世界経済の先行きや市場の動向の不透明感が増してきたことから、資産運用を行っている人にとって、欧米の経済状況が悪化したら円高になる、といういつものパターンになりリスク資産が目減りしてしまうのではないかと気になっている方も通常の時より増えてきているのではないかと思います。
その中でリーマンショックの時と異なることのひとつは、均衡実質為替レート(以下、均衡レート)を推計することによって通貨のフェア・バリューの推計を行う実務が10年前より格段に進んだことです。
こちらのブログでは、均衡レートとはどういうものなのかをさくっと1か月くらいの期間、空いている時間を用いて勉強するのにお薦めのペーパーと書籍をご紹介します。
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均衡レートの推計方法は
均衡レートの推計方法には大きく分けてFundamental Equilibrium Exchange Rate(FEER)、Macroeconomic Balance ApproachまたはExternal Balance Approachと呼ばれる手法とBehavioral Equilibrium Exchange Rate(BEER)と呼ばれる手法の2つがあります。
BEERの推計はさらに、1国の統計情報のみから推計を行う手法と、多くの国の統計情報を一般化して推計を行う手法の2つに分かれます。
実務ではBEERの推計を主として、FEERは答え合わせに用いるくらいのことが多いかなと感じており、BEERの推計を行う際に、円のように主要な通貨の均衡レートを推計する場合は円特有の事象をきちんと含められるよう1国の統計情報から推計を行い、逆に途上国の通貨の均衡レートを推計する場合は、(特に昔の)統計情報が揃っていないことが多いため、多くの国の統計情報から一般パラメータを抽出して推計を行うことが多いと思います。
これをケーススタディを交えて解説しているものとして分かりやすかったのが、少し昔になりますが、2007年にIMFがサブサハラ・アフリカの国々の均衡レートの推計を行ったペーパーです。
https://app.box.com/s/wqmak1r4isnwfdyyahlli7knbohkekju
このペーパーでは、各推計手法の概要が説明されているほか、BEERの推計で用いられる主なパラメータも紹介をされています。
同様に、2015年に経済産業省のプロジェクトでアジアの国々の均衡レートを推計しているペーパー
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/dp/15e038.pdf
でも各推計手法の紹介とBEERの推計に用いたパラメータの紹介がなされています。
また面白いのは、このプロジェクトを主導したのが経済産業省というところで、日本ではこの分野は政策当局の方が民間企業よりも進んでいる(進んでいた)といえるかもしれません。
世界の主要通貨の均衡レートは
細かい推計手法までは興味がないものの結果のみ気になるという方は、昨年2018年にBloomberg Economicsが発行したレポート「Finding Fair Value」
が分かりやすいです。
こちらのレポートには円の均衡レートの推計値も掲載されており(16~17ページ)、身近な情報として気になる方も少なくないかもしれません。
自分で推計モデルを構築する場合は
結果や仕組みを知るだけでなく実際に自分で各通貨の均衡レートを推計できるようモデルを構築する場合は、書籍「為替レート制度選択の経済分析」
で実践的なモデリングのプロセスが紹介されています。
実務のケーススタディは
実務上均衡レートをどう意思決定に用いるかのケーススタディとして、昨年2018年にIMFがArticle IVと呼ばれる公表レポート
https://app.box.com/s/a8dgidpb0moh6ckto7n78de0pb7wfxzs
でケニア・シリングという通貨が割高になってしまっている可能性が非常に高いため是正(通貨価値の下落)が必要、という提言を行っているのですが、当然適当には1国の政策当局に対する提言を行えませんので、根拠として均衡レート(BEERおよび補完としてのFEER)分析、他の類似国との実質実効為替レートの推移の比較も交えて説明がなされています。
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