高野 洋平(たかの ようへい) 株式会社リコー Fw:D-PT(フォワードPT)
3Dプリンターのコントローラー開発などに携わった後、2020年5月に今の部署へ異動。現在は『RICOH PRISM』プロジェクト(「最大化されたチームワークを体験する」ための、映像や音を駆使した空間づくりプロジェクト)の企画・開発を務める。
ーーはじめに、今取り組んでいる仕事について教えて下さい。
高野:『Brain Wall』という、RICOH PRISMの中のブレスト支援ツール開発を行っています。技術的には、映像周りの開発にはUnity、Deep Learningを利用して文言を生み出す部分にはPythonを用いています。
ーー仕事の楽しさはどういった点ですか?
高野:今のRICOH PRISMは、いかにコンセプトを体現したものを作るかというのがメインです。そのために、どういう流れでどういう体験を作ればユーザーに動いてもらえるかを突き詰めて考えています。そして考えたことを実際に試してみる裁量権も与えてもらっている。「こうかな」と思ったのを形にして、それが直接ユーザーに届くものになっていくのはすごく楽しいです。
ーーチームの雰囲気はいかがですか?
高野:誰とでもフラットな会話ができます。たとえば、私から見ると一回りほど年上で、普段は沼津の事業所に勤務しているエンジニアの方も社内副業として参加してくれています。その方は勤務地も違う、化学系のエンジニアなので、以前の部署に居た頃なら「遠い人だな」という感覚でした。
でも今のチームの中では、「開発しているコンテンツを少しでも良くしたい」という大きな目標に対する想いが同じなので、年齢や立場に関係なくフラットに話せるんです。それが凄く心地良いですね。
記事作成で見つけた「カルチャー」へのこだわり
ーー学生時代のフリーペーパー作製の経験が、大きな転機になったとお聞きしました。これはどういった経験だったのでしょうか?
高野:”Future Vision”というテーマで雑誌を作成しました。「未来を予想して記事を書く。そしてそれを集めて雑誌にしよう」というものです。
具体的な年を想定して記事作成する中で、私の担当は「2050年」でした。なので、2050年という未来に対して、わたしの趣味と交えて考察しようと思いました。
ですが、私が元々好きなのはスケートボードやパルクール(走る・跳ぶ・登るといった移動に重点を置く動作を通じて、心身を鍛えるスポーツ)、登山といった嗜好性が強いローカルなもの。「”Future Vision”というテーマに、こういったローカルな内容で記事をつくるのは相応しくないのでは?」と悩みました。とは言え、ここでそれらしいお題を適当に選んでも深い記事は書けないと感じたんです。なので自分が好きな「登山」というお題にしました。
ーー具体的にはどんな記事を書かれたんですか?
高野:当時ちょうどトレイルランニング(陸上競技の中長距離走の一種で、舗装路以外の山野を走るもの)が流行っていて、「登山がもっとカジュアルになった先には、管理された楽しみ方を選ぶ人と危険な楽しみ方を好む人に分かれるだろう」という予想があったんです。なので最終的には『社会問題化するエクストリームクライマー(過激な方法で登山を行う人を表す造語)』という切り口で記事を書きました。
ーー記事作成を行う中で、なにか気づきはありましたか?
高野:執筆していく中で「カルチャー」という言葉を使ったんです。最初はなんとなく選んだ言葉だったのですが、推敲を重ねる中で「カルチャーってなんだろう」と考え始めました。そこで辿り着いた結論が「カルチャーとは哲学のあるライフスタイル」です。
例えばパルクールみたいなものを好きな人達って、最近よく言うワークライフバランスみたいに「仕事と趣味を区切る」という考え方はしていないんです。そうじゃなくて、「そういうライフスタイルの人達」。ライフスタイルは服装にも言動にも現れて、その世界観に合った判断基準や美的センスがある。そういった、ある種の「哲学」を持って生きることがカルチャーなんじゃないかと。
こうした推敲をする中で、「自分のものづくりの軸はカルチャーだな」と気付きました。結局私は、どういう世界がそこにあって、どういう人達がどんな風にコミュニティを作って、そこで何をしているのかに興味があるんだと認識できたんです。
「カルチャーが根ざした箱庭」をつくりたい
ーー高野さんは、RICOH PRISMの新しいコンテンツ製作を任されています。いま時点で構想はありますか?
高野:今開発している『Brain Wall』はブレストのツールですが、ブレストで出てくるものはまだアイデアの種の状態。それを基に、チームでストーリーやイメージを作ることをサポートするコンテンツにしたいです。よくデザイナーの方が作るイメージボードの作成を支援するイメージですね。
イメージボードを作る作業は、デザイナーかどうかは関係なくアイデアを考える人は全員やった方が良いものだと思っています。ネットに沢山ある参考画像を利用することで、アイデアのイメージを継ぎ接ぎでも良いから具現化する。そして、それぞれ持っているアイデアの世界観を視覚的に表したら、それを共有して「じゃあどこを目指そうか」と検討する場を作りたいです。
ーー最後に、今の目標を教えてください。
高野:RICOH PRISMがある3Lは、リコーグループが「はたらく歓び」を研究するためにつくった施設です。その3Lをカルチャーが根ざした箱庭にしたいですね。私が目指すカルチャーは、「人を肩書で判断して仕事をしない」ということです。
「ソフトウェアエンジニア」とか「エレキの人」みたいな肩書ではなくて、様々な側面の特性を包括したその人だから出せる価値があると思っています。それをお互いに認め合う事が大事だし、そういう視点でみんなが仕事をする場所にしたいです。
今までリコーはコピー機の会社で、ある程度決められた働き方をしてきた人達が多かったと思うんです。それが10年後に、3Lという従来のオフィスらしくない空間で、お互いを尊重しながら次々と新しいものを生み出していく。売上2兆円の企業にそんなカルチャーを作ることができたら、ものすごく気持ちいいはずです。
今は全力でそこに挑戦したいですね。