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振り返るな!過去は返ってこない!~ビジネスとサンクコストバイアス~ 青年COOの仕事術ブログ②

あなたは5年間付き合った彼氏(彼女)と別れることを考えています。もう、うまくいかないのは分かっている。来る日も来る日もすれ違い、会うと喧嘩ばかり。もう、耐えられない!だけど、ここで別れたら今までの5年間は何だったんだろう!どうすればいいの!!??

こんなことを経験したことのある人はいないでしょうか?こんな時、どのように考えて、どのような意思決定をすればいいのでしょう?

ビジネスでも同じような状況はないでしょうか?5年前、有望だと思われる新規プロジェクトに投資をする決定をし、今日まで多くの人的、金銭的リソースを投入してそのプロジェクトを推進してきた。でも、市場の流れも変わり、もうこのプロジェクトは上手くいかない可能性が高い。でも、今このプロジェクトをやめたら、5年間の投資は全くの無駄になってしまう!どうしたらいいんだ!?

こんな時、行動経済学は明快な答えを提供してくれます。

「やめなはれ」

以上。

過去に何があったかは関係ありません。過去にどれだけ投資をしていようが、これから成功する見込みがないならサクッとやめるべきです。クヨクヨしても意味がありません。過去は返ってこないのです。

何十億そのプロジェクトに投資していようが、過去は過去。サクッとやめて、心機一転、次の有望プロジェクトを探すべきです。

さて、この「過去に投資したリソース」を「サンクコスト」と呼びます。

*英語でSunk Cost。SunkはSink(沈む)の過去分詞形。「沈んでしまったコスト」という意味になるでしょうか。

そして、このサンクコストを気にして、合理的な意思決定に歪みがでてしまうことを「サンクコストバイアス」と呼びます。合理的な意思決定をしようとしたら、この「サンクコストバイアス」に惑わされるべきではありません。過去は忘れて、スパッとその瞬間瞬間で最も合理的な意思決定をしましょう。

「そんな基本的なことわかってるよ。」という方。

飲み放題プランに5000円払ったからといって、いつもより飲みすぎてしまった経験はありませんか? 払った5000円はサンクコストです。5000円払っていようがなんだろうが、2杯が自分の適量ならば2杯でやめておくべきです。

やる気を出して買った3000円の本が、途中でつまらないとわかったけれど、高かったからという理由で最後まで読んだことはありませんか?3000円はサンクコストです。

せっかくチケットを払って映画館に入ったから、という理由でつまらない映画を最後まで見たことはありませんか?チケット代はサンクコストです。

サンクコストバイアスは日常生活のいたるところに隠れています。

さらに厄介なのが、このサンクコストバイアスが組織の評価制度等と絡んでくると更にややこしい。たとえば、よくある次のような例を見てみましょう。

――――――――――

例)

とある商社は、完成まで20年かかる海外のプラント建設事業への投資を決めました。最初は上手く行っていたものの、5年目、累計5億円を投資したところで事業環境が激変。どう考えてもこのプロジェクトは儲からないことがわかりました。さらに、続ければ続けるだけ損失が膨れ上がることがわかりました。今やめれば、5年間で投資した5億円だけで被害は収まります。さて、どうするべきでしょう?

上でサンクコストの概念を学んだ後であれば答えは簡単です。

「やめなはれ」

5年間という時間と5億円という資金、5年間に投入した人的リソースはサンクコストです。

しかし、状況はそう単純ではありません。この商社では5年毎に人事異動があり、このプロジェクトの責任者も5年サイクルで入れ替わります。このプロジェクトの責任者は最初の5年間、Aさんでした(投資の意思決定を通したのもAさん)。さて、Aさんはプロジェクト開始から5年後、どのような意思決定をするべきでしょうか?もちろん「やめる」です。繰り返しになりますが、5年間で投資したリソースはサンクコストですから。

しかし、Aさんは、自分が始めたプロジェクトが5年後に失敗したことを認めたくない。そんなことをしたら自分の人事評価は地に落ちてしまうし、もう出世の道も絶たれてしまう。どうにかしてこのプロジェクトを失敗したことにしたくない!

かくして、このプロジェクトは6年目からBさんに引き継がれます。

A「B君、是非このプロジェクトの立て直しを頼むよ!君しかいないんだ!」

B「はい!先輩のご期待に沿えるよう全力を尽くします!」

Bさんが責任者になってから5年後・・・(プロジェクト開始から10年後)

B「やはりこのプロジェクトは成功しそうにない。。。私の在任期間で10億円の追加投資をしたが、回収できる見込みはない。。。しかし、ここでやめたらこの15億円(最初の5年間の投資5億円+次の5年間の投資10億円)は損失計上しなければならない。。。15億円の損失を出したとなれば私の責任は免れないだろう。。。いや待てよ、ここでやめなければ今まで投資した15億円は資産のままだ。そうだ!やはり未来に希望を託そう!C君、あとは頼んだぞ!」

C「喜んで!期待に応えるのが組織人としての使命です!!」

Cさんが責任者になってから5年後・・・(プロジェクト開始から15年後)

・・・・(以下繰り返し)・・・・

結局このプロジェクトは開始20年目でとん挫し、累計の損失は50億円に膨れ上がりましたとさ。

―――――――――

これが、サンクコストバイアスを考慮にいれていない評価制度の結末です。

もしAさんが5年目でこのプロジェクトをやめていたら、どうなっていたでしょう?損失は5億円ですんだはずです。最終的な損失、50億円と比べると、45億円の損失を防いだことになります。45億円の損失を防ぐということは、経済的効果は45億円の利益を生み出したことと同じですから、Aさんは責められるどころか、賞賛されるべきなのです!

(さらには、残り15年という時間を他の有望プロジェクトに割けた、ということで機会損失の低減にも貢献しています。)

もちろん、実際のプロジェクトはこんなに単純なものではなく、他の様々な要素もかかわってくるので、一概にどのような評価制度が良い、という提案はできませんが、サンクコストバイアスの重要性を理解する為の一例としてみて頂ければ幸いです。

もちろん、サンクコストバイアスを意識することは、過去をまったく考慮に入れなくてよい、ということではありません。過去から学ぶことはどんな状況でも大事です。ただ、とある意思決定の際に、過去に引っ張られすぎると合理的な意思決定ができない、ということを少しだけ意識して日々仕事をしていければなあ、と思うのでした。

ということで、以下の有名な言葉を引用して、この記事を締めくくらせて頂ければと思います。

~Learn from yesterday, live for today, hope for tomorrow~

Albert Einstein

*COOの仕事術ブログ①はこちら:

https://www.wantedly.com/companies/crowdcredit/post_articles/62605

*参考図書:

Kahneman, D. (2011). Thinking, fast and slow. New York: Farrar, Straus and Giroux.

Thaler, R. H. (2015). Misbehaving: The making of behavioral economics.

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