一橋大学神岡教授インタビュー 第2回:企業が組織としてDXを進めるために
一橋大学神岡太郎教授 DX人材で作る組織のこれからを語る ...
https://www.mamezou.com/techinfo/ai_machinelearning_rpa/interview_2
自社にない人材を求めて社外に目を向けるのはよくわかりますが、そういう人材が豊富にいるわけではありませんし、どの企業もそういう人材を簡単には手放さないように努力するでしょう。DX人材は特殊な人材ではなく、誰もがDX人材の特性を持つ対象となります。そういう意味で、DX人材になれる人は自社内にもいるということを忘れてはいけません。一つ目は、いま既にポテンシャルがある人をどうやって活躍させるか、二つ目は、いまは能力が見合っていない人をどうやってDX人材にするのかです。
一つの切り口として、ポテンシャルがある人が表舞台で活躍していない可能性があることに着目してもいいでしょう。
それからDX向きのポテンシャルがある人とは、テクノロジーに慣れている若手をイメージされることが多いと思いますが、年配者がDXに向いていないということではなく、役割が違うだけです。若手は、例えばコロナ禍でテレワークになった際に、Slackを使いましょうと提案できても、組織として新しいものの導入する経験は小さい。一方の年配者は、テクノロジーが変わる経験は少ないかもしれませんが、多くはビジネスが変わることを経験してきています。若手と年配者で得意とするところが違うので組み合わせが必要となります。これら二つの人材をどうやってうまく機能させるかがポイントとなります。さらに言えば、こういった新しいタイプの人材、ここではDX人材の活用の仕方は、それをよしとする組織文化が育っていないと、いくら良い人材がいても組織として使いこなせません。
ハードスキル、ソフトスキルと共にマインドセットが重要になってきます。それぞれに対応した育成の仕組みや仕掛けが必要となります。
ハードスキルについては、どんどん新しいテクノロジーやツールが出てくるので、一度身に着ければそれで終わりということはありません。そういうテクノロジーについて、常に新しい知識を取り入れないといけません。そして新しい環境では、教科書がないとか、ノウハウのように、実際に問題を解決しながらでないと身につかないソフトスキルも必要となります。ソフトスキルは、現場やOJTでの経験や学習以外に、シミュレーションといった工夫ができるかもしれません。
そして、マインドセットについては、様々なマインドセットがあります。例えば、変化を良いと捉えるか、悪いと捉えるかの考え方があり、自然に考えて、変化を良いとするマインドセットをもっている方がDXに向いているでしょう。そして、変化への対応について、新しい領域であっても自分は成長できるというグロースマインドセットを持っている人は、自分の能力には限界があると考えるフィックスドマインドセットよりDX人材と相性がいいでしょう。フィックスドマインドセットの人は、本当は成長する余地があっても、新しいデジタルの活用に対応しにくいところがあります。ただし、マインドセットは万能ではありません。問題の対象や状況によって有用であったりそうでなかったりします。
デジタルが前提となる社会では、デジタル戦略を経営戦略にいかに組み込めるかが重要となります。DXをやろうやろうと掛け声だけで全社レベルの戦略になっていないケースや、現実的に実行できないような戦略が立てられているケースもあります。
DX戦略は、まず経営層やリーダー層がその意味をしっかり理解することが必要ですが、それが全社員に共有されて、組織行動に反映する必要があります。DX戦略をきっちり立てて、それをインプリメントし、有効化できるようにするという観点から、人材や組織やプロセスを整備することができることが求められます。組織を変えたり、人を雇ったりなどの具体的なアクションを起こさなければなりません。十分な予算が要ります。ここが難しくて、取り敢えず予算を掛けておけばいいかというとそうでなく、適切に見極めなければなりません。
人材に関しては、組織の中でのDX人材の発見、配置が重要です。DXに向いているかどうかは今の仕事ではわからないことが多く、新しいことをやってみないと分かりません。ジョブ型にするのも一つのきっかけになるかもしれませんが、自分はどの方向に行けばいいか上司と頻繁に話し合う仕組みを取り入れている企業も増えています。会社から与えられた仕事をするだけでなく、自分は何をしたいのかを探す仕組みも作った方が良いでしょう。日本でよくある機械的なローテーションではなく、人を見ながら戦略的に配置して評価する仕組みが必要になります。
ただ、DXは一つの特効薬ですべて解決するということはありません。組織に必要なDX人材のタイプも1つだけではありません。例えば、みんなが先ほど述べたグロースマインドセットを持っている会社はリスクが大きすぎるので、冷静に冷ややかに問題を見ている人が一人もいないと危険でしょう。もちろん、日本企業は、これまであまりにもリスクをとってアクションを起こせる人が少なすぎたと感じていますが。。。様々な人が相互作用しながら活躍できる環境と寛容さが必要というのは、前に述べたダイバーシティの話につながります。
結局のところDXは局所的なパッチワークではなく、会社そのものを変えるということになります。だだしDX時代は一度変わればOKという簡単なものではなくなりました。俊敏に変わらなければ生き残れない時代がしばらくは続くということが予想されます。そういう変わるためのドライバーの一つは変化をチャンスと感じるか、危機と感じるかになりますが、ここ20~30年の日本は特に後者が不足していたように思います。
日本のトレンドは右肩下がりで、これから会社も人も平均的にはより貧乏になるというのが現実でしょう。それを危機としてとらえなれば変われません。ただ、そこから目をそらしたり他人事としたりすれば、企業も社員も変わる必要性を感じられません。企業のリーダーは、危機意識を引き出し、組織と社員がそれを自分事化して自ら変化していくというマインドセット、それに対応した行動やスキル獲得を刺激する必要があります。
行動変容ができるようになる(情報や知識が入るだけでなく、行動まで変わると)ことが重要です。本当の意味で何かわかったということは、それに伴って行動まで変わるということです。そういった、変わることを前向きにとらえる組織文化をどう作り上げるかもポイントになるでしょう。
「変わり続けられる会社をつくること」が、日本企業がDXで成功するキーファクターとなるでしょう。
- profile -国立大学法人一橋大学 経営管理研究科
教授 工学博士 神岡 太郎氏
Digital TransformationやCDOに関心をもつ。国際CIO学会会長、政府情報システム改革検討委員会委員(総務省)、高度ICT利活用人材育成推進会議座長(総務省)、トレーサビリティ・サービス推進協議会座長(国土交通省)を歴任。
『デジタル変革とそのリーダーCDO』(同文館)『マーケティング立国ニッポンへ』(日経BP社)他 に論文多数。
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