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スタートアップ企業への転職のリアル。これまでの自分の経験やキャリアは通用するのか?


やりがいや成長できる環境を求めて、創業間もないスタートアップ企業への転職を考える人が増えているという。

とはいえ、

「果たして自分は、スタートアップ企業でやっていけるのか」
「これまでに仕事で培ってきた経験やスキルが、スタートアップ企業で活かせるのか」

そんな不安を抱え、転職に躊躇する人が多いのも事実だ。

というわけで今回は、今から約3年前に、当時創業2年目のロスゼロへ転職した前川 麻希(まえかわ まき)に話を聞いてみることにした。

以前は、大企業で働いていた前川。

ロスゼロに入社した当初は戸惑うこともあったが、現在は、これまでの人生の中で最も、充実した日々を送っていると言う。

前川「入社して、あっという間に3年が経ちました。大げさではなく、毎日のように『生きている!』という実感を味わっています(笑)」

そうイキイキと語る前川のストーリーを、紹介していこう。

❚ 目次:
・事務、専業主婦、フルコミッション、そしてスタートアップ企業へ。
・未経験が、武器になる。
・この人の側で、学びたい!働きたい!
・ロスゼロの役割は、消費者の意識を変えること

事務、専業主婦、フルコミッション、そしてスタートアップ企業へ。

前川の社会人のキャリアは、企業の事務職からスタートした。
その後、出産を機に退職し、専業主婦となった。

そして長男が1歳半になる頃、仲の良い友人と二人で、ネットショップを開設。裁縫が得意な友人が作った赤ちゃん用のグッズや、木の玩具を取り扱う店だった。

前川「ちょうどインターネットが普及し始めた頃でした。見様見真似でネットショップを立ち上げましたが、ほどなくしてお互いに二人目を妊娠。結局そのネットショップは閉店せざるを得なくなりました」

時は流れ、前川が専業主婦になって12年が経った。

長男が小学6年生、三男が小学1年生になり、子育てに少し余裕が出始めてきたこともあり、彼女の中にある想いが芽生え始めた。

もう一度、外の世界で働きたい

だが当時、出産を機に職場を離れた女性の復職は、今以上に難しかった。

前川「パートとして、病院の受付で働き始めましたが、専業主婦をしていた12年の間に、インターネットが普及し、働く環境も激変していました。

復職後しばらくは、まさに浦島太郎状態でしたね」

持ち前の明るさとガッツを活かし、数年間働いた前川だが、本格的な社会復帰を見据え、「もっと自分の力を試せるフィールドへ身を置きたい」と考えるようになった。

そこで次に彼女が選んだのが、大手保険会社のフルコミッション(完全歩合制)の保険セールスの仕事だった。

その会社で中小企業の経営者に企業保険を提案する営業として4年間働いた後、惜しまれながらも退職。

2019年7月にロスゼロへの転職を決めた。

未経験が、武器になる。

ロスゼロは食品ロス削減事業に取り組む、大阪のスタートアップ企業だ。

メンバーはアルバイトを含めて8名という、少数精鋭の組織。そんな中、前川の仕事は、メディア対応、メルマガ発信、イベント登壇といった広報業務がメインだ。

それに加えて、営業、企画、販売など、任される仕事は多岐に渡る。

成長スピードの速いスタートアップ企業では、「必要な仕事があれば、何でも取りに行く」というマインドが必要不可欠なのだ。

*自治体と連携し、子ども食堂に食品を提供している

前川「前職は、厳しいフルコミッションの世界。
指示待ちでは何も始まらない。大切なのは、自分で考えて動くこと』という風土の会社でした。加えて、当時のソリューション営業の経験が、今、大いに役立っています」

ロスゼロの営業も、まさにソリューション営業。サービスを売って終わりではない。顧客の食品製造・加工会社と共に、チーム一丸となり、行き場をなくした食品ロス予備軍を削減していく。

先方のニーズや課題を聞き出し、アイデアを出し合い、長きにわたるパートナーシップで取り組む営業スタイル。

業種は違えど、前職で経験したソリューション営業と根底に流れているものは同じだ、と、前川は言う。

一方、「経験が無いからこそ得られたプラスの効果」もある。

前川「私はロスゼロに入社するまで、食品ロスやSDGsの業界に携わったことはありませんでした。ですが、『先入観がない』ことが、逆にプラスに働く場面も多々あるんです」

一つの業界で長く働くと、知識や経験を培うことはできるが、業界の常識に無意識に縛られ、自由な発想でアイデアを出しづらくなることもある。

その点前川は、未経験であることを、大いに強みに変えられていると言うのだ。

前川「2022年、当社は、未利用の原材料を使った、アップサイクルブランド『Re:YOU(りゆう)』の第二弾商品となる『気仙沼みなといちご』を発売しました。

みなといちごは、 震災から復興を目指す気仙沼のいちご農家さんで発生した、形が不揃いで商品にならず廃棄になってしまう、いわゆる「規格外」となったいちごをフリーズドライ化。未利用のチョコレートで包み、全く違う商品へと作り替えたもの。

『DtoC』(自ら企画、製造した商品をどこの店舗も介すことなく自社のECサイトで直接顧客へ販売するビジネスモデル)で販売する取り組みの中で、未利用原材料を使ったアップサイクル食品のDtoCとして、発売開始から大きな注目を集めました

りゆうシリーズは、メディアでも多数取り上げられ、前年の第一弾から累計で2万点を販売するに至った。

前川「みなといちごに限らず、社長の文(ぶん)を含め、私たちに業界の固定概念が無いからこそ、実現できたアイデアが数多くあります。

業界経験があるに越したことはありませんが…未経験だからこそ、突破できることもまた、たくさんあるんです」

どんな会社に転職するにせよ、今までの経験をそのままの形で活かせることは、あまりないのかもしれない。

業界、社歴、事業内容、規模感が違えば、当然業務内容も異なる。

その上で、これまでの経験やスキルを持って動き続けた結果、点と点が線になり、次第に自分が持つスキルの活かし方が見えてくる。

「まずは動いて、そこから学び、形にしていく」という、スタートアップ企業で働く上での大切な姿勢を、前川から教えられたように思う。

この人の側で、学びたい!働きたい!

前川がロスゼロに転職したきっかけは、テレビでたまたま、ロスゼロの特集を目にしたことだった。

前川「3年前の5月の連休明けでした。何気なくテレビを見ていたところ、ロスゼロが取り上げられていました。

それまでは、食品ロス問題について深く考えたことが無かったので、『素敵な取り組みをしている会社があるんだな』と思いながら見ていました」

そして、インタビューの最後に社長の文が言ったこの言葉が、前川の人生を大きく変えることとなった。

「私はいち女性起業家として、女性の社会進出を助けたい」

前川「驚きました。女性の社会進出は、私が長年感じていた課題そのものだったから。

ロスゼロは現在、食品ロス削減に取り組んでいるけれども、将来は世の中にある様々なロスを解決できる会社になりたい。

そして日本では、女性の力が活かされていないことも、大きなロスの一つだから、自分は女性起業家として、女性の社会進出の助けになるようにしていきたい、と文は話していました」

社会から断絶された女性が、再び就職することの難しさ。
ネットショップを立ち上げたものの、二人目出産で諦めてしまったこと。
前川の周囲にも、スキルは高いにも関わらず、再就職に悩む母親がたくさんいたこと。

自分のこれまでの人生が、フラッシュバックしたような衝撃だった。

前川「文は、課題を感じるだけではなく、実際に行動して、自らの生き方を通じて、世の中を変えようとしている。

それに加えて、食品ロス削減事業は、今後ますます必要とされる可能性のある事業。この人の側で働いて、たくさん学んで吸収したい。ロスゼロで働きたい!と直感的に思いました」

翌日、早速ロスゼロに電話をした前川。

電話に出たスタッフに、求人募集について聞いてみたところ、「あいにく現在、求人募集はしていない」と言われた。

前川「ところが…『ロスゼロで働きたい』という私の気迫が伝わったのか(笑)、その方が、文に電話を代わって下さいました。

そして、電話で少し話した後、文は『前川さん、今どこにいますか?今から会えますか?』と言ってくれて…。

私は会社に伺う気満々で、既にロスゼロの近くで待機していたので(笑)その足ですぐに会社へ向かったんです」

二人は1時間半ほど話し込み、意気投合。前川はその場で入社の意思を固め、約2ヶ月後の7月にロスゼロに入社することとなった。

彼女が人生でこんなにも突き動かされたのは、後にも先にもこれが初めてだった。

ロスゼロの役割は、消費者の意識を変えること。

あれから3年、ロスゼロの主要メンバーとして活躍する前川は、こんな風に言う。

前川「ロスゼロは、消費者の価値観を変えるという重要な使命を持つ会社なんです」

惣菜や生ものは別として、製造・加工されたものに関しては、早く食べても、賞味期限直前で食べても、味はほぼ変わらない。

また、「規格外」とされる形の崩れた食品も、見た目が通常のものとは少し違うというだけで、美味しさは変わらない。

にも関わらず、値下げして販売しなければ、消費者に手にとってもらえない

この世の中の構造に、食品ロス問題の原因があると、前川は指摘する。

*「消費者に送る食品には、メッセージカードを添える」等、工夫を忘れない。

前川「消費者の方に、もったいない食品をお得な価格で届け、最後まで美味しく食べきって頂くことは、当社の大切な仕事の一つ。
でも、そこで終わってはいけないと思うんです。
もう一歩踏み込んで『本来の価値に、正当な対価が支払われる世の中にするために、消費者の意識を変えること
これこそが、真の食品ロス削減に繋がると思うからです」

この大きな目標に向かって、自分の持てる力を全て出しきって、毎日全力投球を続ける日々。「こんなにやりがいのある、面白い仕事は他に無い」と、前川は目を輝かせながら話す。

これまでの人生で、無駄な経験など何一つ無かった。全ては今に繋がっている。

前川のチャレンジは、まだ、始まったばかりだ。

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