「あなたに陽が当たる服」をコンセプトに、155cm以下の小柄女性のためのお洋服を提供するファッションブランド「COHINA(コヒナ)」。2020年9月には東京ガールズコレクション(以下TGC)に初出場、同年11月には一部地域でテレビCMを放送するなど、急成長を遂げています。
そのマーケティングを統括するのが、今回インタビューをしたマーケターの櫻井。いつも淡々とクールな印象の彼。しかしその裏には、ブランドへの想いと魅力が詰まっていました。
プロフィール
櫻井 啓之(Hiroyuki Sakurai)
早稲田大学政治経済学部卒業。新卒で株式会社ミクシィに入社。マーケティングに従事。その後株式会社サイバーエージェントなどを経て、2020年5月newnに入社。現在は、COHINAでマーケティング責任者を担当。
きっかけは、リアルなものへの憧れ
ーー newnに入社するまでのことを教えていただけますか?
新卒から一貫して、ITベンチャーでマーケティングを担当していました。学生時代、広告代理店などに初めは興味があったんですけど、やっぱり自社プロダクトを扱う所が良いなと思い直して。明確な理由はありませんが、そもそもの性格ですかね?僕は、一度ハマったお菓子を数カ月間食べ続けたりするタイプ(笑)1つの事業にどっぷり浸る方が向いているのかなと。
ーー mixiの後複数の企業での経験を経て、newnへの転職のきっかけはなんだったのでしょう。
特に転職を考えていたわけではなかったのですが、ちょうど前職で一通りやることはやったというのと、自分の志向と会社が向かう方向性がずれてきたと感じている時期でした。そのタイミングでWantedlyを見ていたら、たまたまnewnのマーケティング募集があって。ずっとデジタル商材を扱ってきてたので、「リアルなもの」に対する一種の憧れみたいなものがありました。かつ、そのシビアさも味わなければいけないと思っていました。それで興味を持ったのがきっかけですね。
ーー シビアさ、ですか。
デジタル商材と、リアルな商材を扱うのは在庫を持つという点で、とても大きな違いと難しさがありますよね。そういうまだやったことない領域に、チャレンジしない手はないと思ったんですよね。
ーー 事業領域が決め手になったのでしょうか?
いえ、そこだけではなかったですね。人との相性、特に事業責任者との相性が大事だと思っていました。僕は「こうしたい!」というイメージが強くあるタイプで、プロダクトから広告宣伝まで一気通貫でやることが必須だし、そこに楽しみを感じてきました。
その前提で、COHINAの代表の田中さんと話したとき、ある種の偏ったこだわりがない人で、人の助けを素直に借りることができる人だと感じたのが決め手でした。強い意志がある一方、柔軟で吸収力が高い人だと感じ、ここなら「自分も学べて自分の持っているものの還元もできる」と思ったので、次のチャレンジの場所をnewnに決めました。
僕は、マーケターは獲得目線のプロデューサーだと思っています。だからこそ、広告宣伝領域だけではなく、プロダクトも含めてしっかりと裁量を持っていけるというのは重要なポイントだったと思います。
ーー 櫻井さんが入社する前は、専属のマーケターはいなかったんですよね?
はい。当時COHINAは、多くのプロダクトや組織が経験するであろう「成長痛」を味わっているところでした。これまで僕自身も、大きな組織が統制されていく瞬間や、ベンチャー企業が巨大化していく瞬間など、色んなフェーズの成長痛を経験してきました。だからこそ、ここであれば経験を活かせると思ったんです。
必需品ではない、でもそこに喜びがある
ーー 入社してからは、どんなことを?
マーケティングは0からの立ち上げに近い状態だったので、組織やプロダクト、データの整理から始めました。日別や顧客のセグメントごとの目標設定や全体の戦略を検討したり、みんなの目線や認識を合わせることに注力しました。
その後は、新規ユーザーの獲得やどうやって継続率を上げるかの具体的な施策を、勝ち筋を見つけるために、とにかく手数を増やすことを意識して行っていきました。芸能人をモデルに起用したシーズンコレクションやコラボアイテムを出したり。TGCへの出場なんかもその中の1つです。
特別奇抜なことはしていないんですよ。それよりはむしろ、ベーシックなことを確実にやっているという感じでしょうか。そこをやり切れるかどうかがまずは重要だと考えています。
ーー 実際にやってみて、これまでとは違った楽しさはありましたか?
「難しいと感じることが多い」ということが、楽しさというか面白さだったりしますね。服は生活に必要なものですが、オシャレは必需品ではないんですよ。
そして、過去買ったアイテムと全く同じものを買うことは、ほとんどないじゃないですか。例えば、化粧品や飲食は、使ったり食べたりして良かったら消費されるので、また買うと思います。しかし、服はトレンチコートを買ったら、数年はトレンチコートを買わないことはザラですよね。ブランドのコアなファンの方々も、買えば買うほど満足するし、色んなものが揃っていく。同じアイテムが同じ需要を満たし続けてけてくれるわけではないところが難しいですよね。
購買のタイミングも個々人で見ても一定ではないし、定期購入するわけでもない、…とにかく変数が多いんですよ。COHINAの場合は新商品が出る頻度も高いので、それらに興味を持っていただきながら継続して買い続けてもらうことの難しさを感じている所です。
ユーザーではなくても、共感することも価値を提供することもできる
ーー 櫻井さんは、直接的なユーザー層ではないと思いますが、マーケターとして感じることはどんなことでしょうか?
たしかに、僕は小柄女性ではありません。しかし、共感することも価値を提供することもできると考えています。結局は、ユーザーの皆様に「何を喜んでいただけているか」「何に価値を感じていただけているか」「どう生活が変化したか」を考えることに尽きると思っています。
COHINAはある一定「負の解消」という面があると思うんです。似合う服や自分に合うサイズの服が見つからないなどの課題を解決できるという意味で。しかしそれは、決して小柄女性だけに起こりうることではないですよね。
「ピッタリが嬉しい」というのはもちろん僕も経験したことがあるし、それを着て外出すると嬉しかったり、その日の気分がワクワクする気持ちは、当然あるんです。
欲しいと思ったのにサイズが合わずに買えないことや、無理して買ってみたけどシルエットがイメージと違ったこと、そういうストレスは誰にでもあると思うんですよ。だからこそ、必ずしも自分自身がユーザーではなくても、共感しその目線に立って価値を届けることはできると考えています。
ーー それは、今後ブランドが更に成長していくためにも大切なことですよね。
そうですね。ブランドとしては、まだまだ成長しなくてはいけない部分がたくさんあります。「小柄女性向けブランド」という存在自体がまだまだ知られていないと思うので、今困っている人や課題に感じている人たちに確実に届けていけたらと考えています。
それ以外にも「着られると思っていたけど、実はもっとピッタリなもの、似合うものがあった」という、新たな発見を提供できればと思っています。自分では気付いていなかったけど、実はもっと自分に似合う、オシャレが楽しくなる、そんなきっかけが作れたらなと。
ーー 今後入社していただく方は、どんな人が良いですか?
自立して動ける、というのは大切な要素かもしれません。newnは、自分で案を出した時に「やってみなよ」と言われる環境は整っていると思うんです。一方で「これをやってください」と言われることはほとんど無くて。だから、自分はこうしたいという意思とその理由を持ち、周りを巻き込みながら進めていける人だと、チャンスはいくらでも訪れると思います。
また、toCのビジネスがメインなので「お客様に喜んでもらいたい」「お客様を驚かせたい」という気持ちは大切ですよね。結局、数字を達成したかどうかではなく、その先でお客様がどう反応してくれたかに喜びを見出だせないと、誤った方向に行ってしまうと思います。もちろん数字は大切です。自分もよく数字を用いて話すこともありますし。ですが、結局は数字だけじゃなく純粋に「良い」と思ってもらえたかどうかが全てで。そういう定性面も含めて、お客様と関わっていけると良いんじゃないでしょうか。
今のCOHINAはまさに、自分が伸ばしていけるという「手触り感」がある事業だと思っていて。苦しみながらも真っ直ぐユーザーと向き合って、模索していける人と一緒にブランドを成長させられたら嬉しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。次のインタビューをお楽しみに!
文=坂井
撮影=砂川