「正直しんどくて辛いです」
「どうすればいいのか全然わからないです」
2020年4月6日。
緊急事態宣言発令の前日。
僕は震える指先で「投稿ボタン」を押した。
大学卒業から1ヶ月。まさに「これから」と意気込んだ矢先のコロナショックは、学生起業家にとって、あまりに過酷すぎる現実だった。
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僕が代表を務める「スタジオMOVEDOOR」は、兵庫県三田市を中心に映像・デザインなどのスキルを生かして、企業の広報PRや商品企画に携わるローカルクリエイター集団である。
設立メンバーは、関西学院大学に通っていた現役大学生4人。「広報PRで事業成長を実現する」をモットーに、僕を含む5人のメンバーと、15人のアルバイトで活動している。
現在、設立から2年。ありがたいことに、
過去に携わった案件は100件を超える。
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2020年4月。
企業が真っ先にカットした費用は、
「広告」や「宣伝」の予算だった。
期待していた未来とのギャップ。
自分の未熟さ。就職を選ばずに、
一緒についてきてくれたメンバーへの責任。
先が見えない中で、また1つなくなる仕事。
「案件がなくなる」という事実が、
想像以上に自分を追い込んでいく。
情けないくらいにボロボロだった。
正直に話すと、自分のネガティブな一面を発信することは、怖いと思っていた。
特にSNSは知り合いが多い。
「やってしまったかな、、、」
勢い任せの投稿が心配になり、
恐る恐るSNSをのぞいた。
「とみー1人で、抱え込んだらあかん」
「辛い時こそ今しかできないことに取り組もう」
「落ち着いたら一緒に仕事をしよう」
飛び込んできたのは、想像とは全く異なる光景。
タイムラインには、お世話になった人からの、
熱いメッセージがずらりと並んでいた。
深呼吸をして、コメントにもう一度目を通す。
今度はゆっくりと。
「僕も今、諸富くんと同じ不安を抱えています」
投稿から数時間。個別のメッセージで、
胸の内を明かしてくれる人も現れた。
この投稿をキッカケに、
懐かしい人からの連絡もあった。そして、
いくつかの新しい仕事を頂くことができた。
「自分の本音をさらけ出したことで、
多くの人が本音で話してくれた」
僕にとって、初めての経験だった。
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設立から2年。実績もスキルも、
おまけに社会人経験もない学生起業家にとって、
SNSが唯一無二の営業ツールだった。
だからこそ、制作物が完成すれば「〇〇様のチラシを作らせていただきました!」と素早くアップし、いいねの数をこまめにチェックした。
自分を大きく見せたい。ダメだったら次の仕事はない。認めれたい、早く。そんな劣等感を埋めようとアピールを続けてきた。かなり必死だった。
だけど、そんな「うまくいっている自分」をすくいとって伝えることは、ある意味とても罪深い。
「絶好調やね」「若いのにすごいね!」
そんな賞賛の声をいただく度、
ジメッとした後ろめたさを感じてしまう。
自分の発信に感覚が追いついてこない。
SNSに並ぶ「実績」は、
丁寧に作られたポートフォリオだ。
本当の僕は弱くて、青くて、泥臭い。
悩みながら、必死に昨日の自分と戦ってる。
仲間の支えなしでは、
諦めそうになるし折れてしまう。
何を考えて、何につまづき、どんな希望を抱いているのか。起業家として、MOVEDOORの代表として、僕は誰よりも深く、自分の内側を語れる人にならなければいけないと思った。
会社のためにも、自分のためにも。
これから起業する後輩のためにも。
恥ずかしい過去も、自分の弱さも、
包み隠さず見せて、全て理解してもらった上で、
応援される人でありたい。
そんな思いで、今、この文章を書いている。
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自分の気持ちを発信することは「いつかやってみたい」と思っていた。ところが、目の前の忙しさに追われ、気がつけば年の瀬である。
「忙しい」という字は、心を亡くすと書く。
僕は「いま頑張って成長さえすれば、
幸せな未来が待っている」と思い込んでいた。
だけど、目の前のことに必死になりすぎる僕は、気がつけば、日常生活に溢れる「日々の幸せ」や「小さな幸せ」を見逃してしまう。
「今ある幸せ」を感じることができない人に「いつかの幸せ」が訪れることは、多分ない。
心が折れそうになった時、「大丈夫だ」と言ってくれる仲間がいること。未熟な僕たちに「仕事を任せたい」と言ってくれる方がいること。
毎日に溢れる「幸せ」に心から感謝して、
噛み締めたい。来年こそは、もっと。
もうすぐ年が明ける。
怒涛の2020年が終わる。
たくさん迷ったからこそ、
2021年は「原点に立ち返る年」にしたい。
ミッションである「PRで事業成長をデザインする」を、チームで体現していく。
スキルや経験、知識、実績を積み重ねる。
そしていつか、与えてもらうばかりではなく、
貢献できる人になりたい。
年の終わりにそう思えたことを「幸せ」に思う。
2021年1月1日。0時0分。
あの日と同じで、
なぜか指先がほんの少し震えている。
だけど、もう大丈夫だ。
今日から1歩踏み出そう。
自分を発信しよう。
そんな決意を込めて、
僕は「投稿」ボタンを勢いよくタップした。