幸せとは、ビジネスを成功させるための隠し味。社員が幸せな会社は無敵だ。
リチャード・ブランソン
経営者や管理職としてのキャリアのなかで、社員や部下の個人的な幸せについてあまり考えたことはありますか? 恐らくほとんどの方が“考えたことがない”と回答されると思います。経営者や管理職を含め、働く私たちは皆、幸せになりたいと思っているのではないでしょうか? ここでは、働く人が「幸せになる」ために会社としてできることは何かを考えていきましょう。
社員の個人的な幸せは、ビジネスのボトムラインとどう関係するのか?
人事部がこの問題に取り組んだ場合、従業員の離職率や欠勤率、健康保険の請求など、定量化しやすい指標に注目します。これらは社員の健康や幸福の問題に直接結びつけることができます。しかし、ビジネスを成長させるために社員が本当に「幸せ」であるかどうかを見極めるのは、仕事の優先順位としては低く、自分の役割ではないように感じることもあるでしょう。
しかし、海外で進んでいる幸福学に関する最近の研究では、社員の全体的な幸福度は財務の健全性に直接的な関連があることが実証されています。2016年のギャラップ社の調査によると、幸せで意欲的な社員は、会社の生産性を21%も向上させるという結果がでました。 さらに、マーティン・セリグマン博士の研究によると、幸せな従業員は売上を37%増加させることができます。別のギャラップ社の調査では、幸せでエンゲージメントの高い社員が多い会社の離職率は低くなり、12か月以内に転職する可能性が59%低いことが示されています。
世界各地にオフィスを構え、グローバルにビジネスを展開する企業にとって、社員が意欲的に働き、意味のある仕事をしているかどうかを把握することは、ますます重要になってきています。 さらに、COVID-19の流行に伴う社員の健康や安全、ウェルネスへの懸念、そして多くの企業が実施している「テレワーク」や「在宅勤務」などが加わることで、経営者や人事担当者にとって社員の管理はさらに複雑なものとなりました。
カルチャリアでは、複数の国にオフィスや子会社を持つようなグローバル企業に関わってきました。そのため、多言語環境だけでなく時差や文化の異なるなかで、社員の幸せを定義し、測定することは非常に困難であると認識しています。ニューヨークの社員が思う幸せと、東京の社員が思う幸せは違うはずですよね?
社員幸福度の定義とは。
今から30年以上も前ですが、当時の人事部は「社員満足度調査」をよく行っていました。 しかし何週間も何か月もかけて、大量の紙を使って行われたこの調査では、職場以外で社員の幸せに影響を与える可能性のある要因を測定することができませんでした。なぜなら、多くの人事担当者は仕事以外のプライベートな部分は詮索しない方が良いと考え、意図的に行われたものだったからです。
人事部が従業員の「満足度」を測るために実施する調査は有効かもしれません。しかし、満足している社員が必ずしも幸せでエンゲージメントが高いとは限りません。 満足している社員は、朝9時に出社し、自分の仕事をこなし、夕方5時には退社しています。彼らは、予定された時間にオフィスやテレワークにいるなど、物理的に自分を会社に貸していると考えているのです。そして積極的に会社を支援したりはしませんが、ソーシャルメディアや友人に会社の悪口を言うような妨害もしません。
約25年前に人事部へ配属されたとき、単に「社員満足度」を測定するだけではなく、「社員エンゲージメント」の全体像を完全に把握しようという試みがありました。これらの調査は、職場と仕事以外の人との間の点と点を結びつけようという目的で行われていました。しかし人事部が調査を促進するために素早く動き、有益な洞察を導き出すためのデータ駆動型の分析ツールは当時ありませんでした。
社員エンゲージメントとは、オフィスにダーツボードやビリヤード台を設置したり、無料のお菓子コーナーを設けることではありません。 また社員に「アソシエイト」や「チームメンバー」と少し意識の高そうな肩書を付けることでもありません。しかし残念なことにあまりにも多くの管理職が、上記のような方法で社員から100%の力を引き出すことができると考えているのです。
職場での満足度を引き上げてくれるのは、エンゲージメントの高い社員。
エンゲージメントの高い社員は、しっかりと自分の仕事をこなし、時には頼まれ事にも嫌な顔をせず対応するでしょう。そして良い仕事をしようと最善を尽くし、会社のミッションに賛同し、積極的に期待に応えようとするかもしれません。また彼らは友人に「働きがいのある会社」として推薦するかもしれません。
そしてエンゲージメントの高い社員ほど、ビジネスの成功に直接影響を与えるようなプロジェクトや課題に自ら進んで関わり積極的に取り組んでくれます。そして職場での満足度を次のレベルに引き上げてくれるのです。
2000年代に入ってから、人事は「ヒューマン・キャピタル・マネジメント」と呼ばれるようになりました。ヒューマンキャピタルとは、「明確なミッション、ビジョン、バリューを持った強力な企業文化を構築する」ことです。 この取り組みでは、企業価値を構成する無形資産、例えば「頭脳力」や「知的資本」など、通常のバランスシートには現れないものに焦点を当てます。 またヒューマンキャピタルでは、エンゲージメント調査や幸福度調査、「パルスサーベイ」などのテクノロジーを利用して、データポイントを定義、測定、分析し、インサイトとアクションポイントを導き出します。
経営陣や人事部による、満足度や社員エンゲージメントを向上させるための努力は重要です。しかし、このような取り組みは、それ自体が一時的なものになってしまう可能性があります。なぜなら満足度調査やエンゲージメント調査を、年間スケジュールに書き込まれている“イベント”のように捉えているリーダーや人事部があまりにも多いからです。 そのため、社員に提供している環境によって、社員が最高のパフォーマンスをしてくれることを保証するために、企業側がより深くより意味のある努力をしないと、逆効果になることがあります。
社員の幸せは成功へのパスポート。
社員満足度が「体」であり、社員エンゲージメントが「心」であるとすれば、社員の幸せは心と魂です。 簡単に言えば、社員の幸せとは、社員が会社に対して行う「感情的な投資」のことです。
社員の幸せは、純粋に物理的なもの(満足度)でも知的なもの(エンゲージメント)でもありません。 人間は社会的な生き物であり、COVID-19が流行して籠もりがちな生活が続くほど、人とのつながりを求めています。 これまでに出会った最高に幸せな社員たちは、会社のミッションや価値観に賛同し、志を同じくする他のメンバーと一緒に働き、そして誰もが一人ではできないようなことを一緒に成し遂げる人たちでした。
幸せな社員は、肉体的、知的、感情的な要素を組み合わせた「流れ」の中にいます。社員が幸せそうにしているのを見ると、自分にも周りの人にも、その「流れ」がはっきりとわかるのです。
社員の幸福とは何かを定義し、それを測定、従業員の幸福度を一貫して向上させるための努力を推進できる企業、それが世界的に成功する企業なのです。 冒頭のリチャード・ブランソンの言葉を借りれば、このような企業こそが「無敵」となるのです。
いかがだったでしょうか。
ネクストノーマル時代になり、社員だけでなく経営者や管理者も含めて働く人々の幸せを担保することが、ビジネスで成功する大きなポイントとなります。これを機に、自社の状況を振り返ってみるのはいかがでしょうか。中には「社員の幸せの追求といってもいまいちピンとこない」という方もいらっしゃるはず。そんな方は、弊社セミナーや資料も合わせてご覧ください。