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[組織のプロに聞く]第2回 CHROってどういう人ですか?


今回も話をしてくれるのは、組織のプロである株式会社Colereの代表のふたりです。

組織のプロたち

讃岐谷 真之
株式会社Colere 共同創業者

株式会社リクルート人事部を経たのち、営業部門で大企業からスタートアップまで採用支援を担う。2年連続全社MVP受賞。2014年株式会社リクルートホールディングス CEO秘書、経営企画部の部長を経てグローバルガバナンス体制の整備や経営諮問委員会を担当。2017年CEO室長と働き方変革推進の責任者を兼務。家族が暮らすシドニーに移住するため2020年に退職、同年10月株式会社Colereを創業。


中村 駿介
株式会社Colere 共同創業者

株式会社リクルート人事部配属、一貫して人事領域の仕事に従事。2015年、株式会社リクルートホールディングス 人事戦略部 部長としてITとデータを活用したHRテックメソッドの開発とそれらを活用したリクルート全体の組織変革を推進。2019年に社会変革を実践する実験組織「ヒトラボ」を立ち上げ。2020年4月より壱岐に移住。現在は、持続的な地域社会の実現に向けて、市役所の組織改革と壱岐市全体の教育改革に着手している。

CHROってなんですか?

ー今日は、CHRO(Chief Human Resources Officer)について教えてください。CHROの定義はありますか?

讃岐谷 ひとことで言うと、CHROは経営者であり、企業文化の創造者です。経営戦略を実現するにあたって、人と組織についての最高意思決定者。CEOももちろん人と組織を見ますが、その違いは特に時間軸の長さにあると思います。CHROのほうが人と組織に対してよりは深く、そして長い時間軸で考えていく。

ー時間軸が長いとは?

讃岐谷 人材開発や企業文化の醸成というのはどうしても時間がかかります。例えばマーケティングだと、投資したあと比較的すぐその成果を測る施策が多いと思いますが、人事領域というのは曖昧さや不確実性も高く、成果が見えるのに5年、10年とかかることもあります。変化に柔軟に対応しながら成果が出るまでの期間を信じてやり続けるリーダーシップや胆力がCHROには必要です。5年、10年先を見据えて動くための未来を見通せる能力を持ち、時にはCEOやCFOと意見を戦わせながらも協働して未来に向かって経営を導ける人がCHROです。

中村 僕はCHROって明確にこうです、と思っている定義はないのですが、人にまつわる資産の運用者だと定義づけられるのかな。ここでいう資産とは、人材そのものだったり、人材のモチベーションだったり、人材間の信頼関係だったり、組織に蓄積された判断基準としての企業文化などのことを言っています。讃岐谷の言う「長い時間軸」と本質的には同じことかもしれませんが、こうした資産をうまく運用していくことで増やしていき、さらに新たな資産を呼んでこれるのがCHRO。これを他のCXOと連携して、会社の目指すビジョン、事業戦略の実現に繋げていける人のことだと考えています。

ー CHROと人事部長に違いはあるんでしょうか?CHROに絶対必要なスキルセットがあれば教えてください。

讃岐谷 スキルセットよりマインドセットが重要です。会社のステージなどによってCHROに求められるスキルも変わりますし。あえてスキルや経験の違いがあるとすると、規模は小さくても良いので経営という立場に立ったり、その立場で物事を考え動かしたりするスキルは必要です。

言い換えると、人事部長が経営者と同じ目線に立って取り組んでいれば、その人はCHROになれるといえます。また、これは人事部長にも言えますが、自社の事業が持つ競合優位性を頭と心で理解していることも重要です。現場で働く人を活かしたいという気持ちはそこから生まれるので。

ー CHROは経営者と二人三脚で取り組める人、ということですね。

讃岐谷 そうですね。たとえば人事制度や評価制度を作ることだけが必要であれば、人事部長で充分役割を果たせる、とも言えるかもしれません。1個1個の人事アジェンダは人事部長でいいのですが、それらを統合してどういう組織を、企業文化を創っていくのか、チェンジマネジメントをどうしていくのかとなるとCHROのアジェンダと言っていいと思います。

中村 経営戦略を実現するのが組織なので、CHROは経営戦略を理解している事が前提になりますね。加えて、その戦略を実現するために取り扱うのは、人であったり、人同士の関係であったり、モノやカネとは違うナマモノで予測が難しいアセットです。こうした特殊な資産を扱うプロであるということが求められると思います。



ー 有名なCHROはいますか?具体的なイメージができると、わかりやすいなと思いますが。

讃岐谷 CHROと言う肩書きにこだわらず、会社の人的無形資産、組織文化を築き上げた人だったら、例えば『WORK RULES!』の著者であり、Googleで活躍されていたラズロ・ボックさん。時代は違いますが『心理学的経営』の著者である大沢武志さんも、CHROという肩書きではないですが、まさにCHRO的な役割を果たした方ですね。

中村 優れたCHROの仕事のイメージとして、僕も当事者として経験した変革のお話をしますね。

その会社は、情報誌事業では強固なビジネスモデルと競争優位性を築いていたのですが、情報流通のチャネルが紙からネットに変わったことで大きく事業を変革していく必要がありました。ネットビジネスとしては後発になるので、新たに競争優位を築いていく必要があります。そのため、段階的に紙媒体からネットへと人材の比重を移していくことになるのですが、この変革が秀逸だったのは、最初から企業文化を再構築していくことに焦点が当てられていたことです。

紙のビジネスの爆発的な成長を実現したのはフリーペーパー事業だったのですが、それは勝ちパターンが徹底的に研究されていて、そのプロセスをいかに効率的に実行するかがKFSでした。そうすると、勝ちパターンを素早く繰り返し、拡大再生産できる人材が評価されるようになり、それが企業文化にも投影されます。

この企業文化を、インターネットという新たな事業環境の中で他社の追随を許さない競合優位性を築いていく、つまりイノベーションを起こす必要がある事業環境に適応させていくこと、それがこの事業変革の本質でした。この課題設定こそが、事業戦略と組織戦略を有機的に繋げて、経営目標を達成していくCHROの仕事だと思います。

ーなるほど。

中村 そうなると先ほど讃岐谷が言ったように、時にCEOとCHROは異なる立場に立つことにもなります。先を見据えた変化が必要だったとしても、CEOの立場では今現在の事業成果に大きな責任を持っているし、現在の中核事業を一緒に作り上げてきたメンバーの顔も浮かんでしまう。このようなジレンマをCEO一人で乗り越えていくのは並大抵のことではありません。そんな時に、自分とは異なる立場から5年、10年先を見据えたあるべき組織への変化を推進するCHROの存在はとても貴重なものと映るはずです。

ー CEO以上に長い時間軸で環境変化の先を読み、ナマモノである人という資産を活かして経営戦略を実現するプロがCHRO。そんなハードルが高いCHROになれる人材、そうそういるんだろうか。

CHROになれる人材を獲得する方法

ー そもそもCHROってかなり貴重な人材のような気がしてきたのですが、どういうフェーズでCHROを置く必要が出てくるんでしょうか?

中村 ひとつはシンプルに、組織が大きくなってきたときでしょうか。組織が大きくなり複雑性が増してくると、経営者ひとりでは限界が出てくる。スタートアップでは100名超えたあたりが難しいとよく言われますが、そういうシーンでCHROを置くケースがあげられます。

讃岐谷 Colereがサポートさせていただいている急成長中のスタートアップの場合、急拡大する組織への対応に加えて、売上だけではなく業界を引っ張っていくミッションドリブンな会社になりたい、という強い意思が最初からありました。そういったケースでは早い段階からCHROが必要となりますね。もうひとつのパターンとしては、いわゆる「両利きの経営」を目指している会社。既存の事業の深掘りと、新たな事業機会の探索という両立するための組織には、CHROのような存在が不可欠でしょうね。

ー CHRO人材を確保するにはどうすればよいですか?

讃岐谷 難しいですよね…社内の人材から据えるか、外から連れてくるかしか選択肢はないわけですが。外で探そうとしても、いないんですよね、市場にCHROが…(笑) 。人事責任者だから人事の経験者を採用すればいいのかというと、ここまで話してきたようにCHROというのは経営者ですから、自社の経営者をもう一人探すようなもの。だから、そう簡単には見つからない。

ー そうすると内部から引っ張り上げるしかないですね。その場合、こういう資質がある人が良い、などありますか?世のCHROにはどういったキャリアを歩んできた方が多いのでしょう?

讃岐谷 経営者に近い経験をしてきたCHROも徐々に増えてきていると思いますが、やっぱり人事の仕事を経験してきた人がCHROになるパターンが多いですよね。スタートアップだととにかく採用力がある人が担うこともあります。

ちなみに、昔の人事責任者は現場で多く活躍してきた採用が上手な人、例えば優秀な営業マンがなることも多かった。年功序列・終身雇用で制度が固定化していて、その既存の枠組みを守っていられたので、「権威としての人事」であれば、人事のことにあまり精通していなくても役割としては果たせたわけです。

他に重視されるとしたら労務対応の折衝力などでしょうか。昔の人事をキーワードで表現するなら「統制、管理、秘匿」。でも今では全然違います。「信頼、共感、対話」が人事に求められる。これまでは人事は権限集中しているイメージでしたが、最近は情報の透明性や情報発信も強化し、現場や部門に権限委譲をおこない、スピードを高める動きも顕著です。だから、必然的にCHROになるために求められるキャリアも変わってきていますよね。

中村 CHROに求められる資質でいうと、人という特殊なアセットの責任者なので、人についての理解や想像力があるというのはものすごく大事だと思います。「スキル x モチベーション」で人のパフォーマンスを表すという考え方がありますが、このモチベーションというのが実際は難しい。ひとりの中のモチベーションにも色々あるし、集団という関係性の中ではモチベーションはさらに多様になる。さらに集団と集団の関わり合い、社会との関係の中で、人材が発揮するパフォーマンスの総量を最大化にはどうすればいいのか。

それを考えられるCHROになるためには、最低限まず自分自身への洞察があり、自己認識をクリアにできているか、を判断基準にするのがいいと思います。

昔の日本企業でよくあった、やるべき仕事はもうあらかじめ決まっていて、それを遮二無二にやっていれば充分だった、仕事において自分を深掘りする必要はなかった、という環境で生きてきた人だと難しい。自分や他人のもつ可能性への想像力が不要なままでキャリアを歩んでしまうので、今の時代のCHROには向いてないのではないでしょうか。

讃岐谷 なぜ世の中にCHRO人材が少ないんだろう、と改めて考えてみました。今の時代はほぼすべての会社に「両利きの経営」が求められるし、社会環境はますますVUCAになっています。それに対応できる多様性のある人材を集めて組織を創る必要があるけれども、そのような環境下で成果を出したり経験を積んだりしている人がまだ少ないというのが背景にあると思います。

ーなるほど…そう考えるとCHRO人材がすぐ増えることも想定しづらい。CHROを育てられるノウハウを持っているコンサルティングにCHRO業務を依頼するというのも、ひとつの合理的な手段に思えてきます。



ー翻って、例えば日本よりも先に進んでいそうなアメリカに目を向けると、CHRO人材はすでに豊富だったりするのでしょうか。

讃岐谷 同じく人材不足に悩んでいると思いますよ。特にパンデミック以降、働き方に関する主導権が会社から従業員に移りましたよね。従業員に会社に来ることを強制したら、従業員が辞めてしまうような時代になった。「Work in Life」という考え方が一気に10年くらい早く進んだ感があります。そこへの適応も考えなくてはならない。そこに成功体験がある人材はおろか、おそらく予測できた人すらいないですよね。

ーそうなるとこれからの時代、さらにCHROを務められる人材がレアに…

中村 これからの時代のCHROが務まる人材を見つけられるポイントがあるとすれば、「一人ひとりを活かしていくことが、会社の業績を大きく変えられるカギだ、というのをどれだけ信じられている人か」だと思います。そのためには、「まず自分自身もひとりの人材として、大きな力があると心から信じられているか」「人ひとりの力がいかにすごいかということを過去に体感したことがあるか」「その背後にどんな周囲との関係性があったり、環境の変化があったかを理解しているか」が必要になる。そして、学生時代の文化祭でも部活でもいいんですが、過去に「チームダイナミクスが起きて、すごいことを達成した体験」がある人か。そういった体験がある人であれば、VUCAの世界でたとえ正解がわからなかったとしても、個々人の力を引き出して道を拓いていける。

これは言い換えると、エンゲージメントと呼ばれることをどれだけ深い感情レベルで体験したことがあり、それがどれだけパフォーマンスに影響をもたらすかを分かっているかどうか、ということです。

僕はそれがこれからのCHROに足るか足らないかを見極める判断ポイントだと思います。



まとめーCHROとは

・CHROとは未来を先読みして人的資産を運用し、5年、10年というスパンで会社を導ける人
・これからのCHROには「個々人が大きな可能性と力をもつことを信じられる」経験があることが重要

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