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農・食の未来をどう描くか その1


今やすっかり当たり前になってしまった無料の「Google検索」や「GoogleMap」が出る前、誰がどのようにその機能を担い、どんなふうに世に提供していたか?少し前にTwitterで見かけた記事を見て、色々考えさせられた。

「航空写真を地図に書き起こす人、それを印刷する人、製本する人、それを本屋さんに並べ、売る人。様々な労働を必要とし、その人達に労賃を払わねばならなかった。逆に言えば、地図は雇用を生んでいた。雇用により、収入を得た人が何かを購入し、経済を動かしてくれていた。」
無料のネットサービスはダンピング行為?|shinshinohara|note

【イノベーション】は私たちの暮らしのかたちをガラッと変える。
私自身、今や「ググる」ことのない日常などちょっと想像ができないようになった。30年前のことを思えば、まるで違う世界を生きているのだ。

インターネット、検索エンジン、スマホ・・・様々なイノベーションの積み重ねが人々の暮らしの在り方そのものを変え、それを支える社会構造を変えてきた。
私たちがますます安全で便利な暮らしを簡単に手に入れられるようになるにつれ、社会インフラは加速度を増して巨大ネットワークに置き換えられていく。。。
グーグル急成長の背景に「スケールフリーネットワーク」:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)

私自身、科学の徒として、あるいは新技術の開発に関わってきたエンジニアとして、様々なプロジェクトや研究に関わってきたし、人類の「進化」というものに重要な意義を感じてきた。
一方で、人の「身体」や「自然」は進化の速度に適応できていないのではないか、とか、イノベーションによって失われる技術や知恵・文化には、実は未来に残しておくべき要素が含まれているのではないか、とか、そんな懸念を抱きながら、自分の生き方を選んできたのも確かだ。

そうしたなかで自分なりの生き方についての判断が【農業】という選択であり、また、オーガニックというスタイルを模索することになった背景である。

「生命」と向き合う、ということ。

そういうあたり、良くも悪くも「火の鳥」とか「ナウシカ」に描かれた世界を真に受けて育った世代ということなのかもしれない。
火の鳥|アニメ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL
漫画『風の谷のナウシカ』5分でわかる原作の魅力をネタバレ紹介!映画版より面白い? | ホンシェルジュ (honcierge.jp)

さて、そんなロマンチックなことを「言う」分には簡単だが、実際にそうした感覚を現代の社会環境のなかで曲げることなく保持し、それをごまかすことなく「軸」に据えて事業を回していく、となると、ことは簡単ではない。

私自身、農業の世界、自然に近いところに身を置いていれば、世の濁流の様な流れに巻き取られずにいられるのではないか…そんな想いを描いたこともあったけれど、実際にはこの業界でも同じようなこと(イノベーション)が着実に進んでいる。

例えば、私の近所の三重県周辺の多くの量販スーパーではトマトのラインアップがここ数年でガラッと変わった。県内の有力生産法人&その関係先農場が生産しているものが棚のかなりの割合を占めるようになってきた。

この生産法人、世界から栽培のプロフェッショナルが集まってきて、植物が最も居心地の良い環境(栄養、温度、湿度、CO2など)を制御したり、ウッドマス利用の廃熱を利用してエネルギー消費を最小限に抑えたりして非常に高い生産性を実現しながら、さらに学びを重ね技術を磨き続けている。
その技術に惹かれる大企業とタイアップしながらまた新たな設備投資を進めて…と、見事に【スケール】する要素を兼ね備えている。

農業のかたちが変わっていく。地域に広い裾野を持つ農と食の産業構造が変貌を遂げていく。
全国どこに行っても同じものが同じように安定して買えるようになり、地域に根付いて細々とやってきた事業者が生き残ることはこれまで以上に難しくなっていくだろう。

とはいえ、周囲をよく見てみれば同じようなことはこれまでも身の回りでもずっと起こってきている。
地方都市では見慣れたブランドの量販店が立ち並ぶようになり、誰もが同じクオリティのものを同じように手にできるようになった。一方でかつて栄えた商店街や野菜産地は徐々に寂れていった。

そうして滅びていく側のひとたちが産業構造を大きく変えるような「破壊的」イノベーションを引きおこすビジネスに対して憤りを感じ、恨みを抱く、というのはよく聞く話だ。件の農業法人についても、旧来の産地の農業者らからは否定的な言葉が漏れることもある。ただ、実際のところ、こういう流れは人類全体が体験している普遍的で構造的な「現象」といえる。だからそこで個々の倫理性を問い、結果として利益を得る側の人たちを責めたところで、恐らく不毛な石の投げ合いしか生まないのではないか。

世界の農業の潮流を意識してみると、日本全体が今後も旧来の農業スタイルのまま進んでいくとすれば、競争力という面にせよ、環境や資源面での限界という面にせよ、厳しい未来が待っていると言わざるを得ない。誰かが業界全体の構造を変えていく役割を担っていくしかないだろう。多少変人扱いされようが、やっかみの対象になろうが、「事を進めていく人」の存在は貴重である。

実は話題にしている生産法人の経営者とは以前から懇意にしていて、今でも時折話をする機会があるのだけど、他で見ることがないくらいめちゃくちゃ「いい奴」で、常々地域や社会の行く末を慮っているのを知っている。百年続く家業の苗木事業を巨額の負債とともに継承し、昼は溶液栽培の実証試験、夜中は街路樹を植えまくって、品種研究のために大学博士課程に入って学びを深めるという、ハードなチャレンジのなかで今の地位を築いてきた。

「就農」という意味では私もちょうど同じ頃に事業をスタートしたのだけれど、彼の仕事っぷりを見るにつけ、まるで違う次元のことをやってる、これはちょっと敵わないなぁ、と感じざるを得なかった。
今、自分のやっていることの社会的意義っていったい何だろう?そんなことを突き付けられたのだ。

自分のやってきた「有機農業」~【オーガニック】っていったい何だ!?

社会に対して自分たちはいったい何を投げかけられるだろう?

こうした問いと向き合うなかで、伊賀ベジタブルファームの事業展開が方向づけられていくわけだが、少し長くなってしまったので続きは次回にて。

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