先週、赤穂へドキュメンタリーの撮影に行ってきました。
「雲火焼」という幻の陶器をフィルムに収めるためです。
江戸時代後期に「大嶋黄谷」という名陶家が発明したそうですが、後継者がいなかったので一度はその技術は途絶えていました。それを赤穂市在住の桃井香子さんと長棟州彦さんが20年の歳月をかけて現代に復活させています。
雲火焼の模様は釜の中の煙と炎によって作られます。絵筆などは一切使いません。なのでどのような模様になるかは、焼きあがるまで分からないのです。
桃井香子さんと長棟州彦さんは雲火焼の模様のことを「景色」と表現します。茜と黒と白が入り混じった模様は、時に赤穂の夕焼けの様に見え、時に瀬戸内海に起つ波濤の様にも見えてきます。
一つひとつの雲火焼は、違った景色を持っています。同じものはこの世に二つとありません。
私たちは、心の景色を追い求めて旅をします。しかし、雨が降っていたり、雲がかっていたり、思い通りの景色に辿り着けるとは限らないのではないでしょうか。でも、何気なく角を曲がった先に、息を呑むような夕日が眼前に広がることもあります。
人生しかり、旅しかり。
雲火焼は一期一会という言葉の意味を教えてくれるのでした。