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「『自立自走』の先には『自創』がある」。メビウス製薬が第三創業期に求めるのは、失敗を恐れず挑戦し続けられる人材と高速でイノベーションを起こせる組織

2006年の創業から15年を迎えたメビウス製薬。ゼロから事業を立ち上げた第一創業期、ビジネスモデルを転換させた第二創業期に続く、第三創業期が訪れようとしています。前二期と比べ、第三創業期は事業や組織がどう変化し、どんな人材が求められるようになるのでしょうか。メビウス製薬の「これまで」と「これから」を、社長(※)の小野が語ります。

※小野、常務の沖洲は退任し、2022年4月1日よりメビウスは西村が代表を務めるインスタイルグループの傘下に入りました。この記事では、執筆当時(2021/09/14)の役職で表記します。

どうしても超えられない「年商5億円の壁」が立ちはだかった第一創業期

(人事 湯本)――メビウス製薬では事業の立ち上げからこれまでを第一創業期、第二創業期と位置づけています。このうち第一創業期はどんな時期だったのでしょうか。

第一創業期は文字どおり事業をゼロから立ち上げていく時期です。少ない資金でどうやって売り上げを作っていくかを必死に考える中で私たちが注目したのは、品質が良く、コストが安い韓国コスメでした。

事業を始めた2006年頃は通貨危機の影響で、韓国の為替相場はいまの半分ほど。日本だとオリジナルコスメを作るのに一個あたり1,000円かかるところ、韓国でなら500円以下で作ることができたんです。こうしたコストメリットに加え、韓国では新しい化粧品がたくさん出てきていました。その中でもおもしろいと思って商品化したのがBBクリームです。

このBBクリームは、当時出店していた楽天市場でものすごく売れました。ですが、どれだけ試行錯誤しても年商5億円の壁を越えることができなかったんです。その原因はビジネスモデルにありました。楽天では定期販売ができないので、月初から月末まで頑張って集客しても、月が替わると売上ゼロからのスタートに戻ってしまうんですよ。そんなリアル店舗に近いビジネスでしたね。

——立ち上げ当初の数年間、正社員は小野社長と沖洲常務のみだったそうですが、その後第一創業期を通して組織はどんな成長を遂げたのでしょうか。

第一創業期の前半は、創業者である私と常務、それからアルバイトと派遣社員の数名のみだったんですが、だんだんと業務が回らなくなり、社員数を増やして20名ほどの組織にしました。

最近のビジネスホテルでは、フロントの受付をロボットに任せているところもあります。端末の予約確認ボタンを押し、クレジットカード番号を入れるとカードキーが出てくる。これはEコマースの世界と同じなんです。

ホテルを選ぶとき、こうした値段の安さを求める人もいますが、リッツ・カールトンのような1泊数十万円するようなホテルでのおもてなしを求める人もいるでしょう。ドアマンが名前を覚えていてくれる、レストランでは好みのメニューを覚えていてくれる。そうしたことは人にしかできないおもてなしです。

創業後、楽天市場で売上を伸ばしていた当時、私たちは「心の美容液」というタイトルでお客様に挨拶状を送っていました。美しくなるということは、お肌と同時に心もきれいになるための努力が必要だという内容のメッセージです。お客様の共感を呼び起こすようなこうしたメッセージは、人にしか書くことができません。

第一創業期では、そういった人にしかできない「おもてなし」ができるよう社員数を増やしていきました。

——そんな中、第一創業期に感じていた課題はどんなことだったのでしょうか。

最大の課題は、年商5億円の壁が破れないことでした。さまざまな努力や工夫をしても月を超えるとまたゼロからのスタートで、売上はよくて前月と同じくらいにしかならなかったんです。どれだけ努力をしても結果が出ない。社員は一番苦しかったと思います。

正しい努力をしても結果が出ないとすると、別のところに改善の余地がある。そこで、楽天市場などモール型ECに依存している当時のビジネスモデルが間違っているのではないかと考え、楽天を卒業するという決断をしたんです。

ビジネスモデルの転換がもたらした事業成長。メビウス流データ経営を取り入れた第二創業期

——ビジネスモデルの転換を目指して迎えた第二創業期、事業はどのように成長していきましたか?

楽天市場でどれだけ売上を上げて顧客基盤を作ったとしても、それはあくまで楽天のお客様。そこに私たちの未来はありません。そこで、楽天に依存しないビジネスモデルを作ろうとまず取り組んだのが、第二創業期のビジネスモデルのベースとなる「シミウスジェル」の商品開発でした。

2011年にモール型ECでシミウスジェルの販売を開始すると同時に、自社で定期販売をするためのシステムを構築しました。するとあるとき、自社の売り上げの比率が楽天市場の売上を超えたんです。このとき初めて年商5億円の壁を破ることができました。

その後、売上は5億円から10億円、10億円から26億円、26億円から79億円という形で順調に伸びていきました。これが第二創業期の成長パターンでしたね。

第一創業期のように「夜も寝ないで頑張る」といった無理な働き方をしなくても、広告を出して新規のお客様が増えることで定期購入者の累積数が増えていったんです。

——ビジネスモデルをDtoCに転換していった第二創業期、事業を成長させるためにどんなことをしたのでしょうか。

1つが、「迷ったらお客様に聞く」という姿勢です。ホワイトニングケアジェルの販売を開始した頃の話ですが、商品の値段が決まっていなかったので、いくらだったらお客様に買っていただけるのかチラシを出して検証したんです。

2,980円、3,980円、4,980円のチラシを出して何度もテストを重ねた結果、一番売れたのが4,980円だったので、そこから20%の価格を引いて定期購入の販売価格としました。メビウスではこのように、迷ったら直接お客様の反応を確かめるようにしています。

もう1つが「データに基づいたビジネスをすること」です。楽天市場に出店していた当時、Eコマースの世界はデータを駆使することで事業をもっと成長させることができるのではないかと考えたのです。

データを活用する際、メビウスではまず現状を把握するための数値を算出します。たとえば「シミウスジェルの初回購入者が2回目も購入する継続率」が80%だったとしましょう。この80%を85%にするためにはどんな手段があるのか、複数の案を出して実行していきます。

データから現在の状況を把握し、目標を達成するために手段を考えてさまざまな施策を打っていく。これがメビウス流のデータに基づいたビジネスです。

事業の成長とともに浮き彫りになった「採用ミスマッチ」という課題

——第一創業期には20名だった社員が、倍の40名まで増えた第二創業期。組織はどのように変化していったのでしょう。

年商が5億円を超えた頃に社員数が20名を超えたのですが、おもしろいことに第二創業期に入り、年商が20億円を超え、100億円に迫ろうとしている今でも社員数は40名ほどにとどまっています。

これは、コンピューターで自動化できるところは徹底的にコンピューターに任せ、人は人にしかできない仕事に集中する体制を整えているためです。たとえば、不正注文をチェックする際、注文した人の住所と名前を抽出するときに、まずはコンピューターで完全一致や部分一致を指定してデータを検索します。

「住所は同じだが違う名前の人」から頻繁に注文が来ている場合には、人間がチェックして不正な注文かどうかを判断します。データの抽出までをコンピューターが、その先の判断は人がやっていくという分業の体制を構築してきました。

段ボールに商品を入れて発送する過程は出荷倉庫に委託をしているので、その作業に社員の手が取られることはありません。そうした意味で、スケーラビリティのあるビジネスモデルを作っているんです。

社員数を増やすにあたっては部署を新設したわけではなく、お客様に関わるカスタマーサポート(CS)部とCRM部、広告戦略に携わる販売促進部などの社員を増員しました。

第一創業期では私と常務がすべて指示を出す文鎮型の組織でしたが、現在はある程度の意思決定は社員に任せています。とはいえ、私たちがリードする部分がまだたくさん残っていますね。

——第一創業期と第二創業期ではビジネスモデルが大きく転換しましたが、これによって社員の価値観や社内のカルチャーはどう変化したのでしょうか。

ビジネスモデルを変えたことで、第一創業期の「努力をしても成果が出ない」という状態から、「やらなくても売上が伸びていく」という状態になっていきました。

第一創業期であれば広告を出して売上が上がると「やったな」と感じていたところから、「売上が増えると自分たちの仕事が増える」という被害者意識を持つ社員が出てきたのです。

本来であれば「会社が成長することでキャリア機会が与えられる」といったメリットを感じてもらえたらよかったのですが、「仕事が増えたせいで定時に帰れない」などネガティブな思考を持ってしまう。こうしたジレンマは採用のミスマッチによって起こったのだと思っています。

メビウス製薬の価値観や社内ルール等が書かれたCCS(Corporate Culture Standard)(現在は廃止)を作成したり、成長対話などの制度を取り入れたりしていますが、個人の価値観はなかなか変わるものではありません。

このように、事業が成長する一方で、採用のミスマッチという課題が見えた第二創業期でした。

第三創業期は高速でイノベーションを起こせる組織が必要となる

——小野社長はメビウス製薬の「いま」を第三創業期であると呼ばれています。なぜこのタイミングを第三創業期と位置づけたのでしょうか。

昨今のコロナ禍によって、世の中はものすごく大きな変化を遂げようとしています。そんな中、メビウス製薬でも現場のひとりひとりが考えて進んでいけるような組織を作らなければならないと感じました。

昔の機関車は、動力である機関車が客車や貨物を引っ張っていました。1つの動力に20両から30両の貨車がついていると、走るスピードが遅いんです。一方で、新幹線には全車輪にそれぞれモーター(動力)がついていて、高速移動することができる。言い換えると新幹線は全輪駆動型です。

これから一層変化が激しくなる世の中にあって、高速でイノベーションを起こせる組織が必要になってきます。第二創業期までのトップダウン型のマネジメントでは、どうしてもスピードが遅くなってしまうので、新幹線のような全輪駆動が組織に求められていきます。

「社長が右を向けと言ったから右を向く」のではなく、「このお客様は右を向くと喜ぶ方だ」といったように、これからはお客様に喜んでいただける定義を自分で考えて提供できる人が活躍するようになっていくと思いますね。

自分で考えて判断し、その結果に責任を持つ部門経営者のような人材が増えてほしい。これが第三創業期の目指すところです。

——第二創業期と比較して、組織はどのように変わっていくでしょうか。

第三創業期は社長と常務が会社に常駐しません。私たちがいることで社員が指示を待つようになってしまうんです。自分で判断して行動してもらう、自立自走できる組織に変えていきたいと思っています。

自立自走の先にはもう1つ、「自創」というものがあります。自分の足で立ち上がって、自分の足で走った先に、自分で新しい領域を創り出す。自分で付加価値を生み出していくまでが第三創業期の最終ゴールだと思いますね。

必要なのは失敗を恐れず挑戦できる人。世界に通用するポータブルスキルを磨いてほしい

——第二創業期と比較して、第三創業期ではどんな人材が求められていくのでしょうか。

第二創業期までは真面目で素直な社員が求められました。ですが、第三創業期は多様性を大切にしていきたいと思っています。極端なことを言うと、1日3時間しか仕事をしないけれども人の10倍結果が出せる、結果に対して責任を持てる人。そんな人材がいてもいいのではないでしょうか。

最初からうまくいくことはありません。失敗してもいいんです。ただ、失敗しても挑戦し続けること。多くの人は、3回やって失敗したら諦めてしまいますが、3回失敗したのなら4回目、5回目も挑戦する。結果が出るまでやれば100%の確率で成功できるんです。

第三創業期に求めるのは、結果が出るまで挑戦し続けられる人ですね。

私にも子どもがいるのでよくわかるのですが、かわいい子どもには失敗をさせたくないですよね。ですから、つい「こうしなさい」「こんなことはやめなさい」と言ってしまうんです。そうすると、子どもは「失敗するのが怖い」という感覚を強く持つようになってしまいます。

社員も同じで、失敗を恐れてばかりでは、第三創業期を乗り越えていくのは難しい。失敗したときに、なぜ失敗したのか、同じことを繰り返さないためには自分の行動をどう変えていくか。ある人は3ヶ月後かもしれない。ある人は6か月後かもしれない。または、1年後、3年後かもしれませんが、自分を信じてやり続けることで、必ず結果が出るんです。

そういった理由で、途中でやめてしまうチームには、成功するイメージが「持てない」のではなく、「持とうとしていない」のではないか?と思ってしまうことは私の今までの思考上の悪癖だったと思います。ですから、今までは「持てない組織」だった側面もあると思いますが、それでは世界から置いていかれると思い、私も常務も、会社全体も変化しています。これからのメビウス製薬は違います。次の世代につながるようなグローバル人材を育て、多様性ある組織にしていくことも、私たちの役割だと思っています。

——第三創業期に向かっていく中で、これから入社する人たちはどんなキャリア機会が得られますか?

メビウスの事業自体がどんどん大きくなっていきますので、チャンスはたくさんあります。まずは失敗から学ぶこと。先ほどデータ経営の話にもあったように、まずデータから現在地を把握すること、次にどうしたら数値を改善できるかを考える。この感覚を持つことで成長を続けていけるでしょう。

私は社員にメビウスの中でしか通用しないコーポーレートスキルを求めているわけではありません。グローバルな世界で生き抜くためにポータブルスキルを身につけてほしいと思っています。

スピード感を持ってチャレンジし続けること。これは立派なポータブルスキルです。こうしたスキルを備えたうえで、どんなことが起きても生きながらえることができる判断力と行動力を兼ね備えた人材を育てていきたいと考えています。

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