※本記事はオウンドメディア「Suu」より転載しています。
京都東山、銀閣寺の門前に佇む「氵庵 - SANZUIAN -」。
室町時代に生まれた東山文化を象徴するこのエリアで、この春、新たな日本文化を発信するカフェ&ギャラリーがオープンしました。
氵庵では、上質なコーヒーとお茶、菓子の提供と合わせて、日本文化の美しさの新たな側面を提案しています。また、小さな庭を眺めることができる奥座敷は、新たな伝統と革新を切り拓く新進気鋭のクリエイターの作品を展示するギャラリーとなります。
日本の文化美の発信拠点「氵庵 - SANZUIAN -」
「氵庵 - SANZUIAN -」は、小さな茶屋を改装したカフェ&ギャラリー。『京都珈琲焙煎所 旅の音』の上質なコーヒー、『7T+』がプロデュースしたお茶をお楽しみいただけます。
お飲み物と一緒に提供するのは、地元の若手クリエイターと連携して提供する菓子。
上質なコーヒー、お茶、菓子の提供と合わせて、日本に古くから伝わる文化の美しさの新たな側面を提案する拠点となる場所です。
氵庵のある銀閣寺周辺は、室町時代中期に栄えた「東山文化」を象徴するエリア。この時代には、禅の思想にある「侘び・寂び」の精神をもとに、簡素さや静寂を重んじた日本人特有の美意識や文化様式が形成されました。また、日本文化の代表格といえる茶の湯や花道、建築、庭園、芸術が生まれ、現代の日本文化にも大きく影響を与えています。
京都には日本らしさを表すものがたくさんあります。同じ室町時代の初期に発展した北山文化は、優美で豪華な美しい建築や芸術が生まれ、それを体現できる多くの場所やものが存在しています。一方で、簡素や静寂こそ美しさと定義づけた東山文化は、北山文化のようなはっきりとした日本らしいものが多くはありません。そういった意味でも、銀閣寺周辺エリアはおそらく京都に来られる観光客の方が最初に訪れる場所ではないでしょう。
しかし私たち日本人には、はっきりとしたものがない、曖昧で、ときに解りづらいものこそ価値があるという独特の捉え方が備わっています。こうした価値観は、日常のなかにあるふとした静けさ、淑やかな瞬間を味わえることこそが豊かさであるという、『Suu』が目指す世界観とも強く結びついています。
目に見えるものだけではない、音や匂い、味わい、温度、質感、その空間の中に身を置くからこそ得られる感覚的なものの美しさを楽しむこと。
日本という国で生きてきた私たちだからこそ提供できる、日本らしさや日本文化の美しさを体現できる空間を提供したい。そんな思いから生まれたのが氵庵です。
「氵庵 - SANZUIAN -」が提案する、新しい日本の美意識
旧さと新しさが共生する店舗デザイン
氵庵の暖簾をくぐると現れる、深黒のカウンター。余分なものを削ぎ落とした、無駄のないフォルム。それでいて重厚感のあるカウンターは、氵庵を象徴的な存在です。
もとは小さなお茶屋だった氵庵。古い柱や使い込まれた土間、日本らしい建築美が表現された趣のある建物は、そのままでも十分美しいのですが、新しい日本文化の象徴となるには何かが足りない。そう考えた私たちは、この場所にどんなエッセンスを加えれば、日本らしい美しさを感じられる空間になるかを考えました。
そこで注目したのが、食器や雑貨、木箱などに使われてきた、日本独自の塗料である「漆」から着想を得たカシュー塗料。漆に似た美しい光沢と湿度のある質感を持ち、漆の持つ弱点をクリアしたカシュー塗料を、氵庵の“顔”となる大きなカウンターに採用しました。
一般的なエスプレッソマシンは大きくて存在感があり、置くだけでその場所の主役になってしまうことが多いもの。氵庵では、空間そのものを味わっていただくため、余計なものは極力省き、空間デザインを阻害しないシンプルなデザインのものを取り入れています。
天井に使用したのは、銅版。木材の柔らかさとは対照的な金属素材を使用することで、空間そのものの多角的な深みを表現しています。
また、お店の前に掛けられた暖簾の柄は、日本に古くから伝わる「吉祥文様」と呼ばれるもの。円を連続して繋げた「七宝」というデザインは、無限に続く調和や繋がりを表しています。
一見解りづらいように思えて、けれどそれぞれがきちんと意味を持っている。時代や文化の変化に対応したアンバランスな融合によって、建物の持つ可能性が広がり、新たな価値を生み出しています。
新進気鋭のプロデューサーによる味わいの提供
さまざまなものが海外から入ってくる一方で、緑茶や抹茶、それに合う茶菓子など、現代まで脈々と受け継がれてきた“味わい”もあります。
氵庵で提供するお茶は、京都・河原町のお茶のセレクトショップ『7T+』のプロデュースによるもの。日本全国にはたくさんのお茶の産地があり、まだまだ知られていない産地や品種があります。産地や品種にこだわらず、お茶そのものの新たな価値を見出したい。
茶の湯が生まれたこの場所で、『京都珈琲焙煎所 旅の音』を営む私たちが世界中の上質なコーヒーやお茶を提供すること。ここに、私たちの存在意義があると考えます。
また、私たち日本人にとって、お茶を楽しむために欠かせないのが「茶菓子」です。
お飲み物と一緒に、京都の若手クリエーターと協働した茶菓子を提供。これまでの和菓子の価値観にとらわれない新進気鋭のクリエイターによる茶菓子は、新たな伝統と革新を堪能いただけます。
さまざまなアート作品を通して、日本文化の新たな側面を楽しむ
氵庵の奥には、日本式の小さなお庭を眺める座敷があります。奥座敷では、京都をはじめとした日本各地の新しいクリエーターによる作品を展示するギャラリーとしての機能を携えました。
かつてはお客様や親しい人を招く奥座敷としての機能していたであろうこの場所ですが、お茶屋だった頃は畳を外して物置きとして使われていたそう。
氵庵ではこの場所に再び畳を敷き、奥座敷として復活させました。古いままの柱や壁、建具とは対照的な、真新しい畳の香り。古いものと新しいものの融合によって、建物の持つ価値が拡充されます。
今後この場所では、さまざまなアート作品を通して、日本文化の奥ゆかしさ、淑やかさの新たな側面をお楽しみいただけます。
新しいクリエイターの作品を積極的に展示し次世代の文化を発信する場所、またこれまで受け継がれてきた文化に新たなエッセンスを加えた次世代の文化に触れる入り口となるよう、氵庵はその存在価値を模索していきます。
ライティング:Suu編集部