4年に一度のサッカーワールドカップが開幕した。昨年は東京オリンピック、来年2023年にはラグビーワールドカップがフランスで開催予定だ。どれも、技を競う国際大会だが、仕事の「技」を競う国際大会をご存知だろうか。
仕事の技を競う国際大会
正式名称は、技能五輪国際大会(WorldSkills Competition)。 2年に1度開催され、61の分野で技術を競う国際大会だ。出場できるのは、22歳以下の若手技能者で、溶接や配管、電子機器の組み立てにウェブデザイン、美容・理容、フラワー装飾や料理に至るまで、さまざまな部門で「技」を競い合う。 この技能五輪国際大会で金賞を取る事を夢に、日々の仕事と向き合い、練習を重ねてきた、弊社オフセット印刷課の甲斐田光の「世界への挑戦」を紹介します。
国際大会への出場を夢に
甲斐田は、福岡県立工業高校卒業後、弊社に入社。社内でも1番難しいといわれているオフセット印刷課に配属された。入社6年目。 主な仕事は、お菓子の箱などのパッケージを印刷する「オフセット印刷機」のオペレーター。印刷をするのは機械だが、色を合わせるのは人が行う。お客さまが指定される「色」と、印刷されたものが同じになるよう、「目」で確かめ、調整していく。その「色」になるように近づける。「色がぴったりと合った時の達成感がやりがい」だと目を輝かせる。
そんな甲斐田は、2018年、日頃の仕事の技量を試そうと、国際大会出場の予選会となる国内大会に挑んだ。結果は惜しくも2位。国際大会に出場するには、優勝することが必須条件だ。何より、過去の優勝者は日本の印刷業でもトップシェア企業。甲斐田にとっては、力の差を見せつけられた大会となり、世界への夢が途切れた。 世界大会への出場は、22歳以下という規定のため、ほとんどの人が一度きりのチャレンジとなるところだが、甲斐田は早生まれ。再度、世界に挑むチャンスを得た。
「今度は絶対に負けない」
国内大会で優勝し、世界で金メダルを獲るという夢に再びトライ。2020年の国内大会で見事優勝を果たし、念願の世界への切符を手にした。
「これで世界大会に行ける!」
日頃の頑張りが認められた瞬間だった。
周囲に支えられる練習の日々
大会の競技では、普段の業務で携わらないことや弊社に導入していない機械の操作なども含まれる。 金メダルを獲るためには、全ての種目の練習が必要だ。そこで、東京、大阪、大分県にある印刷会社の協力を得て、機械操作の勉強と練習の場を提供してもらえることとなった。
この練習には、甲斐田の先輩で、弊社社員の手島忠治が指導者として帯同。各会社の社員や関係者が甲斐田の練習に合わせ、時間を割き、指導にあたってくれた。「どの企業の方もとても親切に熱心な指導をして下さり感謝しかない。この恩は絶対に金メダルを獲って返さなければ」と、自分の中での誓いになったという。
ようやく決まったスイスでの開催
出場権を手にした国際大会だが、当初の開催予定だった2021年中国上海大会はコロナ禍となり中止が決定。気落ちする中、代替措置として、2022年秋に競技毎に開催地を分散しての開催が決定。印刷部門はスイスの都市アーラウが会場となった。 感染状況で、また中止になったりしないだろうか・・・不安もある中、とにかくあきらめずに練習と復習を重ねた。通常業務に練習をプラスした日々は、想像以上に大変だったという。自分だけでなく、他社の指導者の方。先輩の手島。同じ部署で仕事のフォローに回ってくれた仲間たち。「本当に、一人の努力だけではできないことだった。」と振り返る。
世界大会の壁
出国前、「緊張はしない方」と自身を語っていたが、大会初日。競技に使用する機械が、触れた事のない最新機種。そのうえ、操作表示が想定していた英語表記にドイツ語表記がミックスされているというアクシデントに見舞われた。半ばパニック状態に陥り、上位通過の予定が最下位となった。
初日終了後、「なんとかしなければ」と、焦る気持ちで協力企業の担当者に連絡し、相談。宿泊先で作戦を練り直し2日目に挑んだ。計3日間に及んだ競技の結果は、3位銅メダリストに僅か1点差で4位。夢に見た金メダルには届かなかったが、優良技能者に贈られる「敢闘賞」を受章した。
本人は、「悔しさでいっぱい」と言うが、最下位からの敢闘賞。それも銅メダリストとの僅差。残念なことに変わりはないが、「日本代表」というプレッシャーの中、経験のない作業を短時間で習得し、本番でのアクシデントにも「どうにかしよう」とすぐに動けるその行動力は、素直にすごいことであり、同じ社員として誇らしいとさえ思う。 彼自身、「印刷の知識や技術は深くなったと実感している」といい、帰国後、悔しさと疲れをにじませた彼の顔は、出国前よりもたくましく感じた。
世界大会で得た、競技以外の体験
出国前、社内では小規模だが壮行会を開き、 驚かせてリラックスさせようと彼の母校の校長に生徒指導の先生をサプライズゲストとして招待した。思いがけない再会に、応援は社内だけでないことを知るきっかけにもなった。また、壮行会には、新聞社やテレビカメラといったメディア取材も叶った。帰国後も取材は続き、市長への表敬訪問が夕方のニュース番組で放映され、地元紙にも掲載されただけでなく、地域FM局への生出演も果たした。 「取材もかなり慣れて、話せるようになりました」と笑う。
母校からは、「世界挑戦の話を後輩たちに話してほしい」と招かれ、講演会も経験。後輩たちには「いつでも待っているので、一緒に世界を目指しましょう」と呼びかけた。年齢も近い後輩にとって、地元企業で、自分の先輩の経験はきっとまぶしく感じたことだろう。 さまざまな経験を通して、対応力も身に付いたといい、この貴重な経験は、仕事にも活かせる強みとなったという。
後輩を育てる力へ
今回の経験を通して、周囲への感謝の気持ちはもちろん、職場でのチームワークの強さも感じたという甲斐田。「自分も世界を目指したい!」という後輩も現れ、今回の彼の挑戦と努力と悔しさは次代にバトンタッチされた。新たなミッションを得て、全力でサポートするに違いない。 私たち広報も、世界を目指す第二の「甲斐田光」の活躍を発信する楽しみが増えた。この久留米市から、弊社から、メダリストを輩出したい。1人の社員の夢は、会社の夢へと変わった。
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【大会までの履歴】
・2018年 技能五輪全国大会2位
・2020年 技能五輪全国大会1位
・2022年 技能五輪国際大会(スイス大会)日本代表 <結果:敢闘賞>
≪参考≫
■技能五輪世界選手権2022特別版 (worldskills2022se.com)