潮流に左右されない「軸」を見つけるために「周囲の声に耳をすまし、火中の栗を拾おう」 阪上 誠 | LISTEN (リスン)
「2030年に最大79万人のIT人材が不足するという経済産業省の予測で、今の日本はIT人材の育成や確保に躍起になっています。国を挙げてIT教育を施し、『リスキリング』という言葉はほぼIT系職種へ転換するための学び直しの文脈で用いられている。
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「2030年に最大79万人のIT人材が不足するという経済産業省の予測で、今の日本はIT人材の育成や確保に躍起になっています。国を挙げてIT教育を施し、『リスキリング』という言葉はほぼIT系職種へ転換するための学び直しの文脈で用いられている。しかし、私はこの潮流に違和感を抱かずにはいられません。単純にIT人材を増やしたところで、日本からGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)のようなビッグテックが生まれるとは考えにくい。生成AIなどの技術の進歩を考えると、そこまで多くのIT人材が必要になるかは甚だ疑問です」
ゆっくりと言葉を選びながら語るのは、株式会社テクノプロ テクノプロ・デザイン社で採用本部長を務める阪上誠だ。「製造業DXソリューション企業」を標榜する同社は、顧客であるメーカーに対し、ハードウエア・ソフトウエア両面のものづくりで開発技術サービスやコンサルティングを提供。顧客の製品の品質向上、生産性向上を支援している。約8,000人の従業員の中には、機械・電気電子分野および情報系分野のエンジニアが数多く在籍する。
GDPが世界4位に下落した日本。今のままでは後続の新興国にも追い抜かれると阪上は予想する。これまでは日本が人件費の安いインドやベトナムにシステム開発を外注してきたが、円安や新興国の発展がさらに進めば、受発注の流れが逆転することも考えられる。
そのうえで、強い日本を取り戻し、人々が成長を実感しながら希望を持って働ける社会を創るには、日本の強みの一つ、製造業のさらなる進化が不可欠だと熱を込める。
「製造業はGDPの約2割を占め、他産業への波及効果も大きい日本の基幹産業です。一方でその担い手は年々減少し、深刻な人材不足に陥っています。それでも何十年も国を支え続け、価値を創出し続けているのは、非常に生産性が高いからです。今なおポテンシャルが高いにもかかわらず、エンジニアを輩出する教育機関でさえ、機械系・電気電子系の学部をIT系へ転換しているのが現状です。当社もDX支援を行っていますが、バーチャルで設計を行うシステムを作っても、機械工学の知識がなければ本当の意味で設計はできない。そこで、現在我々が注力しているのがエンジニアの教育事業です」
テクノプロ・デザイン社では、資本を開発に集中させ、人材育成まで手が回らない企業に講師を派遣し、新人教育を実施。また、DX推進に抵抗感を示しがちな管理職層にも、システムによる効率化・省力化が労働人口減少の中で持つ意義を伝える。
阪上は、製造業が力を取り戻すことで「日本が世界で勝てるポジティブな未来」が見えてくると話す。それは、海外企業の下請け的な開発ではなく、高度開発を担う、「世界の開発拠点」となる未来だ。
同社はすでに、その受け皿となる環境づくりに着手している。優れたテクノロジーを持つ企業、大学、研究機関などが垣根を越えて集う、ソリューションプラットフォームの構築だ。
「目指すのは、当社の経営理念にもある『共創』の場です。多様な組織がフラットかつ自由につながり、顧客と共に持続可能な社会を実現するためのソリューションを創出する場。そこから魅力的なプロジェクトや仕事が生まれるようになれば、自ずと良い人材が集まってくると考えています」
ITだけでは今後の社会の成長はなく、ITと、それを搭載するハードウエア(車・家電・スマートフォン・エレベーター・家など形のあるもの)の両方の進化が重要だと話す阪上。では、職種の領域にかかわらず、これからのワーカーに求められるものとは何なのだろうか。
「軸と柔軟性」。それが阪上の答えだ。
「軸」は「個人が持つ信念や専門的な強み」を指す。軸が確立されていれば、どのような環境でも強みを活かしてスキルを身に付けられる。学び直すときも、それまで培った知識や経験を捨てることなく、軸を太くするような選択ができる。
自分の軸を見つける方法は大きく二つ。まず一つは他者からの評価に耳を傾けること。強みだと思っていたことが、相対的にはさほど優位性がないことはよくある。逆に、周りからどう見えているのかを知ることで、思わぬ強みが見つかることもある。自己分析のみで自身の軸を判断することは危険だ。
阪上も、かつては人前で話すことが苦手だと思っていた。しかし学生時代から「言葉の選び方がうまい」と周囲にいわれ、集団のまとめ役を任されてきた。「決して人と積極的にコミュニケーションを取る方ではなかった」というが、社会人になり、営業畑で約20年、人事で5年と、人とのコミュニケーションが重要な職種でキャリアを築いてきた。周りから求められる役割を引き受けることで、自身の強みが徐々に分かってきたという。
「私は幼少期から本を読むのが好きでした。たくさん本を読んできたからこそ、場面ごとの言葉の選択や例え話が人よりも優れていた。それが自分では気が付かない強みだったのだと思います」
そしてもう一つは、自ら進んでハードな状況に身を置くことだ。
「スキルは負荷が高い仕事によって磨かれますし、追い込まれたときに発揮できる力が、その人の軸であることも多いのです。成長したいと思うなら、あえて失敗の可能性が高いプロジェクトにこそ手を上げて『火中の栗を拾う』人になってほしい。失敗しても責められないですし、少しでも結果が出せれば周囲からの評価が得られます。働くことで得られる充実感は『しんどい』と『楽しい』の掛け合わせなのですから」
一方で、一度見つけた軸に一生固執する必要はない、ともいう。人生100年といわれる長い時間の中で、軸は何度でも何歳からでも見つけられるというのが阪上の主張だ。小学生の頃に自分の軸を見つけ、夢に向かって一直線に進むアスリートもいれば、80代からプログラミングを学び、活躍するプログラマーもいる。
「信念や専門的な強みは時代とともに変化しますし、複数同時に持っていてもよいと考えています」
そこで必要になるのが「柔軟性」だ。ライフステージの変化だけでなく、今や数年に一度の周期で訪れる経済危機やパンデミックによって、働き方や働く場所を変えざるを得ないことは今後もある。その時に自分の軸を見直したり、新しい軸を見つけたり、それをどこで活かすのか模索したりすることもあるだろう。その際には、それまでのやり方に固執せず、他者の意見も取り入れて考えられる柔軟性が必要になるのだ。
最後に、これからの働き方を模索するワーカーへのメッセージを阪上は「ポジティブな公私混同」と表現した。ハードワークを続けて無理をし過ぎるのは禁物だが、仕事とプライベートを切り離す必要はないのだと。
「コロナ禍で自宅で働くことが一般的になり、良い意味で公私を分けなくてよい時代になりました。ワークはライフの中の一つの要素であり、二項対立の関係ではありません。仕事で得た知識がプライベートで生かされることもあれば、育児で得た経験が人材の育成に生かされることもあります。今後ますますライフとワークの境界線はなくなっていくでしょう。これまでの固定観念にとらわれることなく、さまざまな垣根を超えて、働くこと、生きることを楽しんでほしいと思います」
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