくても言い訳はできません。
こうした風土を肌で感じるようになったのは、サイボウズへ転職して2〜3カ月が経った頃でしょうか。研修が終わって本配属になっても、上司から事細かにタスクを指示されるわけではなかったんです。与えられたのは「サイボウズ Office(※2)のカスタマーサクセスチームを立ち上げてください」というお題だけでした。
※2 情報共有やコミュニケーションのための機能を備えた、中堅・中小企業向けグループウェア
それからは社内で使っている kintone を検索して、ひたすら情報をインプットしていきました。サイボウズ Officeに関わっている他部署の人はどんな動きをしているのか、何を考えているのか。分からないことがあれば直接メンションして話を聞きました。
——前職では指揮系統が明確で、細かな指示も多かったと思います。そうした職場からサイボウズへ移ってきて、戸惑いはありませんでしたか?
たしかに前職では自分が取るべきアクションについて細かく指示を受け、都度報告をすることが多かったですね。それと比べればサイボウズは驚くほど行動レベルでの指示がありません。最初は「何から始めればいいんだろう?」という不安もありましたが、前職までの仕事のやり方をすべて捨てて、サイボウズの人の真似をしていきました。
それが、必要な情報を自分で取りに行き、話を聞きたい人に自分からアプローチするというアクションだったんです。他部署の知らない人や経営陣に若手社員がいきなりメンションするのも当たり前。最初こそ緊張しましたが、すぐに慣れてしまいました。
顧客と向き合い、結果を検証できる企画業務
——寺田さんが現在担当している「カスタマーサクセスの企画業務」とは、どんな仕事なのでしょうか。
戦略検討から具体的な施策の企画、データ活用、メンバーの育成や委託先マネジメントなど、顧客支援を除くカスタマーサクセス業務全般を担当しています。
その中でも最も重要な仕事だと認識しているのが、既存ユーザーの行動データを分析・抽出して全体戦略を考えること。その中で得られた気付きや生まれた施策を社内で利用する kintone アプリに実装して、顧客支援をするメンバーを支援しています。
カスタマーサクセスにおける戦略や企画というと難しく感じるかもしれませんし、カスタマーサクセス自体、新しい領域の仕事のイメージがあるかもしれません。しかし根本にあるのは「売る前だけでなく、売った後にもどれだけ顧客に価値提供し続けられるか」という考え方であり、昔からずっと日本企業が大切にしてきたことだと思うんです。
たとえば経営の神様といわれる松下幸之助さんは「売る前のお世辞より売った後の奉仕、これこそ永久の客を作る」という言葉を残しています。まさにカスタマーサクセスの理想を表現していますよね。
——前職で担当してきた営業企画や商品企画と比べて、どんな違いを感じますか? またどんなところが魅力だと思いますか?
前職の営業企画や商品企画では「ものを売ること」が目標でした。どれだけ多く売れるか、どこまで粗利を確保できるかといったことばかり考えていたと思います。対してカスタマーサクセスでは、「顧客がどれだけ満足して使ってくれているか」を追求していきます。顧客のサクセスが先にあって、その先に自分たちのビジネスの成功があるんです。結果としてめざすゴールは同じでも、向き合い方が違うんですよね。
また、圧倒的にデータ活用の可能性を感じられることもカスタマーサクセスの面白さだと思います。営業企画や商品企画の成果は、最終的には現場の営業の勘と経験で決まる部分がありました。でもカスタマーサクセスでは、「こちらのアクションがお客様のリアクションにどう影響したか」という結果がデータで跳ね返ってきます。きっちり顧客と向き合い、結果を検証できる企画業務なんです。
転職前のキャリアを「ずらす」だけでも新たな価値を生み出せる
——サイボウズへ転職してから約1年半が経過しました。寺田さんは自身の変化をどのように感じていますか?
シンプルに、できることが増えたと感じています。
前職では分業制で社内外の多くの人とプロジェクトを進めることが多く、各工程は外部に任せて自分自身は全体の状況を整理する役割を担うことが多かったんです。一方でサイボウズではさまざまな業務に自分自身で挑むことができ、その過程でどんどんスキルが身についていく実感があります。自分でSQLを勉強してデータを取り出したり、得られた気付きを施策に落とし込んで検証したり。サイボウズでの仕事はこれまでに感じたことがない手応えがあります。
自分でやってみるからこそ得られる学びや適性への気付きが新たなモチベーションになっています。
また、数名で立ち上げたサイボウズ Officeカスタマーサクセスチームは1年半で約10名規模に拡大し、徐々にチームとしてできることが増えていく喜びを感じています。
「チームワークあふれる社会を創る」というパーパスを掲げるサイボウズで、独自のメソッドを学びながら実際にチーム運営に携われることも、サイボウズでキャリアを積む大きな魅力ですね。
——環境を変えることで自分自身の強みに気づくこともあるのですね。
そうですね。キャリア形成に関する本などを読むと、よく「スキルとスキルを掛け合わせることで価値が生まれる」と書いてありますが、私は「身に付けたスキルを持ってキャリアをずらす」という観点もあるのではないかと思っています。
たとえば営業企画をやっていた私は、転職先で同じ営業企画ではなくカスタマーサクセスの企画を担当することで、カスタマー本部に長年在籍しているメンバーとは異なる視点で物事を考えたり、気付きを得たりすることがありました。カスタマーサクセス職は「営業-コンサル-サポート」の3要素が必要なスキルセットと言われます。サイボウズのカスタマーサクセスチームは比較的サポート寄りのスキルを持ったメンバーが多いので、これまでのキャリアで営業やコンサルを中心に経験してきた自身が身を置くことで、チーム力をバランスよく向上することに貢献できていると思います。
このように、すでに持っているスキルも、地点をちょっとずらすだけで新しい価値につながるのではないでしょうか。
私の場合もう一つ発見したことがありました。冒頭でお話した、いわゆる「大企業のサラリーマン」としてのスキル。本当に意外でしたが、社内調整力や他部署との関係構築力といった大企業で揉まれて得られた経験は、サイボウズの組織の中でも生かせていると感じるんです。
特に他部署のメンバーとコミュニケーションを図る際には、前職での経験が役立っています。カスタマーサクセス部は社内では比較的新しい部署なので、積極的に他部署へ働きかけていくことも大切。開発部門のプロジェクト・マネジャーなどのキーマンと会話して、カスタマーサクセスの取り組みを知ってもらうことも私の大切な仕事ですから。
サイボウズには、まだまだ「連携の伸びしろ」がある
——今後、寺田さんはどんなことに取り組みたいと考えていますか?
カスタマーサクセスとしては、これまでに顧客の製品活用度や浸透度などを分かりやすく可視化した「ヘルススコア」を設計し、データに基づいた能動的なカスタマーサクセス活動を推進してきました。今後はこれらのデータをカスタマー本部全体で有効活用できるようにしたいと考えています。
というのも、情報共有を大切にしているサイボウズとはいえ、部署間で知見を生かし合うことにはまだまだ課題があると思っているんです。
社内のグループウェアを検索すれば必要な情報をほとんど見つけられる環境ですが、一方で情報量が膨大になるにつれて、人は自分の範囲内の情報に集中して目を向けるようになるので、ただ同じグループウェア上に情報共有するだけでは連携が生まれにくいと感じています。また、サイボウズには強制的な部署異動がないので、異動が頻繁な大企業と比べて社内での人材の流動性が低い面もあるかもしれません。
各部署が真剣に顧客のことを考え、動いているわけですから、連携を強化する仕掛けを作ることでさらなる伸びしろが見つかるはず。そのためには今よりもっと人とデータとアイデアを繋げていくべきだと思います。今はこの課題に対する本部横断プロジェクトが動き出していて、外部の新しい視点を生かせるチャンスも広がっています。
だからこそ、いろいろな業界出身のいろいろな知見を持つ人に仲間に加わってほしいですね。
【編集後記】
こんにちは。カスタマーサクセス部の山路です。
記事を読んでいただきありがとうございます。
転職を考えた時や新しい挑戦をするとき、「今の仕事の経験は転職したら活かせるのかな?」「自分のスキルは他社では評価されないんじゃないかな?」と不安になる方もいらっしゃると思います。
今回の寺田さんのインタビューでは、サイボウズに入社後、思いもよらず過去の経験が今の業務に生かされた例を織り交ぜながらお話しをいただきました。
サイボウズのカスタマーサクセス部は、メンバーを増やし変化を続けているチームの為、様々なご経験を活かしていただけるチャンスがあります。この記事を読んでぜひやってみたい!という方からのご応募をお待ちしております!
尚、カスタマーサクセス部の採用イベントも随時開催していますので、気になる!という方は当社イベントページもチェックしてみてください。
企画:サイボウズキャリア採用チーム / 撮影:佐野 嘉紀 / 取材・執筆:多田伸介