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アカデミックからビジネスの世界へ。グリラス誕生秘話【対談】

バーの3名と、営業・企画担当の西郷を進行役に迎え、これまで語られてこなかったグリラス創業の背景についてお話を伺いました。


写真左から取締役CTO 三戸、代表取締役CEO 渡邉、取締役COO 岡部

代表取締役CEO 渡邉 崇人(わたなべ たかひと)
昆虫の発生・再生メカニズムが専門。コオロギの大規模生産、循環エコシステムの開発を行う。徳島大学大学院社会産業理工学研究部・助教

取締役CTO 三戸 太郎(みと たろう)
昆虫の発生・再生と進化のメカニズムが専門。コオロギの機能性の研究を行う。徳島大学大学院社会産業理工学研究部・准教授

取締役COO 岡部 慎司(おかべ しんじ)
質量分析を活用した網羅的タンパク質解析が専門。ダイレクトマーケティングによるネット通販も手掛け、コオロギの加工方法の研究を行う。


進行:西郷

西郷 琢也(さいごう たくや)
徳島大学卒。大手物流系企業を経て2020年9月にグリラスに参画。営業及び商品開発、ロジスティクスを担当。

「食用コオロギ」に至るまで

ー今日は宜しくお願いします!まずは、グリラス創業に至るまでのお話についてお聞きしたいです。三人はどこで出会い、どのような経緯でコオロギのビジネスを始めるに至ったのでしょうか?元々徳島大学内での研究ベースですよね?(西郷)

三戸そうですね。自分は、現学長である野地先生の研究室に助手として入ってから、20年間大学内でコオロギの研究をしていました。当時その研究室では、ハナカマキリの擬態の研究がメイン。その餌として研究室内でコオロギを飼育していたんです。

繁殖が容易で扱いやすいコオロギは、研究の対象となるモデル生物※1に適していたこともあり、そこからコオロギを用いた発生生物学の研究に力を入れるようになりました。

※1 普遍的な生命現象の実験で用いられる生物。繁殖や飼育が容易で、世代交代が早い生物など。

渡邉:自分も同じく学生の頃、野地研究室に入ったことでコオロギの研究を始めました。生物と名の付く学科に通っていましたが、特に昆虫少年だったという訳ではないですね(笑)

どの研究室も唯一無二の研究をしているけれど、当時はその違いが良くわからなかったんです。細胞や微生物。色々なものを扱う研究室がある中で、野地先生の研究室が唯一マウスやコオロギなど少し大きな生き物をつかった研究をしていて、一番世界と戦っていそうな雰囲気がありました。

岡部僕は大学の研究者ではなく、タンパク質解析を受託で行うバイオ系企業で働いていたので2人とは何の接点もありませんでしたね。

ただ、ある時、野地先生と昆虫の研究の話で盛り上がって。渡邉先生にコオロギについて話を聞きに行ったんです。たぶん、そこではじめまして。8年前の2012年頃の話です。

ーまだまだ「食用」のキーワードは出てきませんね。

渡邉:その後、徳島大学内で新しく「生物資源産業学部」という学部を設置することになったんですよね。自分は学部での研究時代からここまでの間、期限付きで県の組織に出向していたりもしていたのですが、このタイミングでようやく徳島大学の正式な研究員として配属することに。

その時、新設学部の目玉として、徳島大学内のクラウドファンディングサイトに生物資源産業学部の名前で何か新しいプロジェクトを立ち上げたい!という野地先生からの相談を受けたんです。

クラファンのテーマは色々と思いつくけれど、専門知識が無ければ深い理解を得ることが難しい基礎研究は、一般の人にあまり響かないのでは……?と考えました。

それよりは、ビジネスとしてもわかりやすく、世界の諸問題の解決に寄り添うプロジェクト。当時FAOの昆虫食についての報告書※2が世界の注目を集めていて、ヨーロッパでは次世代のたんぱく源として昆虫食が話題になっていたんです。

※2 国際連合食料農業機関(FAO)が食糧問題の解決策として食用昆虫の利用を提案し、実例と共にまとめたレポート。「昆虫食」に世界的な注目が集まる契機となった。

日本では、蚕など産業昆虫の伝統があるにも関わらず、昆虫食を広めるムーブメントは当時そこまでありませんでした。

徳島大学が昆虫研究のトップランナーとして知れ渡っていたこともあり、世界の食料問題を解決する力を持つ『食用コオロギの実用化』についてのプロジェクトを、徳島大学で立ち上げれば良いのではないか?と思ったんです。当時のクラウドファンディングサイト

ープロジェクト公開当時、大学や周りの人の反応はいかがでしたか?

三戸:大学は応援してくれる姿勢だったように思います。当時できた新しい学部の中で、食料科学系の人とも近く話すことができるようになっていました。プロジェクトとして公開してからはこれまで関わりの無かった分野の先生とも共同研究ができる可能性が見えてきて、研究に手ごたえを感じるようになりましたね。

渡邉:徳島大学の卒業生のLINEのグループがあって、プロジェクトに直接かかわっている自分が入っていることを忘れていたのか、「あの人たち気が狂ったんじゃないか?」と言われたことをよく覚えています。(笑)良いも悪いも、反応は様々でした。

プロジェクトの公開後も、終了した後も、クラファンのサイトを見て本当に色々な企業の方から連絡をいただきました。ピッチイベントにも招待していただいて、そこでもまた沢山の企業の方と繋がって。

三戸:これだけ多くの企業と話せば、何かしらの共同研究になるのかな……?と思っていたけれど全くなりませんでした。(笑)新しいプロジェクトの話が挙がっても、なかなか次に進まない。企業との関わり方もよくわからず、はじめてのことだらけでした。

「コオロギ入り」パンの完成

岡部:そうして沢山の企業から連絡をもらっても、当時は大学としてコオロギのパウダーをただ渡しているだけの状態。何か僕ら独自の商品を持って売ることができた方が良いよね、という話になりました。

当時はまだグリラスとして起業していた訳ではないけれど、無料でパウダーを渡すだけ、というのもちょっと。商品があって、それを売ることができた方がビジネスとしてずっと健やかですよね。僕は別の事業で、缶入りのパンを扱っていたんです。野地先生もそのパンの話に興味を持っていて、徳島大学としてそれを飢餓地域に届けられないかという相談をしていました。

そんな時先生が、「(パンに)コオロギ入れられないかな……?」と言い出して(笑)。

「いやいや、そんなの誰が食べるの??」と思ってお断りしたのに、ちょうど1カ月後、ヤフーニュースでドイツの企業がコオロギ入りのパンを売り出したことを知ったんです。もう、びっくり(笑)。良くも悪くも前例ができたので、僕らは手元にあるパウダーをパンに入れるだけ。それなら簡単だ!と実行に移すことにしました。

意気揚々といくつかのパンメーカーと話をしても、反応はあまり良くない。ちょうど、1カ月前の僕の状態なんですよね。いくつ話してみても一向に受け入れられず行き詰まっていたところで、手作業で缶パンを製造している福祉施設を、大学に紹介して頂きました。

行ってみると、「コオロギパウダーを入れるだけだろ?」みたいな反応で、サンプルが速攻で出てきて(笑)。恐る恐る商品にできるか聞いてみると、当時の社長さんが10秒くらい考えて「チャレンジしてみようか。」と協力してもらえることになったんです。


ー現在もAmazonで売っていたコオロギパンに、そんな秘話があったとは……!確かコオロギパンの発売が2018年の1月で、グリラスとして起業するのが約1年後の2019年4月ですよね?すぐ起業に移らなかったのはどうしてなんですか?

渡邉:コオロギの産業化を実現するにあたって、これまでのように手作業で少量ずつコオロギを製造しているのでは話にならないし、その状態では世界と戦えないですよね。

自動飼育装置も完成しておらず、この状態のまま会社を作って何か意味があるのだろうか?と一度起業の構想が立ち止まってしまっていたんです。大きな資本をもった協力者に声をかけてもらえるのをぼんやり期待していたのかもしれません。

コオロギパンを少しずつ作りながら、ごく少量をAmazonで販売しているだけの状態。そんな期間が1年ほど続いた中で、社会の昆虫食に対する風向きが変わってきていることを感じていました。コオロギのラーメンがあったり、我々の競合になりうる昆虫系のベンチャーも出てきていた。このまま、もう待っているだけではいけない!と思い、株式会社グリラスの立ち上げに至りました。

ーとうとうグリラスの誕生……!約1年後の2020年5月には無印良品ともコラボしたコオロギせんべいの商品化も実現し、会社の名前も広く知れ渡ることになりました。その後2.3億円の資金調達しかり、ピッチへの登壇なども。ここからグリラスの快進撃が始まるんですね。

食品メーカーとして、テック系ベンチャーとして。

ー20年にも渡るコオロギ研究のベースなど、グリラスはどこにも負けない高い技術を持ち合わせていると思うんです。これまでの発生生物学的な分野から「食用」という新しい研究の幅が広がり、グリラスとして、この先思い描いている展望はありますか?

渡邉:研究的な所で言うと、生物としてのコオロギの基礎研究だけでなく、社会に実装できる研究を深めていくことが、一つのテーマになっていくと思います。

三戸:もちろん、技術的に役に立つ品種が実現できたとして、それが社会に広く受け入れられなければ意味が無いですよね。安全性の評価は不可欠。日本ではまだまだ未開拓の領域で、受け入れられるまでのハードルは大きいと思いますが、焦らず慎重に進めていきたいと思っています。

渡邉大きな壁にぶつかった時、それが崩壊するのを待っているだけではいつまでもその壁を越えられない、という考えです。ハードルが高くても、先が見えなくても、とにかく足を踏み出すこと。リスクは大きいけれど、一番始めに上った時のリターンは大きい、という想いで挑戦しています。

ーグリラスだからこそ乗り越えられるコオロギ研究の余白が、まだ多く残っている気がしますね。その点も、グリラスが社会の注目を集めている理由の一つなのかもしれません。

ーでは、ビジネスの面ではどうでしょうか?今回2.3億円の資金調達も実施して、これから昆虫系スタートアップとして思い描いていたことが実現可能になってくるフェーズだと思います。今後叶えたい野望などあれば聞かせてください!

岡部昆虫食に取り組むベンチャーは世界中に沢山あって、どこもしのぎを削りながら、コオロギの大量生産に取り組んでいます。僕らも、負けないようにそこに挑んでいきたい。

同時に、ただ大量に作ることだけを良しとするのでは無くて、食品としての安全性に胸を張れる企業でありたいです。間違ってもヒューマンエラーが起きないような製造の仕組みを作ること。食品メーカーとしてコオロギの安全性を十二分に担保できるような、次のレベルの企業になりたいと思っています。

渡邉:創業の初期のころから「世界の食料問題の解決」をグリラスのビジョンにあげていて、その気持ちは今も変わっていません。

何十年か先の未来を考えても、日本はおそらく深刻な食料不足にはならないと思うんです。値段が上がるだけで終わって、きっとその間もフードロスは今まで通り大量に出すはず。

そういうものを利用して作った「循環型」のたんぱく源として、食用コオロギを普及していく取り組みと並行して、中東やアフリカなどの飢餓地域にもコオロギを運んでいけるような大きな流通網を作ることが、今後実現させたい野望。地球規模での、大きなフードサイクルを回せるような企業になっていきたいです。

そのためのコオロギの品種改良はおそらく必要になると思います。中々腐らない種の開発や、輸送中の船内でも飼育できるようなシステムの構築。コンテナを飼育場として活用できるようにしても良いかもしれない。

食料問題の解決の糸口になるようなコオロギの可能性は、無数に考えられます。僕らはテック系のベンチャーとして、これからも大きな壁にひるまずに研究開発を続けていきたい。食料がいっぱいあれば。みんながお腹いっぱいだったら、戦争は起こらないから。

これからも止まらずに、歩みを進めていくつもりです。

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