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スタートアップのCHROが、着任して150日でやったこと。#1

こんにちは。株式会社Colereでコンサルタントを担当しているToshikiです。

私は現在Colereのメンバーとしてコンサルタントを務める傍ら、SaaS系スタートアップ企業でCHROを務めております。今回はCHROに着任して150日で取り組んできた人事業務についてお話ししたいと思います。

※前提として現在の会社は以下のような状況です。

<会社概要>
・バーティカルSaaSを提供するスタートアップ企業
・サービスローンチから約2年、2021年末時点でN-2期
・2020年→2021年での売上ARRのYoYは約2,800%、今期も400~500%程度の事業成長を見込む
・私が入社した(2021年8月)時点の社員数は約25名、2022年の要員計画では約100名まで増員予定
・CHROといっても会社の一人目人事です(今年の4月までに採用+1名、労務+1名、アシスタント+1名が加わっていただくことになりました;;)

CHROとして取り組んだこと

この規模のスタートアップ企業(私がジョインした当初は25名程度でした)では当然最優先事項はリクルーティングになるんですよね。ただ、前職時代にいろいろな会社の人事の方とディスカッションさせていただく機会があったことや、「グレイナーの5段階企業成長モデル」でも言われているように、急拡大する組織が必ずどこかで壁にぶつかることを理解していました。なので強く意識したことは「遠心力と求心力」を同時に強くすることです。

ここでいう「遠心力と求心力」とは、以下の2つです。
①遠心力:リクルーティング活動
②求心力:組織カルチャー形成/浸透
スタートアップ企業のCHROは当然自分自身もプレイヤーとしてガンガン手を動かすので、一つの人格で相反する二つのベクトルを拡大させていくというところが担うべき役割だと意識していました。
※(記載できないことも多いので笑)ここには詳細を記載しませんが、重要なもう一つの役割として、③上場に向けた監査法人への対応や、労務基盤の整備等も並行して行っていました。

意識していたこと

同じくスタートアップで一人目人事をされている方であればお分かりのとおり、①②(+③)を両輪で一人で回していくためには、確実にリソースの壁にぶちあたります。当然なんでもできるスーパーマンが採用できればすべての問題は解決するのですが、そんなにうまくは行かないので社外からのお力をお借りしたうえで(業務委託やインターン生の採用など)、自分のリソース配分に優先順位をつけて対応していくことになります。ここで意識したのは「成果を出すのに努力の割合が高いか?リスクの割合が高いか?」という観点です。※この言葉は最近、為末大さんのnoteを読んで表現がしっくりきたので使わせていただいています。

Colereでコンサルタントとしてお客様のお手伝いをさせていただく中でも改めて思うのですが、求心力を強化することへのリソース投下は非常に勇気のいることです。
言わずもがな、
・そのROIはどうなっているのか?(成果の見えにくさ)
・いつになったら成果が現れるのか?(即効性の薄さ)
・なぜそれをやらないといけないのか?(説明性の低さ)
など、経営に対しての説明が非常に難しいです。

一方で、採用活動は「決まった期限内に何人採用できたのか」という明確な指標をもって説明できることも多く、またファネル分析などで中間の指標とそれらを改善するための施策もある程度見えやすいものが多いと感じています。

これらを踏まえて、努力の寄与度が高い=①リクルーティング活動は、仕組みを作ったうえで外部リソースを多く投下し成果を上げる体制に。リスク割合が高い=②組織カルチャー形成/浸透はCHROである自分がすべての責任をもって推進していく体制で進めていく形を取りました。

具体的にやったこと

①遠心力の強化(リクルーティング活動)

私自身、前職での人事経験の中で2.5年程度採用担当を経験する機会があり、ある程度採用活動における”キモ”のようなものを把握していました。その”キモ”を押さえつつ、PDCAを地道に回していくことが採用成功の一番の近道だと確信していました。

①ー1:オペレーションの確立

着任してまず最初にやったことは、ATSの導入による採用状態の「見える化」です。”No measurement, No improvement ”という言葉があるように、まずどこに問題があるのか?を可視化するために、採用の全体観を数字として見ることにしました。
採用活動とは、かなりシンプル化して整理するとこうなります。
・リーチ:選考に参加してくださる候補者さんの母集団形成
・見極め:ご活躍いただけそうな方を判断するための面接
・アトラクト:入社意欲をあげ、入社いただくための意思決定をしてもらう
これらのフローを数字を整理して見てみたときに、大きく2点の課題があることに気づきました。

課題1:連絡のリードタイムが長く途中離脱が発生している
課題2:アトラクトがうまくいっていなさそう

【課題1:連絡のリードタイムが長く途中離脱が発生している】

私が着任当初、当然専任の採用担当がいるわけでもなく、役員陣で媒体運用を回している状態でした。そのため、「あれ?あの人面接の後連絡したっけ?」「次なにするっていう話になってたっけ?」という状況になっていました。
その結果、選考やカジュアル面談からの次のステップのご連絡までのリードタイムが長期化→選考途中で離脱してしまう、という問題を抱えていました。
この問題を解決する手段として、
・HERP(ATSサービス)
・Asana(タスク管理やWBSなどのワークマネジメントツール)
を活用し、選考フロー管理の徹底を行うことで選考調整の漏れやミスを減らしていきました。(余談ですが)HERPさんは定期的にアップデートのリリースをしてくれており、後述するスクラム採用を実現するにあたって、UXを非常に良く考えてくれているなと感じるのでおススメです。

【課題2:アトラクトがうまくいっていなさそう】

いろいろな候補者さんと会う中で、「アトラクトが刺さっている人には激刺さりしているが、そうじゃない人にはびっくりするほど刺さっていない(魅力が伝わりきっていない)」ということを強く感じました。最終面接段階の候補者さんに「弊社のどんなところに魅力を感じていただいて選考に来ていただいているんですか??」とお伺いした時の回答を聞いて、「え?それ本気でそう思ってくれていますか?」と感じるようなシーンが多々ありました。(例えば、「御社のサービスが業界のDXを推進していて素晴らしいサービスだと思いました」と言っていただくケースがよくあるのですが、実際候補者の方の人生で数回関わるかどうかの業界なので、「え、そんなに思い入れないですよね。たぶん、、、」と思ってしまいます。実際に深掘ってヒアリングしてみると実は別のところに軸があるケースが多くありました。)

これはスタートアップあるあるだなと思うのですが、経営陣ってビジネス大好き・仕事すること大好きで、「うちにきたら楽しいに決まっているんだよね」「このプロダクトで一緒に世の中変えていく方がいいに決まってるでしょ」というトーンで接しているケースがめちゃくちゃ多いなと思います笑。

当たり前ですが、仕事をする上で何を大事にしている方なのか?今回の転職でどんなことを勝ち得たいと思っているのか?(とにかく年収を上げたい、働き方を変えたい、新たな職種にキャリアチェンジしたいなど)は各者各様であって、それを無理に会社側の論理に合わせる必要はないと思っています。最終的に言っていることは同じでも、それをどのようにとらえるのか?どういった言葉として腹落ちさせるのか?によって、候補者さんへのアトラクト効果が大きく違います。

こういった背景を踏まえ、最終面接の前に必ず私との面談を行い、候補者さんをクロージングするまでのストーリー設計を綿密に行うようにフロー設計しました。

・この方は今回の転職でどのようなことを勝ち得たいのか?
・それをどのように自社で提供できるのか?

これを丁寧に言語化し、その後のアトラクト設計をした結果、知名度が高くない現状でも多くの方にご入社を意思決定いただけるようになりました。また副次的なところですが、残念ながら辞退になってしまったときも、「今のフェーズではお互い幸せじゃないよね」という納得感が高まるようになりました。(これは後になってかなり効いてくると思っています)

①ー2:体制強化

実際は①-1と並行して進めていたことですが、着任早々に3名のインターン生を採用して採用Opsチームを構成しました。(インターン生の採用には「Infra」というサービスを使っていますが、優秀なインターン生がすぐに応募してきてくれるのでおすすめです)

インターン生に採用Opsを任せるなんてやりがい搾取では?と言われることもあるのですが、採用業務はビジネスマンとしてのスキルを身に着けていくのにもってこいの業務だと私は感じています。

ビジネススキル向上のSTEPとして、基本的にリスクが低い順に守→破→離と段階を踏んでいくことが王道だと思います。

具体的に言うと、

”守”(決まったオペレーションを回す)
・面接日程の調整
・スカウトの送付
・求人票の作成

”破”(オペレーションの中で改善をして数値を上げる)
・日程調整のリードタイム削減、効率化
・文面や送付対象、送付日時の改善による母集団形成強化
・ペルソナの設定、条件の見直し、文面のブラッシュアップ

”離”(Why?に立ち返りIsuueを設定する)
・面接オペレーションの再構築(面接官にその場で日程調整させる運用など)
・新たな母集団形成チャネルの開拓
・JDの見直し、要員計画の再定義

こういった定型のオペレーションから入り、よりリスク/難易度が高い業務に昇華させていく機会があるため、個々人の段階に合わせた期待設定がしやすい業務の一つだと思います。

私が新卒採用を担当しているときから人事という職種は学生さんから人気があり、今でも興味を持ってくれる学生さんが多いです。(募集をかけるとほかの職種よりも断然早く応募を集めることが出来ます)学生さんにとって、興味がある職種にインターンとして関わることができ、かつ社会人になる前のスタートダッシュを切ることができ、会社にとってもクイックに優秀な方の力を借りて採用を強化することが出来るので、インターン生チームでの運用体制構築は非常におすすめです。

①ー3:スクラム採用

HERPさんが提唱して一時期バズワードになっていた「スクラム採用(※)」ですが、特にスタートアップにおいては意思をもってスクラム採用を推進していくことをおすすめしたいです。その理由は大きく3つあります。

※スクラム採用とは「採用活動を経営陣と人事に閉じたものではなく、現場社員を巻き込んだ形で行うことで、最大の成果を創出していく採用手法」です。(HERP社HPより引用)

理由1:採用リソース不足だから

弊社のように、いざ要員計画をつくってみると、現在約40名から半年後100名を目指します!というようなストレッチした計画になることは、スタートアップでは往々にしてあると思います。そんな時に求人票の作成、母集団形成、選考設計、面接調整、アトラクト設計、入社手続き、などを人事のみで担っていると、要員計画の充足はかなり難しくなります。

実際に弊社でもスクラム採用を掲げ、各unit(カスタマーサクセスunit/セールスunitなど)の責任者に採用権限を委譲して採用活動をしてもらった結果、unitごとに求人媒体やエージェントの開拓をすすめたり、母集団形成の幅を広げてくれたりと、人事だけの主導で行っているよりもはるかに速いスピードで採用を進めることが出来ています。

理由2:戦術の変更が頻繁に起こるから

スタートアップなどPMFしきっていないフェーズにおいては、日々検証した結果を戦術にフィードバックし、それ応じた組織体制の変更や、個々人にアサインする業務の調整が発生します。現場主導での採用を実施していくことで、日々変化する必要役割に対して柔軟に対応していくことが可能になります。実際に弊社でも、もともと社員採用しようとしていたポジションが、定型化していったことによって一部アウトソースしたほうがいいよねということが決まり、素早く方針変更した結果、短期間でポジション充足することが出来た事例がありました。

理由3:育成へのコミットメントが生まれるから

ここはスタートアップに限らず重要なポイントだと思います。私は前職の大手企業では人事を務めた後に事業サイドに異動しましたが、やはり現場では「人は人事が連れてくるもの」という意識が強いと感じています。
その結果、
「なんであんな使えないやつを人事は採用したんだ?」
「XXさんはいらないので、とっとと他の部署に異動させてほしい」
などという会話がリアルに発生していました。実は蓋を開けてみると、マネジメントの問題だったということが多々あるのですが、自分が責任をもって採用すると決めたか?そのプロセスにコミットしたか?というのは、入社後の従業員のオンボーディングや活躍に強く相関していると思います。

これら3つの理由を踏まえて私が行ったことは、経営陣に対して、スクラム採用をやっていくことの宣言と、それを継続して言い続けることです。

入社した初月に経営合宿を実施し、当時のマネジメントメンバーが全員集まる場で「スクラム採用」のコンセプトに触れ、全員で採用にコミットしてもらうように伝えました。また、各部署の要員計画やJDについては各unitの組織長に作成してもらうこと、採用目標へのコミットをミッションとして持ってもらうことにしています。あくまで採用チームはイネーブルメントの役割であり、採用の主体者はみなさんですよということをCHROである私から発信し続けることは意識しています。

①ー4:要員計画の解像度を高める

最後になってしまいましたが、実はスタートアップの採用において一番大事なことはこれなんじゃないかと思っています。抽象的な表現をすると、「まるっとそのドメインを担当してくれる人を社員で採用したい」という要件定義をしてしまうことです。
けれども上記のような要件を満たす人はだいたい、
・年収レンジがかなり高い
・そもそもマーケットにそんなにいない
・いたとしても既に現職で重要な役職についている
という感じで、採用難易度がめちゃくちゃ高いです。

大手であれば、内部のリソースで何とかなるケースが多いので、エージェントに一本釣りしてもらって高い給与を提示して採用できればいいよねというスタンスで大きく構えておけば良かったりもしますが、スタートアップはそこのポジションがいないと事業成長のネックになってしまいます。ここをどうにかしないといけないのです。

そこで私がこだわったのが、この3点。
・短期的な事業ドライバー/未来の構想への解像度を高めること
・各KPIを実現するにあたって具体的な業務レベルまでの深い理解をし、それを踏まえた人材要件定義を行うこと
・それが候補者の方から見たときにどう映るのか?を意識すること
これらを通じて、各unitの要員計画のブラッシュアップをしていきました。

各unit責任者から出してもらった要員計画に対して、
「それって具体的にどんな業務をやってもらう想定ですか?」
「どの業務に対していくらの年収を提示する想定ですか?」
「どこで働いているどんな人がペルソナですか?」
「その人に対して何といって口説くんですか?」
というディスカッションを通じて、要員計画の解像度を上げていきました。

これを実施してみての学びとしては、
a:1000万円のお仕事は400万円×2名+業務委託200万円で分割出来るケースがあること
b:候補者さんのほしいラベルを意識すること
の2点です。それぞれご説明していきますね。

”a:1000万円のお仕事は400万円×2名+業務委託200万円で分割出来るケースがあること”

お仕事を大きく企画と運用に分けるとします。スタートアップにおいてはこの両方を取締役や役員クラスが他の業務と並行して担っていることも多いでしょう。そのため、企画と運用をまるっと担ってくれる=前任がやっていたことをそのまま引き継げる人を採用しようとしてしまいがちです。これら両方を担える能力のある人材を採用するには、会社事業やカルチャーへの深いコミットメントを採用段階で醸成する必要があり、やはり難易度がぐっと上がってしまいます。

(もちろんこれが全てじゃないという前提ですが)一般的には企画のお仕事の抽象度が高いため、お任せできる人材の採用難易度が高いです。一方で、運用業務は一定量はやることが見えているため、お任せできる方の候補が企画と比較すると一気に広がります。これらを考慮して、本来1000万円で採用したかった方の担う業務を、200万円でアウトソースする企画業務と、運用面を担っていただきブラッシュアップしていただける400万円の方を2名採用することで実現する、という方法があることを実感しました。

※もちろん並行して企画ポジションの方を採用しないと後々組織としてジリ貧になっていくことは間違いないのですが、、、

”b:候補者さんのほしいラベルを意識すること”

ここは各unit権限で採用していくことの難しさでもあるのですが、欲しいポジションのJDが候補者さんにとって魅力的にならないケースがあることを痛感しました。

例えばカスタマーサクセス部で以下の業務を担ってもらいたい企画職の方を採用したいとします。
・サクセスグループのKPI策定・モニタリング
・経営への数値の報告
・KPI改善のためのデータ収集/分析
・Gap-fillのためのアクション策定、運用構築
上記の業務内容を踏まえて出したい求人は、「カスタマーサクセス企画」になります。

これを見た採用候補者の方の受け取り方はどうでしょうか?求人に応募してくれる方の属性は、おそらく現職でカスタマーサクセスを担当している方になるのではないでしょうか?

面接を担当してくれたサクセスマネージャーにヒアリングすると、「確かにカスタマーサクセスの経験はあるけど、運用を回して自分の数値は改善してきている一方、企画をやってきた経験がなくて、今回担ってほしい業務が出来るイメージが湧かなかったんだよね」というFBをもらい、実際に採用したい方のイメージはおそらく「事業会社で事業企画や事業推進を担っている方」だなと気づきました。そしてこういった方々は、今後事業企画としてマネジメントポジションや、責任者のポジションを経験することでキャリアアップしたいと思っているはずです。

これらを踏まえて非常にシンプルな改善として、同じ内容の求人でも募集タイトル(ポジション)を、

Before:サクセス本部/カスタマーサクセスG/企画職

After:経営企画部/事業企画G/企画職

とすることで、大幅に応募が増えました。

このように、出した求人が、自分たちの採用したいペルソナにどうみえるのか?は特に気を付けたほうがいいポイントだと思いました。(あたりまえだよという話しかもしれませんが、、w)

採用についてだけでもかなりのボリュームになってしまいました笑。次回は、求心力を高めるために取り組んだことについて書きたいと思います。

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