KINTOテクノロジーズは2022年からアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社の支援を受け、クラウドを起点にした組織づくりを推進しています。その中で、日本最大の“AWSを学ぶイベント”であるAWS Summit Tokyo 2023に登壇し、KINTOテクノロジーズが導入したDBREの取り組みについて発信しました。
KINTOテクノロジーズがエンジニア組織としてDBREを選択した背景やメリットは、果たしてどこにあったのでしょうか。発表をサポートしたアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 グローバル・オートモーティブ事業本部シニアソリューションアーキテクト 國政 丈力様と、実際にAWS Summit Tokyo 2023で登壇したプラットフォームグループ シニア DBREエンジニア 粟田 啓介さんのお二人に、DBREに対する思いと今後の展望について伺いました。
本記事は前編と後編の2部構成となっております。
前編はこちらからご覧ください。
学習意欲が高くフットワークも軽い、スタートアップのような気風
―國政様から見て、KINTOテクノロジーズにはどのようなエンジニアが多い印象ですか?
國政:非常に学習意欲が高く、ハイスキルな方が多いですね。私はKINTOテクノロジーズ様に対して毎月勉強会を開催させていただいているのですが、毎回100名以上の方にご参加いただいています。
勉強会では、AWSの概要やAWSのトヨタグループ様及び自動車業界全体での取り組みに関するハイレベルな話、AWS最大の年次カンファレンスであるre:Inventの内容、テクノロジーの最新動向、特定技術やAWSサービスのテクニカルなトピックなどをさまざまお伝えさせていただいています。勉強会後にサーベイを採ると「次はこんな話を聞きたい」というリクエストを数多くいただけるため、そこでも学習意欲の高さを感じます。
―そのほか、エンジニアの特徴として感じる部分はありますか?
國政:フットワークが軽やかですね。どんなことでも、「まずはやってみよう、試してみよう」と動き出す雰囲気があります。
例えば、課題解決につながりそうなAWSの新規サービス・機能をご紹介するとすぐに興味関心を示していただき、実際に試してみる流れになることも珍しくありません。もちろんアーキテクチャの検討や技術ドキュメントの確認は十分されていますが、「考えるだけでわからないなら、手を動かして試したほうが早い」というマインドを持っているんです。トヨタというエンタープライズ企業の一員ではありながら、スタートアップに近い気風がありますね。
こうしたエンジニアの方々によって、組織が非常にフラットに運営されているのも印象的です。
DBREを採択し、ガバナンスを効かせながらアジリティを確保し続けられる組織へ
―AWS Summit Tokyo 2023では、KINTOテクノロジーズの粟田さんが登壇。國政様が資料作成をサポートしたと伺っています。どのようなやり取りがあったのでしょうか?
國政:ドラフトの段階で内容はほぼ完成されていたので、細かい点をコメントした程度です。特に、今回粟田さんが発表されたDBREの取り組みは、非常に新規性があります。その上で「ビジネス上の特徴やDBREの採用理由、背景などをもっと含めたほうが、興味を惹けるのでは」とフィードバックさせていただきました。DBRE導入のために必要な運用手法自体は事業や組織の性質によって異なるからこそ、多くの方は最終的に「なぜKINTOテクノロジーズにはDBREが必要だったのか?」という疑問を抱くはずだと考えたからです。
―では改めて、なぜKINTOテクノロジーズはDBAではなくDBREを選択したのでしょうか。
粟田:簡単に言うと、データベースを見ているだけではビジネスのスピード感に追従できないからです。データベースが軸であることは変わらないのですが、その中でもこれからの時代は「サービス全体を見たデータベース」を見る必要があると、私個人としても強く感じています。
また、クラウドが多くの組織で主流になりつつある今、データベースエンジニアの母数はかなり減ってきています。それこそAWSをはじめとしたパブリッククラウドが、これまでDBAの担っていた領域を見てくれていますからね。実際にKINTOテクノロジーズも基本的にはクラウドファーストで、オンプレミスは一切取り扱っていません。組織自体も、クラウド活用を前提として改善され続けているのです。そういう採用観点での背景も含め、今後はDBREとしてビジネス全体を俯瞰し、どう貢献できるかを考えていきたかったのです。
粟田の登壇資料です。13〜15頁がDBREの内容に該当します。
―DBREを導入したことで、具体的に組織にどのような良い影響があったのでしょうか。
粟田:DBREがいなくても、サービス自体は問題なく動き続けます。ただ、やはりデータの重要性はかなり高くなっている時代なので、そこに対してガバナンスを効かせながらアジリティを確保し続けられるのは大きなメリットですね。具体的には、アプリケーションエンジニアとデータベースサーバーをつなぐ踏み台サーバーが存在し、情報漏洩を防ぎながらも極力これまでと同様のオペレーションを踏襲できるような形です。
もちろんこうした動き自体は基本的にどの組織でもやっていることですし、踏み台サーバーの概念も20年以上前から存在しています。そこにクラウドを用いて面白い取り組みにしよう、というのが我々のDBREのポリシーです。その結果、堅牢かつ自然にガバナンスコントロールをしながら、実際にビジネス的にも貢献ができているのは、導入してよかった点ですね。
AWS Summit Tokyo 2023ではこのように、自分たちがなぜ、どのようにDBREに取り組んだのかという「Why」と「How」の部分をお伝えできるよう心がけました。
國政:どうしても大上段的な話になってしまうケースもありますが、今回すぐにでも応用が利くような具体例を出せたのは、多くのエンジニアの方に刺さったのではと思います。粟田さんご自身も、アウトプットすることを楽しまれていましたね。
よりビジネスに近い課題もAWSをフル活用しながら解決していきたい
―今後、KINTOテクノロジーズとAWS様とでどのような協業をしていきたいか、ビジョンはありますか?
國政:私は個人的に、「車のサブスクサービス」という新しい事業を展開する中で、将来的にさらに多様で新しい車とユーザーの関わり方がモビリティサービスとして提案されるであろうことに、一利用者の立場で期待しています。
そのような新規事業が素早くスケールし、多様な機能を備えていくための基盤として、これまで以上にAWSがお役に立てればうれしいです。
今後はよりビジネスに近い部分の課題もお伺いして、それをKINTOテクノロジーズの皆様と一緒に解決できることを楽しみにしています。AWSをフル活用するための機能要望や改善などのリクエストも、積極的にいただきたいですね。
粟田:事業課題を解決したいという思いには、私も同感です。DBREをはじめSREやプラットフォーム、クラウドといったさまざまな要素がありますが、どれもビジネスが成り立ってこその存在です。そこに対してどうコミットしていくかを大事にしたいですし、使えるものは上手く組み合わせ、楽しく開発をしていきたいですね。
個人的な目標は、「KINTOテクノロジーズのDBRE」をきちんと確立することです。DBREがなくてもサービスや組織が回るからこそ、きちんとKINTOテクノロジーズの中でDBREが価値あるものとして貢献できるようにしていきたいなと。
そのためには、やはりアジリティとガバナンスコントロールの両立が一番のポイントになるでしょう。いつか、DBREがKINTOテクノロジーズにとってなくてはならない存在になることを目指していきます。
―目標達成のために、現状どんな要素が必要だと感じていますか?
粟田:チームを縦割にはしないことでしょうか。専門集団を作ればそれだけ生産性は高まりますが、「最適化」が必ずしも最高の結果をもたらすわけではないんですよね。どこかの部署がボトルネックになった途端、組織が立ち行かなくなってしまうのでは、属人化と同じです。
せっかくクラウドという基盤があるわけですから、組織の全員がきちんと守るべき部分を守って開発をできるような組織を作ることが、継続的な成長につながると思います。
だからこそ、横軸でサービスを俯瞰できるDBREが必要になるという文脈にもなりますね。最終的には全員がDBREとしてデータを見られる状態になるのが理想です。
國政:全員がDBREとして動けるようにツールやポリシー、教育制度を整えていくと、最終的に「DBREは不要になる」わけですよね。
DBREはチームを横断する非常に重要な役割を担っていますし、ぜひKINTOテクノロジーズ様にも成し遂げてほしいと思います。そのためのワークショップや勉強会の提供も、AWSとしてご支援したいところです。
粟田:まずは、少しでもDBREに興味を持っている人や今とは別の仕事をしてみたい人がいたら、自信を持って「うちのチームに来てください」と言えるようになるといいのかなと。数ヶ月DBREを経験したらまた元のチームに戻るといった動きができるような、アップデートのサイクルを回すためのハブとして活動できると、どんどん組織も強くなっていけるのだと思います。
DBREはデータベースが軸ではありますが、技術的にはアプリケーションやクラウドについて知る必要がありますし、法務などさまざまな知識に関して全方位的に詳しくなければなりませんからね。